第76話 巨大海竜に乗る
シロを連れて帰って数日後、俺は海にいた。
俺はラーズとの訓練を終えて、今度はセイラとの訓練に挑むことになった。この極限の海に入るのは普通の人間ならば30秒と耐えられないだろう。さすがに俺はセイラのように水中で行動できないので、ネイビーシールズ仕様のスイムスーツと酸素ボンベを召喚し、身に着けての潜水となる。
心強い事に、セイラはセイレーンという魔人で歌で人間や魔人を呼び寄せ、食べてしまう恐ろしい魔人だ。足より下にはうろこが生えており、魚よりはるかに早く泳ぐことができる。魚を取ることに対しては天才だった。
まあ訓練というのはただの口実で、俺はセイラと一緒に漁に出てきた。シロのエサがいるのだ・・シロはすっごく大食いだった。国のシーマンたちが漁で大量に魚をとって、国民の食糧を賄っているのだが・・俺が連れてきたペットのエサをもらうのは忍びないと思って、訓練も兼ねて直接獲りに来た。
「よし!それじゃあよろしく頼む。」
「はい。」
「シロがとにかく喰うんだよ」
「大型の魚を狙いましょう!」
「おう!」
そう・・シロのえさの為に俺はこの訓練を発案したのだ。
「波が荒いな・・」
「ええ、まず私がラウル様を抱いて海にはいります。来てください」
セイラは下半身は魚のような感じでうろこがあるが・・上半身は人魚もビックリの健康的な美人だ。まず声がいい!歌うような心地よい声で俺を呼び抱きしめる。
「行きます!」
ああ、おっ〇いがムギュっと潰れてここちいい・・。ああ、いかんいかん。真面目に行くぞ!
岸壁に立ち、スッと海に落ちていく。
ドボン!
つ、冷たい!冷たい!
おもわず水面に出た・・
「ラウル様、おやめになりますか?」
マウスを外して答える。
「大丈夫だ、だが長時間は無理だと思う。」
「それで息ができるんですか?」
「そうだよ。酸素ボンベっていうんだよ。」
「ラウル様は素晴らしいです。神様のようです。」
「神様じゃないよ。」
なんか配下たちの俺を見る目が崇拝するような目なんだけど、なかなか慣れないな・・まあいろいろと協力してくれるからいいんだが。
「よしっと」
俺はSeabob ブラックシャドウ730 水中ビークルを召喚した。おそらくこれでもセイラには全く追いつかないんだろうが、これで俺は早く潜水が出来る。魚のいるところまで潜水できればいいのだ。魚を突くための三股に分かれた槍も借りてきた。
セイラが近づいてきて下を指さす。魚がいたらしい。俺は水中ビークルで潜水していく。
《おお!いるいる!寒いからか魚があまり動かない》
俺は大型のタイに似た魚に近づいて槍を構える。ゴブリンとの戦闘訓練の成果を出す時だった。
スッ ザク!
《やった!!》
とれたので上に上がる。
上に上がると水面にはセイラも上がってきた、セイラも1匹とってきた。
「とったどー!」
「そうですね!ラウル様」
あ、そうだよなツッコミはないよな。
とにかく俺達は獲った魚を岸壁の方へと持っていく。岸壁には少し高くなったところに穴が空いており、洞窟状のその場所にいったん魚を置くんだとか。セイラの漁場になっているので、そこは波の勢いも少ない場所で唯一安全な場所だった。
「よし、次行こう。」
「どんどん獲りましょう」
俺達はまた海に戻る。
水が冷たいため魚の動きが鈍くて獲りやすかった。とにかく大きめの魚を狙ってどんどん魚を集めていく。結局2時間も潜り続けて魚獲りをしていた。最初は冷たかったのだが体が慣れてきた。
《そろそろかな?》
セイラの方がはるかに泳ぐスピードも魚を獲る量も上なのでかなり助かっている。だいぶ獲れたのでそろそろ帰ろうと指でセイラを促す。俺は槍で突いたウツボみたいな魚を持って帰ろうと促した。セイラも水中でコクリと頷く。
俺達が魚置き場に向かっている時だった。セイラが俺を掴んで勢いよく泳ぎだした!
《な・・なん・・》
後ろを振り返ると、そこには巨大な何かがいた。セイラの泳ぎでもぐんぐんと近づいてくるそれは・・竜だ。すごいスピードでセイラでも追いつかれそうだった。
《竜、見た目こっわ!!漁の血の匂いを嗅ぎつけて近づいて来たんじゃないか!?く・・喰われる!?》
とにかく俺とセイラは岸に向かって泳ぐ。そこで俺はある秘策を思いついた。泳ぎはセイラに任せて集中する。ストロボマーカーライト MS-2000と水中シリコンテープを召喚して水中ビークルにくっつける。俺は水中ビークルを横方向に押し出した。
《どうか・・》
竜は光を追ってビークル方面に泳ぎ始めた。
《よし!》
水中ビーグルがない方がセイラは早く泳げるようだった。
《ああ・・邪魔になってたのね。》
ようやく岸壁にたどり着いて上陸した。
「はあはあはあ・・あれ、なに?」
「シーサーペントです。」
「シーサーペント・・」
とにかく逃げなくては・・あんなのたまったもんじゃないぞ。俺達が背を向けて魚置き場に向かおうとした時だった。
ザッバァアアン
水面から50メートルも飛び出たシーサーペントが、鎌首を上げて俺達を睥睨していた。
「ど・・・どうすんだ?」
「どうしましょう・・」
よく見るとシーサーペントが俺が召喚した水中ビークルをくわえていた。
スーッと俺たちの前に首が降りてきて、俺の前にボトリと水中ビークルを落とした。それ以上何をするわけでもなかった・・
「あの・・ラウル様」
「し!セイラ・・刺激しちゃいけない!」
「いえ・・ラウル様、これはラウル様に会いに来たようです。」
「え?わ・・分かるのか?」
「は、はい。最初は血の匂いを嗅ぎつけてきたのかと勘違いしたのですが、冷静になってこの者の考えを読み取ってみると、ラウル様を見に来たようです。」
「俺を見に・・」
なんで俺を見に来るんだ・・何をしたらいいんだ・・さっぱりわからない。
「あのー、こんにちは。」
そう・・こんな時はまず挨拶からだ、あいさつは基本だ。
クォォーーーーーァ
おお!!挨拶を返してくれた。良かった!通じているかどうかはわからないが、挨拶と認識したんじゃないのか?俺は大げさな身振り手振りで話を始める。
「俺は!あなた様に!危害を加えることはございません!ただ!食べるだけの魚を獲りに来ただけなんです!」
ゼスチャーをくわえ、大きな動きでシーサーペントに伝える。そう・・言葉じゃないんだ・・大丈夫だ。
クォーォオオン
すると、シーサーペントは何かを納得したように海に戻っていった。
「た・・助かった。」
「そうですね・・」
「挨拶しにきたのかな?」
「そこまでは・・分かりませんでした。」
「とにかく戻ろう。」
「え・ええそうですね。これはどうします?」
「あ、水中ビークル?それもう動力がなくなるから捨ててく。」
「そうですか。では行きましょうか。」
ザッバァアアン!!!
