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第75話 使役する怪物と魔獣

どこで拾ってきたの!?返してきなさい!!


前世なら絶対そう言われていたと思う。


俺とラーズが城に戻った時、グレイトホワイトベアーの子供がちょこちょこついて来た。


「ちょっとまってて。」


俺は城の入り口に、ラーズとグレイトホワイトベアーの子供を一緒に待たせて、先にルゼミア王のところに出向いた。


「お!帰ってきたのか。6日も戻らぬからイオナたちが心配しておったぞ。」


ルゼミア王が少々お小言モードで俺に言ってきた。


「陛下・・」


「もう母親じゃ、そんな堅苦しい呼び方じゃなくてもよいわ。」


「ではルゼミア母さん。」


「お、おう!いきなりか!なんだかこそばいの。」


ルゼミア王はなんだか嬉しそうだった。俺に母さんと呼ばれてウキウキしている。


「あのう・・おりいってルゼミア母さんにお願いがあるんですが・・」


「なんじゃなんじゃ!いうてみい!」


「ペットを飼いたいんです。」


「ペット?なんじゃ?ペットとは?」


「あ、動物を飼育したいと思いまして・・」


そうか・・この国にはペットという概念はないかもしれない。


「なんじゃ自由にやればよかろう。」


「それが、一緒に来て見てほしいんです。」


俺はルゼミア王を城の門まで連れていった。すると待っていたラーズが膝をついた。


「堅苦しいわ、せんでよい。」


ラーズを立たせて、その後ろにいるグレイトホワイトベアーの子供を見た。


「こやつ?か・・・・かわいいのう!おお!飼え飼え!」


「い、いいんですか?」


「それより、よくついて来たのう。グレイトホワイトベアーが人に懐くとは聞いたことがないわ。」


「そうなんですか?」


「のう、ラーズよ。お主も聞いたことがあるか?」


「いえ、私も初めての事で驚いております。」


そうだったんだ・・なんかグリフォンもいきなり懐いたっけな・・。レッドベアーも敵が乗っていたグレートボアも、俺には懐かなかったけど・・ひょっとして元始の魔人が目覚めた事が関係しているのかもしれない。


