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第763話 バジリスク

 正門から外に出ると、既に荒野の気温はかなり上昇していた。陽炎がゆらゆらと揺れ、遠くには蜃気楼が浮かんでいる。まだ都市の近くで地下水がある影響なのか、究極の熱さではないものの気温は低くはなかった。


「えーっと、あれあれ!」


 俺が指をさしてリュウインシオンに告げる。俺の後ろをついて来ていたリュウインシオンが、俺の隣りに顔を出して先を見た。その視線の先には、バカでっかいトカゲの王様のようなやつが居たのだった。


「うわあぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 リュウインシオンは腰を抜かして、尻餅をついてしまった。


「あ、驚かしちゃったようだな」


「あ、あうあう」


 バカでかいトカゲの顔がこちらを向いて口を開いていた。既に胴体部分はバルムスとドワーフたちが解体している。ほぼ終わっているようでバルムス達の手際の良さが光る。


「あれなんだけど、食えるかな?」


「あの、あのあの!」


 リュウインシオンは、やたらとびっくりしているようだが、太陽がほぼ真上に来始めているので、早く処理して冷やさないと肉が腐ってしまう。とにかく早くこいつを冷やしたいのだが…


「どうかしたか?」


「バッ…バジリスク!!!」


 なんかどこかで聞いた事のある名前だが、どうやらこの魔獣はバジリスクというやつらしい。


「知っているのか?」


「知ってるも何も…これを一体どこから…」


「ああ、俺の配下が洞窟の深層に入ったら、これがいたんだそうだ」


「なんと!ミゴンダンジョンに入られたのですか?」


「わからんけど、洞窟に潜ったら奥にいたんだってさ」


「その…配下様とおっしゃるのは、一体いかほどの数の…相当な人数がいらっしゃるのですか?」


「まあ、いるよ。あーっ、丁度いいか。俺もその事を話そうと思っていたんだ」


「その…配下様が既に、ミゴンダンジョンから戻られたと?」


「今、呼ぶよ」


《ゴーグ!来い!》


《はい!》


 念話で呼ぶと、疾風の如き速さでゴーグが俺のもとにやって来た。ちっさくて可愛い、ショタなら垂涎物の美少年がやって来る。


「すまんなゴーグ」


「いえ」


 そして俺とゴーグをきょろきょろ見比べて、リュウインシオンが言う。


「えっと、兵士のお一人と言う事でございますか?」


 なるほど、リュウインシオンが何を聞きたいのかやっと分かった。


「ゴーグ、あのトカゲを何人で獲って来たんだ?」


「なにを言ってるんです?ラウル様?さっき俺一人で獲って来たと、お伝えしたじゃないですか」


「だよな」


 するとリュウインシオンがポッカーンとした顔で、ゴーグを見つめる。


「へっ?」


「えっと、こっちは俺の配下のゴーグ、こちらはこの国の王族のリュウインシオンさん」


 お互いを紹介すると、リュウインシオンが礼をする。ゴーグもそのまま頭を下げた。


「こんにちは!リュウインシオンさん!」


「あ、あの。こんにちは!…と申しますか、一人でこれを?」


「うん!ラウル様が食料探して来てって言うから、走り回って探して来たんだ」


「いや、私が聞きたいのは、一人でミゴンダンジョンに潜ってこれを討伐して来たのか?と言う事です」


「討伐?そんな大したもんじゃないよ。洞窟があったから匂いを辿って深くまで潜ったら、次々魔獣が出て来て、そいつらは腹の足しにならないと思って、奥のコイツに目をつけたんだよ」


