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第760話 人形遣いのデモン

アラリリス首都は青く光り輝いていた。


 モーリス先生が新型の杖を媒介にして、敵が設置した魔法陣を発動させているのだ。光り輝く魔法陣は、いつもの赤や白じゃなく青い光を発している。


「ゴクリ」


 俺は先生に魔力を送りながら固唾をのんだ。恐らく正常に作動すればデモンが発生するだろうし、インフェルノが発動してしまうかもしれなかった。配下の魔人たちも緊張を走らせている。次第にふわりと光の粒子が飛び回り始め、それが四方に広がり始めた。大気が淡く青い光に満たされて拡大していく。


「ふむ」


 先生は納得したかのように呟いた。気がつけば都市に漂う淡く青い光が、ドーム状になって都市を覆い始めている。巨大な光のドームが出来上がり、いよいよ幻想的な美しい光景が浮かび上がった。


「先生…これは?」


「もう少しじゃ」


 俺が焦るも先生は焦ってもおらず、冷静に光のベールを見つめて魔力を注ぎ続けている。ドームにはどんどん光が充満していき、光の密度が増して質量があるかのようにすら思えた。


「どうじゃ、これがラウルの魔力じゃぞ」


 凄い事をやっていそうだが、俺に話しかけてくる余裕まであるみたいだ。


「は、はい」


「凄い魔力量じゃな」


「そうですか?」


「うむ」


 自分ではそれほど魔力を消費しているように感じなかった。それだけ俺の魔力の器が広がったという事なのだろうか。この都市をすべて覆うほどの魔力を、俺が出しているらしい。


「臨界点じゃ」


 ピキッ


 何かにひびが入るような音がした。そして次の瞬間。


 パ―ンッ!


 ガラスが割れるような音がして、ドーム状に輝いていた青い光が破裂した。一気に霧散して、雪が降るようにあたりに降り注いでいく。


「終わったのじゃ」


「先生。一体どうなったのですか?」


「転移魔法陣とインフェルノ魔法陣を同時解析して、ラウルの魔力を使って解除したのじゃ。お主の魔力あってこそじゃがのう。どうじゃ?ふらつきはせんか?」


「はい。問題ありません。普通に動けます」


「まったく…なんちゅう魔力量じゃ」


「というか先生、この都市の魔法陣が解除されたのですか?」


「そうじゃ」


「危険はない?」


「少なくともインフェルノとデモン召喚は無いじゃろうな」


「凄すぎる…」


 とにかく俺は、先生のその言葉を聞いて急ぎ全員に指示を出した。


「総員!デモン討伐に向かうぞ!」


「「「「は!」」」」

《ハイ》


 ギレザム、シャーミリア、カララ、ゴーグが返事をする。一応ファントムも。


 俺達は自分達の兵器を担いで都市に突入した。目指すはデモンがいる西の森。都市を抜ける途中では、壊れている住居は見当たらなかった。モーリス先生は都市を壊すことなく、魔法陣を解除してくれたらしい。


「凄いな!」


「今までの苦労がなんとやらですね!」


「ああ!ギレザム!やっぱ俺の先生は凄いだろ!」


「はい!」


 本当に凄い。途中にあった屯所や兵舎は完全に崩壊していたが、これは俺の召喚したミサイルによる被害だ。


 もう少し先生が早く到着していれば、ここも壊す事が無かったのに。…とにかく魔人を派遣して直させることにしよう。


 結局、王城もミサイル攻撃で瓦礫と化していた。サーモバリック爆弾が数発落ちたので、壁が残ってはいるものの無残な姿になっていた。


「王城から森に抜ける通路があるはずだ。探せ!」


「「「「は!」」」」

《ハイ》


 俺達は王城の正門から突入し、散開して瓦礫を乗り越えて進んでいく。すると破壊されたドゥムヤの残骸があちこちに散らばっていた。城に攻め入った場合に、足止めでもするつもりだったのだろうか?いずれにせよミサイル攻撃で壊滅している。


「ありました!」


 カララが森に続く通路を見つけたようだ。建物が破壊されてむき出しになった、地下に続く通路が見えてくる。どうやらここから森に脱出したようだった。


「シャーミリア!デモンの気配は?」


「この通路の先にいるようですが、恐らく地上に抜けております」


「なら地下に潜る必要は無いな」


「はい」


 俺達五人は、その地下通路を過ぎて更に森へと進んでいく。王城付近の木々はサーモバリックミサイルの影響で倒れているが、それは入り口付近だけで奥の森は無事のようだった。


