第771話 転移魔法陣設置
俺達は拠点をミゴンダンジョンの近隣に作る事にした。丘陵地帯のてっぺんが平らになっているところを見つけ、そこに基地を建築する事になったのだ。ここからならアラリリス王都まで見通す事も出来るし、いきなり敵に攻め入られる可能性も低いだろう。俺達が最初に兵器を配置したところからさらに東に位置しており、食料となる魔獣はミゴンダンジョンで調達する事となる。
そして周りの風景に少しの変化があった。以前は雲一つない快晴だったのだが、時折ぽかりと雲が浮かび上がるようになったのだった。暑い事に変わりはないが、心なしか前より気温も低くなった気がする。
俺とモーリス先生が、その丘陵のてっぺんからミゴンダンジョン方面を見下ろしていた。
「やはり、グール化したバジリスクでは中途半端なんですかね?」
俺は空に浮かぶ雲に目線を変えて言う。死んだバジリスクでは快晴にならないのかと思ったからだ。
「さて、どうじゃろうな?前の虹蛇に聞かないと分からんのじゃ。あとそこのミゴンダンジョンは入るたびに少し形状を変えておるようじゃし、まるでダンジョン自体が生きているような感じがするのじゃ」
「あー、それはそうです。前の虹蛇がいた砂漠のスルベキア迷宮神殿も、内部の形状は時間で変わっていましたから。きっとあれと同じような構造になっているのだと思います。そういえばスルベキア迷宮神殿では上空の空気が無くなったりしましたし、回廊にいきなりスケルトンが出て来たりして面白かったですよ」
「なるほどのう。前の虹蛇はいたずら者だったのじゃろうな」
「それはもう」
あれはマジでイラついた。スルベキア迷宮神殿では、前の虹蛇からもて遊ばれた思い出しかない。
「しかし良くゴーグちゃんは、そんな中を迷わずに進めるものじゃな」
「本当に凄い能力ですよ。きっとゴーグとならスルベキア迷宮神殿もすんなりと突破したでしょう」
確かにゴーグの能力は凄かった。本人曰く、勘なのかなんなのか良く分からないそうだが、こっち!って思った方向に向かうとゴールに近づいて行くらしい。最近の魔人たちはそれぞれに面白い能力が身についているようで、進化に次ぐ進化でかなりスペックが上がっていた。
ギレザムは電撃が走るし、シャーミリアなんて神速とパワーが恐ろしい、ゴーグはダンジョンを迷わず進めるし、アナミスは人間の魂を書き換えられる、カララは俺の武器を糸の先から出せるし、ルフラは人と融合する事によりその人を魔人化する事が出来る、ガザムは敵に悟られる事無くどこにでも侵入できるし、マキーナの分析はかなりするどい。そして…ファントムは念話で返事が出来るようになった。ハイって。
うん。凄い進化だ。
「メリュージュさんにも、だいぶ働いてもらいました」
メリュージュも俺達の側に居たので、俺は見上げて話しかけた。
「あら、そう?」
俺達の頭の上からメリュージュが首を下げて話しに入って来る。
「本当に助かりましたよ!おかげで王都の作業もめどが尽きそうです」
「それは良かったわ。だけどあのお姫様と家来の人たちを…驚かせてしまったようだわ」
「それは仕方ありませんよ」
それもそのはず、北の空から巨大な龍が飛翔して来て、アラリリス王都に降り立ったのである。俺がどこに降りるか指示をしていなかったので、とりあえず見えた俺の側に降りて来たらしい。だが丁度その時、リュウインシオンとヘオジュエと騎士達といたもんだから腰を抜かしてしまったのだ。恐ろしい大きさの黒龍が、大量の魔人をぶら下げていきなり降りて来たのだから無理もない。
とにかく今は魔人たちがドワーフの指示のもとで、王城と兵舎そして破壊された一部の都市を復旧しているのだった。また、この丘陵の上にも着々と拠点を作り始めた。岩や木を調達して来れないので、巨大な岩の山をくりぬき始めたのだ。俺の重機があちこちで動いており、大型の魔人は素手で大きな岩を持ち上げている。
「本当に器用じゃの」
「ドワーフはどんな状況でも、最高の仕事をするんです」
「まったくじゃ」
