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第775話 ブレックファストミーティング

 一夜を過ごした次の朝、シン国の武士とアラリリスの騎士のおっさん達が一堂に会していた。


「まったく不甲斐ない」


 カゲヨシ将軍はバツが悪そうな顔をする。


「いやはや、私たちも潰れましたから」


 ヘオジュエも頭を掻きながら答えている。


 昨日、カゲヨシ将軍は酔いつぶれたものの、キリリとしているように見える。


 …実は今朝早くにカゲヨシ将軍が俺のもとにやって来た。「他国の王族が来ているのに二日酔いでは話にならん。なにかラウル殿の秘術で何とかならんもんか?」と。そこで俺はデイジー&ミーシャ開発の二日酔いの薬をファントムに出させて、カゲヨシ将軍にあげたのだった。本来はモーリス先生御用達の薬なのだが、持って来ておいて良かった。


「しかし…驚きましたぞ」


 朝からカゲヨシ将軍や武将達に限らず、アラリリスの騎士達もざわついている。それにヘオジュエが答えた。


「いやー、最初にお話しておけばよかったなと」


「話していたところで結果は変わらんしのう」


「まあ…すみません」


「いやいやいや!良いのじゃ!こちらもおもてなしした甲斐があったというものですじゃ!」


「ははははは」


ヘオジュエの乾いた笑いに、将軍の横にいたマキタカが具合悪そうな顔で言う。


「カゲヨシ将軍が飲み負けるなど、見たことが御座いません」


 すると武将の一人が肯定した。


「まったくですじゃ!」


 ヘオジュエが申し訳なさそうに言う。


「実はうちの配下達にも初めて見せたのです。私だけが知っておりました」


「そうだったのですか?」


「はい」


 酒豪のおっさんたちが、ほっそりした女性に飲み負けたという現実を、なかなか受け入れる事が出来なそうだ。シン国の武将たちは軒並み酒が強いのだが、まさか飲み負けると思ってなかったらしい。そして大広間には、その話題の姫が居ない。


「ラウル殿、リュウインシオン殿は朝早くに出て行ったのじゃな?」


「はい。なんでも朝は走る事にしていると言う事で、日課を崩したくないとおっしゃってました。念のため何かがあるといけないので、シャーミリアとマキーナが護衛についております」


「…どうなっとるんじゃ?」


「さあ…」


 俺にも良く分からん。普通あんなに大量に酒を飲んだら、次の日の朝にジョギングなんて出来ないと思う。だけどリュウインシオンはピンピンしてて、青い顔のヘオジュエを連れて俺達魔人の所に挨拶に来たのだ。しかも昨日の着物ドレスのような恰好ではなく、動きやすい騎士の格好をしていた。洞窟に籠っていた期間が長いので、体つくりの為に毎朝走る事にしているんだとか。しかも昨日大量にお酒を飲んだので、その分を消費したいと言い出したのだ。具合悪そうなヘオジュエがそれについて行くといっていたので、可哀想に思った俺はシャーミリアとマキーナを護衛につける事にしたのだった。ついでにマリアも一緒に行くと言って出て行った。


《そろそろ戻ります》


 噂をすれば、さっそくシャーミリアから念話が来た。


《了解だ》


 およそ一時間ほどのジョギングを終えて、リュウインシオンが帰って来たらしい。一体どのくらいの酒を飲んだか分からんが、一時間も走ってきたのだ。


「リュウインシオンが帰って来ました」


「おお、そうかそうか」


 まもなくシャーミリアとマキーナとマリアを連れて、リュウインシオンが大広間へと入って来た。ずいぶんとスッキリした顔をしているので、すっかり酒は抜けきってしまったらしい。


「ああ、すみません!私をお待ちになっていたのでしょうか?」


 カゲヨシ将軍は尊敬のまなざしをリュウインシオンに向けて言う。


「いやいや、あっぱれですな!」


「あっぱれ?」


「昨日は不甲斐ない所を見せてしまったようですじゃ」


「いえいえ!すみません!皆様お疲れのようで、眠ってしまわれたものですから勝手に飲んでしまいました」


「お酒がお好きなようですな」


「あの、すみません。とても美味しいお飲み物でしたのでつい」


「いや!良いんです良いんです!気に入っていただいて何よりです!」


 実はリュウインシオンはほろ酔い気分になって、気持ちよくなってしまい酒が止まらなくなってしまったのだとか。俺達から見ても酔っているようには見えなかったが、どうやらあれでも酔ってはいたらしい。


「ありがとうございます」


 そう言ってリュウインシオンがおしとやかに礼をした。それをみたマキタカが声をかける。


「それでは、将軍。皆様に朝食を」


「そ、そうじゃな」


 だが武将も騎士達もあまりいい顔をしなかった。もちろん二日酔いで何かを食べたい気分じゃないのだろう。だけど外交に来て、おもてなしを断るわけにもいかずに苦笑いしている。皆は狂ったように酒を飲んでいたが、それだけリュウインシオンのペースが物凄かったのだ。


 だが運ばれて来た料理は気の利いたものだった。薄口のおつゆと漬物のようなもの、あとあの甘ーい芋をふかしてほぐしたようなものが用意される。だがリュウインシオンと俺達魔人には、ガッツリ煮魚や根菜類などの普通の料理が運ばれて来た。


「ではどうぞ食べてくだされ」


 カゲヨシ将軍に言われて、ヘオジュエやマキタカと騎士や武将もおつゆから手を付けている。なかなか他のものに手が伸びないようだった。だがリュウインシオンはとても上品にパクパクと平らげていた。


