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第757話 ゼクスペルvs魔人

 街を走り抜けてたどり着いた東の抜け穴の前に、ドゥムヤの残骸が大量に転がっており、ゴーグが一人で待っていた。抜け穴を守るようにしてこちらに手を振ってくる。


「ゴーグ!」


「ラウル様、こいつら次々来ますよ」


「よく始末してくれた!」


「はい」


 オーガ並の強さを持っているドゥムヤだが、こいつらがいくら束になってもゴーグには叶わない。ドゥムヤがアラリリス民を追って外に出ないように、一人でここでくい止めてくれていたのだ。このドゥムヤも、もとを正せば政府にあらがっていたアラリリス市民なのだが、いま生存している市民に危害を加えようとするのであれば破壊は致し方なかった。


「カララとルフラ達は外か?」


「はい!二人は人間達を誘導し、安全な場所へと非難させてます」


「上出来だ」


 カララとルフラも事前に決めていた仕事をきっちりこなしている。そして俺は、都市から離れた場所に待機しているガザムに念話を繋げた。


《ガザム、次の作戦に移れ》


《分かりました》


 俺達はファートリア聖都防衛線で学んだ事を、即実践に移すのだった。火の一族やデモンと直接対決する必要はない。そこで俺達はある策を練っていたのだ。


 ゴオッ!


 念話を終えてすぐ、俺達の後ろから炎の攻撃が飛んできた。俺達がそれを避けると、市壁に空けた抜け穴付近に着弾した。穴の周辺が音を立てて燃え始めたようだが、俺達の退路を断つつもりなのだろう。どうやら火の一族、ナールとフォティアが追い付いて来たらしい。


「ネズミどもが! おるわ! おるわ!」


 ナールと呼ばれる筋肉隆々の火の一族が悠々と歩いてくる。そばには先ほどギレザムがかけた奇襲で、わき腹に負傷しながらも、平気な顔をしているフォティアと呼ばれる女が歩いていた。


「逃げ足だけは早いようだけど」


 フォティアが涼しい顔で言う。どうやら俺達が逃げるのに失敗したと思っているらしい。


《ガザム、外のあばら家にいるドゥムヤ達はどうなってる?》


《は! ファントムがあらかた片付けました》


《オッケー!ならファントムは拠点から兵器を持ちだして正門前に待機しておけ》


《ハイ》


 ファントムは一応返事をするようになったので、指示が通っている事だけは確認できる。


 進歩だ。


「面白い!ゼクスペルとやら!我ら魔人軍にたてつくというのか?」


 俺がネタバラシ的に叫ぶと、ナールとフォティアが顔を見合わせる。


「はーっはっはっはっはっ!」

「あははははははは!」


 二人はだいぶ余裕があるようで大声で笑った。俺達に倒されるわけがないと思って、高を括っているようだ。


「ずいぶん余裕だな。俺達はお前の仲間を殺ったんだぞ」


「……」

「……」


 どうだ、ビビったか?


 だがナールがすぐに口を開いた。


「面白い。フーを殺ったと言うか?」


「そうだ」


 さっきは一方的に攻撃を仕掛けてきたが、今は俺の問いに答える余裕があるらしい。まあシャーミリアの全力パンチに耐え、ギレザムの電撃射撃に耐えたのだから余裕があって当然かも…


 だが明らかに、冷静だった表情は変わっている。フォティアが続けざまに言う。


「あら?あの間抜けを殺したから、なんだっていうのかしら?」


「間抜け?」


 俺の問いにフォティアが薄ら笑いを浮かべている。目は笑ってないように見えるが、余裕があるようには見える。


「馬鹿め!フーは大方油断でもしておったのであろう。だが、我らが末弟を殺したからどうだというのだ?お前たちはこの地で死ぬことに変わりない!」


 ナールとフォティアは威圧の気をこちらにぶつけてくる。それを受けて俺は次の行動に移った。


 ジャキッ!


 俺はギレザムにM134ミニガンとバックパック、シャーミリアにM240中機関銃とバックパック、ゴーグに最強のアサルトライフルShAK-12を召喚して渡した。召喚は一瞬で行えるので、敵の目には瞬間的に手に何かを持ったように見えているだろう。


《次の作戦に移る!》


《《《は!》》》


 俺もバレットM82大口径セミオート式狙撃銃を召喚し、あいさつ代わりの一発をナールに撃ち込む。


 ズドン!


