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第753話 最後の神託

「だいぶ浸透しただろうな?」


「活動時間に外に出る人間が減ってきたようですね」


 俺の問いにギレザムが答える。


俺が考えたアラリリス首都全員洗脳作戦は、順調に進んでいると見て良いだろう。ある日突然、脳内に神様の声が聞こえてきて煽り続けられ、そしてその数日後には一転し救いの言葉を聞かせ続けられる。精神的に不安定になり、眠れない民は疲弊しまくっているだろう。


「市場で聞いた限りでは、人間達はかなり混乱しているようですね」


「今まで無駄な会話が全く無かったんだ。俺のおかげでコミュニケーションがとれるようになったんだから、感謝してもらいたいもんだ」


「こみゅにけいしょん?」


「まあ、この場合は雑談だな」


「雑談が出来るようになった事に、感謝ですか?」


「そうだ」


むしろ人の営みにおいて雑談は普通にあって然るべきもので、それが無い方がおかしいのだ。今までアラリリス人のコミュニケーションをコントロールして、都市に人間をくぎ付けにしてきた敵の情報統制に脱帽だ。調査して分かった事なのだが、民は政府から都市を出ないように言われている。また、みだりにドゥムヤ人形の事を探ったり、政府がやっている事を探るのを禁じていた。人々はただ平和に生活していれば良く、決して都市から出てはいけないと信じ込んでいるのだ。


 インフェルノかデモン召喚魔法陣で焼かれる前に、俺達が助け出してやる。この作戦をせずに俺達が攻めいった場合、平和に暮らしている民が、平和を信じながら地獄の炎に焼かれるって言う寸法だったのだろう。もちろんそんな真似はさせない。


 既にその情報統制も俺の作戦で瓦解しつつある。


「今日が六日目の夜だ、一斉に神託を授けるとしようか」


「「「「「は!」」」」」


 スイッチオン


、、、我の愛するアラリリスの民よ。我の言葉が聞こえたであろうか?もし我に救いを求めるならば、誰一人余す事なく助けてやろう。真実はいつも目の前にあり、それから目を背けずに我の言葉を信じた者だけが救われる。その真実を知ったうえでも、尚且つ我の神託を信ずることが出来ぬ者がいるとすれば…その者は必ず死ぬであろう。よいか!明日の夜に我は最後の神託を下す。それまでにどうするのかを各々で考えるがよい!


 今度は三カ所全部の拠点で一斉にマイクロ波を照射した。これがぎっちりと一晩中、頭の中で鳴り響き続ける。


「この一週間、ほとんど何もしていないように思えるのですが?」


 突然リュウインシオンが俺に話してくる。まあ日中は調査しに行って、夜は訳の分からない機械以外は誰も動いていないから、そう思われるのも仕方がない。


「リュウ、人々がどのように考え暮らしているかを知る事も、この虹蛇の仕事なのだよ」


 ヴァルキリーを装着した俺が偉そうに言う。


「申し訳ございません。ただ…いつまでお待ちすれば良いかと案じております」


「ふむ。神のやる事は人間には理解できんのだろうな。まずはもう二晩ほど待つがよい」


「二晩…ですか?」


「そうだ」


 するとリュウインシオンの後ろから、ヘオジュエが声をかけてくる。


「リュウインシオン様。虹蛇様のお考えがあっての事でございます。我々は信じられないものをたくさん見せられたではありませんか、ただ信じて待つのみかと」


「しかし、こうしている間にも洞窟の民が」


 なるほど。洞窟の人たちを心配してるって訳か。


「リュウインシオンよ。洞窟の民は我が使徒が面倒を見ておるぞ、食事も問題なく取れて既にほとんどの民が回復した」


「そうなのですね!」


「うむ。よってしばし待つのだ!信じれば救われる」


 あ、ずっと神託の文言を考えていたから、ついエセ神様の台詞が出てしまった。


「わかりました」


 とにかく分かってもらうしかない。しかしなんでこいつらはずっと鎧を着てるんだろう?


「それよりも、何故二人ともいつも鎧を着ているんだ?疲れるだろ」


「何をおっしゃいます!我々は有事に際しすぐに戦えるよう、いつもこのようにしているのです」


「戦い?お前達に戦わせるとは言ってないぞ」


「!」


 二人が言葉を飲み込んだ。どうやら敵と戦う気マンマンだったようだ。普通の人間がデモンと戦ったら、二秒と持たないのに。


「お言葉ですが!我とリュウインシオン様は、先代王の無念を晴らすためにここにおるのです!」


 あ、そうなんだ。とはいえ、みすみす死なせるわけにもいかない。


「戦いたいという事か?」


「その通りです!」


 めっちゃ気合を込めて答えてくる。


《どうしたらいい?》


 困った俺は、シャーミリアの目を見て念話で話す。


《ご主人様。私奴は戦わせて、討ち死にしたところで致し方ないかと思われます》


《えっ?だって王族だぞ》


《失礼いたしました。私奴はご主人様の思いも考えず、進言してしまったようです》


《どうして戦わせた方が良いと思った?》


《主の無念を晴らしたいという思い、それは私奴にも理解できますので》


《…そうか。ミリアも随分人間を理解するようになったな。うれしいよ》


《はい》


 そして次に俺はギレザムの目を見つつ念話で問う。


《どう思うギレザム?》


《かと言え、死なせることは無いかと。ここはひとつアナミスをお使いする事を提案します》


《アナミス?》


《戦に出て見事敵の首を討ち取った、そんな夢を見させてはいかがでしょう?》


《名案かも》


《では、作戦決行と同時に》


《頼む》


 二人は随分俺の影響を受けてしまったと実感する。特にギレザムに関しては変化球が投げれるようになってしまった。念話を止めて、俺はリュウインシオンとヘオジュエに向き合う。