 おっさんたちの、お膳の上の料理はなかなか減らず、リュウインシオンが周りのペースを見ながら食べるのをゆっくりにした。


「リュウインシオン様。お気に召されるな、我々はあまり食欲が無いのじゃ。お好きに食べて下さればよろしい」


「わかりました」


 カゲヨシ将軍の気づかいに感謝しつつ、普通に朝食を食べ進めるリュウインシオン。そして皆が朝食を食べている中で、カゲヨシ将軍が俺に話しかけて来る。


「ラウル殿よ」


「なんでしょう」


「実は折り入ってお願いがあるのじゃが、よろしいかの?」


「どうぞ話してみてください」


 するとカゲヨシ将軍は武将たちの顔をぐるりと眺めてから俺に言う。


「我々シン国が守られっぱなしでは、申し訳がたたないという話になりましてな」


「そんな、お気になさらずに。敵は人外のバケモノです。太刀打ちできる我々がやるべきです」


「申し訳ないがのう、我が国としてもそう言うわけにはいかんのじゃ。我が軍にも兵がおっての、そ奴らはもちろん戦以外の仕事も持ってはおるが、何もせずにいる時間が出てきたのじゃ。最低でも自国の防衛では自分たちが役に立ちたいと、話し合いで決まったのじゃよ」


 カゲヨシ将軍とマキタカ、以下武士たちが俺の目を見つめて願うようにしている。どうやら俺は彼らの仕事を取り上げてしまったらしい。確かに自国の防衛を全く他国にまかせっきりというのも、おかしな話ではある。


 リュウインシオンとヘオジュエ、そしてアラリリス騎士達も大人しくその話を聞いていた。


「今まで通り、魔人軍の補佐や後衛ではいけませんかね」


「申し訳ござらん。わしらが我儘を言っているのじゃ重々承知のうえじゃ、じゃが武士としての矜持がそれでは収まらんのじゃ。ここに居る武将たちは良くても、各領地の兵達はおさまりがつかんのじゃよ」


 なるほど。確かにここの武将たちは、俺達の軍事力を知っているし俺の能力も知っている。だから防衛は魔人軍に任せるしかないという結論に至ったはずだ。しかし、各領地で待っている兵士たちはもちろん納得がいかないだろう。だからといって人間に任せてしまったら、絶対大量の死人が出るのは間違いない。


《どうしたもんかね?》


《はいご主人様。そのような戯言は無視していただいてよろしいかと思います》


 …聞いた人が悪かった。確かに、この国の兵を全員集めたところでシャーミリア一人に敵わないのだ。そんな人間達が前線に出たところで、何の役にも立たないと思っているのだろう。そして超進化した魔人達からしても、人間の力など必要としていない。


《ラウル様》


 隣にいたスラガが念話を繋げて来る。


《なんだスラガ?》


《演習をしてはいかがでしょう?》


《演習?》


《まもなく我々魔人軍のアラリリス基地が完成します。そうすれば、すぐに魔人は南へと進軍せねばなりません。その前に人間達が無駄に動き、死人が出てるようでは集中が途切れかねません。余計な仕事を増やさない為にも、魔人軍との合同演習で彼らに現実を知ってもらう事を進言いたします》


《…なるほどね。ちょっと言ってみる》


《は!》


「カゲヨシ将軍。将軍や武将の皆様の苦労はわかりました。もしよければ、我が魔人軍と合同訓練をして、その力量を見定めさせていただいてもよろしいですか?」


「なるほど。それは良い考えじゃ」


「武将の皆さまはどうです?」


「良い考えだと思います」


 マキタカが代表して言うと、武将たちが頷くのだった。やはり直接見てもらったら納得いくだろうと、そう思っているらしい。武将たちは魔人と直接触れ合った事があるので分かっているのだ。


「それでは武将の皆様は、自分の領地に戻り精鋭を五百人用意してもらえますか?これからすぐ武将の皆様を領地に送り届けますので、一週間の後に魔人軍と模擬戦をいたしましょう」


「…ラウル殿」


 カゲヨシ将軍が不安そうに聞いてくる。


「なんでしょう?」


「ラウル殿が用意する兵器を使用されるのですかな?それでは我々の兵が死んでしまう」


「一切の武器を封印します。こちらは元より自分たちの体で戦う事を得意とした魔人たちです」


「それを聞いて安心…は出来んが、死ぬことは無いじゃろ」


「もちろん。死ぬような攻撃をしないよう通達しますよ」


「…わかったのじゃ。お手柔らかに頼むのじゃ」


「はい。それと、私の直属は参加させません。特にここに居るシャーミリアとファントムは」


 その言葉にカゲヨシ将軍も武将たちもホッと胸をなでおろしたようだ。シャーミリアは命拾いしたわねっ的な顔で皆を見下している。ファントムは相変わらずどこを見ているか分からない。


「ちょっとよろしいですかな!」


 ヘオジュエが口を開いた。


「なんでしょう?」


「もし可能であれば、その演習をアラリリスでもやってはいただけませんか!」


「ヘオジュエ!私たちがわがままを言うのは!」


「いえ、リュウインシオン。大丈夫、我々魔人軍はいつでも協力を惜しまない」


「あ、ありがとうございます!ラウル様」


 なるほど…どこの国でも同じような事情があるわけね。国を管理するって言うのは大変そうだ。魔人にはこういうのが無いから助かる。するとマキタカが話を締めるように言う。


「では後ほど詳しい詳細を詰めて、すぐに演習に向けての準備をしましょう。魔人軍の皆様に時間がない事は承知しています。我々も迅速に準備をいたします故、何卒ご協力をお願い申し上げます」


 そうして二日酔いで具合の悪そうな武将と騎士達との、ブレックファストミーティングは終わった。

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