「この先です」


 シャーミリアが言う。既に魔人達は全員が、デモンを察知しているらしい。全員が真っすぐにデモンがいる方向に走るのだった。俺達が走り込んでいくと、視線に蠢く物が映る。


「ドゥムヤだ」


「大量におりますね」


「みんな!ドゥムヤを突っ切れ、目標はデモンだ」


「「「「は!」」」」

《ハイ》


 俺達に気が付いたドゥムヤが、一斉に襲い掛かって来た。だがここにいるのは超進化した最高幹部達、ノーマルオーガほどの強さの人形では相手にならなかった。俺達は森の木々を縫うように前進しながら、兵器を使わず殴ったり蹴ったり体当たりを食らわせたりして蹴散らしていくのだった。


「あそこです」


 ギレザムが指さす方向に二人の人影が見えた。だが森の木々の間にはドゥムヤが大量にいて、俺達が進むのを邪魔している。千切っては投げ千切っては投げしても、なかなか前に進めなくなってきた。敵の二人を守るようにドゥムヤが密集しているのだ。


「兵器を使います」


 ギレザムが言う。


「許可する」


 ギレザムがM134ミニガンに、自分の能力である電撃を乗せて一気に撃ち放った。撃った方向の木々がなぎ倒され、ドゥムヤ達を一斉に蹴散し破壊してしまった。俺達はその空いた道を一直線にデモンに向けて走る。俺達が走るそばからドゥムヤが飛びかかって来るが、それよりも早くそこを通り過ぎていくのだった。まるでモーゼの十戒が閉じていくように、俺達の後ろに人形達があふれかえる。


「な、なんだ!デ、デカラビア様!あれは!」


 奥に居た人間のおっさんが俺達を見て叫んでいる。


 デカラビアと呼ばれた奴がデモンだ。王族のような恰好をしているが、見た目が凄く若い。一見するとイケメンに見えなくもないが、品格が無いような顔だ。そして恐らくその前で狼狽えている、青い顔をした目の細い、アラリリスの衣装をまとったおっさんがサイタラって奴だろう。


「ドゥムヤ達よ!何をやっておる!」


 デカラビアと呼ばれるデモンが叫んでいる。どうやらあいつが人間を人形に変えて、戦わせている張本人らしい。サイタラと呼ばれるおっさんは、槍を持って震えていた。


「みんなでドゥムヤを抑えていてくれ」


「「「「は!」」」」

《ハイ》


 俺の指示で、魔人達がドゥムヤと格闘し始める。兵器を振り回して吹っ飛ばしたり、蹴りやパンチで吹き飛ばしたりしていた。


「お前が新しい王か?」


「お前は誰だ!」


「アラリリス民の代弁者だよ」


「民の代弁者だと?」


「そうだ」


「何を…民は余の下で幸せに暮らしておったのだぞ!」


「あの人形が幸せだって言うのか?」


「あ、あ奴らは政府を疑った奴らよ!従順にさせる為には、人形になるのが一番だろうが!」


 なるほどなるほど。デモンに対して、人間の常識を話しても仕方が無いよな。


「サイタラとか言うのはお前か?」


「ひ、ひぃぃぃ!」


 パン!


 サイタラが背を向けて逃げ出したので、俺はコルトガバメントを召喚して足を撃つ。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」


 サイタラは地面に転がり足を抑えてのたうち回る。


「なに逃げてんだよ」


「ひぃぃ!」


 サイタラっておっさんは、これ以上ない恐怖の表情で俺を見る。


「デカラビア」


「お、王と呼べ!余は王なるぞ!」


「お前は王じゃない。民を人形にしか見れない奴を王とは言わない」


「この!」


 デカラビアは俺に手をかざして、何かをつぶやき始めた。


《我が主よ。あの攻撃は避けてください》


 ヴァルキリーが俺に戦闘指示を出してくる。どうやらあの能力はヤバイらしい。デカラビアが手の先からぼやけた煙みたいなものを吹き出してきた。俺はそれを避けて当たらないようにかわす。


《あれはなんだ?》


《良からぬ感じが致します》


 そしてデカラビアは、次々にその煙を吐き出しては俺に飛ばしてくるのだった。それを避けつつも俺はデカラビアから目を話さない。何かおかしなことを企んでいるかもしれないので、その動きに注意するのだった。


「うぐぐぐ!」


 デカラビアが悔しそうな表情で俺を睨む。俺はそれに当たらないように縦横無尽に逃げながら、デカラビアに対して話しかける。


「お前はどこから来た?」


「お前に答える舌など持たぬ!」


「アヴドゥルの差し金か?」


 するとデカラビアが攻撃の手を止めて俺を睨むので、もう一度問いただす。


「アヴドゥルの差し金かと聞いている!」


「あんな奴の指図など受けるわけが無かろう!」


 ん?違うの?


「アヴドゥルが上官なんじゃないのか?」


「は、はーはっはっはっはっ!あんな虫けらに指示を受けるだと?」


「なら誰に指示を受けた?」


「これは契約だ。あのお方の名を話す事は無い!」


 あのお方って誰だろう?