「おっしゃる意味が、よくわからないのですが?」


「だからぁ。洞窟に魔獣はいっぱい居たけどちっさくて、腹の足しにならないと思って、深くまで潜ったらコイツが美味そうだったんで獲って来たんだよ」


「そんな…果物を摘み取るかのように…」


「えっ?果物があるの!!」


 ゴーグは既に果物が食べたくなってしまったようだ。リュウインシオンの聞きたかったことは答えたので、まあ話はこの辺で切り上げよう。


「とにかくこれを、都市に運んでいいか?」


「わ、分かりました…」


 俺はすぐさま米軍の重量物運搬用トレーラーEHETSを召喚した。めちゃくちゃタイヤの数が多い重量物運搬用トレーラーで、本来は戦車などを運搬する為の車両だ。ゴーグが獲って来た魔獣を解体したら、かなりの大きさになったようなのでこれを召喚したのだった。


「わ!!」


 いきなり出て来た超大型トレーラーに、またもリュウインシオンが尻餅をついた。バジリスクにビビっていたので、突然出て来たトレーラーも魔獣だと思ったのかもしれない。ちょっとタイヤがいっぱいついているので、多足の魔獣にも見えない事も無い。


「バルムス!こいつを積み込んでくれ」


「はい!」


 バルムスがドワーフたちに指示を出して、次々に解体したバジリスクを積み込んでいく。やはり広めの車体を用意して良かった。ドワーフたちは素材が混ざらないようにそれぞれに分類して積み上げたようだ。


「じゃあ、みんな!荷台に乗ってくれ!リュウインシオンも」


 ゴーグやバルムスたちが乗り込み、リュウインシオンも荷台に乗り込んだ。俺が運転席に座り、エンジンをかけて都市に向けて進めるのだった。門を入って少しすると、モーリス先生が遠くに見えたので下りて声をかけた。


「先生!」


「おお!これまた不思議なものを持って来たのう」


「バジリスクというらしいです」


「な、なんと!バジリスクを見つけたのか!」


 どうやら物知りのモーリス先生はバジリスクを知っているらしい。それは後で説明してもらう事にして、俺はモーリス先生にやってもらう事があった。


「ちょっともう一部が腐りかけているので、凍らせてしまいたいのです!」


「わかったのじゃ。魔力が足らんから分けてくれるかの」


「もちろんです。みんな!荷台を降りてくれ!」


「「「「「「は!」」」」」」


 ゴーグとバルムスが下りると、リュウインシオンも慌てて荷台を降りるのだった。俺がモーリス先生に魔力を流し込み、先生の新しい杖から一気に冷気がほとばしる。あっという間にバジリスクが凍り付いて行くのだった。


「凄い…」


 リュウインシオンが呟いている。モーリス先生にとっては朝飯前の術なのだが、もしかしたらこの国にはここまでの魔法の使い手がいないのかもしれない。


「よし、凍らせることが出来たのじゃ」


「リュウインシオン。これをどこに運べばいいかな?」


「食料保管の室が王城地下にございます」


「王城地下か。ならまだ壊れてないかもしれん」


「ご案内します」


 そして俺が再び重量物運搬用トレーラーEHETSに乗り込み、ドワーフ達も荷台に乗り込んだ。ゴーグはいつの間にか、ギレザムたちの手伝いに行ったようでいなかった。ゴーグは遊び好きではあるが、働き者でもあるのだった。仕事があると飽きずにやっている。


《我が主、車両を操るとはこう言う事なのですね》


《ああ、そう言えばヴァルキリーはした事なかったか》


《可能ならば、教えていただきたく思います》


《そうだな。時間を作って覚えてもらおうか》


《ありがとうございます》


 ヴァルキリーに車両を操作してもらえるのなら、自動操縦と似たような感じになるな。それはそれで戦術的な幅が広がりそうだ。時間をとっても教え込む価値はありそうだ。


《我が、兵器に組み込まれれるのであればお役に立つかと思われます》


《…なるほどね…バルムスに相談してみるか》


《はい》


 車両にヴァルキリーを組み込む?そんなことが出来るかよくわからないが、巨大外骨格も作ってもらえたし、バルムスならやってしまいそうな気がする。そんなことを考えているうちに、王城前にたどり着いた。


