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第745話 洞窟の都市

 太陽が真上に上がり気温はさらに上昇していった。眠っている騎士達をそのままにしていたら、流石に死んでいただろう。


「凄いな、よくアラリリスの民はこんな環境で生きていられるよ」


「あの都市は、何かに守られているのかもしれません」


「何かにって言ったら、 そりゃ虹蛇だろうけどね」


「でしょうね」


もしかするとアラリリスには、シン国と同じように特殊な結界がはられているのかもしれない。


「この騎士達がどこから来たのか?人間の足で来れる距離だとしたら、そう遠くはないだろうけど」


「我々の拠点を移設したら、彼らを泳がせましょう」


「そうだな」


 日が落ちて、本隊を新しく見つけた拠点へと移動させた。今日も雲一つない夜空が広がっており、トラメルやケイシーと共に砂漠を旅した時を思い出す。星が落ちそうなほどに煌めいて、月も眩しいほどに輝いている。


「この地の夜空は美しいですね」


 アナミスがポツリと言った。うっとりしたその顔は、普通の男ならば絶対にあらがえないであろう色香を漂わせている。


「そうなんだよ。なんか空が近いのかと錯覚するよ」


「手が届きそうです」


「だな」


 俺とアナミスは騎士達を眠らせた場所から離れ、ギレザムからの合図を待っている。アラリリスの騎士全員をテントから出して、そのまま地面に寝かせた状態にさせているのだ。水分と塩分を補給させなければと思い、アナミスの催眠で補給させ、一人も死なせずに夜を迎えさせる事が出来た。


「じゃあ起こそう」


「はい」


 再びアナミスが、夜風にのせてきつけの霧を漂わせていく。一体どういう仕組みになっているのか不思議だが、これ一発で対象者は目覚めるのだった。


《どうかな?》


 ギレザムに様子をうかがう。


《起きだしましたね》


《そうか》


《不思議そうにあたりを見渡しております。いつの間にか夜になっているので驚いているのでしょう》


《そりゃそうなるわな》


 そして俺は次にガザムに念話を繋げた。気配を感じ取る彼らを追跡させるのなら、隠密に長けたガザムが最適だと考えたからだ。


《ガザム、人間達はまもなく動くだろう。追跡してくれ》


《は!》


 しばらくすると、人間達は再び南に向けて動き出した。彼らがどんなに警戒したとしても、ガザムの尾行をまく事は出来ない。俺とアナミスは急いで皆の元へと合流する。


「皆、体調はどうだ?」


 俺はカトリーヌとマリアとカナデに聞く。魔人に体調の事を聞くのは全くの無意味だ。


「大丈夫です」

「良く休めました」

「少し寝苦しかったですが、問題ないです」


 マリアとカナデは問題ないようだが、カトリーヌは少し厳しかったようだ。流石にこの暑さは慣れるはずもない。だが顔色は悪くないので問題は無さそうだった。


「それにしても、アラリリスの騎士が生きていたのですね」


「ああ、カティ。まさかこんなところに潜伏しているとは思わなかったよ。しかも逃げた民もいるらしいんだ。まもなくガザムから連絡が入ると思う」


「ティファラやトラメル卿の所でも、騎士や貴族が生き残っていましたしね。どこの国もほぼ崩壊してはおりましたが、人間の未来は途絶えた訳では無いようですわ」


「そうだな。ファートリアにはケイシー神父や枢機卿達と兵士も残ってるし、ユークリットだってカティとイオナ母さんが残っている。グラドラムのポール王だってまだ健在だ」


「シン国なんてほぼ無傷ですしね。なんとかアラリリスの民も開放できたらと思います」


「だな。慎重に事を運ばないといけないが、もしかしたらあの騎士たちが突破口になる情報を持っているかもしれない」


「まずは接触を図ってみるのですね」


「そう言う事だ」


 ここで俺達は戦闘糧食で栄養補給し、連絡を待つ事二時間ほどでガザムからの念話が繋がった。時間から考えここから二十キロも離れていないところに、あの騎士たちの拠点があるようだ。


