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第751話 潜入調査

 三カ所にある王族の隠れ家にマイクロ波兵器を設置した俺達は、最後の隠れ家で次の行動を打ち合わせする。マイクロ波兵器とは頭蓋骨へ音波を照射し、脳内に直接声を届かせる兵器だ。


「問題はここからだ」


「「「「は」」」」


ギレザム、シャーミリア、ゴーグ、カララが返事をした。リュウインシオンとヘオジュエは、ピンときていない様子だ。


「二十五万人からの人間を、ひと夜のうちに都市外に退去させるんだからな。一筋縄ではいかないだろう」


リュウインシオンが呆気にとられながらも口を開く。


「あ、あの?民を全て逃すんですか?」


「そう言ったつもりだが?」


「都市の民を全て?」


「そうだ」


「どうやって?」


「悪いが黙っててくれ」


ようやく都市内の状況が分かってきたから、これから具体案を詰めるんだっつーのっ!


 潜入して分かってきた都市内部の情報を元に、作戦を立案する事は当たり前の事だと思うが、既に俺が答えを持っているとでも思ってるらしい。まだ情報は足りていないし、何より調査が重要なんだ。どうもリュウインシオンは短絡的に考えがちなようだ。


「数日はかかるだろうが、都市内の状況を調査しつつ慎重にいく。まずは潜伏捜査からだ」


「「「「は!」」」」


「リュウインシオン。ここには、服とか置いてあるかな?」


 ここで俺からリュウインシオンに尋ねる。


「はい、虹蛇様。お忍びの時に、町民に紛れる為の物をおいてあります」


 そりゃそうだ、でなければ王族のお忍びの為の隠れ家が機能しない。


「それを持ってきてくれ」


「はい」


リュウインシオンがヘオジュエに目配せをして、二人で部屋を出て行った。魔人達だけで話を進める事にする。


「隠れ家はどうやら、都市を囲むように三ヶ所にあるようだ。これなら都市の人間に満遍なく、マイクロ波兵器で虹蛇としての神託が降せる」


「好都合でございました。あと危険なのは潜伏者との接触でございますか?」


「ああシャーミリア、危険があるとすればそこだな。潜伏している人間が、既に敵に目をつけられている危険性がある」


 するとギレザムが助言してくる。


「ラウル様。接触はこちらからだけの方が良いでしょう」


「そうなる。あとはどうやって彼らに真実を見せるかだが、それに関しては俺に考えがある」


 俺は隊の全ての魔神に念話を繋げ、俺が考えた作戦を告げる事にした。


《これからこのアラリリスの首都攻略に向け、民を都市の外へと逃す為に数日をかけて虹蛇の神託を浸透させていく。そしてその後に人々に真実を見せる為の策を練った、聞いてくれ》


《《《《《《は!》》》》》》


《それから------》


 俺が念話で皆に作戦を伝え終えた頃、リュウインシオン達が衣装を取って戻ってくる。あらかじめ埃を拭いて綺麗にしたテーブルの上に服を置いた。


「こちらです」


服はローム商人の娘ロメリナが着ていたような、白装束と薄茶色の外套が置かれた。


「よし、シャーミリアこれに着替えてくれ」


「は!」


シャーミリアはそこで躊躇なく、ドレスの肩を落とした。


「またれよ!」


ヘオジュエが声をあげる。俺たち魔人が一斉にそっちを見る。


「どうした?」


「ここには、使徒の殿方や我のような男性がいるのですぞ!」


「それがどうした人間。我がご主人様の命令を遮ってまで言う事か?」


シャーミリアが氷のような瞳でヘオジュエを睨む。俺の指示が遮られた事に怒っているのだ。


「い、いえ!そのような事は!ならば私だけでも退出する事を許されまいか!」


なるほど。この狭い部屋で一人の女が服を脱ぐ事に抵抗があるらしい。するとリュウインシオンがそれを擁護するように言う。


「この国では、女は家族か伴侶の前でしか肌を晒しません。かように神々しく美しきお方が、人前で服を脱ぐなど考えられないのです」


なるほど。まあ確かに皆んなの前で服を脱ぐなんて、俺達の国でも普通はしないな。事を急いでいるので、俺も気配りが出来ていなかったようだ。だけどシャーミリアにとって、他国の見知らぬ人間など眼中にない。虫ほどの存在価値しかないのだ。意見がぶつかってしまうのは当たり前だった。