「飼い方が良く分からないですが、食べ物は肉か魚ですよね。」


「そうじゃな。」


「わかりました。明日から早速こいつの餌を探しに行きます。」


「ほお。良い心がけじゃ、無理はするなよ。名はなんとするのじゃ?」


名前か・・考えてなかったな。どうしようかな・・


「えっと・・シロで・・」


「安直じゃが可愛いの。」


というわけでグレイトホワイトベアーの名前はシロに決定した。


「ところで・・その後ろの袋はなんじゃ?」


「あ、これは、巨大な魔物に殺されたシロの母親です。」


「そうか・・残念じゃの。」


「はい、二人で助けようとしたのですが・・力及ばず。」


「ならきちんと弔いをしてやらんとといかんな。」


「弔いですか・・」


「妾にまかせよ。お主たちは早う無事を伝えに行ってまいれ」


「はい。」



ルゼミア王に促されて俺とラーズはみなが待つ部屋に向かう。イオナの部屋に行くとイオナは編み物をしていた。


「ラウル!もうあなたは!こんなに長くなるならそう言ってでかけなさい!」


「は、はいすみません。」


「ラウル様のせいではありません、私が行こうといったのです。」


ラーズが俺をかばって咄嗟に嘘をついた。


「ふふっ、ラーズ・・あなた嘘が下手ね。ラウルが無理に誘ったんでしょう?よもや私に嘘は言わないわよね・・」


「は・・申し訳ございません!」


ラーズが深々と頭を下げた。


「ラーズいいよ、俺が無理を言ったのはバレてんだから。でもね・・みてよ!」


ドアの後ろにいたシロを部屋の中に入れる。


「え!なに?可愛いじゃない!どうしたの?」


「飼おうと思って・・」


「これは・・大丈夫なの?魔獣にみえるけど。」


「ええ、グレイトホワイトベアーという魔獣です。成獣になると7メードから10メードを超えるものもいるそうです。」


シロは俺の手をべろべろと舐めていた。グリフォンの時もそうだったけど、これが魔獣の愛情表現なのだろうか?手がべちょべちょになってる。


「ずいぶん懐いているのね。」


「俺には凄く懐いていますね。本来は人には懐かないそうです。」


「そう・・よろしくね。」


動物好きのイオナがニコッと微笑みかけると、なぜかシロは床に伏せた。


「なでてもいいらしいよ。」


「わかるの?」


「あれ・・ホントだ。俺、何でわかるんだろう?」


イオナはシロに近づいてモフモフとなでていた。


「毛が柔らかくて気持ちいいわ。まだ子供だからふかふかね。」


「気持ちいいそうだよ。」


「あら、そうなのね。」


シロが気持ちよさそうに目を細めている。


「ところでマリアとミーシャ、ミゼッタは?」


「キッチンにいると思うわ。」


「わかりました。」


俺はラーズとシロを引き連れてキッチンへと向かう。



「ミーシャ。」


「ああ!ラウル様心配しましたよ!長くなるなら長くなると言って出かけてください!」


「あ、ああ・・もう母さんに十分叱られたよ。気を付ける。」


「マリア!ミゼッタ!ラウル様が帰ってきました!」


「ラウル様!もう!何日も空けるなら言って出かけてください!」

「ラウル!心配したじゃない!」


マリアとミゼッタにもお小言を言われてしまう。


「わかったよ・・」


するとマリアが気にしていたことを聞いて来た。


「あの・・その後ろにいる白い獣はなんですか?」


「シロだよ。俺が飼う事になった。よろしくな」


「魔獣・・ですよね?」


「そうだけど大丈夫なんだ。俺に懐いているからね。」


「そのようですね・・」


ミゼッタがマリアの後ろからのぞき込んで、近づきたいような顔をしていると、シロがまた這いつくばった。


「あの・・ミゼッタ・・、シロが乗っていいって。」


「ほんと!?」


「ああ。」


ミゼッタがシロにまたがるとのっそり立ち上がって歩き始める。


「ミゼッタの事が気に入ったみたいだ。」


「そうなんだ・・シロ!よろしくね!」


「ウォン」


「返事するんだ!?」


ミゼッタは大喜びでシロにしがみついて乗っている。狼ゴーグにも乗り慣れてるだけあって、乗り方がうまいように見える。


「じゃあ、これからシロも俺たちの仲間だからよろしくね。ちょっと配下にも紹介してくるよ。ラーズ行こう!みんなどこにいるかな?」


「はい、今日も鍛錬場にいると思いますよ。」


シロはまだ怖いもの知らずらしく全く物おじしないようだった。誰にでも警戒心を持たずに近寄っていく。俺とラーズはシロをつれて鍛錬場へと赴く。





「「「「「「「「ラウル様!」」」」」」」」


全員が俺の顔を見るたび入り口に近づいてくる。


「ラーズ!お前はまた無理をさせたんじゃないのか?」


ギレザムがラーズに詰め寄るが、俺がそれを止めて説明をする。


「違うよギル、俺が無理にラーズに頼んだんだ。」


「ラウル様・・あまり無理をなさらぬよう。」


「みんな心配性だな・・」


「俺はラウル様の気持ちわかるよ。」


ゴーグだけが俺の気持ちが分かると言ってくれる。


「ゴーグ!わかってくれるか!」


「ゴーグ!あまりラウル様を炊きつけるようなことを言うな!」


ガザムがゴーグをいさめる。


「いや、ガザム!俺もいつまでも子供じゃないさ。」


「それは・・わかりますが、ご無理はなさらぬようお願いします。」


「わかったよ。」


そして全員の視線がシロに向かう。


「して・・それは?」


「俺が使役する魔獣だ」


「グレイトホワイトベアーを従えているのですか?」


「そうなんだ、俺の事が気に入ってくれているみたいなんだよ。」


「それは珍しい・・」


50メートル先の鍛錬場の真ん中には、ファントムが何も見ていないように突っ立っていた。


「修練してたんじゃないの?邪魔したね。」


「いえ、そろそろあがろうかと思っていたところです。」


「ファントム!こっちこい!」


俺がファントムを呼ぶと、3メートルはあるかという巨体らしからぬ俊敏さで、次の瞬間俺の前に立っていた。間違いなくシャーミリア並みのスピードがある。俺の血とシャーミリアの血そして1000体のバルギウス兵の死体と、シャーミリアの力、によって作られた化物だ。


