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第766話 恵みの雨と宴

ロウランの村はデモン召喚魔法陣によって壊滅しており、見渡す限りの瓦礫の山だった。デモンを討伐してロウランを取り戻した俺達は、村の中で今後について話し合いをしているところだ。俺がリュウインシオン達に、再びロウランの民をここに連れ戻すと伝える。


「保護までしていただいて、更に民に村をお返しくださるとは…なんと申し上げていいのやら」


「いや、俺達にとってロウランは重要じゃない。むしろアラリリスの人たちに普通に生活してもらって、北との中継地点として機能させて欲しいんだよ。その方が流通が安定するし、シン国にもアラリリスにも利があるだろう?」


「もちろんでございます。それは、こちらからお願いすべき事です」


「あと、シン国との仲は俺が取り持つ」


「何から何まで…」


 リュウインシオンとヘオジュエ達は、デモンを討伐させてやったことを深く恩義に感じてくれているらしい。だがここから人間が暮らし始められるように復興するとなると、かなりの時間がかかるだろう。


 …もちろん人間だけでやった場合だけど。


「この村の復興をする為、使徒の手を貸してもいい」


「そのような事!一方的にしていただくわけにはまいりません!」


 リュウインシオンは真っすぐに俺を見て言う。もちろん俺も一方的に奉仕するつもりはない。


「もちろんただとは言わん。いろいろな条件がある」


「はい」


「まず、この村から離れた北に基地があるんだが、そこ通る際に関税を払ってもらう事になる。もちろんそれは法外なものではなく、払える範囲でと言う事になる」


「当然の事です」


「ひとまず金が無理なら、物資でも受け入れる。特に食料は俺達にとって貴重だ」


「アラリリスの特産であれば喜んで」


「よし!じゃあ一つはそういうことで、後はもう一つ」


「なんでしょう」


「これからアラリリス王都の側に作られる俺達の神殿に、炊き出しをしてくれる人を募集したい。そして食材の提供もしてもらえば、都市の護衛と村の復興を合わせて受け持つ」


「かしこまりました」


 リュウインシオンは俺の正体を知っており普通に話を受け取っているが、ヘオジュエと騎士達は俺を虹蛇だと思っているので、不思議そうな顔でやり取りを聞いていた。


「ヘオジュエ、虹蛇様の神殿にお供え物をするのは当然だと思うのだが?」


 リュウインシオンが言う。


「は!もちろんでございます!リュウインシオン様が了承されるのであれば、我々に意見などございません。ただ…」


「ただ?」


「何と申しますか、神様であらせられるのに随分と現実的な印象を受けたものですから」


 だって現実的に基地を作ったり、物資を調達したりしたいんだもん。今度は俺がヘオジュエに声をかける。


「地獄の沙汰も金次第だよ」


「ジゴクの?」


「細かい事は気にするな」


「は!」


 とにかくおおよその流れは決まった。あとは実行に移すのみ、本格的な条約の締結はアラリリス王都に戻ってからという事になるだろう。


「じゃあ、みんなはヘリに…神のゆりかごに乗ろうか?ファントムは!デモンの残骸を片付けてからヘリに来い!」


《ハイ》


 皆をロウランに来た時のCH-47チヌークヘリに乗るように促す。もちろん帰る前に戦闘の為に召喚したMH-60L ブラックホークを破壊し、デモンの残骸をファントムに吸収させなければならない。ただしデモンを吸収している様をリュウインシオン達に見せるわけにいかないので、先にヘリに乗せる必要があったのだ。俺がヘリに乗り込んでいくとモーリス先生が声をかけてくる。