 だが俺の攻撃はナールにあたらなかった。正面からの攻撃なので、先ほどシャーミリアやギレザムが不意打ちをしたようにはいかない。ナールはファートリアで戦ったフー同様に、熱のベールを展開して俺達の攻撃を防いだのだった。


《やっぱ貫通しないか》


《波状攻撃をかけましょう》


 ギレザムの掛け声とともに、俺、ギレザム、シャーミリア、ゴーグの銃火器が火を噴いた。


 キュィィィィィィ!

 ガガガガガ!

 ズガン!ズガン!


 やはり俺の銃火器は奴らに届かないようだ。ファートリア聖都のフーは策を練ってようやく撃破したが、こいつらも容易には殺せないようだ。


《ナールってやつの火球は、火力が半端ないし追尾してくるぞ。フォティアって女の火槍は早くて貫通力がある。そしてアイツらは、フー同様に高熱のベールと火壁も展開してくるから、そのつもりで攻撃してくれ》


《《《は!》》》


 俺はさっき戦って分析した二人の能力を皆に伝えた。そして俺達は縦横無尽に駆け回りながら、火の一族を攪乱していく。だが、二人はさほど動き回ることなく、俺達にプレッシャーをかけてくるのだった。俺はヴァルキリーと尻尾アーマーのおかげで、ギレザムやシャーミリアやゴーグと同等の機動力で動けている。そのため俺には、ファートリア聖都でフーを相手した時より余裕があった。


《なるほどな》


 俺はフーと戦った時のように必死に逃げ回るだけではない。ナールとフォティアの攻撃を避けつつ観察できるようになった。バルムス&デイジーの尻尾アーマーは、俺の戦闘能力を格段に上げたようだ。観察していると攻撃パターンに変化がある事に気が付く。


《動きが乱れる事があるようです》


《そうだな》


 ナールとフォティアの攻撃が止まる時がある。四人でバラバラに攻撃しているのだが、ふと相手の攻撃に隙が出来る瞬間があるのだ。俺はギレザム達三人に攻撃を任せ、更に集中して敵の動きを見るようにするのだった。

 

「あぶな!」


 気がつけばナールの火球は俺を追尾してくるし、俺が逃げた先にフォティアの火槍がやって来る。自分達が観察されている事に気が付いたのだろうか?


《お気を付けください!ラウル様に攻撃を集中させ始めました!》


《好都合だよ。俺は回避に専念する。更に波状攻撃を続けてくれ》


 ゴーグの弾倉が切れかけているので、俺はゴーグに近寄り新しい弾倉を投げる。ゴーグは動き回りながらも素早く受け取り、一瞬で弾倉を交換してのけた。オージェやグレースと共に、訓練に明け暮れていた成果がここで出て来たらしい。


 そして俺はある事に気が付いた。


《ギレザムの攻撃だ!あいつらはギレザムの攻撃を避けてるぞ!》


 敵はどうやらギレザムのM134ミニガンに、電撃を乗せた攻撃を避けているのだった。直感で当たったら不味いと思っているのだろう。


《そのようですね》


 ギレザム達も気が付いていた。


《シャーミリアとゴーグは攻撃の手を緩めるな。俺が敵の攻撃をひきつけるから、ギレザムは隙を見て敵に攻撃をあててみてくれ!》


《《《は!》》》


 シャーミリアが更に速度を増し、敵は既に捕捉出来なくなっているようだ。だがゼクスペルの二人は、変則的な攻撃に翻弄されつつも、高熱のベールで自分たちを守っている。


「そのような攻撃など効かぬわ!逃げろ逃げろ!はっはっはっは!」


 ナールは大きく動くことなく、冷静にこちらに攻撃をあててこようとする。さっきから追尾してくる火球に、俺も回避行動を続けさせられている。ヴァルキリーの自動運転があるからこそ、その動きを継続し続けられるのだった。


「いつまで動き回っていられるかしら?」


 フォティアが言う。


 …まあ…ゴーグはいざ知らず、シャーミリアは無限に動き回っていられるんだが、フォティアは敵の能力を正確に把握していないらしい。よほど自分の強さに自信があるのだろう。


