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第741話 籠城するデモン

 デモンがまた村の中に隠れてしまったが、これは絶対に罠だと思う。ファートリア聖都の防衛戦では、俺達が地下に誘い込まれ大量のフレイムデモンの襲撃にあった。あの時は敵に人間の転移魔法使いがいて、延々とデモンを送り込まれてしまったが、村に転移魔法陣が設置されている可能性もあるのだ。


《なかなか動かないな》


《デモンが身を潜めております》


 上空のシャーミリアがデモンの位置を確認して伝えてくる。村はひっそりと息をひそめているが、確かにデモンの気配は息づいていた。


《ここで魔人軍が来たと完全にバレると、アラリリス国が危ないんだよなぁ》


《他国の民を思う、ご主人様の御心の広さに感銘いたします》


 いや、俺は別に心が広いわけでも、慈善の気持ちで救ってるわけでもない。敵の思惑に乗れば危険だし、わざわざ大量に敵を増やしたくないだけだ。まあもちろん、むざむざと無実の人間達を犠牲にしようとも思っていないが。俺は夜風に吹かれながら、ヴァルキリーに装着した尻尾アーマーを、鎌首のようにもたげて胡座をかいていた。


《デモンはこれが、魔獣の襲撃だと思ってくれているか疑問だけどな》


《ラウル様。敵は半信半疑ではないでしょうか?》


《そうだなギレザム。ここまで慎重になっているのはそのせいだろう》


《どうします?》


《じっとしていれば、必ず敵の方から動いてくるさ》


《わかりました》


 と、言ったものの、俺にもその確証はない。だが今までのデモンの習性を考えると、じっとしては居ないような気がするだけだ。


 敵が仕掛けてこないのなら、こちらも何もすることが無いので、俺は尻尾アーマーの操作訓練でもしてみようかと思う。よっ!はっ!ほっ!なかなか難しい。尻尾アーマーは微妙に形状を変えながら自在に動いている。やっぱりこれ凄い。バルムスとデイジーがタッグを組むと、とんでもない物を作れることが分かった。ミーシャがグラドラムから持ってきた、魔導エンジンもさることながら、この尻尾アーマーに高性能の飛翔ユニット。この世界の常識が覆ってしまうのも時間の問題だろう。


《我が主》


 ヴァルキリーが俺の意識に語り掛けてきた。


《なんだ?》


《この我はこの尻尾のようなものを、更に変化させられそうです》


《え?そうなの?》


《不思議なもので、我と連結される事を前提として作られているようですね》


《分体ってものが、分かっているって言う事かな?》


《元始魔人の系譜下にいる為、分かるのだと思います》


《俺から情報が流れているって事か…》


《はい。そして我は古代よりドワーフの手が入れられてきましたから、世代を変えても技術が伝わっておるのでしょう》


《ずっと共に生きてきたって事か》


《そうです。そして我が主。あの大蛇を真似るのであれば、装備の先に火炎放射器を召喚してみてください》


《こうか?》


 俺が尻尾アーマーの先にM9火炎放射器を召喚すると、アーマーの先が変化してすっぽりとM9火炎放射器を包み込んでしまった。


《おおすげえ!》


《感覚は繋がっておりますか?》


《繋がってる!》


《あとは我が補正します》


《お前もたいがい高性能だな》


《ありがとうございます》


 そして俺は尻尾を動かしながら、M9火炎放射器を放射してみる。見事に尻尾アーマーの先から火炎が出てきた。まさに大蛇が火炎を吐き出しているように見える。


《いい感じだな》


《他の兵器も組み込み可能です》


《マジか。それは使える》


《良かったです》


 ヴァルキリーの説明で、尻尾アーマーがめちゃくちゃ便利であることが分かった。これからの戦いにおいて、この新装備はかなり有効活用できそうだ。それからしばらく興味津々に尻尾アーマーの感度を確かめていると、シャーミリアから念話が入ってくる。


