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第74話 幻獣は雪原に消えた

ビュウゥゥッゥゥウゥ



物凄い強風が吹き荒れていた。俺はA-TACS AT-X CAMO(雪迷彩仕様の防寒服)を着て白いヘルメットをかぶり、白い迷彩マフラーを撒いていた。ゴーグルだけがカーキ色をしていた。いぜん極寒の戦闘訓練の時はルゼミア王から下賜されたコートを着たが、こっちの方が機能的でよかったのでこれにした。


ザクザクザク


俺の前を、オークのラーズが進んでいるが、遅れることなくラーズの後ろをひたひたと進んでいた。


「ラウル様。見違えるようですな。」


「ああ、気が操作できるようになってきたんだ。」


「そうですか。それは何よりです。」


「全く問題なさそうだ。」


「はい。」



ビュオゥゥオオォォォォォ


ことさら強い風がふきつけて視界が奪われるが、ラーズを見失う事はなかった。

 実はラーズにも同じ格好をさせていた。雪迷彩の服とゴーグル、そして白い布で包んだノーリンコLG5グレネードランチャーエキスパート(中国製のスナイパーグレネードランチャー)を持たせていた。13㎏と重量が重くNATO口径グレネード-40x53 mm弾を射出した時の反動がハンパないが、怪力のラーズにはどうという事はなかった。対物ライフルより大きい破壊力を誇る。斧を背負ってその上に軍用の雪迷彩のリュックサックを背負っている。


「ラウル様に教えていただいたこの武器にもだいぶ扱いなれてきました。」


「すごいだろ!これ」


「はい・・凄まじいものですな!」


「ラーズには分かってもらえたか、これのカッコよさが。」


「もちろんです。」


俺はLG5グレネードランチャーエキスパートより反動のない、バレットM82対物ライフルを白い布に包んで行軍していた。背中には同じ軍用のリュックサックを背負っている。二人のリュックの中には食料と水筒そして薪が入っていた。以前薪が拾えなくて暖がとれなかったからだ。訓練だと思って何にも頼らなかったことを反省し、今回はフル装備なのだった。


「獲物に出会えるかな? 」


「どうでしょう、私も一度だけ見たことがあるくらいです。」


「そうか・・とにかく何とかしたいな。」


「はい。」


今回は、二人でただ雪中行軍をするのではなく目的を作ったのだった。それは、この国に住む強力な幻獣を狩る事だった。巨大なマンモスとも亀ともとれるような真っ白なバケモノだそうだ。100メートルくらいの大きさらしく、触手がたくさん生えていてグレイトホワイトベアーなどをエサにする大物らしい。


「4日も彷徨っているがなかなか見つけられないな。」


「まあ・・そう簡単に見つかるものではありません。」


2年前の雪中行軍では半日で気を失い死にかけた。やはり、この2年間の訓練で、俺の魔人としての能力は格段に向上しているようだった。今回はさらなる目的もある、無様に帰る事は出来ない。


「ここには見えない割れ目もございますのでお気を付けください。」


「わかった。」


俺達は獲物を求めて山に登ったのだった。極寒の山中は厳しい環境だったが耐えることが出来ていた。クレバスは先に察知してさけることが出来ていた。落ちそうになっても体が先に反応して落ちる事はなかった。


「ところで・・グレートホワイトベアーは冬眠期間中なんだよな?それをエサにしてるやつが、活動しているのか?」


「ええ、間違いなく活動していると思います。」


「どうしてだ?」


「時折、国民が被害にあうからです。エサがない分、魔人を襲って食べるそうです。」


「ならば絶対に放ってはおけないな。」


「そうです。まさかラウル様が、こっそり二人っきりで討伐しようなんて言うとは、私も驚いていますよ。」


「それくらい出来なきゃ、前回の汚名返上できないからな。巻き込んでしまってごめんな。」


「いえ、私も前回の責任がありますゆえ、とことんお付き合いさせていただきます。」


そうなのだ。伝説の魔獣を二人で狩ってびっくりさせようという計画なのだった。ラーズも前回の汚名を挽回するために協力してくれているのだ。深い雪をかき分けてどんどん進んでいく。あたりは日中から暗かったが、今はたぶん夜だったので俺は休むようにラーズに言う。


「ラーズ、この洞窟で休もう。」


「はい。」


山奥にあった洞窟に入っていくと、ラーズが警戒し始めた。


「ラウル様、どうやら魔獣がいますね。」


「ああ、かすかになんかの気配を感じる。」


「おそらく気配からすると、グレイトホワイトベアーです。」


「冬眠してるのか・・」


「そのようです。」


「じゃあ起こさないように静かにしていよう。」


「警戒だけはしておきましょうか?」


「そうだな。」


どうやらこの洞窟の奥にはグレイトホワイトベアーがいるらしい、大陸のレッドベアーと同じように巨大な体のシロクマだった。ただ冬は冬眠するため洞窟などで眠るが、そっとしていれば大丈夫だろう。


