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第748話 砂塵の山

 俺はてっきり夜に侵入するもんだと思っていた。ところがリュウインシオンが言うには、昼の一番暑い時間を狙って潜入する方が良いのだと言う。アラリリスは昼間が暑すぎて、人々が活動しない時間帯があるらしく、灼熱の時に攻めてはこないと油断しているからだそうだ。


「国によってだいぶ習慣が違うって事だな、暑い時は人は家の中にいるのか」


「そうなります」


 まあ俺はヴァルキリーを着てるから、暑さとかは全く感じないけど。でもデモンやドゥムヤに気温が関係してくるかと考えれば、疑問符が頭に浮かんでくる。


「敵もそうしていると思っていいのかね?」


「はい。ですので午前のうちに山を登ってしまえば、どうにかなると考えました」


 リュウインシオンが流れる汗もそのままに山を見上げて言った。俺達は砂漠側に周ってアラリリスの都市の反対側、山脈の西にある砂漠に来ていた。まだ気温が上がりきっていないので、リュウインシオン達も普通に活動する事が出来る。


「この山に登った事はあるのか?」


「ありません」


「登った人はいる?」


「険しすぎて普段登る人は居ませんが、冒険者がめずらしい魔獣を求めて登る事もあるようです。ですが危険度が高すぎて、他で稼ぎをするのが一般的です」


 リュウインシオン達が言っていた作戦を検証するために、アラリリスの山の西側に調査しに来たのだが、砂漠から見る山はかなり切り立った崖となっており、本当にこれを登る人間がいるのかも疑問だった。それだけに、こちらからの侵入を考えていない可能性を考えたのもうなずける。


「どんな魔獣がいるんだ?」


「砂蛇と呼ばれるものです」


 やっぱ蛇なんだ。こっちは蛇の関係者が多いな。


「どういうやつ?」


「恐らくは見落としてしまうかと。砂蛇は数メートルありますが、踏んで噛まれないようにすれば大丈夫です。毒が強いのでくれぐれも噛まれないようにしなければなりません」


「そうか、注意して登れば大丈夫そうだな」


「ただ注意しなければならない事がありまして」


「なに?」


「砂に見えますので、地面と見分けがつかないのです」


「えっ。それをどうやって注意するの?」


「達人であれば見分けられるそうです」


「えっと、リュウインシオンさんとヘオジュエさんは見分けられるの?」


 二人はフルフルと首を振っている。


 ダメじゃん。


「対策は考えてあるんだろ?」


「まあ…気を付けて行こうと…」


 ホントに駄目だった。さてと…まあ俺はヴァルキリーを着ているし、うちの魔人たちはなんとかできるだろうが、この二人はどうにもならんぞ。


「その前に、この山に敵の見張りはいないのか?」


「それは確認済みです。こちらから侵入してくるとは考えていないのでしょう、これまで何度も調査しましたが、こちら側に見張りが居たことはありません」


 まあ、山が険しいし、その砂蛇も危険だからだろうけど。あとは山が広いので、道筋を選べば目だたず行けるかもしれない。だが敵は恐らくデモンの類だ、一筋縄でいくかどうか。


《どうされます?》


 シャーミリアが冷静に聞いてくる。騎士達の情報には、それほど有益なものがなかった。この環境下で、アラリリスの騎士達が調査できる事といったらこれが限界だろう。あとは俺達が調査するしかない。


《ドローンで調べましょうよ》


 ゴーグが言って来る。ゴーグは俺の召喚するドローンが大好きだった。まあ子供なのでラジコン感覚で操るのだが、ゴーグはなにげにドローンを飛ばすのが上手い。恐らくは俺達とは感覚が違うのかもしれないが、恐らく魔人の中で一番うまいかもしれない。


「よし、そうするか」


 俺がドローンとコントローラーディスプレイを召喚してゴーグに渡す。


「おお!何と!それは神器でしょうか!」


 リュウインシオンとヘオジュエがめっちゃ驚いている。突然出てきた文明の利器に、驚かない方がどうかしている。どこからどう見ても神様の御業だと思う。


「そうだ」


 ドローンを神器ということにした。


「じゃあやります」


 ゴーグがディスプレイを見ながらドローンを飛ばし、それを俺達が覗いている。ドローンが山に向かって飛んでいき、坂を上手く登って行くのだった。山は険しいがドローンは難なく飛んで、その映像を俺達に送ってきた。


「山肌は砂か?これじゃあ滑って登れないだろうな」


 俺が冷静に言うと、ヘオジュエが声を上げる。


「そのようなものがここで見れらるとは!」


 ヘオジュエが目を見開いている。リュウインシオンも言葉が無いようだった。


「冒険者って、ここを登るのか?」


「いえ。こんな高さまでは…登ったとしても麓から少しだと思います。頂上まで登った人間はいませんので」


 リュウインシオンの言っている事は、だいぶ曖昧だがどう見てもこれは人間が登れる山じゃない。表面に砂が堆積しているため、絶対に滑って滑落してしまうだろう。これなら敵が見張りをつけていないというのも納得できた。


「蛇が見当たらないな」


「砂蛇は大地に身を隠していると聞きます」


 なるほど。リュウインシオンは冒険者じゃないし、ほとんど山の事を知らないようだ。良くそんな知識で、この危険な山を登ろうとしたもんだ。恐らく人死にが出るどころか、一人も登れずに諦めるのが関の山だろう。


「ふぅっ」


 今度はヘオジュエが軽くため息をついた。何か少し呆れたような表情になっている。


「リュウインシオン様。やはりこの計画は無謀であったと思われます。登ったことがあるのであれば話は分かりますが、どうしてこの険しい山を登れることでしょう?恐らく人死にが出る前に、断念せざるを得ないかと思われます」