「入ります」


 リュウインシオンが言うので、俺はその前に人手を呼ぶ。


「ちょっと待ってくれ」


《ファントム!来い!》


 俺が指示をするとファントムがあっという間に王城に現れた。


「ひっ!」


 リュウインシオンがファントムを見て、小さな叫びをあげる。まあ普通の人はファントムを見て、平常心でいられるわけがないので仕方がない。


「ファントム!これから、この凍ったトカゲを運ぶぞ!」


《ハイ》


 そして俺とドワーフ達、そしてファントムが凍り付いたバジリスクの部品を持って王城跡に入って行く。リュウインシオンの後について行くと、瓦礫の中には地下に続く階段があった。リュウインシオンが先に下りていくので、俺達もそのまま階段を下りていくのだった。


 石階段に石の壁そして石造りの天井。そこを降りていくと光が届かなくなる。俺が軍用の懐中電灯を召喚して照らした。すると階段の底には廊下が続いていた。


「こちらです」


 リュウインシオンに連れられた先に扉があった。ここは地下深くなので、サーモバリック爆弾の被害を受けていないようだ。扉を開くと中には棚があり、部屋が何個にも分かれて食料品が置いてあるようだった。


「よっ」


 俺はカンテラを数個召喚して、床に置くと部屋全体が照らし出されて構造が見えてくる。窓などは無く、ただただ食料を置くための貯蔵庫になっているようだ。


「こちらです」


「わかった。みんな!運び込め」


「「「「「は!」」」」」

《ハイ》


 そしてドワーフ達とファントムは、俺とリュウインシオンを置いて素材を取りに出て行ったのだった。カンテラで照らされた部屋に二人きりになる。


 …今がチャンスかな?


「リュウインシオン。ちょっといいかな?」


「はい」


「俺が虹蛇では無いと伝えたと思う」


「はい」


 脱着!


 ガパン!


 ヴァルキリーの背中が開いて俺がそこから外に出る。ヴァルキリーの中にいたから分からなかったが、ここはかなりひんやりとして肌寒さを感じるほどだった。


「えっ!」


 いきなりヴァルキリーの背中から出て来た俺を見て、リュウインシオンが驚いている。


「これが俺の正体さ」


「あなた様は、洞窟の都市におられた使徒様では?」


 どうやら俺に化けたルフラの事を言っているらしい。俺はあの時ルフラに俺になって使徒のフリをしろと言っていた。


「違うんだよ。リュウインシオン、俺は君と二人になる時を待っていた」


「どういうことです?」


「俺は虹蛇ではないと言ったよね?」


「はい…」


 リュウインシオンの顔がカンテラに照らされながら、真剣なまなざしを俺に向けてくる。鎧兜からのぞく顔は綺麗で、本当にカーライルよりイケメンなんじゃないかと思う。


「俺がこの地を救いに来た事は、紛れもない事実だ」


「はい、それは分かっております!民をお救い下さいまして誠にありがとうございます!」


 リュウインシオンが跪くようにして頭を下げた。


「いや、頭を上げてくれ。そして俺は実は違う国の王族なんだよ」


「王族?」


「アラリリスよりもずっと北、シン国よりもずっと先の二カルス大森林をも超えたその先。ユークリット王国もファートリア神聖国よりも、北にある魔人国という国の王子なんだよ」


「魔人国…」


「聞いた事は無いかもしれない。俺はそこから軍隊を引き連れて、南の国を開放しに来たんだ。魔人という種族の王子だ」


「なんと…」


 リュウインシオンは言葉を失っている。虹蛇だと思っていた者が実は、遥か北から来た魔人国の王子だと言われ、理解が追い付いていないようだ。


「他国ではあるが、王族同士よろしく頼むよ」


「…」


「考えておいてくれていい」


「いえ、今お答えいたします。それはこちらからのお願いでございます。何卒、私の国とのつながりを、もっていただきたくお願い申し上げます」


 リュウインシオンが丁寧に頭を下げて来たので、俺が右手を差し出した。


「ありがとうございます」


 リュウインシオンはそう言って俺の手を掴むのだった。

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