「どうやらそれほど離れていない場所にいるようだ」


「誰を差し向けます?」


 ギレザムが聞いて来た。


「飛行部隊で行く。俺とシャーミリアとアナミスで飛ぼう、残りはここで待機。待ちくたびれたかもしれないが、待つのも立派な任務だ」


「わかっております」

「はい」

「もちろんです」


 カトリーヌとマリアとカナデが返事をした。


「マキーナはここに残り、上空から監視行動をとってくれ」


「はい」


 既に魔人達は護衛の体制に入っており、周辺を警戒していた。俺はゴーグとギレザムに手伝ってもらい飛行ユニットを背負う。


「ゴーグもこれ運ぶの重たいだろ?」


「狼になれば問題ないです」


「車両を召喚すればいいんだが、目立つからな。助かるよ」


「全然です!」


 人間形態のゴーグが屈託なく笑う。むしろ俺から褒められたことで、見えない尻尾がブンブンと振られているようにも見える。


「じゃ、行こうか」


「「は!」」


 ヴァルキリーを着た俺と、シャーミリアとアナミスが夜空に浮かび上がった。ガザムが向かった方向に向けて飛翔する。騎士達の走る速度に比べれば、人間達の拠点までは一瞬だった。俺達がガザムのいる場所に降り立つと、ガザムが指をさして拠点の場所を教えてくる。


「あそこの比較的大きな岩山の洞窟です」


「また洞窟か」


「全員あの中に入って行きました」


「なるほどね。敵にはオンジみたいな奴がいてさ、鏡面薬で透明化しても俺達に気が付くんだよ」


「やっかいですね」


 ガザムがさしてやっかいでもなさそうに言った。


「ガザムなら潜入できるのか?」


「恐らくは問題ないかと」


 やっぱりね。すっげえ仕事が出来てイケメンなのが憎いところだ。


「なら先行して情報をくれ」


「わかりました」


 シュッ!とガザムが消えた。どうなっているのか分からないが、あっという間に洞窟の中に潜入したようだ。すぐさま俺に念話が繋がる。


《ラウル様。洞窟の中に簡単な街が出来ております》


《凄いな。洞窟の中に街が?》


《街と言いますか、縦穴にそれぞれ壁をくりぬいて部屋を作っているようです》


《なるほどね。俺達が知られずに潜入できそうか?》


《入り口に歩哨がおりましたから、すぐに見つかると思われます》


《わかった。騎士達はどうしてるかな?》


《中に入り、恐らくは会議でもしているのでしょう。一か所に集まっております》


《了解。そのまま監視してくれ》


《は!》


 どうしたもんか。洞窟の中では、外からマイクロ波兵器を使う事も出来ない。かといって正面から行ったら敵だと思われるかもしれない。


「洞窟の中に皆がいるのであれば、充満させてしまえばよろしいのではないでしょうか?」


 アナミスが言った。


「洞窟内の全員を眠らせるって事か」


「そう言う事です」


「まあ…それが一番手っ取り早いな」


「はい」


「ご主人様。あの岩山の上にも人間がいるようです。恐らくは見張り台かと」


「誰にも知られずに、あそこから入れないだろうか?」


「それでは私奴が制圧してまいります」


「頼む」


 シュッ!


 シャーミリアが消えたと思ったらすぐに念話が繋がった。


《制圧しました》


 はや!


《わかった。すぐ行く》


 俺とアナミスが飛んでシャーミリアが居る場所へと来た。そこに岩山をくりぬいて作った監視所があり、四人の騎士が倒れていた。息はしているようなので、殺してはいないようだ。まあ殺せとは言っていないのでそりゃそうだが。