 やっぱそう思うよね。


「しかし、これしか手が無いのだ!」


 なるほどなるほど、この主様は気合で作戦をやり遂げようとしていたって事か…それに部下が乗せられてやる羽目になったってわけだ。確かにリュウインシオンの言う事は無茶だが、それは俺達が普通の人間だった場合だ。幸運にもここに居るのは、人間の杓子定規では測れない規格外のバケモン達。険しいルートを教えてくれただけでも良しとしておこう。


「申し訳ございませぬ!虹蛇様、我々はとても無謀な事をしようとしておりました!」


 ヘオジュエが俺に頭を下げる。主の過ちは配下の過ちでもある、謝るのは当然のことだが…


「いや、ここを登れればいいんだろ?」


「は?」


「登れば道は開けそうじゃないか?」


「しかし、虹蛇様の神器で見た限りでは、人が登れるような代物ではございません」


 そうか。やっぱそう思うよな…だって危なそうだもんな。


「我を誰だと思っている!この山を作った虹蛇であるぞ!あっという間に登ってみせよう!」


「やはり!ほら!ヘオジュエ!虹蛇様はこうおっしゃって下さると思っていた!」


 なぜかリュウインシオンがどや顔で部下に言ってる。


「ほ、本当に?この山を登る事が出来るのでしょうか?」


「もちろん問題ない。ちょっと待て」


 もう既に仲間全員をリュウインシオン達には会わせている。俺は作戦の為に隊を二つに分けたのだが、ここに居るのは俺とゴーグの他に、ギレザムとシャーミリアとカララの三人だ。俺はその三人に向けて言葉をかける。


「どうしたらいい?」


 もちろん丸投げだ。こんな険しい砂の山なんて攻略した事無いし、一旦彼らのアイデアを聞いてから考える事にする。するとギレザムが口を開いた。


「簡単な事かと」


「まあ、そうだろうな」


 俺は虹蛇に化けているため、リュウインシオン達にカッコ悪い所を見せるわけにはいかないので、当然分かっていたような口ぶりで答えた。


「ではやりましょう」


 えっ!?どうすんの?いまてっきり説明してくれるのかと思ったよ!


「う、うむ!…まあ、分かっていると思うが、この二人も連れて行くのだぞ」


「当然です」


 じゃあどうすんのさ?


「ではご主人様。私奴が先にまいります」


 ドシュッ!


 シャーミリアが消えた。どうやらアイコンタクトで何をするかが決められたらしい。


「おお!消えた!神の神子殿は神出鬼没ですな!」


 ヘオジュエが興奮している。リュウインシオンはポカーンとしていた。


「ラウ…虹蛇様。それではまいりましょう」


 カララがサラッという。


 だからどうやって?


 と思っていたら、俺達の体がふわりと浮いた。


「えっ?」

「なに!?」

「おおぅ!」


 驚いているのは俺とリュウインシオンとヘオジュエだけだった。浮かんでいるカララもギレザムもゴーグも、平然とした表情をしている。


《ごめーん、ギレザム!これどうなってんの?》


 俺は恥を忍んで聞く。


《はい。カララがシャーミリアに糸を巻き付け、先に山に飛んでもらいました。あと我々はカララが巻きつけた糸に引かれておりまして、言わばシャーミリアが一本釣りしているような状態です》


 そんなことが行われてたんだ…


 ストン!と俺達は山の中腹にある僅かな踊り場へと降り立った。そこにシャーミリアが居て、俺達を釣り上げていたようだ。


「それでは次の場所に!」


 シュッ!


 またシャーミリアが消えて、俺達は空中を糸に吊り上げられて次の足場迄移る。それを数度繰り返しているうちに、山頂付近まで到達してしまった。こんな移動方法があったとは驚きだ。


「こ、これは…さすがでございます!我々は虹蛇様の御業にただただ驚いております!」

「まことに…このような神の力をこの目で見ることが出来るとは…」


 リュウインシオンとヘオジュエがめっちゃ興奮している。俺がやったと思っているらしい。


「そ、そうだ!この山を作った我にとって、このような事朝飯前よ!」


「ははー!」

「ははー!」


 二人が俺にひれ伏して額を地面にこすりつけるかのようにした。俺がそれにどぎまぎしていると、シャーミリアとギレザムとカララがどや顔をしている。どうやら俺が敬われていることが、彼らにとってはとても誇らしいことのようだ。ゴーグは…まだドローンしてた。


「ゴーグ。ドローンは?」


「もうすぐ来ます」


 ゴーグは糸につられている間も、ドローンを操作していたらしかった。ある意味神業はゴーグかもしれない。


「途中、何か見つけたか?」


「特に見張りとかはいなかったようです。一面砂だらけで、歩けば跡がつくと思うので足を踏み入れなくて良かったと思います」


「なるほどな」


「もし砂の下に罠があれば引っかかるかもしれませんし」


「確かにな」


 ゴーグもいつの間にか頭を使うようになったなあ。そのとおりだ、砂に隠して罠が仕掛けてあったかもしれない。ギレザムの作戦で飛び越して来たのは正解だろう。


「あそこが山頂です」


 シャーミリアが指さす。山頂付近には砂の堆積が無く、岩肌がむき出しになっていた。俺達が山頂に登りそこから反対側を見る。


「おお!絶景だね」


 俺が山頂から東側を見渡すと、下界には大きな都市が広がっていた。かなりの標高のようで、下界とは少し気候が違うようにも感じる。


「私、初めて見ました」

「我もです」


 リュウインシオンとヘオジュエが感極まっているようだ。自分達の故郷を俯瞰してみるのははじめてなのだろう。


「さてと、次だな」


「「「「は!」」」」


 俺達はあらかじめ決めていた作戦を決行するために、念話で再度内容を確認していくのだった。

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