「シャーミリア、向こうで着替えてこい」


「は!」


そう言うとシャーミリアは服を手に、部屋を出て行った。


どんなもんかな?ローム商人のいでたちからも、だいたいの想像はつくが…。


 そしてすぐ戻って来たシャーミリアは、かなりイメージが変わったいた。これまでの黒のイメージから全身白に変わり、頭にも白い布をかぶって口元も白い布で隠されていた。目が出ているだけで、全身が白い布で覆われている。


「こう着るのかしら?」


シャーミリアはリュウインシオンに聞く。


「うまく着れております。普段は目元だけが出て、さらに外套を着て下さい」


机に置いてあった、外套を着てフードを被るとほとんど顔が見えなくなった。


「この国の一般的な服装か?」


「女性の服装です」


「他の隠れ家にも置いてある?」


「はい、もちろん男性用もございます。男性用は顔が隠れません」


なるほど、これなら正体を晒さずに人ごみに紛れられるな。強いて言えば、度重なる進化によって再び生えてきたギレザムのツノが邪魔か。一度は無くなったんだけどな。


「隊を二つに分ける」


「「「「は!」」」」


「リュウ、どの屋敷にも秘密の出口は用意されてるよな?」


「ございます」


「リュウインシオンとヘオジュエは、何かの時にすぐ脱出できるよう、最初の隠れ家に待機させよう。カララとギレザムとゴーグで水路を戻り彼らを連れて行け」


「「「は!」」」


「最初の隠れ家では、ギレザムが二人の警護に残れ」


「分かりました」


「カララとゴーグは違う隠れ家から、民族衣装に着替えて都市に紛れろ」


「「は!」」


俺達はバラバラになって都市に潜入する事にした。俺とシャーミリアが皆を水路に送り出し、俺の分の衣装を持って地下避難通路へ向かう。避難通路は同じように石畳になっていた。そこでようやく俺はヴァルキリーを脱いだ。


「ふう」


「お疲れ様でございました」


「魔力が減り続けるからな、変な力を入れないように必死だよ」


「ご主人様の労が功を奏し、彼らは心から虹蛇と思い疑っておりません」


「作戦が終わるまで、ネタバラシ出来ないからな」


「はい」


そしてそのままシャーミリアが、アラリリスの民族衣装を俺に着せてくれた。目だけを出すのは女だけらしいが、俺も女の衣装を着て上からフードを被った。


「どうだ?」


「男か女かわからない者になれているかと思います」


「そ、そうか。よし行くぞ」


俺は地下にヴァルキリーを置いて、石畳の通路を進んでいく。少し蒸し暑い感じがするが、荒野ほどでは無さそうだ。梯子を登り地上に出ると、そこは枯れ井戸のようだった。かなり古びた昔のものらしく、周りが壁に囲まれている廃墟のような家の敷地内にあった。俺達は古井戸から出て庭を調べる。


「手がこんでんな」


「左様でございますね」


「ここは荒野より熱くない。地下水路が機能しているようだな」


「そのようです」


過去にこの都市を作ったやつは恐らく虹蛇なのだろう。地下の水路を見たが、どことなく砂漠で見たスルベキア迷宮神殿に似ていた。俺達が建物をぐるりと回ると、裏木戸がありそこから外に出られそうだった。


「シャーミリア。周辺に気配は」


「ありません。人形だけは察する事が出来ないかもしれません」


人形がいるといけないので俺がこっそり裏木戸を開けて、壁の外に誰もいないのを確認して外に出る。するとそこは路地裏の細い通路で、人の死角になるよう考えて作られているらしい。


「行くぞ」


「は!」


 俺とシャーミリアが細い路地からするりと出ると、ちらほらと人が歩いているのが見えた。だが俺達が気配を消しているためか、気づいた様子はなかった。


「向こうに人がいそうだな」


「そのようです」


 二人でフードを目深にかぶりいそいそと進んでいくが、路地は碁盤の目のように整然としていた。そのまま進んでいくと広い通りに出る。


《念話で》


《はい》


 広めの通りにはそこそこ人が歩いていた。誰もが仕事をしているのか忙しそうにしている。俺達が確認したいのは数か所にある屯所と、兵舎、そして王城の気配だった。更には民の会話から情報が聞ければいいのだが…。村と違ってかなり広い為、人に紛れるには丁度いい。


