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第754話 大脱出

 夜になり俺とルフラが都市へと潜入した。街角から通りを見てみると人が大勢出ているようだ。普段は飲食店がやっていない事もあり、夜に人が外に出ているのを見かける事はなかった。さすがに神託があった後なので、居ても立ってもいられなくなったのだろう。ここ数日の夜の風景とは全く違っていた。建物の中からも見ている人がいるようで、何かが起こるのをじっと待っているようだった。


《じゃ、やろう》


《はい》


 人間に化けたルフラが大通りに歩いて行く。大勢の中の一人なので、誰もルフラが化けたおじさんに興味を示す事は無かった。そしてルフラが通りの中心に立ち止まる。


「みんな!」


 おじさんに化けたルフラが大声で叫ぶ。すると周りにいた人間が一斉に、おじさんに化けたルフラを見た。大勢いるにもかかわらず、シンと水を打ったように静かになった。


「この国は狂っている!」


 ざわざわと群衆が騒ぎ出した。いきなり言っちゃいけない事を言うおじさんに面食らったようだ。だがルフラが化けたおじさんは負けずに続ける。


「聞いてくれ!俺は神託を受けた!俺は選ばれし人間なんだ!虹蛇様が俺の枕元に現れ、信ずる者を救ってくれると言った。だが!その言葉を信じずに、この都市に残れば地獄の業火に焼かれるらしい!」


 ざわざわが大きくなった。もちろん全員が聞いている神託なので心当たりはあるはずだ。すると集まった市民の中の一人が、声をあげる。


「俺も聞こえた…でも本当なのか?本当に俺達は救われるのか?」


 その声を皮切りに、周りの連中が騒ぎだした。


「確かに!信じれば救うと言っていた!」

「私も聞いたわ!私も選ばれたの!信じているわ!」

「だ、だけどこんな事を、公の場所で話していいのか?」

「そうだ。国に聞かれたらまずいぞ!」


 話す内容はともかく、人々の精神には虹蛇の神託がしっかり落とし込まれている。だがそれにも増して、まだ国が怖いという意見もあった。やはり国を警戒している層というのも、少なからずいるようだ。


「夜に…こんなに集まったらまずいんじゃないのか?」

「そ、そうだよな…」

「帰った方が良くないか?」


 どうやらだんだん不安が広がりつつある。これまでタブーとされていた事を話しているため、恐怖を感じているらしい。


《かなり動揺しているな。このまま続けよう》


《はい》


「虹蛇様を信じで逃げるしかないと俺は思う!この国は狂っているんだ!新王は悪魔の手先で、人間らしい生活を我々から奪い取った!皆はそれを心の奥底では感じているのではないか!」


 シン…とした。すると人の輪の中から、一人の男が前に出てくる。


「おい!トグサル!お前こんなところで!まずいだろ!」


 どうやら、ルフラが化けた男の知り合いがいたらしい。違う区画の奴を連れてきたつもりが、この都市の民はあちこちに知り合いがいるようだ。本人にかち会わなくてよかった。


《バレる前にやるか》


《はい》


「おまえも!おかしいと思うだろ!」


「トグサル!お前はそんなことを言うやつじゃなかったろ!とにかく止めた方がいい!」


「お前は神託を聞かなかったのか?」


「もちろん聞いたさ!だけどこんな、大っぴらにやったら大変な事になるぞ!」


「うるさい!」


 おじさんに化けたルフラが、男を突き飛ばした。


「みんな!こうなった以上はハッキリ言おう!逆らえばどうなるかなど知ったこっちゃない!皆も民が消えていく事はおかしいと思っていただろう?虹蛇様が言っていたんだ!あのドゥムヤは悪魔である現在の王に、姿を変えられてしまった者達だ!」


「そ、そんな馬鹿な…」


「人が減るたびにドゥムヤが増えた!れっきとした証拠があるではないか!」


「やめるんだ!トグサル!」


 知り合いの男。俺達が仕込んだわけでもないのに、いい感じに油を注いでくれるな。それだけ危機感を感じているのかもしれない。


「王が、人を人形に変えているんだ!皆も分かってるだろう!」


「やめろ!危険だ!リュウインシオン様に止められているだろ!言うな!」


 なるほどなるほど、どうやら俺達はうまく内通者をコピーしたらしい。そして止めに入った男はどうやら、潜伏している仲間の一人だ。よしよし!想像した以上の事になったぞ!