《再びデモンが蠢き始めました》


《やっと動いたか》


 どうやら再びデモンが動き出したようだ。


《カララ、鏡面薬を切らすな》


《あと一つ残っております》


《わかった》


 敵もただやられっぱなしという事はあるまい、俺は警戒しながら村の北門をじっと見ていた。すると再び村の外壁の上から、骸骨とカマキリのハーフみたいな顔が鎌首をもたげる。


 やっぱデカいしキモイ。


 デモンは俺を品定めするようにじっと睨んでくるが、俺も胡坐をかいたまま、それをじっと睨み返す。更にその顔の両脇に、またあの大きな手が二つ出てきた。手は開いてはおらずグーの形に握られているようだった。そのグーの手が後方に倒れ込んでいく。


《なんだ?》


《お気を付けください》


 カララも何かおかしな気配を感じ取っているらしい。すると今度はその手は素早く前に持ち上がってくる。垂直に立ったあたりで素早く手を開くと、握っていた何かを投げつけてきた。


《なんだ?》


《デモンらしきものが飛んできます!》


 丸まって飛んでくる物はデモンらしかった。俺めがけて思いっきり飛んでくる。速球だ。


《はや!》


 俺は尻尾アーマーを大きく後ろにしならせて、その丸まっている物を思いっきり打ち返した。メキャメキャッ!という音と共に、思いっきりひしゃげ体液をまき散らしながら、村の方へと飛び去っていった。大きな手がそれを受け止めようと開いたが、その上を飛んで村の奥へと消えていく。


《ホームラン!》


《ほおむらんでございますか?》


《いや、こっちの話だ》


 すると再び大きな手が拳を握り、今度は両手で同時に投げつけてくる。それは先ほどと同じデモンのようだが、一つを打ち返しても、その間にもう一つが俺に着弾するだろう。


《じゃあ受けるか》


 俺は咄嗟に右斜め前に前進し、剣のように尖らせた尻尾アーマーの先をデモンの一つに突き刺した。


 グゥエェェェェェ!


 デモンがおぞましい声で叫ぶと、大量に体液をまき散らしてバタバタと暴れはじめる。胴体にしっかりと刺さっているため、抜くことが出来ずに尻尾アーマーを掴んでもがいている。もう一体は俺がさっきまでいた場所に着地したが、体を開いてこっちに向かってきていた。どうやらそれはフレイムデモンのようだった。俺は尻尾アーマーを大きく振りかぶって、刺さっていたフレイムデモンを、思いっきり走ってくる奴にぶつける。


 メキョメキョメキョッ!


 二体のフレイムデモンがぶつかり体が潰れていく。あたりに体液をまき散らしながらドサリと落ち、ぴくぴくしながら二体のうち一体が立ち上がろうとしている。俺はすぐさまそれに近寄って、尻尾アーマーの先からM9火炎放射器を放射する。


 ギャァァァァァァ!


 ボロボロになって素早く身動きが取れないところに、高温の炎を放射されて、フレイムデモンは燃え尽きていくのだった。


《おっと!》


 目の前のフレイムデモンに気を取られているうちに、大きな手が次のフレイムデモンを投げつけてきていた。どうやらあのデモンは、この戦法で俺を消耗させるつもりらしい。俺が飛んできたフレイムデモンに尻尾アーマーを突き刺そうとしたら、そのデモンは体に刺さる前に尻尾アーマーの先を掴み、体を突き刺されるのを防ぎやがった。


《なら、これはどうだ?》


 俺はその尻尾アーマーを掴むデモンに、至近距離からM9火炎放射器を放射する。手足が固定されているため、もろに胴体に火炎が炸裂した。そいつはボトリと落ちて体をバタバタさせるが、火炎放射器の炎が簡単に消えるわけがない。その間にもう一体が俺の本体に肉薄していた。だがその辺りにはカララがいる。


 ゴォォォォォォォ!


 ギィェェェェェェェ!