《ラウル様こちらも出ました》


《分かった。ゴーグとカララは北側を頼む》


《《は!》》


 どうやらゴーグ達も外に出たようだ。俺達が大通りを歩いて行くと、市場のような場所に出る。そこそこ人が出ており買い物をしているようだが、おかしな感覚だった。


《思ったより静かだな》


《会話を…ほとんど無駄な会話をしておりません》


 オリジナルヴァンパイアのシャーミリアは、殊更聴覚が優れている。どうやら雑談の類が聞こえてこないようだ。


《そのようだ。会計や商品の事を聞いたりはしているようだが、ほとんど会話が無い》


 俺達がウロウロと市場内を歩くが、決定的な事に気が付いた。


《笑い声がしない》


《はい》


《ただ用件を告げて、物を買って帰って行くだけのようだな》


《心拍数、体温、発汗などから考えて、不安を抱いているように思われます。誰もが何かを警戒しているような感覚です》


 俺が聞いていた話では、消えた人間の事など考えない思考を止めた人間のように思えたが、どうやらそういうわけでもなさそうだ。


《変な感じだ》


《特に人と接する時に、身体の生体反応に異常が出ているようです》


《人が、、、人を警戒してるんんだ》


《そのようです》


《きっと消えた人間の事を気にしていないのではなく、気にしていないそぶりをしているんだろう》

 

 今までローム商人やリュウインシオンから聞いた話では、誰もが消えた人間の事など気にしていないような雰囲気だった。ところが潜入して直に触れ合ってわかった。誰もが心の中では不安に思い、密告される恐怖を感じているのだ。お互いがけん制し合っているようだ。


《これ…思いの外、神託は効くと思うぞ》


《そのように思います》


《薄々感づいているのに、知らんふりするような奴らには。天罰を下さなアカン》


《きつく言い聞かせるのがよろしいかと》


《そうだな》


 そして俺達は市場を後にする。飲み屋街のような場所があるが、店は開いていないようだった。恐らく人と話す事を避けるために、ひっそりと家にいるのだろう。まるで前世で言うところのシャッター街だ。客が寄り付かなくなって、店じまいをしたような感じだ。人々は足早に店の前を通り過ぎるだけだった。


《屯所と兵舎を確認する》


《は!》


 リュウインシオンが書いた地図の記憶を頼りに街を歩き、道迎えに屯所らしき場所が見えるところに出た。屯所の前には数体のドゥムヤ人形が立っている。特に何をするわけでもなく、直立不動に立っているだけだった。


《デモンはいるか?》


《この屯所にはおりません》


《了解だ》


 そして俺達は次の屯所にたどり着く。ここも先ほどと同じように、ドゥムヤが立っているがこれといって変わったところが無い。デモンもいないようで、俺達の脅威にはなり得なそうだった。


《次だ》


《は!》


 次にたどり着いたのは兵舎だ。そこはだいぶ大きく、なんとドゥムヤと人間の兵士が両方立っていた。共同で警護をしているようだ。これはリュウインシオンの情報通りだ。


《騎士も内心穏やかでは無いようです》


《やっぱりそうか》


《恐れを感じます》


《なるほど》


《そして建物内にデモンがおります》


 シャーミリアの気配探知にデモンがひっかかったらしい。


《すぐ行こう》


 俺達は足早にそこを通り過ぎていく、そして王城に向かうがそこから先は行く事が出来なかった。あちこちにドゥムヤがいて人間が一人もいなかったからだ。恐らく土地の人間はそこに近づかないのだろう。俺達が近づけば怪しまれると思いスルーした。


《王城にもデモンがおります》


《だろうな、それは想定通りだ》


 そして俺達はリュウインシオンに聞いていた、仕事などを依頼する時に市民が使うという掲示板に向かう。ギルドのような役割を担っているのだろうか?敵に監視されている可能性もあるので十分に注意する必要があった。


《いっぱい書いてある》


《そのようです》


《これはおそらく非公式の版だよな》


《そう思われます》


 この都市は人を疑いすぎた故に会話が無くなり、こういう場所でしか意志の疎通が出来なくなったのかもしれない。俺達がそこを見ている間は、誰も近づくことが無かった。恐らくは書いているところを見られたくもないのだろう。俺はその掲示板に書かれている内容を全部、頭に叩き込んでいくのだった。

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