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第740話 デモンVS偽アンフィスバエナ

 デモン召喚魔法陣の光が消え、村はシンと静まりかえってしまった。中にわずかに残っていたであろう人間は、既に養分として召されてしまったようだ。


《さっきまで、デモンに動きがあったんだよな?シャーミリア》


《はい、ご主人様。確かに動きはございました》


《今はどうなってる?》


《魔法陣で召喚されたデモンと、もとよりいたデモンが共にいるようです…が動いておりません》


《すぐには動かないみたいだね?》


 俺の問いにギレザムが答える。


《ラウル様。敵にはこちらの正体が、分かっていないのではないでしょうか?》


《慎重になっている…か…。敵も少しは学習してるって事かね?》


《そうかもしれません》


 するとカララが言う。


《人間が大量に逃げた為、思いの外デモンが召喚出来なかったのではないでしょうか?想定より少ないために、戦力不足と判断して外に出て来ないのかもしれません》


 村は不気味なほどに静まり返っており、パチパチと櫓の炎だけが揺れていた。今まではこうなれば、デモンはすぐに出現して、俺達に攻撃を仕掛けて来ていたはずだ。


《じゃあ仕方がない。放置で》


《《《《《《えっ?》》》》》》


《大半の人間を救えたし、ここからはそれほど急がない。何よりみんなの鏡面薬の効果がそろそろ切れる》


《どのようにいたしましょう?》


 シャーミリアが聞いてくる。


《森に潜もう。人間に対して警告した通りの事をやったんだし、神獣様ならそうするのが妥当っぽくない?》


《それでは、そのように》


 俺は村を離れて森の方に歩き出す。もちろん魔人達も皆森へと向かって歩き出すのだった。神獣が自分の仕事を終えて森に変えるのだ。とても自然な流れのような気がする。


《デモンはまだ動かないか?》


《そのようです》


《じゃあこのままでいいな。とりあえず村を監視するとしよう》


《はい》


 俺達は森に入った。戦闘で動き回った北門付近にはカララが糸を張り巡らし、動きがあれば必ず察知できるようにしておく。いまガザムが一人で南側を監視しているが、シャーミリアにも上空からの監視をするように指示を出した。


《マキーナ。俺達が森に入る》


《カナデとアンフィスバエナはここにおります》


《まだ出てくるな、そのまま護衛についていてくれ》


《は!》


《ゴーグとルフラはマリアとカトリーヌを連れて、マキーナの所に行け》


《はい》


 これからはデモン戦になるだろう。カナデとマリアとカトリーヌには荷が重い。マキーナとゴーグとルフラに彼女らの護衛を任せ、俺達は森から村を監視する事にした。ギレザム、ファントム、カララ、アナミスが俺の側で待機している。次第に鏡面薬が切れて、露わになってくる魔人達。


《シャーミリア、ガザム。村の状況は?》


《デモンに動きはありません》

《こちらからも確認できておりません》


《ずいぶん臆病なデモンだな。最初は確か三体ほどいたんだよな?》


《はい》


 ファートリア防衛戦からこの方、デモンが簡単に仕掛けて来なくなった。村のデモンは魔人軍が攻めてきていると警戒しているのか?魔獣に襲われたと思っているのか?分からない。


 俺なら間違いなく魔人軍が来たんだと確信するけどなぁ。


 俺も暗視スコープを召喚して村を監視しているが、デモンに動く気配はない。


《人形もいないのかな?》


《はいラウル様。こちらからは確認できません》

《上空からも動きは見られません》


 なるほどなるほど。敵ながら、それはそれでいい作戦だ。俺達の動きを見ているのか、アラリリスからの援軍を待っているのかは知らんが、今敵に出来る最善の方法かもしれない。それならばと、俺達も動かずにじっと村を監視し続ける。だが不必要に体力を消耗するのを避けるため、交代で休息を取らせることにした。