「話は、終わったのじゃな?」


「はい」


 モーリス先生とデイジーは一足先に、CH-47チヌークヘリに乗っていた。マリアが操縦席に座り隣にカナデが座っている。ギレザムと俺が先に中へと入って行く。


「さあ、皆様。それぞれの席にお座りください」


 ルフラに包まれたカトリーヌが、優雅な仕草でそれぞれをヘリの座席に座らせていく。来た時に座って来たので、皆やり方は分かっているようだ。


「ふうっ」


 俺が大きく息をついた。するとヘオジュエが気にかけてくる。


「虹蛇様!大丈夫ですか?」


 俺が息をついたのは、ファントムが巨大なデモンを吸収したからだ。大きなエネルギーが体に流れ込んで来たので、つい息を吐いてしまった。


「大丈夫だ」


「それなら良いのですが」


 うーむ。リュウインシオンは俺が魔人だと知っているのだが、側近にまで教えておかないと対応が面倒かもしれないな。


「ご主人様。戻りました」


 最後にシャーミリアとファントムが乗り込んでくる。なんとなくファントムの雰囲気が変わった気がするが、いつも変化し続けているので何が変わったのか分からない。


「よし!マリア!出発だ」


 俺がそう言うと後部ハッチがゆっくりと閉まり、ローター音と共に大空へと舞い上がるのだった。上空に行くとヘリが安定したので、みんなにベルトを外すように伝えた。


「月が綺麗だぞ」


 俺の言葉に、リュウインシオンやヘオジュエと騎士が、窓から夜空を眺めている。


「生きているうちに、このような風景を見る事が出来るとは」


 リュウインシオンがしみじみと言う。


「生きていることが夢のようです」


 ヘオジュエがリュウインシオンに答えた。空には大きな月が浮かび、今にもこぼれそうな星が瞬いている。きっとこんな光景は見たことが無いと思うので、少しサービスしてやろうと思う。


「アラリリス王都が見えてまいりました」


 チヌークヘリが飛ぶ先に、アラリリス王都の夜景が見えて来た。


「我々の国があのように美しいとは」

「はい」

「すばらしいです」

「虹蛇様の加護のおかげです」


 リュウインシオンとヘオジュエや騎士たちが、夜景を見ながらしみじみと言う。こんな高さから自分の街を見たことなど無いはずなので、それはそれは驚きの光景だろう。


 そんな時、ヘオジュエがポツリとつぶやいた。


「おかしいな…」


 ヘオジュエを見ると、都市ではなく空を見上げていた。


「おかしい?」


「いや…あの。空を見てください」


 そう言われて空を見るが、何か変わった事を見つけられなかった。まあ、先ほどと少し違うのは雲が出ていると言う事か。


「何が変なんだ?」


「雲が出ています」


 あ、なるほど。俺が気づいた変化で良かったみたいだ。


「それが?」


「アラリリスでは、ほとんど雲など見たことが無いのです」


 確かにそうだ。ずーっと雲なんかなかった、毎日ピーカンの凄い日照りで荒野は灼熱だった。


 ポツリ


「雨です」


 マリアが俺に告げてくる。見ればフロントガラスに雨粒が落ちて来た。


「本当だ…」


「着陸します」


 アラリリスの正門付近にヘリを降ろし、俺達が外に出る。


 ポツリポツリポツリ


「雨ですね…」


 リュウインシオンが言った。


「はい…」


 ヘオジュエも驚いている。


 するとみるみる雲が厚くなってきて、雨足が強くなってきた。


「雨だ!」

「雨ですね!」

「雨だ!」

「雨だ!」


 リュウインシオンと騎士たちが一斉に騒ぎ始める。どことなくめちゃくちゃ嬉しそうだ。


「そんなに珍しいのか?」


「雨など、十何年ぶりではないでしょうか?」


 リュウインシオンが言う。


「そんなに?」


「はい」


 俺達が都市に入ろうと門を潜ったと同時に、ドドドド!と大雨が降って来た。バケツをひっくり返したような雨に、俺達は急いで村の建物の軒下まで駆けてゆく。俺はヴァルキリーを着ているから問題は無いが、モーリス先生とデイジーが体を冷やしてしまう。


「あれ?」


 俺達が軒下に入り込んだというのに、リュウインシオンも騎士たちも嬉しそうに雨に濡れたままにしていた。それどころか建物からもどんどん民が出て来て、雨の下で踊りを踊っているようだ。


「リュウインシオン!」


 俺がリュウインシオンを呼ぶと、雨の中を俺のもとまで走って来た。


「はい!」


「なんで街の人が出て来て踊っているんだ?」


「感謝の踊りです!アラリリスの言い伝えで、雨の恵みを長く授かるために雨乞いの踊りをするのです」


 なんか特殊な風習があるようだ。とりあえず皆が喜んで踊っているので、本当にうれしいのだろう。だがあまりに長く雨にうたれていると、風邪をひいてしまうのではないかと思う。