「眠らせましょう」


 気絶している騎士に向けて、アナミスが追い打ちをかけるように催眠をかけた。


「これでアナミスが起こすまでは起きないか」


「はい」


 俺が見張り所の中を見渡すと、結構な居住空間が出来ていた。


「要塞のようになってるのかね?」


「この見張り所には、中から登ってくるようになっているようです」


 見張り所の奥にの岩壁には扉があり、そこからも内部に入り込むことが出来そうだった。


「行って見るか」


「「は!」」


 俺が入ろうとすると、飛行ユニットが扉につっかえそうになる。


「外さないとな」


 シャーミリアが俺の後ろに立って、飛行ユニットを支えてくれる。ヴァルキリーが外すと、シャーミリアがそっとそれをテーブルの上に置いた。


「行こう」


「「は!」」


 扉を開けると、その奥には階段があった。そこから中の居住空間へと繋がっているらしい。


《ガザム、俺たちも中に入ったぞ》


《確認しております》


《これから俺とアナミスで、住民たちに集団催眠をかける。ガザムは喰らわないように外に出ろ》


《了解です》


 そして俺がアナミスにそっと手をかざして、魔力を大量に注いでいく。するとアナミスから大量の赤紫の霧が発生して、まるで蛇のように地下へと下りて行くのだった。


「中はかなり広いようですね」


「充満させるまでどのくらいかかるかな」


「あと、十五分ほどかと」


「わかった」


 そしてそれからきっちり十五分後、アナミスが俺に目配せをしてくる。どうやら完全に内部に行き渡ったらしい。


「シャーミリアが先行して、起きている人間がいないか確認してきてくれ」


「かしこまりました」


 シュッ!シャーミリアが消えて、俺達はその後を追うようにゆっくりと階段を下りて行く。階段を下り切ると出口があり、そこから内部を覗いてみる。


「広いな」


「はい」


「霧はどうなった?」


「まもなく晴れるでしょう」


「わかった」


《ガザム!俺達は潜入した。まもなくアナミスの霧もおさまるから合流してくれ》


《は!》


《ご主人様!内部に起きている者はおりません》


《了解だ》


 シャーミリアの報告を受け俺達も、更に内部へと入って行く。


「ご主人様」


 シャーミリアが天井から降りてきた。俺達が上を見上げると、そこにはドーム状になった洞窟が広がっている。そして壁伝いにらせん状の通路が作られており、そこにくりぬかれた部屋が作られているようだった。


「凄いな」


「天然の都市ですね」


「ああ。面白いもんだ」


「はい。それとご主人様にご報告が」


「なんだ?」


「かなり弱っている人間が集められている部屋がございました。恐らくは医療行為をしているのかと思われますが、あまりにも質素なもので間もなく死ぬ人間もいるでしょう」


「そこに連れていけ」


「はい」


 俺達がシャーミリアに付いて行くと、ひときわ広い部屋へ着いた。部屋の中には岩をくりぬいて作ったベッドのようなものがあり、その上に人間が寝かされている。アナミスの術で深い睡眠に入っているが、そうでなくとも虫の息の者がいるようだった。大人も子供も老人もいる。


「酷いな」


「いかがなさいましょう」


「シャーミリアは入り口で見張っていてくれ。アナミスは俺と二人で、寝ている人間達にポーションをかけて行こう」


 俺はヴァルキリーの腕のケースを開いて、ポーションのカプセルを大量に取り出す。それを受け取ったアナミスが人間達にポーションを振りまき始めた。俺も同じようにポーションを人間に降り注いでいく。


「回復しそうだが、これは栄養が足りてないぞ」


「食べさせますか」


「そうしよう」


 俺はすぐさま、戦闘糧食のスープと水を召喚してそこに並べていく。アナミスが寝ている奴らに催眠を施していくが、起き上がる事も出来ずにいるようだ。


「ラウル様」


 そこにガザムもやって来る。


「ガザム、シャーミリア、アナミス。手分けしてスープを飲ませるんだ、スープでもダメな者は粉のジュースを溶いて飲ませよう」


「「「は!」」」


 俺達はそこにいた病人たちを抱き起し、水分を補給させていくのだった。恐らくギリギリで生きている者もいるようだ。


「シャーミリア」


「は!」


「カトリーヌにルフラを纏わせて、連れてきてくれないか」


「かしこまりました」


 シャーミリアが消えた後も、俺とアナミスとガザムが人間達を介抱し続けるのだった。カトリーヌに回復魔法をかけてもらう必要がある。ここの状況で俺達は、民が置かれている状況を大まかに把握する事が出来たのだった。

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