「ゼクスペルか?」


「ふん!スルトの配下風情に指示を受けるはずがあるまい!」


 なんかぺらぺらと自供を始めているような気がするが、このまま尋問を続けてみるか。


「スルトってやつはお前の上官か?」


「あれは…」


 よし。早く話せ!


「あれは?」


「…お前などに話すわけがなかろう!」


 おしい!くっそ。流れで話してくれるのかと思ったけど、だめだった。俺が誘導尋問している事に気が付いたのだろう。


「ならいいや。お前はここで終わりって事だ」


「人間ごときにやれるものか!」


 俺がデカラビアに迫ろうとした時だった。デカラビアが俺に向けてではなく、サイタラに向けて手をかざした。


「デ、デカラビア様!何を」


「盾となるがよい」


「おやめください!や、やめてぇぇぇ!」


 デカラビアがさっきの煙をサイタラに噴射する。するとサイタラは見る見るうちに姿を変え、ドゥムヤ人形になってしまった。足を撃たれて座り込んでいたのに、すっくと立ちあがって俺に向かって突進してきた。


 なるほど…あの技は人形に変える能力だったか…


 俺の眼前に迫ってきた人形サイタラに向けて、召喚したイズマッシュ・サイガ12ショットガンを発砲した。マガジン式のショットガンで、セミオートマチックで8発の散弾を撃つことができる。


 バゴゥ!


 サイタラ人形の左胸から腕が吹き飛んだ。だが人形なので恐怖も無く俺に突っ込んでくるようだ。サイタラ人形の右手が俺にかかったところで、胸に直接散弾を打ち込んだ。サイタラ人形が吹き飛び後方に飛んで転がる。それでも、ちぎれそうになった胴体を、右腕で支え上げようとしていた。最後にもう一発撃ちこんで、サイタラ人形は木っ端みじんに砕けたのだった。


「な!クソ!」


 デカラビアがまた俺に向けて手を上げたので、そのままデカラビアに向けて散弾を打ち込む。


「いでぇ!」


 だが一発では倒れない。俺は続けざまに数発デカラビアに撃ち込むが、後方に下がるだけでまだ立っていた。弾が無くなったので、俺はイズマッシュ・サイガ12ショットガンを捨てた。


「うぎぎぎ!」


 呻きながらもデカラビアがこちらを睨んでいる。痛そうだが、まだ死にはしないようだ。流石にデモンだけあって、ある程度頑丈に出来ているのだろう。俺が苦しそうなデカラビアを見ていると、まあまあのイケメン風だった男がどんどん形を変えていく。


「なんだ?」


 気がつけばデカラビアは、五芒星ペンタグラムのような形になった。わかりやすく言えばヒトデのような形になっている。


「それがお前の正体か」


「ぐぐぐ、だがお前の攻撃は効かん!」


 いや…効いてんじゃん。


 デカラビアはスルスルと地面を這って行く。そしてある地点で止まった。何やら力を発しているように見える。


「どうした?」


 俺はデカラビアを追い、問いただす。


「あれ?おかしい…」


 デカラビアが不思議がっている。なるほど。俺はデカラビアが何をしているのか分かった。


「ああ…魔法陣ならもう無いぞ」


「なに…そんなわけは」


「解除したからな」


「解除した?そんな馬鹿な!そんなわけはない!」


「いや。今お前は、魔法陣を発動させようとしたんだろ?」


「う、うぐっ!」


 図星だった。


「もう逃げられないけどどうする?」


「ぎぎぎぎぎぎぎ」


「降参するか?」


「それは出来ん!」


「なら死ね」


「ま、まてまて!契約で降参出来んのだ!」


「いや、ならもっと面倒だ。だってお前の上のヤツの名前も聞けないんだろ?」


「無理なのだ!」


「じゃあいらねぇ」


 俺はすぐにM9火炎放射器を召喚して、でっかいヒトデに照射した。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ、熱いぃぃあつぃぃ!!!」


 しばらく照射していると、ヒトデがどんどん小さくなっていく。声も小さくなりそしてヒトデはすっかり燃え尽きてしまうのだった。


 カラン!カラン!カラン!カラン!


 俺の後ろから木が崩れるような音が聞こえてきて振り向くと、ドゥムヤは糸が切れたように崩れ落ちていくのだった。倒れたドゥムヤの中にギレザム、シャーミリア、ゴーグ、カララ、ファントムが立ち尽くしていた。


「人形が…」


 俺達が見ている前で、ドゥムヤが少しずつ形を変えていく。


 …このまま人間に戻ってくれるのか?


 そう思ったがそれは甘かった。干からびた死体やミイラのような死体、骸骨に変わって行くだけだった。食料も水も獲らないで人形になっていたから、既に死んでしまっていたらしい。俺達の周りにはおびただしい数の、ミイラが山積みになって転がっていた。

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