「王が人形にしている!ドゥムヤは元のアラリリスの民だ!」


「馬鹿野郎!そんなことをしたら、お前も人形にされるぞ!」


 うん。主演男優賞はこの飛び入り参加の内通者にあげよう。


「ううううう‥‥」


 ルフラが化けたおじさんが顔を覆い、身を深く屈めた。そして膝をついて、手を地面に置く。


「ど!どうしたんだ!おい!トグサル!」


「うぁぁぁぁああああああ!!!!!」


 ルフラも役者よのう…


 そして皆が見守る中で、ルフラの姿がボコボコとあちこちを膨らませながら形を変えていく。そして徐々に皆が見た事あるような姿になって行くのだった。


 カラン


 すぅっと立ち上がったのは、ドゥムヤだった。今までトグサルと言われていた男は、皆の目の前で人間からドゥムヤ人形へと姿を変えてしまったのだ。そしてルフラが演じるドゥムヤ人形は、突然走り出し暗い路地裏に消えていくのだった。


「トグサル!!うわああああ!!」


 内通者の男が半狂乱になっている。目の前で仲間が人形にされてしまったのだから、そうなるのは当たり前の事だった。


 …まあ、人形にされてしまったのではないけどね。あれはドゥムヤをコピーしたルフラだ。そしてそのルフラは今、俺の隣りにアラリリスの女性装束を来て立っている。


「うわぁぁぁぁ、人形に!人形にされてしまったぞ!」

「王に逆らったからだ!」

「やはり、こんな公の場で言っちゃいけなかったんだ!」

「信じたのに!虹蛇を信じたのに!」


 民がパニックに陥って、慌てふためいている。


 チャーンス!


《ギレザム!マイクロ波兵器をスイッチオンだ!》


《は!》


、、、見たか!民よ!これが今の王の極悪非道な所業なのだ!本当の事を言ったがゆえに、人間が人形にされてしまったのだ!これを見た者は全て人形にされるぞ!それが嫌ならば我が言うように、今すぐ都市を出るのだ!東の正門はドゥムヤに見張られている!我が北北西の壁に人間が通れるほどの穴を空けておいた!今すぐ年寄りや女子供を連れて逃げるのだ!振り向いてはならん!脱兎のごとく逃げねば皆人形になるぞ!


 そしてその声は脳内に響き渡り、リピートし始めるのだった。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「にげろぉぉぉぉぉぉぉ!」

「虹蛇様の言っていた事は本当だったぁぁぁぁぁ」

「人形になりたくなぃぃぃぃぃ!!」


 皆が散り散りになって走り出す。恐らく家に残してきた家族を呼びに行ったのだろう、そのまま北北西に向かって走り出す人もいた。あっという間に通りに人がいなくなり、家々からも人が飛び出して北北西に向かって駆けだしていく。


《長かった!一週間もかけた甲斐があったなぁ!》


《やりましたね!》


《ああ!とにかく浮かれてばかりもいられない、次の区画に移るとするか》


《はい!》


 俺とルフラは人の流れに逆流するように、違う区画へと向かうのだった。


《みんな!北側の策は成った!次は南へと向かう!》


《《《《は!》》》》


 俺達が南の区画へ到着すると、先ほどと同じように通りには人が出ていた。こちらも完全に洗脳作戦が浸透しているようだった。


《よしよし!人々を誘い出せてる!》


《そのようです》


《さっき上手く行ったからさ、あの掲示板でコピーした別な男に変身してくれ》


《はい》


 俺達が最初にコピーした男は、掲示板の所で何かを確認していた男だった。ちょっと怪しいなと思って、ルフラにコピーさせていたのだがドンピシャだったようだ。アラリリスの男に変わったルフラが、再び通りの中央に立って叫ぶのだった。


「この国は狂っている!」


 シンと水を打ったように静まり返る。


 そして俺達の第二幕が始まるのだった。すべての演技が順調に進み、ドゥムヤに変身するくだりまでが終わった時、俺はすぐにカララに念話を繋げた。


《カララ、スイッチオンだ》


《はい》


、、、見たか!民よ!これが今の王の極悪非道な所業なのだ!本当の事を言ったがゆえに、人間が人形にされてしまったのだ!これを見た者は全て人形にされるぞ!それが嫌ならば我が言うように、今すぐ都市を出るのだ!東の正門はドゥムヤに見張られている!我が南南西の壁に人間が通れるほどの穴を空けておいた!今すぐ年寄りや女子供を連れて逃げるのだ!振り向いてはならん!脱兎のごとく逃げねば皆人形になるぞ!