そして俺と先生とメリュージュがローター音に気が付いて、西の空を見上げた。遠くの空から飛んでくるCH-47チヌークヘリがの機影が見える。マリアがバルムスたちを乗せて戻って来たのだ。
「早速ヘリポートが役立ちますね」
「用意周到じゃな」
ドワーフ達が作ったヘリポートがあり、マリアの操縦するチヌークヘリは正確に着陸した。すると中からバルムスとデイジーと数人のドワーフが下りてくる。遅れてマリアとマキーナとカララもヘリを降りて来た。
「デイジーさん!お疲れ様です」
「なんも疲れちゃおらんよ」
「はい」
そして俺はデイジーとバルムスから、アラリリス王都の状況を聞いた。デイジーはどことなくソワソワしていて、来た事のない国に初めて来てはしゃいでいるらしい。
「何かありましたか?」
「アラリリスの森には、北では見ない植物がたくさん生えておるのじゃ」
「何か使えそうですか?」
「全く分からん。それはこれから調べていくとしよう、後は砂蛇やサソリじゃな。あれらの素材は薬剤に役立つかもしれん」
「さすがデイジーさんです」
「なんてことはないよ、調べていかねば分からんしのう」
「引き続きお願いします。ただ行動する時は必ず魔人を二人連れてください、万が一敵襲があった場合は逃がす手筈になっておりますから」
「分かっておるよ。わしゃ、ラウルの大切な仲間に守られて幸せじゃわい」
デイジーはニコニコ笑っている。よっぽど新しい素材が見つかりそうなことが嬉しいようだ。すると俺達のもとにミーシャが駆け寄って来た。
「デイジーさん!いかがでした?」
「おうおう、何かに使えそうなものがいっぱいあってのう、一緒に研究するのが楽しみじゃ」
「わぁ!」
ミーシャの目が爛爛と輝き、今にもデイジーに飛びかかりそうな勢いで話を聞いていた。俺はマッドサイエンティストの二人をそこに置いて、バルムスに話しかける。
「バルムス!じゃあ、先生の指示通りにやってもらう事にするよ」
「かしこまりました」
バルムスがドワーフ達に目配せをした。
「ふむ。じゃあこの図通りに魔法陣を引いてもらいたいのじゃ。入り口用と出口用が記されておるから、人が十人と…メリュージュ殿が入るくらいの大きさが良いじゃろう」
「御安い御用です。寸分の狂いもなくひかせていただきましょう!」
バルムスはモーリス先生から羊皮紙を受け取って、ドワーフ達に指示を出していく。羊皮紙には数種類の魔法陣が記載されていた。
「しかし先生、良く習得出来ましたね」
「魔法陣をきっちりかかねばならんのじゃ、習得したとは言えんわい。これを詠唱で発動出来たら更に便利になるがのう」
「それでも、これが我が国で使えるようになるのは本当に大きいです」
「まあ禁術も使いようじゃて、こんな便利なもんを眠らせておくのはもったいないわい」
「くれぐれも先生だけが使うようにしてください。あの羊皮紙は書いた後回収します。まあバルムスは一度見たら二度と忘れないと思いますけど」
「まあそうじゃな、危険なものじゃし取り扱い注意と行ったところか」
「はい、でも本当にありがたいです」
「あれだけ何度も見せられ、目の前で使われてはのう。あとはデイジーの持っていたエリクサーの書物にも似たものが書いておった。大賢者と呼ばれるわしが、それを解析して構築できぬとあれば恥ずかしいわい」
モーリス先生は転移魔法陣を解析し、使いこなす事が出来るようになったのだった。転移魔法陣だけではなく、インフェルノも構築できるようになったらしいのだが、デモン召喚の危険がある為インフェルノは封印するらしい。
これで魔人国はかなり発展するだろう。おれの召喚魔法と合わせて使う事によって、戦略的にも有効打がうてる可能性があった。
「後は魔導エンジンの量産化じゃな」
「それはバルムスに聞いたのですが、急ピッチで製造しているようです。既に十五基の完成めどがついていると聞いてます」
「砂漠基地とグラドラムに一基ずつ、今はそれを使って魔法陣の展開に使おうと思うのじゃ」
「やはり使えますか?」
「うむ。魔法陣というものは魔力を消費して、それが消えれば効力を失ってしまう。巻物に書いて魔力を注げば巻物は消滅するしのう…じゃが…」
