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第765話 仇討ち

 俺達魔人が、北の村ロウランを遠くから眺めている。


 そして…なぜか、リュウインシオン達騎士もここに来ていた。


 俺が足手まといだと言ったにも関わらず、リュウインシオンとヘオジュエや騎士たちが、討伐に行きたいと言いだしたのだ。俺はそれを無視し置いて行こうと思ったのだが、這ってでも行くと言い出したので、仕方なく連れてきたという訳だ。ヘリに乗せて半日もかからずに到着した。


 …まあ先代の王を殺された屈辱を果たしたいという気持ちは分かるが、どうせ役に立たないのだから来てもらっても困るのに。


「モーリス先生、デイジーさん。私たちが門を突破します。その間に村に設置してある魔法陣を解除出来ますか?」


「むしろアラリリス王都より早いじゃろう。わしゃ一度見たものを忘れん」

「わしも問題ないのう、範囲も狭いのですぐじゃろうな」


「わかりました」


 ならば、二手に分かれた方がいいだろう。


 遠目に見る村に変化はないようで、シャーミリアに聞いたところ未だデモンがいるらしい。ここには、先生達の他にヴァルキリーを着た俺とシャーミリア、ファントム、ギレザムの三魔人を連れて来ていた。ヘリを操縦して来たマリアとルフラを着たカトリーヌ、カナデがヘリで待機している。他全員をアラリリス王都防衛のために置いて来たのだった。


「俺とファントムが、モーリス先生たちを連れて南門に向かう。シャーミリアとギレザムは、北門で派手に暴れてくれ」


「「は!」」


「あのう…私たちも、戦いに参加させていただくわけにはいきませんか?」


 リュウインシオンが騎士達を見まわしながら言った。確かに…せっかく来てもただ見物しただけでは、騎士たちが納得しなさそうだし王としての威厳もある。


 …せっかく来てもらったんだから、ちょっと働いてもらうか…


「リュウインシオン!デモンに近づかない事を約束できるか?」


「もちろんです!」


「本当か?ヘオジュエは、どうなんだ?」


 リュウインシオンが感情で突っ走ってしまいそうなので、俺は腹心のヘオジュエに聞き直す。


「もちろんでございます。ここまで来てリュウインシオン様を失うわけにはまいりませんので」


「なら、わかった。歌は歌えるか?」


「うっ、歌?…でございますか?」


「そうだ歌だ」


 リュウインシオンとヘオジュエ、そして数名の騎士が呆けた顔をして見合わせている。俺に何を言われたのか分からないようだ。


「も、もちろんでございます。歌は歌えます。国の歌ならば」


 咄嗟にリュウインシオンが答えた。


「よし。それならいいぞ、手伝ってもらう」


 リュウインシオンも騎士たちも何が何だかわからない顔をしているが、とにかく頷いていた。俺が先を歩き北門に向かうと、皆がついてくる。北門より更に距離を置いた北に到着し、俺はそこに長距離音響発生装置LRADを設置する。騎士達は訳も分からず俺がやる事を眺めていた。


「悪いんだが、ここで歌を歌ってほしい。これに向かってみんなで、国の歌を合唱するんだ」


 俺がそう言うと、ヘオジュエがたまらず聞いて来た。


「虹蛇様!恐れながらお伺いします!」


「なんだヘオジュエ?」


「これは戦いなのですよね?」


「その通りだ。戦いだ」


「我々は役に立つのでしょうか?」


「おおいに役立つ!」


 ヘオジュエと騎士は自分達の剣をちらちら見ながら、不思議そうな顔をしている。歌う事で戦いに参加できるとは思っていないらしい。だがその時一人が口を開いた。


「みんな!虹蛇様がおっしゃっているのです!言う事を聞いてみましょう!」


 リュウインシオンが皆に向かって大声で言うのだった。腹から声が出ているようでよろしい。


「わ、わかりました!リュウインシオン様がそうおっしゃるのであれば…なあみんな!」


「「「「「は!」」」」」


 騎士達が訳も分からず返事をしている。リュウインシオンに言われれば、皆もハイと言わざるを得ないらしい。今までも何だかんだと、リュウインシオンの言う事を聞いて生き延びて来たらしいのだが、恐らくリュウインシオンという男は勘が鋭いのかもしれない。


「よし。シャーミリア、ギレザム!万が一デモンが村の外に出たら、彼らを守れ」


「「必ず」」


「俺がシャーミリアに合図をしたら、歌を歌ってくれるか?」


 俺の問いに、リュウインシオンと騎士たちが頷いた。


「よろしくたのむ」


 俺は騎士達にそうお願いすると、ファントムとモーリス先生たちを連れて南門に向かうのだった。南門に着くころには既に陽が沈みかけており、辺りは薄っすらと影が落ちてくる。この村はアラリリスとは違って、そこまで気温は上がらない。