「とにかくだ!時が来るまで待て!」


「「わかりました!」」


 リュウインシオンとヘオジュエの二人が、俺の言葉で大人しくなった。これ以上二人をここに鮨詰めにしていても、ろくなことは無さそうだが、今日明日だけ我慢していてもらおう。


 それから三時間ほど経って、マイクロ波兵器のスイッチを切った。騎士の二人をシャーミリアとギレザムに任せ、再び街に潜入するために地下道にむかう。カララとゴーグは他の隠れ家でマイクロ波兵器を操作している頃だ。


《じゃ、ルフラ。仕上げに行くぞ》


《はい》


 アラリリスの女性の民族衣装を着て、俺とルフラが街に出る。すると連日のマイクロ波の照射で睡眠を阻害されたため、人々の出がまばらになっていた。もしかすると敵に気がつかれてしまうかもしれない。とにかく俺達は急いで人のいそうな場所に向かった。


《だいぶ人々が減っているな。急いで噂を流布する事にしよう》


《それでは》


《ああ、すぐにやろう》


 ルフラがコピーした人間に変わり、市場の店や道具屋などを回る。俺の無線機からの指示で、言われた事をそのまま話した。


「虹蛇様は本当にいる」


 ルフラが化けた、訝し気な顔のおじさんが店の店主に言う。


「ああ、間違いない。俺達は真実から目を背けていたのかもしれない」


 店の店主が目の下にクマを作って答えた。


「その通りだ。わしは毎日はっきり聞こえるんだ!虹蛇様の御神託が」


「あんたもかい!俺にもずっと聞こえているよ!俺達は選ばれた人間なんだな」


「そう言う事だ。助かるためには明日真実を知るって事だよな?」


「たぶんそう言う事じゃないかと思う」


「わかった。とにかくわしは家に帰る」


「そ、そうだな。今日は店じまいしたほうがいいかもしれない」


「ふむ」


 そしてルフラが店を出た。俺の所に来る頃には白装束の女に戻っていた。


《いい感じだ》


《では違う区画の食材屋へ》


《急ごう、出来るだけ周るぞ》


《はい》


 次の店に行くまでにルフラは中年の男性に姿を変えていた。これも全てこの都市に実在する人間をコピーしたものだ。


「おばちゃん。いつものをくれ」


「はいよ。あんたには…聞こえてないのかい?」


 眼の下にクマを作ったおばちゃんが聞いてくる。


「いいや、聞こえているよ。おばちゃんはどうだ?」


「もちろん、あたしも選ばれているらしいよ」


「そいつは良かった!神様ってのは本当にいるんだなあ」


「ああ、虹蛇様はあたしらを見捨ててはいなかったんだねぇ」


「そう言う事だ。真実を知るってのは大事なんだな」


「そうだねぇ!」


 食材屋のおばちゃんにもしっかり浸透している。これなら明日の最後の印象付けは確実に上手くいくだろう。俺はルフラを戻しまた次の区画の店へと移動するのだった。そうして俺達は、目をつけておいた場所で噂をばらまきまくる。人々がどんな感じで信じているのかは分からないが、間違いなく頭にはしっかり入り込んでいるようだった。


 計画のポイントを全て周り終えたので、俺が地下通路でヴァルキリーを装着してルフラと共に拠点に戻り皆に結果を報告した。


「しっかり浸透しているぞ、シャーミリア」


「さすがでございます」


「後は仕上げをするだけだ。今日の夜は神託の放送を止める、さすがにこれ以上は人間の体力がなくなりそうだからな。睡眠をとらせて身動き出来るようにさせておこう」


「「「は!」」」


 同じ旨の内容を、魔人全員に念話で伝えて俺達は一旦仕事を終えるのだった。


「リュウインシオン、ヘオジュエ。明後日の朝にはすべてが一変するぞ、それまでに英気を養ってくれ」


 俺は二人の前にフランス軍の戦闘レーションを召喚して並べてやった。


「「素晴らしい」」


「まずは食べないとな。腹が減っては戦は出来ないぞ」


「「はい!」」


 二人は珍しいレトルト料理をパクパクと食べ始めるのだった。最初に出会った頃よりだいぶ血色がよくなっている、リュウインシオンなんかはイケメンだったのが少しふっくらしたようだ。


「食べたら眠るんだ」


「「はい!」」


 そして夜は更けていき、俺は明日の計画について皆に念話で伝える。騎士の二人には眠りについてもらっていた。


《明日、人々に真実を見せる。それが終わったら最後の神託だ。人間はかなり仕上がっているぞ。かなり有効に働くはずだ。それまで、皆も休息をとってくれ。俺達も明日に備えて休むことにする》


《《《《《《《は!》》》》》》》


 全員に告げて俺も休むことにした。


 そして時間は過ぎ、次の太陽が高く登って、人々が休息時間へと入る時間となった。


「じゃ、最後の神託だ」


「「「は!」」」


《ゴーグとカララも頼む》


《《は!》》


 スイッチオン


、、、愛しい民よ。昨日はゆっくり眠れたかな。今日それぞれの街で真実が白日の下にさらされるであろう。それを見て皆がどう思うのであろうか…我は目覚めてほしい。そして今宵がその審判の時である!今宵この都市から逃げ延びなければ、残ったものは地獄の炎に焼かれて死ぬ。我に救いを求めるのであれば、我の合図とともに都市の外へ逃げるのだ!これが我からの最後の神託である!


 マイクロ波兵器からの繰り返される最後の神託に、人々はどう動いてくれるのだろうか?


 そして俺とルフラは再び、最後の仕上げのために都市へと潜入するのだった。

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