「風邪をひくんじゃないか?」


「ああ、すぐに踊り終わって帰りますよ」


 リュウインシオンの言うとおりに、踊っていた民はすぐに家の中に引っ込んでいった。俺はてっきり夜通し踊るのかと思った。


「本当だ」


「雨の中を申し訳ありませんが、迎賓館までご一緒していただいてもよろしいですか?」


「ああ」


 俺達はリュウインシオンと騎士達について、雨の中を迎賓館に向けて走るのだった。


「おかえりなさいませ」


 迎賓館からカララとアナミス、ゴーグ、ガザムが駆けてくる。


「ただいま」


「上手くいったようですね」


「ああ。全く問題なかった。とにかく先生とデイジーさんを早く連れて行ってくれ」


「「「「は!」」」」


 俺達が迎賓館に入るころには、みんなびしょびしょになっていた。


「はっっっくしょい!」


 モーリス先生が豪快にくしゃみをする。


「なんじゃ!ジジイ、くしゃみとは軟弱な…はーくしょい!」


 デイジーもくしゃみをする。


「風邪をひいたらつまらない、リュウインシオン着替えはあるかな?」


「騎士達に用意させております」


 リュウインシオンが言うと、騎士たちがぞろぞろと出て来てタオルや着替えを差し出してくれた。モーリス先生とデイジーとマリアが体を拭いている。魔人達は特に気にする様子もなく、滴る水をそのままにしていた。


「皆さんもどうぞ」


 リュウインシオンと騎士達が、俺達にも体を拭くように渡してくれた。だが俺はヴァルキリーを着ているため鎧を拭くだけだ。


「皆様。夜が更けてしまいます。料理をどうぞ」


「料理はありがたいな」


「はい。準備は出来ているか?」


 リュウインシオンが騎士に聞くと、騎士が頭を下げて答える。


「いつでも出せます」


「それでは皆様、食堂の方に」


 リュウインシオンに促されて、俺達が食堂に入るとそこにはデカいテーブルがあり、丁寧に椅子が並んでいた。


 えっと…俺食えないじゃん。


 ヴァルキリーを着て虹蛇のフリをしているため、みんなと一緒に飯を食う事が出来ない。そして並んでいく料理はとても美味そうだった。


 うぐぐ。


「ささ、虹蛇様」


 ヘオジュエが俺に座るように勧めて来る。


「うむ。だが我は用意してくれた部屋に行くとしよう。部屋に料理をもて」


「は!お気遣いできませんで申し訳ございませんでした。すぐに料理人に用意させます」


 俺はそのまま、ヘオジュエに連れられて用意された部屋に通されるのだった。部屋はとても豪華で、王族が招待されるような部屋だ。俺はその中に入りヘオジュエに伝える。


「ではお前は、皆の元へ」


「私が虹蛇様のお世話をいたします」


「いや、いい。すぐ行け。供えに手を付けるのを見られたくないのだ」


「かしこまりました」


 ヘオジュエが頭を下げて部屋を出て行く。すると行き違いくらいに俺の部屋に料理が運び込まれて、テーブルの上に並べられた。これが一人で食う量なのか?というくらい並べられていく。


 …すっごい量だな…


「虹蛇様、お気に召していただけたでしょうか?」


 料理人が言う。


「うむ!苦しゅうない。とにかく我は一人がいいのだ」


「お気遣いできず申し訳ございません。それでは何かあれば何なりとお申し付けください」


 料理人達はそう言って、深々と頭を下げ部屋を出て行った。ドアが閉まったので俺はすぐさま、ヴァルキリーを脱いだ。こんなのを目の前にして我慢なんかできない。


「うまそー!めっちゃいい匂い!こりゃすげえぇ!」


 俺はすぐに料理に飛びついた。


「うっっまっ!これなんだ?これも美味いぞ!」


 時間を忘れて俺は一人で料理を堪能した。ヴァルキリーはそのままそばに座って見ている。しばらく料理を食らい尽していると、だんだんと腹が満たされてきた。


「いやあ…やっぱオージェじゃないんで、俺はこんなに食えねえや」


 そんな独り言を言っていると、突然ドアがノックされるのだった。


「誰だ?」


「リュウインシオンにございます」


「入れ」


 リュウインシオンが入って来たが、鎧を脱いでだぶっとした騎士服を着ている。やはりよく見ると綺麗な顔をしている。これはカーライルよりモテるかもしれない。よくよく考えたら、鎧姿以外を見るのはこれが初めてだ。


「ラウル様。楽しんでいただけましたか?」


「ああ、美味いよ」


「体が冷えたのではございませんか?」


「いや。鎧を着ていたし」


「突然の雨…驚きました」


「少しは潤いそうだな」


「はい」


「それでどうしたんだ?」


「あの、出来ましたらヘオジュエにも正体をお知らせできませんか?」


 リュウインシオンが真面目な顔で俺に言って来る。


「まあ信頼できる奴なんだよな?」


「もちろんです」


「わかった。じゃあ正体を教えるとしようか?」


「ありがとうございます!それではヘオジュエを連れてまいります」


 そしてリュウインシオンは部屋を出て行くのだった。まあ確かにやりづらいので、ヘオジュエには分かっていてもらった方がよいだろう。俺は二人が来るまで料理を堪能するのだった。

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