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第749話 秘密の隠れ家

 アラリリス御岳の都市側は切り立った崖になっていた。ほぼ垂直に切り立つ崖を見て、リュウインシオンが乾いた笑い声を上げる。


「やはり無理があったかもしれないです」


 ようやく気が付いたようだ。この崖を鎧を着た人間が無事に降下できるとは思えない。かぎ爪のついた縄一本でどうするつもりだったのか…。今はそんなことを考えても仕方がないけど。


「ここに住んでいたんだから分かってただろう?」


「何とかなるかと…」


 なるほど無鉄砲すぎる。


「とりあえず降りようか」


「「「「は!」」」」


 日中は気温がかなり上昇するため、都市の人間は休眠状態になっているという。


「じゃあカララ、やってくれ」


「はい」


 カララに頼み、俺達の体に再び糸を括り付けさせる。その間に、俺はちょっと気になった事をヴァルキリーに聞いてみた。


《ヴァルキリー》


《は!我が主!》


《前より重量が操作しやすくなってるのは何故だ?シャーミリアやカララでも持てるようになってるぞ》


《我が主の魔力量によります。かなりの魔力保有量になっておりますので、今は自在に変化できているのです。また連結LV2を常時発動させている事で、系譜を流れる魔力の伝達効率がかなり高い事もあります。更に魔人達も進化を遂げておりまして、その使える力は数段に上がっています》


 説明を聞いても良く分からない。とりあえず進化してるからって事らしい。


《だと、お前を操作しやすくなるの?》


《我が主の魔力は魔人の能力に反映されています。それによりカララの蜘蛛の糸で我を釣り上げる事が出来るのです。言わば我が主が自分で釣り上げているようなものです》


《そう言う事か、あとヴァルキリーも進化してるって事かな?》


《そうなります》


 しばらく前からだが、尻尾アーマーを含めヴァルキリーの操作性が格段に上がっていた。もしかすると使用者が俺に変更されてからしばらくたつので、ようやく俺に馴染んできたのかもしれない。ヴァルキリーからの説明を俺はそう理解することにした。


《魔力も途切れなくなったな》


《それは南の砂漠基地に、精鋭の魔人が大勢いるからです。そこからの魔力の流れを感じます。そして森にも魔人が多数いますので》


《ニカルス大森林の事か?》


《そうです》


なーるほどね。念話が届く範囲で系譜の線が繋がってる感じってことか。なんか携帯電話の基地局が増えると、繋がりやすくなるのに似てるな。今までやってきた事は案外、理に叶っていたようだ。まあ光回線にバージョンアップしたんだと思っておこう。そう言う分析が出来るようになってきている、ヴァルキリーもかなり成長しているようだ。


「ラウル様、準備ができました」


 カララが俺達に糸を巻き付けたらしい。


「わかった。じゃあギレザムとゴーグが先に」


「「は!」」


 二人が 崖から無造作に飛び降りた。


「えっ?」

「はっ?」


 リュウインシオンとヘオジュエが呆気に取られた顔をした。二人がいきなり崖を飛びおりたから目ん玉をひん剥いて驚いている。


「じゃあ、次。リュウとヘオジュエも、どうぞ」


「どうぞって?」


「飛びおりて」


「「いやいやいやいや」」


「シャーミリア」


「は!」


 ドン!


 シャーミリアが景気よく二人を突き飛ばした。


「「うわぁぁぁぁぁぁぁ」」


 いや。敵に気が付かれると行けないから、あんまり大きな声を上げないでほしい。だがそのうち声は静かになった。


「よし、俺もバンジーの時間だな」


「ばんじぃでございますか?」


 カララが不思議そうに聞いてくる。


「いや、こっちの話」


 俺は皆を追って崖を飛びおりる。体を真っすぐにしてより速度を増すようにしていると、体を開くようにしているリュウインシオンとヘオジュエに追いついた。


 シュッ


 二人の横を通り過ぎて地表が見えてきた。するとゆっくりと落下速度が落ち始めて、そっと地表に降り立つことが出来た。先に降りたギレザムとゴーグがおり、飛んできたシャーミリアがすぐに横に降り立った。そして気を失ったリュウインシオンと、目を血走らせたヘオジュエがゆっくりと地表に降りてくる。最後にスーッとカララが降りて来て、ニッコリと笑った。


