表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

758/951

第756話 出現した火の一族

 広がって行く転移魔法陣を前に、俺は後ろに下がらざるを得なかった。だが俺が下がった場所の地面が再び盛り上がり、巨大な顎になって襲ってくる。俺はそれを避けて更に大きく後ろに飛んだ。


 バグン!


 その地面の巨大な顎が音を立てて閉じる。


「ほほほ!」


 俺が殺そうとして追っていたギュスターヴとかいうデモンが、変な笑い声を発して転移魔法陣の向こうに現れた。俺が襲い掛かれば転移魔法陣の範囲に入る為、容易に近づく事は出来ない。


 厄介だな。


「どうした?近づいてこい!」


 ギュスターヴは俺を転移魔法陣に誘い込みたいのだろうか?距離があるため火炎放射器の射程からも遠く、有効打にはならないだろう。俺をどこかに飛ばしてやろうと考えているのだろうか?敵の策が読めない以上、下手に手出しする事が出来ない。


 すると…


 転移魔法陣は更に輝きを増して、見ているのが辛いほどになってくる。その光の中から何かが出てくるのを俺は見逃さなかった。


 ゴオ!

 ボゴオ!


 糸を引くような火箭の槍と、大きな火炎が俺に向かって飛んできた。俺は咄嗟に尻尾を使って、体を弾き飛ばし近くの建物の屋根に飛ぶ。


「これはこれは!ゼクスペルのナール様にフォティア様!よくぞおいでくださいました!」


 ギュスターブが大きな声で呼んだその先をみれば、光が消えゆく転移魔法陣の中に、筋肉隆々で髪を逆立てた男と、やたらプロポーションの良い髪の長い女が立っている。だが明らかに人間では無いだろう感じが伝わってくるのだった。髪の毛が炎のようにゆらゆらと揺れていた。


《ご主人様!強大な気配が都市に現れました!》


 俺が念話するより早く、シャーミリアが俺に念話を入れてきた。


《ああ、目の前にいるよ》


《今!参ります!》


《いやシャーミリア!民の避難を優先させてくれ!ギレザム!後何分だ?》


《は!あと十…いや八分で脱出を終わらせます!》


《了解だ。民に怪我をさせることなく急げ!》


《は!》


 俺は魔人に指示を出し、民を早く都市の外に連れ出すように言った。俺が念話を終えたあたりで、再びナールとフォティアが俺に火炎の攻撃を仕掛けてくる。俺は逃げ去ったが、俺がいた住居はほぼ一瞬で焼け落ちてしまった。


「我は!アンフィスバエナの化身だ!お前たちは何者だ!」


 とにかく何でもいいから時間稼ぎのために、話しかけてみることにした。だが俺が話しかけたと同時に、二人はまた火炎の攻撃をしてくるのだった。


 うおっ!なんつー礼儀知らずなやつや!


 すると今度は俺を無視して、二人は後ろを振り向いた。ずいぶんと余裕があるようで、俺の事などどうとでもなると思っているようだ。後ろにいる鰐顔に何か話し始める。筋肉隆々の男ナールが先に言葉を発した。


「ギュスターヴよ、魔人めが攻めて来たのではなかったのか?」


「そ、それが。あの蛇の化身とやらは、なかなかに厄介で北の村ではマンディテとマノとルカ―が仕留められなかったようでして」


「ふむ」


「あら、あんなネズミ一匹仕留められないなんて、やはりデモンは無能だわ」


 フォティアと呼ばれた女がギュスターヴを蔑むように言った。


「申し訳ございません。あ奴らの策は失敗したようです」


「笑止千万!策など!力で押せばよい!」


「は、はい!」


 どうやらギュスターヴというデモンは、あの二人より地位が下らしい。俺はゼクスペルという言葉には聞き覚えがあった。あの二人は、火の一族六人衆の内の二人だと言う事が判明したのだ。


 まずい…ファートリア聖都で遭遇した、フーって火の一族はめっちゃ強かった。あの二人がそいつと同類と言う事は、決して侮ってはいけない相手だ。恐らくはこの都市など、一夜で塵に化すほどの力を持っていると思っていい。そしてあの鰐顔のデモンのおかしな能力、アレを避けながら二人を相手する事はかなりきつい…


 ゴオゥ!ドゴォ!