《よし、それじゃあゴーグ!カトリーヌとマリアとカナデに休息をとってもらう。ゴーグもマキーナとカララに護衛を任せて休息をとれ》


《わかりました》


《ギレザム、俺達も交代で休息をとるぞ》


《それではラウル様とアナミスがお先に、我とカララはまだ休息を必要としてません》


《わかった》


 脱着!俺はすぐにヴァルキリーを脱いで、木に背を預けて目をつぶる。するとアナミスがすぐに俺を眠らせてくれた。アナミスに眠らせられる事で、深い深い眠りにつく事が出来、十五分だけでもかなり魔力が回復するのだった。


・・・・・・・・・・・・・・


《ラウル様》


 ギレザムの声がかかった。


《どのくらい経った?》


《一時間ほどかと》


 結構な時間寝ていたらしい。


《動いたか?》


《どうやら動きがあったようです》


《敵も痺れを切らしたかね?》


《どうでしょう?》


 そして俺はすぐにゴーグに念話を繋いだ。


《ゴーグ起きろ》


《はい》


《デモンが動き出した。皆を起こして警戒態勢に入れ》


《分かりました。警戒を続けます》


《頼む》


 次にシャーミリアとガザムに念話を繋げる。


《シャーミリア、状況は?》


《村の中にて、何かがずるずると蠢いております。デモンかと思われます》


《ずるずると?》


《村中を這いまわっているように見えます》


《了解だ。ガザムの方は?》


《こちらからは動きが確認できません。ですが村からの気配は確かにあります》


《了解だ》


 どうやらデモンは村の中で何かをしているらしい、だが何をしているのか迄は分からない。人間達が居なくなってしまったので探しているのだろうか?村の側に、敵がいなくなったのを確認して動き出したようにも見える。


《もう二体も出てまいりました。新たに召喚したデモンもバラバラに動いております》


《なるほど、這いまわっている奴が安全を確認して、残りが出てきたって感じかな?》


《そうかもしれません》


 シャーミリアは上空から監視しているので、良く動きが見えているようだ。


《よし、おびき寄せてみるか。俺が森を出る、皆は鏡面薬を準備して待機。援護の体制に入ってくれ》


《《《は!》》》


《マキーナ!俺が森を出たら、アンフィスバエナにまた叫ばせるようにカナデに伝えてほしい》


《かしこまりました》


 俺が森を出て村の方ににらみを利かせて仁王立ちする。すると森の奥からアンフィスバエナの、強烈な鳴き声が聞こえた。


 キィィィィィィィ!


《どうかな?》


《ご主人様。デモンの動きが止まりました》


《聞こえたようだな》


《東側に集まってきております》


《よし!》


 俺が森の前に立って、M9火炎放射器を召喚して空中に放出する。この炎の明かりは村からも見えているに違いない。


《さて》


 村をじっと見つめていると、村の木の壁の上にあるものが出てきた。


《手?》


 馬鹿デカい手が村の壁の上から出てきた。そして次にぬうっと顔が現れてくる…顔というよりも、髑髏のような者に眼球がついたような気味の悪い奴だ。


《デカいな》


 それは門の形状から見て、かなりの大きさを持っているように見える。そしてその目で、じっと俺を睨んでいるようだ。何者かを品定めしているらしい。


《もう一度、アンフィスバエナに鳴かせろ》


 キィィィィィィィィ!


 それに合わせて俺は再び火炎放射器を放射する。面倒ではあるが、アンフィスバエナを演じる以上は大事な演出だった。


 カチカチカチカチ!