「ファントム、シロだ。シロ!ファントムだ!」


「ウーーーーーー」


なんだ?シロがやたらと嫌っている。ファントムが怖いらしいな・・そりゃそうか。普通怖いよなこんな奴。


「シロ!ごめんな。こいつもお前と同じ仲間にだからそのうち慣れてくれよ。」


シロは俺の足に手を絡めて手をペロペロと舐め始めたが、ちらちらとファントムを見つめて警戒していた。やはりおびただしい数の魂の気配をまとう生き物なんて普通いないしな。


「ギル、ファントムはどうだ?」


「どうもなにも・・我ら8名でかかってもかないません。力と速さ、技、そして不死性を持ったバケモノですよ。」


「シャーミリアは・・なんてもの作ったんだ。究極の成功物だとか言ってたもんな。」


俺がギレザムと話していると後ろから声がかかった。


「はい!そのとおりですわ。」


「わぁ!!!」


シャーミリアが俺の後ろにいつの間にか立っていた・・まったく気配が読めない。


「ああ・・ご主人様驚かせてしまい申し訳ございません。」


シャーミリアと後ろのマキーナが膝をついた。


「いいんだいいんだ。シャーミリア!俺がまだ未熟なだけだよ。」


「いえ、遠くからお声がけするようにしてから近づきます。」


「それだと戦闘時に困るからいいって今まで通りで。」


「かしこまりました。」


「で・・シャーミリアちょっと聞きたいんだけど、ファントムって弱点はあるの?」


「ございます」


「なに?」


「言いづらいのでございますが・・」


「かまわないよ」


「ご主人様の命にございます。」


「俺の命?」


「ご主人様の命が尽きない限り不死でございます。光の破邪の魔法も効きません。正確にはアンデッドではございませんので・・」


なんてこったい。俺が死なない限りこいつは倒せないって事か・・


「あとは・・2年前より力が少し弱っています。」


「これで?弱ってるのか?」


「はい・・人間の死体を喰ってません。」


そうか・・こいつはハイグール、人間の肉を食わないとパワーを補給出来ないのか・・ずっと魔人の国に居たらいつかはダメになるって事かな?


「まあ、私たちがグラドラムにいるファートリア神聖国の兵を連れてこれば補給できます。」


「なるほど・・だが、それはまだ待て。」


「承知しております。」


シロはシャーミリアとマキーナも苦手なようだった。耳のあたりに手を当ててふさぎ込んで震えている。


「あ、シャーミリアとマキーナも紹介するよ。これは俺が使役するグレイトホワイトベアーのシロだ!」


「あら、かわいらしいわね。ファントムと一緒にかわいがってもらってね。」


ゾクッとするような妖艶な笑みをたたえて、シロに微笑みかけるが・・シロは震えるだけだった。


てっか・・・・えっ!モフモフのシロが・・・ファントムと一緒の立ち位置!!


そうだな、俺が使役してるんだもんな。


ファントムが・・俺の・・ペット・・・


恐ろしい。



そして・・その日のディナーでは、極上の熊肉のフルコースがふるまわれた。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、弱肉強食の世界では喰って糧にすることが弔いになるだろうし間違いではないんだよなぁ 死んだ経緯を考えるとアレだけど……
[一言] ルゼミア王…改め、ルゼミア母さん…現金やな… 愛するガルドジンの実の息子に『母さん』と呼ばれて色々と思うところがあるんでしょうね… そしてシロ…何この可愛いのっ!? 容姿もさることながら…
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