 俺が火球を避ける為そこから飛び去るが、着地場所に大きく顎が口を開けて待っていた。


「ちっ!」


 尻尾アーマーを建物の壁に突っ込ませて、体を落下させないように横に飛ぶ。バゴンという音と共に、家の壁を突き破って入るのだった。そのまま建物の裏側まで突き抜け、反対側の地面に着地した。そのまま通りを直進して右手にいる敵を確認する。


 まずは、あの鰐頭だけでも片付けられないか…


 バグゥゥゥン!


 俺が抜け出てきた建物が音を立てて爆発し、一気に火のカーテンが伸びた。俺を追って攻撃をしたようだが、建物に留まっていたら直撃を食らうところだった。


《我が主、右前方に注意です》


 ヴァルキリーからの忠告に反応し、咄嗟に尻尾アーマーで跳ね上がるように地面をけり出し飛んだ。するとヴァルキリーの言葉通り、右手の建物が崩壊しデカい顎が出てくる。どうやら俺の動きが読まれているようだ。


《挟まれた!》


 上空に浮きながら俺はヴァルキリーに言う。後方に火の一族、前方に鰐頭がいるのだ。


《体をお丸めください》


《分かった》


 俺が体を抱えるように丸めると、尻尾アーマーがアンモナイトのように円形に体に巻き付いた。地面に着地すると同時に、車輪のように地面を高速で転がり始める。そのまま建物を突き破り、一気に火の一族とギュスターヴの間を高速で抜けるのだった。


 バッ!


 尻尾がほどけて俺は再び空中に居た。高速回転の反動で宙に飛び出した状態になっている。


《ギレザム!あとどのくらい!》


《あと五分!》


《よし!》


 あと…五分。一人でこいつらをひきつける事が出来るか…


 ゴゥゥ!ボォォォ!火の一族は、俺を探すように無差別に街を焼きだした。俺がたまらず見通しの良い街道を突っ走ると、目の前がそそり立ちはじめる。ギュスターブの顎が地面から出てくるところだった。


 なんだかんだと、コンビネーションプレイが出来ちゃってるじゃないか!デモンは無能だとか言いつつ、きっちりとその能力を使いこなしてる!


 俺はその顎を飛び越え向こう側に着地した。するとそこに火炎が叩きつけられてくる!


「やべっ!」


 逃げようがない!と思った時、その火炎をヴァルキリーが尻尾アーマーを広げて止めてくれたのだ。


《我が主!北東へ向かってください!》


《分かった!》


 俺はヴァルキリーの指示通りに動いた。どうやらヴァルキリーは敵の位置を掌握して、俺の動く先を決めているらしい。そのおかげで一瞬の余裕が出来た。


《ギレザム!》


《あと三分!》


 あんまり遠くに逃げ去ると、火の一族の攻撃が人間達に向かうかもしれない。


《ヴァルキリー!》


《はい!我が主!》


《敵を出来るだけひきつけたい!》


《かしこまりました!西へ向かい屋根の上から火を吐きましょう》


《了解!》


 俺とヴァルキリーは人間達が逃げている正反対に現れ、夜空に向かってM9火炎放射器を照射した。


 どうか…


 ゴゴゴゴ!バグン!


 先に俺を見つけたのはギュスターヴのようだった。建物ごと俺を飲み込むように顎が現れ閉じた。そこにすかさず炎の槍が飛んでくる。この槍はかなり厄介で、建物を何件も何件も貫いて延焼を大きく拡大させていくのだった。


《あの、フォティアって言う女の技だ。どうやら飛距離があるようだな》


《そのようです。第二波来ます》


 尻尾アーマーを地面に突き刺して、俺の体を引っ張るようにし、パチンコの玉のように俺の体が射出される。勢いよく住居を何件もぶち破って止まった。


《ギレザム!》


《あと一分!》


 急いで俺が瓦礫から飛び出した。


《敵はどっちだ?》


《こちらであってます》


 ヴァルキリーの指示通りに走ると、今度は筋肉隆々のナールが見えてきた。近づく俺にナールが気が付き、デカい火炎の球を投げつけてくる。俺は急ブレーキで止まり左へと飛んだ。俺がいた場所を火球が通り過ぎ…そしてその火球が俺めがけて戻ってきた。


 そんなこともできんの!!