 どうやらデモンは歯を鳴らして威嚇してきているようだ。もしくは何らかの攻撃の準備だろうか?するといきなりそのデカい手の指が輝きだした。


《なんだ?》


《防御を!》


 シャーミリアの声に反応し、俺は咄嗟に横に飛びのいた。すると俺がいた場所には白い光玉が落ちている。見る見るうちに地面が溶けて沈み込んでいくのだった。


《なんだありゃ?》


《次!来ます!》


 再びその指が光ると、俺めがけて光玉が飛んでくる。それはとても速く、俺は避けるので精一杯だった。落ちた場所の地面が凹んでいくが、一体何の攻撃なのだろう?しばらく同じような攻撃を続けてきたので、俺は一度森の中へと退却する事にしたのだった。


《攻撃が止みました》


《なるほどね。デモンの飛び道具の射程距離は、ざっと五百メートルってとこかな》


 敵の攻撃方法の一つは掴んだ。あとはどうやって攻略するかだが、あれを攻略したところで、他のデモンが何をしてくるか分からない。


《総攻撃を仕掛けますか?》


《ダメだギレザム。それじゃあアンフィスバエナじゃないってバレてしまう。もちろん今の段階でバレた可能性もあるが、極力魔人軍としての痕跡を残したくない》


《わかりました》


 とはいえ。あの光玉の攻撃が何なのか分からない。しかし、デモンは村を出てこちらに追いかけてくる事は無さそうだ。恐らく魔人の待ち伏せを警戒しているのかもしれない。今度のデモンは馬鹿じゃないらしい。


《デモンのバティンから、何らかの情報が流れているのかもしれないね》


《そのようですね》


《それなら今度は、俺が北門付近へと向かう。デモンが現れたら攻撃を仕掛けてみる。カララは俺についてこい!》


《はい!》


《了解。それじゃあ北へと向かおう、どうにか外におびき出してみるよ》


《《《《《《は!》》》》》》


 隊を北へと移動させ、今度も俺単独で森を出て北の門へと向かう。カララが鏡面薬を使って俺のバックアップに入ってついてくる。


《デモンが気づいたようです》


 シャーミリアから念話が入る。すると北の門付近の壁の上から、再びあのデカい手が出てきた。


《出てきた》


 すぐに指が輝きだして、俺の所に光玉が飛んでくるのだった。


《カララ!当たるなよ!》


《問題ございません》


 そして俺は光玉を避けながら、北門付近へと近づいて行くのだった。近づいて分かったのだが、デモンはだいぶ大きいようだ。髑髏のような顔に眼球がついた顔が夜空に浮かび上がる。櫓の炎は消えて辺りは暗くなっているが、月明かりのおかげで俺の目にもはっきり映った。


《キモッ!》


 それは巨大な人間の髑髏顔に、カマキリのような眼球がついている。俺は光玉を避けつつ、そいつを良く観察するのだった。


《俺にしか気が向いてないな》


《そのようです》


《じゃ、カララ。やるぞ!》


《はい!》


 俺は不可視化したカララに飛びついて、多数の糸の先にM9火炎放射器を召喚した。デモンはそれには気付かずに俺への攻撃を集中している。デモンが村の壁から更に身を乗り出してきた時だった。


《よし》


 ゴオオオオオオオオオ!


 大量のM9火炎放射器が一斉に炎を吐き出した。


 キャァァァァァァァァ


 デモンが恐ろしいほどの大きな金切り声を上げて、大きな手で両目を覆い隠した。しかしカララの糸で操られているM9火炎放射器は、容赦なく手の上からデモンを焼いて行くのだった。


 ズズズズズズズ!


 たまらずデモンが村の中へと引っ込んで行ってしまった。その時。開いた北門の向こうから、突然触手のような何かが飛び出してきて、俺の足にまとわりついたのだった。しかしヴァルキリーを着ている俺は、転ばされる事無く、その触手めがけてM9火炎放射器を放出する。すると触手は慌てて村の中に引いて行くのだった。


《なるほどね。あくまでも俺を村に引き込みたいんだな》


《そのようです》


 俺は門から離れ、ドカッと腰を下ろし胡坐をかくのだった。


《さて、敵さんはどうするかな?》


 なんだか前世で見たゲームをしているような感覚だ。俺は攻略方法を探しているプレイヤーで、敵は中ボスってところか。そして再び戦いは膠着状態へと陥るのだった。

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