「カララ、おかげでふんわりと落ちれたよ」


「ありがとうございます」


 ヘオジュエがまっすぐ前を直視している。シャーミリアが気絶したリュウインシオンの側に座り、フッと目を覚まさせる。


「あ、あれ…私はどうして…」


「潜入成功です」


「あ、アラリリスに?」


「はい」


「それは良かった…あれ?ヘオジュエ、目を血走らせて、どうしたの?」


 リュウインシオンの発言もフワフワしているが、ヘオジュエはしっかりと前を見据えて微動だにしない。


「ヘオジュエ?」


 リュウインシオンがヘオジュエの目の前で、手を振るが全く反応しなかった。


「…気絶してる…」


 リュウインシオンの言葉に、ギレザムがヘオジュエの背中にフッと力を入れる。


「あ…あれ?リュウインシオン様!ご無事で!」


「いや、今お前が気を失っていたのだが」


 あんたもね。


「わ、私が!も、申し訳ございません!体たらくを…」


 二人が不毛な話をし始めたので俺がすぐに切る。


「いや。ちゃんと予告しなかった俺が悪い、とにかく無事に都市に潜入できた。この辺は雑木林になっているようだな」


 俺達が降り立った場所は、さっきまでの砂漠の光景と打って変わって緑生い茂る森の中だった。


「はい。都市の東側には泉があり、森の奥には湖や湿地帯があるのです」


「生活の源ってことか」


「そうです」


 リュウインシオンが、周りを見渡してホッとしたような表情を浮かべた。


「変わっていない。アラリリスはアラリリスのまま…」


「そうか、それは良かった。とにかく直ぐに行動する必要がある、万が一俺達の侵入を悟られていれば、すぐにここに誰かがやってくるだろう」


「わかりました!」


 俺は自分の鎧姿を見て、リュウインシオンに告げる。


「しかし、この姿では目立ってしまう。どこか一度身を隠すところは無いか?」


「あります。恐らく新しい王は知らない、身を隠すための潜入場所がございます。本来は密会などに使うのですが、旧王族しか知りません」


「そこに行こう」


「はい」


 俺達は急いで、王族が密会で使っていたという屋敷行くことにした。森を抜けていくと目につくのが、あちこちにある木の実だった。どうやら果物の類が豊富にあるらしい。見たことも無い果物があるのだが、あれは食べれるのだろうか?


《あれ食えるのかね?》


《ご主人様。採ってまいりましょう》


《いや、シャーミリア今はいい》


《かしこまりました》


《ラウル様。食べれらるのなら食べてみたいですね》


《ゴーグもそう思うか》


《はい!》


 無駄話をしながら、森を抜けると草むらが長く続いているのが見えた。


「止まれ」


 俺の声に皆が止まる。


「あれを見ろ」


 草むらの先に見える都市の路地に、動いている奴らがいる。よく見ればあの北の村で見た、ドゥムヤとかいう人形達だった。そいつらが村を監視するかのようにウロウロしているのだった。それを見てギレザムが騎士の二人を見る。