 再びそれを避けると、火球はまたとんぼ返りに戻って来て俺を襲う。


 きっちぃ!!


 何とか火球の襲撃を避けて、住居に紛れながら逃げる。


 火球は来ないか…


 どうやらあれは目視した相手に飛ばす技らしい。


《ギレザム!状況はどうか!》


《あと、十人、九、八、七…全員脱出しました!》


《よし!》


 俺は走りながら敵を探す。すると通りの向こうにギュスターヴとフォティアが見えた。どうやら向こうも俺に気が付いたらしい。フォティアが手を伸ばし、火の槍を浮かび上がらせた。


《あの攻撃は早い!》


《予測は出来ます》


 ヴァルキリーの自動運転で、俺はすんでのところで炎の槍を避ける事が出来た!


 すぐさま、拳銃信号を召喚して空に打ち上げる。


《マキーナ!位置は分かるか?》


《信号が見えました!》


《火の奴らは簡単に死なない!連結LV2の魔力を上げる!鰐顔デモンを撃てとマリアに!》


《は!》


 俺が走りながら鰐顔に近づいて行くと、フォティアが第二の炎の槍を浮かび上がらせる。俺は急ブレーキをかけて、炎の槍を見極めるために立ち止まる。


「立ち止まっていいのかい!!」


 ギュスターブが見ている先で大口を開けると、俺の足元の地面が盛り上がってくる。


 ダメだ!逃げれば、炎の槍に狙い撃ちされる!


 バシュコン!


 鰐顔の首から上が吹き飛んだ。マリアの狙撃に俺の魔力がたっぷり入って、見事にギュスターブへ命中したのだった。そのまま鰐顔が力なく倒れる。地面も中途半端に盛り上がっていたが、しぼんでいくように真っすぐになった。そこにフォティアが炎の槍を打ち込んできた。


 シュッ


 俺はのけぞってそれをギリギリ避ける事が出来た。


「しぶといようね」


 フォティアは俺にそう告げて、異常に気が付き振り向く。


「あら。ギュスターブ?」


 もちろん既に死体となっているギュスターブは返事をしない。音もせずに着弾した、マリアの超ロングスナイプショットに気が付かなかったらしい。意識外からの攻撃に何が起きたのか分からないようだった。


《逃げるぞ、ヴァルキリー》


《はい、我が主》


 俺が魔力を放出した為、ヴァルキリーの運動性能が上昇した。かなりの高速で走る事が出来るようになった。


《左より、敵です》


《わかった》


 俺が尻尾アーマーを使って上にはじけ飛ぶと、そこを通過するように巨大火球が通り過ぎた。そして再び火球がホーミングミサイルのように、俺を追いかけ始める。


 やばっ!


 だがその火球は俺に届かなかった。なぜならば、ナールという火の魔人がグーパンチで殴り飛ばされたからだ。怒りのグーパンチを繰り出したのは、もちろん我らがシャーミリアだった。


「我が主に対する無礼!死を持って償わせてやる!」


 ああ…バッキバキにブチ切れてる。


 だが…


 ズボッ!とナールは瓦礫から出てきた。もちろんそれくらいで死ぬわけはない。


「…蛇の化身ではないのか…」


 アホが、今ごろ気が付いたらしい。シャーミリアが俺の横に立つと、突然炎の槍が俺達の元へと飛び込んできた。シャーミリアが俺の腕を掴んで飛ぶ!


 次もくる!


 そう思ったが、第二波は来なかった。


 パリパリパリパリ!!


 ギレザムがS&W M500ハンドガンの引き金を引いていたのだった。それが電気を帯びてフォティアの胴体に突き刺さっている。ギレザムの能力とハンドガンの威力が合わさった攻撃だ。


「ぐっぎぎぎっ!」


 フォティアが、プロポーションのいい胴体に穴を空けてギレザムを睨んでいる。


「フォティア!こやつらは蛇の化身などではない!」


「ぐぅ…どうやら…既に来ていたようだねぇ」


《ギレザム、シャーミリア、急速離脱だ。都市を出るぞ!》


《《は!》》


 民を全て逃がしたので長居は無用だ。俺達は高速移動で、東の市壁に空けた穴へと向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