「えっ!?」
後ろを振り向くと、またシーサーペントが50メートルほど鎌首を上げて俺達を睥睨している。いや・・威圧感があるだけで睥睨しているわけじゃない・・ただ見てるんだ。
「俺たちはそろそろ帰るから!お前も帰れ!」
大げさな身振り手振りで伝えてみる。すると俺たちの近くに顔が降りてきて口が開いた。
《ん!ん!!食べられるんじゃね??》
シーサーペントの口から大きなマグロみたいな魚が3匹出てきた。
ボトリボトリボトリ!
「ん?くれるのか?」
クォッォォォォン
どうやら・・くれるようだった。シーサーペントが俺達にこのマグロのような魚を・・ただどうやって持っていこう、一匹300キロはありそうだ。
「わかった!ありがとう!俺達は帰るよ!!」
カックォォォーン
「ん?なんだか寂しそうな雰囲気の返事だったな。」
「そうですね。」
「じゃあ、もう少しいるよ!」
クォォォォォォォン!
どうやらまだいてほしいようだった。
「セイラ、こいつはなんか俺達に危害を加えることはなさそうだし、配下を全員連れて来てくれないか?」
「しかし・・」
「たぶん、大丈夫だ。」
「はい、お気をつけて。」
セイラはみんなを呼びに戻っていった。さてと・・こいつと一緒に何をしたらいいんだろうか?俺は酸素ボンベを落としてそこにドカッと胡坐をかいて考える。
クォォォ?
「いやそれは俺のセリフだ。お前が何を考えているのか分からないんだ。」
すると・・シーサーペントの首が俺の脇に、ズッズズゥーンと横たわった。
「ん?なに?乗ればいいの?」
クォォォォォォン!
俺は新しい酸素ボンベを召喚して背負って口にくわえた。そしてシーサーペントのうろこを足場にして背中に乗ってみた。角が太くて凄いが手でつかめそうな所があったので掴んでみた。
ズッズズズズ
どんどん俺が持ち上がって50メートルくらいの高さになる。海の方に向かってシーサーペントが振り向いて進みだす。
ドパァァァァンと水中に入る。
「おわぁ」
いきなりシーサーペントが水中にもぐり泳ぎだした。す・・凄い。凄いスピードだ・・水圧で落っこちそうだ。
《でも・・・楽しい!楽しいぞ!速っええええ!》
シーサーペントはしばらく俺を乗せて泳いでみせた。凄いな・・ものすごく力強い魔獣だ。そしていま俺は・・水中ではあるがあの!坊や良い子だ〜の坊やになっている。
《でんでん太鼓!でんでん太鼓が欲しい!》
しばらく泳ぎを堪能したら、また元の魚置き場に戻ってきてくれた。そして水中から海面に上がっていく。
ザッバァアアン
すると、魚置き場の岸壁には配下が武器を持って集合していた。
「ラ・・ラウル様!大丈夫なのですか!?」
ギレザムが俺に叫んでいる。
「ああ、大丈夫だ。シーサーペント海底ツアーに出かけていただけだよ。」
「か・・海底、ツアーとは何です?」
「いいんだいいんだ。とにかくこいつは俺に敵対意識はないから大丈夫だよ。」
「そうなんですか?」
スーッとみんなのところへ首を降ろしてくれた。俺は首を降りるとシーサーペントの鼻のところをなでてやる。
クォン
甘えるような声を出した。
「魚、ありがとうな。また来るからよろしく頼む。」
俺がシーサーペントに声をかけると、スゥっと頭が持ち上がっていき50メートルほどの高さになった。
クォォォォォォン!
一声鳴いてからザッバァアアンっと水中にもぐって行ってしまった。
それから300キロはありそうなマグロをラーズが1匹 ミノスが1匹 ギレザムとゴーグで1匹持ち上げて運び始めた。ドラン、スラガが俺の水中ビークルと酸素ボンベを、残りの魚をガザムとアナミスが運んでくれた。
シロだけじゃなくて、みんなも喜ぶだろうなあ・・こんなに大漁になるとは思わなかった。
マグロに似てるけど味はどうなんだろう?
あいつ・・また会えるかな?俺はシーサーペントとの再会を楽しみにしつつ帰るのだった。