「魔導エンジンを使えば、半永久的に魔力を注ぎ続けられると?」
「そうじゃ」
そう。プロトタイプ魔導エンジンは一度魔力を満タンにすれば数週間は稼働し続ける。定期的に魔力を補充すれば魔力が切れる事は無いのだ。なので転移魔法陣を書いたら、それに魔導エンジンで魔力を供給する事で魔法陣が半永久的に使える。今この地には魔導エンジンが無いので、帰りの魔法陣とセットで書いてもらっているが、砂漠基地には入り口と出口の転移魔法陣がすでに書かれているらしいのだ。ここから砂漠基地まで瞬間的に移動できることになる。
「補給物資も運びやすくなりますし、何よりも生活用水が確保できるのが大きいですね」
「まったくじゃな」
転移魔法陣を人や物資の移動だけではなく、水の運搬に使う事を考えたのだった。この丘陵の上では水の確保が難しいが、それを可能にするのが魔導エンジンという訳だ。既に数基の魔導エンジンがロールアップしてくるので、それらを各魔人軍基地へと設置する予定だ。
グラドラム、ルタン町基地、ラシュタル基地、シュラーデン基地、バルギウス基地、ユークリット基地、ファートリア西部基地、ファートリア基地、リュート基地、二カルス大森林基地、砂漠基地、そしてこのアラリリス基地が全て魔法陣で繋がれることになる。
魔人軍が世界各地に基地を作って来たのだが、恐ろしく効率的に稼働させる事ができるだろう。各基地の人員を自由に動かす事が出来るし、特産品の運搬も瞬時にすることができる。
うひひひひ。いやぁ…これで魔人国は、がっぽがっぽ…いや、不謹慎だな。俺は世界の平和のためにそれを行うのだ、これからモエニタに潜む敵を討つための大きな一歩だ。ただ…たまたま特産品の運搬が出来るようになっただけなのだ。アラリリスに海の幸を運んだらさぞかし高値で売れるだろうなあ…うひひひ。
思わずにやけていると、そこにシャーミリアとカトリーヌがやってきた。カトリーヌは万が一のため常にルフラを纏っている。
「ラウル様。きっとアウロラちゃんが首を長くして待ってますよ」
「そうだな…。そんなに会ってない訳じゃないが、無事な顔を見せてやりたいよ」
「喜びますね」
「ああ」
アウロラの顔を思い出すとにやけて来る。俺の妹があんなに可愛いなんてね。
「ご主人様。そろそろ魔法陣が書きあがるようです」
「さすがバルムス仕事が早いな。それじゃあミリア!みんなを魔法陣の所に集めてくれ」
「は!」
俺がモーリス先生とカトリーヌ、マリアに目配せをすると皆が頷いた。先生は何度も成功させているらしいが、俺以外は初の転移に少し緊張気味だ。モーリス先生が失敗するわけがないので、俺は安心しきっている。俺達が魔法陣に着くとバルムスたちが頭を下げた。
「出来ております」
「わかった。メリュージュさんもこちらへ!」
「え、ええ…わかったわ」
どうやら巨大黒龍のメリュージュさんも、少し緊張しているようだった。こんな巨大な黒龍が怖い物なんてあるのだろうか?と思っていたら、以外にも転移を怖がっていたのだ。
全員が転移魔法陣の中に立ち、準備を終える。
「バルムス!すぐに戻る!それまでドワーフと魔人たちと共に、基地とアラリリスの都市をよろしく頼むよ!」
「は!」
「防衛のため、直属を数名置いて行く」
「ありがとうございます」
ギレザム、ガザム、ゴーグ、カララ、アナミス、ルフラをここに置いて行く事にした。万が一デモンが来ても問題の無い布陣だった。俺が戻るまで間違いなく持ちこたえるだろうし、弱いデモンなら蹴散らしてしまうだろう。
「じゃあ先生。おねがいします」
「ふむ。ラウルよ魔力を分けてくれるかの」
「はい」
そして辺りは白く輝き始める。砂漠基地に書いて来た転移魔法陣との紐づけが出来た魔法陣らしい。俺達の視界は真っ白に染まり、初の集団転移を体験するのだった。
南の果ての国モエニタを攻略する準備のために俺達は砂漠基地へと戻る。
砂漠の戦場編はここで終わりです。
いよいよ最終決戦の地、最南端の国へと進出します。
引き続き銃弾魔王子の異世界攻略をよろしくお願いします。