《なんだ?》


 突如フォティアは上空に向かって手を差し伸べ、夜空に炎槍を飛ばした。そのおかしな行動を見て、俺は全員に警鐘を鳴らす。


《全員!警戒しろ!》


《《《は!》》》


 するとフォティアが上空に撃った炎槍は、空中で数百の炎に分裂したのだった。それが一斉に、地上に向けて降り注いでくる。インフェルノのクラスター爆弾といったところだ。


《避けろ!》


 俺達は上空から降り注ぐ炎を避けまくる。そこにプラスし、俺にはナールの追尾火球が迫って来ていた。溜まらず尻尾アーマーを広げて弾くように火球を避けた。ビキビキと音を立てて尻尾アーマーが悲鳴を上げる。


《我が主、尻尾アーマーで火球を防げるのは後一回が限界でしょう》


《わかった》


 どうやら二度の火球を受けたことで、アーマーが壊れる寸前らしい。あれは普通の炎では無いので、いかにバルムスの作ったアーマーが頑丈でも耐えられないようだ。


「ふははは、どうやら尻尾がイカれたようだな!」


 ナールも今の攻撃には手ごたえがあったらしく、アーマーに限界がきてる事を見破ったようだ。ナールが再び手に火球を出し、その隣ではフォティアが天に向けて炎槍を撃つところだった。


《させん!》


 天に向け手を上げているフォティアにギレザムが急接近し、M134ミニガンに電撃を乗せて至近距離から撃ちこむ。溜まらずフォティアは炎槍を打ち上げるのをやめ、回避行動に移ったようだった。


「ふん!小賢しい!」


 フォティアがギレザムに対して炎槍を打ち込むも、ギレザムはすんでのところでそれを避ける。今回、火の一族を相手している三人は、近接戦闘に特化しており技術も高い。俺の人選は有効に機能しているようだった。ファートリア聖都で学んだことをきっちりと生かさせてもらう。


「これでどうだ!」


 半ギレしたナールが叫んで追尾火球を放ち、俺は再び逃げ回る事に専念し始める。


 シャーミリアのバックパックがそろそろ尽きるな…、ゴーグの残弾もそう多くはない。やはり火の一族は強いか…。それも二人となると、打開策がなかなか見えてこないな。


《我のガトリングもそろそろです》


 どうやら頃合いのようだ。


《よし!一斉に逃げるぞ、装備を捨て身軽になれ!》


《《《は!》》》


 指示を飛ばしてすぐ俺はガザムに念話を繋げた。


《ガザム!第一弾行ってくれ!》


《は!》


 ピューン!と砲弾が飛んでくる音がする。俺達の位置を大まかに把握しているはずなので、正確に狙う事が出来ているようだ。俺達は一斉に東に高速移動して、ゼクスペルの二人から逃げ出すのだった。


 バッドッッッゴゴオオオオオオ!


 俺達が市壁の穴に飛び込むようにに逃げ込んだ直後、都市では巨大な爆発が起きる。ガザムがTOS-1A多連装ロケットランチャーから発射させた、220mmサーモバリック弾頭ロケット弾が炸裂したのだ。それが数発ゼクスペルの二人が居た地点に落ち、大爆発を起こしたのだった。


《どうでしょう?》


《わからん》


《…気配はあります》


《マジか…》


 ギレザムと俺とシャーミリアが、火の一族の頑丈さにあっけにとられる。あの大爆発でも死んでいないらしい。俺達は再び市壁から市内を覗きこんだ。


「あぶな!」


 丁度そこに、狙いすましたように敵の火球が飛び込んできたのだった。逃げる間もなかったため、俺はギレザムとシャーミリアとゴーグを守るように尻尾アーマーを広げた。


 バグゥゥン!バギン!


 尻尾アーマーは大きく破損してひしゃげてしまった。


《尻尾をパージだ》


《はい、我が主》


 俺の背中から尻尾アーマーが外された。アーマーも流石に三回目は耐えられなかったようだ。そして覗いた都市の中では、しっかりとナールが歩を進め、フォティアとこちらに近づいて来ていた。


《やっぱ、武器の性質だな》


《性質ですか?》


《まあ、あれは気化爆弾といって広範囲に被害を広げるものだ。それでは、あいつらの熱のベールを突破できなかったって事さ》


《であれば、次の作戦ですね》


《だな》


 すぐさま俺は新しいM134ミニガンをギレザムに、M240中機関銃をシャーミリアに、ゴーグにはアサルトライフルShAK-12を渡した。


《《カララ!ルフラ!市民の状況は?》》


《都市よりかなり離れました!》


《了解だ》


 ゼクスペルの二人は、まるで無人の野を歩くか如くこちらに近づいてくるのだった。

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