《シャーミリア頼む》


《は!》


 俺が指示をすると北の方から大音響で歌が聞こえて来た。なかなかにしっとりした悠久の時の流れを感じさせるような歌だった。とても甲高い声も混ざっており、そうとうな音圧で流れているようだ。LRADの出力を上げてきたので効果はばっちりだろう。


「では先生。まもなくデモンは向こうにひきつけられていくでしょう、合図を待ちます」


「わかったのじゃ」


 そしてその合図はすぐだった。


《ご主人様。デモンが現れました、手にフレイムデモンを握っているようです》


《騎士達に飛ばされる前に、叩き落とせるか?》


《問題ございません》


《スマート耳栓だけは忘れるな》


《私奴もギレザムも装着しております》


《わかった》


《投げてきました!》


《頼んだ!》


《は!》


 どうやら北門にデモンが現れて、フレイムデモンを投げつけて来たらしい。まだフレイムデモンのストックがあったのか。


「では先生、デイジーさん。参りましょう」


「わかったのじゃ」

「ぱっぱと終わらせるのじゃ」


「はい」


 南門に到着した俺は、すぐさまファントムに門の扉を外させる。デカい木の扉は、軽く外されて俺の後ろにドカっと下ろされた。


「ファントムは武器を構えろ」


《ハイ》


 ファントムには12.7㎜M2重機関銃を担がせている。それを村の内部に向けて、デモンの出現に備えさせた。


「では!」


「わかった」


 デイジーが村の地面に手を当ててじっと見ている。そして見たことをそのままモーリス先生に告げた。確かにアラリリスの首都の時より時間が短い。


「ここに転移魔法陣とインフェルノはない」


 デイジーが言う。


「発動したのを見ました」


 俺が答えた。


「なら、内部に潜入せねばなるまいな」


「私達が護衛します」


「ふむ、じゃあ行こうかの」


 モーリス先生が告げてくる。


「デモンがいつ出現するかも分かりません。私の後ろについて来てください」


「うむ」

「わかったのじゃ」


「ファントムは殿を」


《ハイ》


 そして俺達は村に潜入する。吹き付けるタイプの器具で、デイジーが鏡面薬をそのあたりに巻き始める。少し進んでいくと地面が光り輝く場所を見つけた。


「さてと、まずは一カ所」


 すると今度はモーリス先生が杖をそこに置いて、魔力を注ぎ始める。アラリリスの時のように巨大なドームは出来ないが、青い光を発して魔法陣が消えた。


「何の魔法陣です?」


「転移魔法陣じゃな」


「なるほど」


 どうやら、俺達を都市内におびき寄せて、魔法陣で仲間を呼び始末するつもりだったらしい。いや…もしくは、逃げる為の魔法陣という事も考えられる。一つ目の魔法陣を解除して、意識を北に向けると未だにリュウインシオン達の歌声が流れてくる。


《シャーミリアどうだ?》


《手持ちのフレイムデモンが切れたのでしょうか?それ以上攻撃をする素振りを見せません》


《わかった。引き続き警戒してくれ》


《は!》


 そして俺達四人はこそこそと、村中の地面を確認して周る。デイジーはあっという間に次の魔法陣を見つけて先生が解除した。俺は何よりデイジーが魔法陣を見つける早さに驚いていた。


「さすがですねデイジーさん」


「なんというかのう…、昔取った杵柄じゃな」


 昔何してたんだろ?


「デイジーはわしらのパーティーでは、罠の解除もしとったからのう」


 てことは、レンジャーやシーフのような職業って事か。そして薬の知識もあって、パーティーには欠かせない便利屋的な存在だったらしい。


「ぼやぼやしてるんじゃないよ!次いくよ」


「わかったのじゃ」

「はい」


 デイジーはさっさと奥に進んでいく。さっきまでは俺が先頭を歩いていたのだが、俺達がついて行くようになった。俺が慌ててデイジーに走り寄る。


「私が先に!」


 危険だと思って俺がデイジーに声をかける。すると逆に、モーリス先生から止められた。


「ラウルよ。問題ないのじゃ、あ奴はああ見えて一流なのじゃよ」


 モーリス先生がデイジーを褒めるなんて珍しい。


「モーリスよ、懐かしいのう。お主に付け加えて、ラウルもいるのじゃ。わしは安心して背中を預ける事が出来る」


 なんだか、二人が若返ったように見える。敵はデモン、見つかったらかなり危険だというのに、なぜか安心感がある。ベテランの冒険者というのはこういうものなのだろうか?俺は今の今まで、この二人の実力を知らなかったらしい。だがデモン召喚がされた村には、ほとんど建物が残っておらず、俺達からもデモンが北の壁に張り付いてるのが見えて来た。