「見つかりますね」


 二人の事だ。


「そうだな」


「気配を消して進めば何とかなりそうですが、こちらのお二人は無理かと」


「下手に鏡面薬を使いたくない」


「魔法陣があるかもしれませんしね」


 するとリュウインシオンが聞いてくる。


「どうされました?」


「遠くて見えないかもしれないが、都市の路地をドゥムヤが徘徊している」


「ここから見えるのですか?」


「そうだ」


「神通力でございますね?」


 違うけど。俺よりも、周りのこいつらの方がめっちゃ見渡せているから、それは神通力かも。


「このままでは、ドゥムヤに感づかれてしまう可能性がある」


「そう言う事でございますか!それならば!私についてきてくださいますか?」


「何か方法があるのか?」


「もちろんでございます。王族が忍んで使う館でございますので、脱出用の地下通路が御座います。そこを伝って行けば誰の目にもつかずにたどり着けるでしょう」


「そこは、敵にバレていないか?」


「一族だけが知る場所ですので大丈夫かと」


「わかった」


 ここはリュウインシオンを信じてついて行くしかない。するとリュウインシオンは今来た森の中に戻って行き、俺達も後ろをついて行くのだった。すると森の中でリュウインシオンが止まる。


「ここです」


「ここ?」


「はい」


 リュウインシオンが言う。すると俺達じゃなくヘオジュエが驚いていた。


「このような場所に秘密の通路が?」


「一族しか知らん」


「そうなのですね」


「そう言う事だ」


 リュウインシオンがそこにある木を数えだした。そしてウロウロと森の中を歩きだす。ある一本の木の下にしゃがみ込み、コンコンと木の根を叩く。


「ここです」


 するとリュウインシオンが、木の根をグッとつかんでカパッと持ち上げた。何と木の根が地面ごと外れたのだった。どうやら扉が木の根っこのところに作られていたらしい。


「ここから入れます」


 そこから中を見ると穴に梯子があり、地中奥まで続いているようだった。すぐにリュウインシオンが中に入っていく。


「あの、最後の人は扉を閉めてきてくださいますか?」


「わかった。じゃあシャーミリア!最後に閉めて来てくれ」


「かしこまりました」


 そして俺達が梯子を下りて行くと、地下深くに石畳の通路が見える。地上でシャーミリアが扉を閉めると、中が真っ暗になってしまった。


「あ、すみません。見えなくなっちゃいますね」


 リュウインシオンが言う。


「問題ない」


 俺はすぐさま、軍用懐中電灯とランタンを召喚する。地下道がぱあっと明るくなり、石畳の通路が照らし出された。


「これは光魔法でございますか?」


 ヘオジュエが聞いてくる。


「違う。俺が出した道具だ」


「ランプでございますか?」


「まあ、そんなところだ」


 そして俺は、リュウインシオンに懐中電灯を渡した。


「ランプでございますか?熱くありません」


 そりゃ懐中電灯だからね。


「それが俺の道具だ」


「素晴らしい…これも神器でございますね」


「まあ、そうだな」


 リュウインシオンの手元に握られた懐中電灯を見て、ヘオジュエも感心している。手を近づけたりして温度をみているらしいが、全く熱くないのでかなり不思議がっている。だがいちいち俺の召喚するものに感動されていたら、先に進むのが遅くなるのでリュウインシオンに促す。


「あ、すみません!先を急ぎます」


「ああ」


 リュウインシオンを先頭にして、ヘオジュエと俺達が続いて行く。かなり長めの石畳の通路だったが、しばらく行くと行き止まりになった。そこにも梯子がついているようだ。


「ここは本来、脱出する時の為の通路なんです。密会がバレた場合に逃げる道が無いと困りますので」


「なるほどね。だから森の中へと繋がってるのか」


「そう言う事です」


「この上にその秘密の建物があるんだな?」


「はい」


「じゃあちょっと待ってくれ。カララ確認を頼む」


「はい」


 カララが梯子を登って行き、天井部分にある木の扉を薄っすらと持ち上げた。そこから一気に糸を放出し、密会場所の住居に誰かいないかを確認した。


「ラウル様。誰もおりません、怪しい物も無いようです」


「よし、みんな!いいぞ」


 俺が皆に伝えると、ヘオジュエが聞いてくる。


「今は何かを、されたのでしょうか?」


「上の安全を確認しただけだ」


「いったい…どうやって…」


 えーっと、説明が面倒くさい。


「神の力だ」


「なるほどでございます!」


 納得してくれた。俺達は梯子を登って、王族が密会で使うという隠れ家に入って行くのだった。

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