 全く違う方向から炎が来て、フレイムデモンは丸焦げになる。それでも大きな手がポイポイとフレイムデモンを投げつけてくるので、打って刺して投げて燃やしてを繰り返す。次々と燃え尽きていくフレイムデモンに、とうとう大きな手はデモンを投げてくるのを止めた。


《もう止めたか?》


《やはりデモンを召喚する為の生贄が、足りなかったのではないでしょうか?》


《そうかもしれん》


《そしてラウル様。そろそろ私の鏡面薬が切れるかもしれません》


《敵の攻撃も止んだし、一旦森へ走ろう》


《はい》


 俺達の周りには、燃え盛るフレイムデモン達の残骸が転がっている。その間を縫うようにして、俺とカララが一目散に森へと走った。チラリと後ろを振り向くが、デモンが追いかけてくる事は無さそうだった。


《追いかけてはこないんだな》


《やはり村の中に入るのを誘っているのでしょう》


《やっぱそうかね?》


 俺達が森に入るころには鏡面薬の効果が解けて、カララのブルーのセミロングヘア―が露わになる。森に潜んでいたギレザム達と合流して、更に森の奥へと進んだ。


《シャーミリア!ガザム!追手は?》


《上空からは確認できません》

《南からも出ていません》


《了解だ。シャーミリアとガザムはそのままデモンの監視を、他は全員アンフィスバエナの元へと急げ》


《《《《《《は!》》》》》》


 俺達は更に森の奥へと進んで、カトリーヌ達が待っている場所へと合流した。すると心配そうにカトリーヌが声をかけてくる。


「ラウル様!ご無事ですか?」


「問題ない」


「良かった」


「こちらに異常はないか?」


「大丈夫です」


 そして俺は皆に、村で起きた事を伝えた。敵のデモンが想定外の大きさだった事、デモンは村を出てくる気が無い事、フレイムデモンはそれほど数が居ないと推測される事。それらを伝えると、カトリーヌが話す。


「敵は籠城して援軍を待っているのでしょうか?」


「そうかもしれん。それか俺が想定しているのは、村に入ると何かの罠が作動するんじゃないかという事だ」


「罠でございますか?」


「ああ」


 するとマキーナが何かに気が付いたように口を開いた。


「ご主人様。転移罠ではありませんでしょうか?フラスリア領で、ご主人様がトラメル辺境伯やケイシー神父と一緒に飛ばされた時のような…」


 あの時マキーナは俺が飛ばされたあと、暴走したシャーミリアに付いてオージェと争った。その時の事を話そうとしたのだろう。すると皆がその時の事を思い出して、ピリピリしだした。


「ラウル様は絶対に飛ばされてはいけません」

「そうです。もしそのような事になれば、次にシャーミリアを抑えられるかどうか分かりません」

「最近のあれは…私でも、どうこうできる相手ではありません」


 ギレザムとルフラとカララが、デモンより恐ろしい物を思い出したように言う。


「そんなことないだろ。シャーミリアだって、ずいぶん学習しているんだ。俺にどんなことがあっても大丈夫さ」


 ギレザムとルフラとカララが首を横に振っている。


「そこのファントムも規格外となっております。ラウル様の魔力と連動し凄まじい存在となり果てました。我の力を持ってどちらかを止めるのが精一杯かもしれません」


 ギレザムが真剣な顔をして言って来る。


「…わかった。そりゃ怖いな。なら俺が単独で飛ばされる事が無いようにするさ」


 俺の言葉に皆がホッと胸をなでおろす。それほどまでにシャーミリアとファントムに暴れられるのは、魔人達にとって困る出来事らしい。そばでマキーナが、気まずそうに苦笑いするのだった。


「とにかくあのデモンの攻略を考えないとな。南に斥候も出さないといけないかな」


「そういたしましょう」


 ギレザムがそう言って、俺達はあの村をどう攻略するのか話し合うのだった。

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