「歌のおかげですね」


「そのようじゃ。全くこっちを振り向こうとはせんようじゃ」


「いまのうちじゃな」


 そして俺達はわずかな瓦礫に隠れながら、こそこそと転移罠を解除していくのだった。


「恐らくはこれで最後じゃな」


 デイジーが言うと、そこにモーリス先生が杖を立てて解除を始める。かなりデモンに近づいている為、気づかれたら危険な状況になって来た。


 そして…その時が来る。


 デモンが転移罠解除の光に気が付いて振り向いたのだった。


「気づかれたのじゃ!」

「逃げるのじゃ!」


 デイジーとモーリス先生がいち早くその事態に気が付き、北門の方向へと走り始める。その時だった。


 逃げる先の地面がボコっと盛り上がり、数体のフレイムデモンが出現した。


「ファントム!」


 ガガガガガガガガガガ


 ファントムの12.7㎜M2重機関銃が火を噴く。俺もAT4ロケットランチャーを召喚してフレイムデモンを吹き飛ばした。


「後ろのは、かなり速いのじゃ!」


 後ろにはカマキリデモンが迫ってきていた。


 ガガガガガガガガガガガガ!


 だが…突如、カマキリのようなデカい目をしたデモンの顔が弾けた。その両脇にいた手のデモンが、慌てて両脇に逃げていく。


《お待たせいたしました》


《ナイスタイミング!ルフラ!カティ!》


 デモン達を攻撃したのは、上空を飛ぶ特殊部隊用ヘリMH-60L ブラックホークだ。マリアが操縦をして、ルフラにくるまれたカトリーヌがM230機関砲をぶっ放したのだ。目を潰されたカマキリみたいなデモンは、バタバタとのたうち回っている。そして逃げようとしていた手のデモンが、散り散りに逃げ出すがすぐに破壊された。


《遅くなりました》

《ご無事で?》


 シャーミリアとギレザムが、上空を飛ぶ機影を確認して突入して来たらしい。遅れて北門から、リュウインシオンと騎士たちが入ってくる。


「ファントム!二人を守れ」


《ハイ》


 ファントムにモーリス先生とデイジーを任せ、すぐに騎士たちの元へと走り寄って行く。


《カマキリがまだ生きている、騎士達に近づけさせるな!》


 俺がシャーミリアとギレザムに念話で告げると、すぐさま二人が動いて騎士の足止めをした。


「仇を!仇を討たせてください!」


 リュウインシオンがそう叫んでいた。


 王の仇はデカラビアってデモンなんだけどな。まああいつらにとっちゃ、デモンは全部仇か。


「ぎいいやぁぁぁぁ」


 そんなことをしている間にもデモンが叫んでいる。


「まて!」


 デモンが何かを話しているようだ。


「馬鹿め!我をこのようなめに合わせたところで、もはやお前たちは袋の鼠よ!あのお方がここに大軍を送ってくださる!」


 カマキリみたいな口をどうやって動かして話しているか分からないが、普通に人間の言葉として聞こえて来た。どうやら転移魔法陣を通じて敵を送り込んでくる予定だったらしい。


「悪いけど、転移魔法陣なら無くなったよ」


「なに!そのような…、マノ!ルカ―!」


「あの手のデモンも消滅した。残りはお前だけだ」


 どうやら目を潰されて状況が見えないらしい。


「な、なんだと!どうして!どうして!」


 暴れるデモンを尻目に俺がリュウインシオンを振り向くと、彼は俺の目を見て訴えかけてくる。


「仇を討ちたいのならこれを使え」


 俺はM202ロケットランチャーを召喚して、リュウインシオンに渡す。


「これは?」


 俺がセーフティを解除して、リュウインシオンの肩に担がせて操作を教える。


「あれにめがけて、この引鉄を引け」


 リュウインシオンは訳も分からずに、M202ロケットランチャーの引き金を引いた。ロケットは真っすぐにカマキリデモンに飛んでいき、木っ端みじんに吹き飛ばしてしまったのだった。


「よくやった!リュウインシオン!デモンを討ち取った!」


 俺がそう言うと、呆然としていたリュウインシオンが騎士達に振り向く。


「リュウインシオン様!やりました!雪辱を果たしましたな!!」


 ヘオジュエが叫んだ。ガランと空になったM202ロケットランチャーを落として、リュウインシオンはその場にへたり込むのだった。


「は、はは…ははは…」


 リュウインシオンの目からは涙がこぼれ落ちるのだった。

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