 今度は南南西の壁に空いた穴に向かって、民たちが逃げていくのだった。


《良し、最後の区画に》


《はい》


 そして最後の区画の東側へと移動して来た。やはり民が通りに出てきており、市民たちも興味深々にあたりを伺っている。


《ここが問題だよな》


《東門に近いです》


《手早くやらないと、ドゥムヤがやって来るだろう》


《はい》


 さっきまでより更に手早く、民たちを扇動するように動いた。民は今までと同じように慌てて逃げ出したが、さすがに東門から近いためにドゥムヤが駆けつけて来る。だが通りには既に人はおらずに、いつもの殺風景な風景となっていた。


《なるほど人々も馬鹿じゃない訳だ。ドゥムヤに見つからないように慎重に動いているようだな》


《染みついているのでしょう》


《話は口に出してしなくても、皆が内心ではおかしいと思っていたんだろう》


《そのようです》


《あとは明日の朝までにどれほどの市民が逃げてくれるかだ。次はドゥムヤ達を押さえ込む作戦に移ることにする》


《は!》


 俺は都市の外にいる、ガザムに念話を繋げる。


《こちらの作戦は上手くいってる、そっちは準備できているか?》


《私とファントムが既に待機しております》


《カナデは上手くやった?》


《はい。見事なものです》


《よし!やろう!》


《は!》


 シャー!


 ドゥムヤが見張る大手門付近には、大挙して数メートルある砂蛇が侵入してきていた。アンフィスバエナほど巨大ではないが、アナコンダ以上の大きさはありそうだ。砂漠側の山脈でマキーナに連れられたカナデが、次々と砂蛇を使役して大量に回収していったのだった。その砂蛇の大群に東大手門を襲撃させたのである。カナデが離れた所から使役して、ドゥムヤを狙って暴れさせているのだった。もちろんドゥムヤを破壊する事は不可能だが、足止めには十分使える。


《マキーナ!マリアは所定の位置にいるか?》


《はいご主人様。私が抱き上げて東の上空から監視しております。スナイパーライフルによって都市内は全て見えるそうです》


 マキーナからの答えに、俺が手を振ってみる。


《俺の位置は分かりそうか?》


《見つけたようです》


《万が一の時は狙撃を頼む》


《は!》


《そのまま砂蛇を数匹兵舎に誘導する。ガザムに位置を教え、俺とルフラを砂蛇に追わせるように、カナデに伝えてほしい》


《かしこまりました》


 しばらくすると数十匹の砂蛇がやって来た。俺とルフラは白装束のまま、兵舎前まで走って行く。すると砂蛇たちは素直に俺達についてくるのだった。カナデの使役は完璧に出来ているようだ。


《ここが兵舎だ。カナデに伝え砂蛇に兵舎を襲わせろ!》


 砂蛇たちは俺達の横を素通りして、兵舎の前にいるドゥムヤ達に飛びかかって行くのだった。そして俺とルフラがすぐ近くの家に滑り込む。


《誰もいないな》


《作戦成功ですね!民は皆、逃げたようです》


《よし!》


 そして俺達は安定した土間を探す。いい感じの土間があったので、俺はすぐさまマイクロ波兵器をそこへ召喚するのだった。そしてすぐに音声をインプットして兵舎に向けて照射する。


、、、アラリリスの屈強な兵士たちよ。我は虹蛇である!お前達に神託を捧げよう!お前たちのように気高いアラリリスの兵士が、いつまで悪魔に手助けをするのか!お前達が守るべき、そして人質として取られた民たちは既にこの都市にいない!我が全身全霊を持って救い出した!もう人形などに従う事は無い!逃げ出すがよい!


 再び虹蛇の神託がリピートし始める。兵舎だけは初めての神託となる為、兵士たちがいきなり反応してくれるかは分からないが、これで反応せねば兵士たちは全て死ぬことになるだろう。俺達が注意深く兵舎の入り口を見ていると…


 出てきた!兵士たちが鎧を着て一斉に入り口から出てきた!


 砂蛇たちと格闘しているドゥムヤ人形を尻目に、兵舎から飛び出して逃げ始めたのだった。こんなにすんなり逃げ出してくれるとは思っていなかったので、正直驚いている。


《ルフラ、俺達も脱出するぞ》


《は!》


《カララとゴーグはどこにいる?》


《既にギレザムとシャーミリアのもとに合流しております》

《俺もいます!》


《ギレザム!シャーミリア!今すぐリュウインシオンとヘオジュエを連れて、都市を脱出しろ》


《《は!》》


 潜入している魔人全員に逃げる指示を出す。都市の市壁からあふれ出る民たちで、アラリリス周辺はごった返し始めた頃だろう。外部に出て魔人達が誘導してやらねばならない。


《ご主人様!》


《どうしたマキーナ!》


《兵舎より、ドゥムヤではないデモンらしきものが出て来ました》


 兵士たちが逃げ出したことで、どうやらデモンがお出ましのようだった。

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