「じゃあ食べ物と火は無しにしよう。交代で寝ることにすればいいだろう。」


「それではラウル様がお先にお休みください。」


「わかった。1刻(3時間)ほどしたら勝手に起きるよ。」


「はい。」


俺はストンと眠りに落ちた。最近は気の操作で速攻で深い眠りにつくことができる。3時間も熟睡すれば体力は十分回復するので問題ない。


「どうだ?特に変化はないか?」


1刻(3時間)ほどしてスッと目が覚めた。熟睡したので体力は回復しているが空腹だけはどうしようもない。


「ラーズ寝ていいぞ。」


「は!」


ラーズはその場で座り込んで目を閉じた。


しばらくは静かだった。火を焚いていないので灯りはないが、外の極限の寒さと違って何とかしのげた。

 俺は気配も感じ取る事が出来るようになっていたが、ENVG-B暗視ゴーグルを召喚して着けていた。奥をじっと見るが魔獣の動きはなさそうだ。俺達の今日のターゲットはグレイトホワイトベアーではない、出来ればじっとしていて欲しいものだ。むやみに殺したくはない。





「ラウル様、いかがでしょう?」


1刻(3時間)ほどたってラーズが起きて声をかけてきた。


「大丈夫だ、特に何も・・・」


「・・・」


俺とラーズが同時に何かに気が付いた。なにやら奥から動く気配が近づいてきたのだ。


「かわいいのがいるな。たぶんグレートホワイトベアーの子供だ。」


「こちらに気がつきましたね。どうします?」


体長は1メートルくらいしかない、白くて毛の長い熊がいた。


「殺したくない、逃げよう。」


「はい。」


と思ったら、いきなり俺たちに興味をしめしたらしく、一気に距離をつめてきた。



「走れ。」


2人は洞窟の入り口に向かって走ると、熊の子供もついてきた。


「まずいな。」


「ですね。」


「追い返そう。」


俺たちは立ち止まって振り返る。楽しそうに小熊が近づいてきた。


ズドン!


俺は天井に向けてバレット M82を威嚇射撃した。すると白熊の子は止まった。


「うぉぉぉんっ」


白熊の子はびっくりして叫んだようだったが・・発砲音と子供の叫びを聞いて、親のグレートホワイトベアーが奥から出てきてしまった。


ドドドドドド


「ありゃりゃ!急げ!」


一気に駆け抜けて洞窟の外へ出たときだった。




グボォォォォォォォォン


物凄い重低音の響く音が聞こえた。


「なんだ?」


「ヤツです」


「例の幻獣か…」


吹雪の中に巨大な何かが動いているのが見えた。


「デカイな!」


「気を付けて下さい」


相手は渓谷に立っているのだろうが、それは体の上半分だけでも50メートルくらいの高さがある。背中には触手が生えていて、全部に口があった。頭からしっぽ?蛇のようなしっぽまでは150メートルはありそうだ。


「ガアアァァァ」


後ろからは洞窟からグレイトホワイトベアーの親子が出てきた。


「こら!でてくるな!」


俺が叫んだ瞬間、巨大怪物の何本かある触手のうちの一本がグレイトホワイトベアーに伸びて、あっというまに母親をからめとってしまった。あっという間に100メートルくらい上空に持ち上げられてしまう。


「くそ!ラーズ触手を撃て!」


「は!」


ラーズがLG5グレネードランチャー、俺がバレットM82対物ライフルを触手の途中に打ち込む。


ガズゥン ガズゥン ガズゥン

ズドン ズドン ズドン


グゴオオオオオオオオン


重低音の叫び声と同時に触手の一部がはじけるが、巨大魔物はグレイトホワイトベアーを手放さなかった。俺はリュックサックとM82対物ライフルを投げ捨てて、ロシア製のRPG-32 Hashim ロケットランチャーを召喚した。一気にグレイトホワイトベアーを掴んだ触手に走り寄っていく。ここからなら当たる!


ドン!ズガァーン!


グァボアァァァァァァァァ


ものすごい幻獣の重低音の叫び声と共に、ロケットランチャーが炸裂する。触手の中央あたりにあたって、触手がはじけ飛び触手ごとグレイトホワイトベアーが落ちてきた。


ズゥウン


ラーズが落ちてきた8メートルはあろうかという、グレイトホワイトベアーを受け止める。しかしグレイトホワイトベアーは動かないようだ。すごい力で絞められ少し潰れたかもしれない。


「きます!」


すると四方から他の太い触手が俺達に迫ってきた。触手の直径は10メートル近い。


「いったん俺が食い止める、熊を安全な場所へ」


「は!」


俺はM61A2バルカンを召喚した。重量112キロ20x102mmの弾丸を毎分6000発射出する化物だ。通常は戦闘機などに搭載されているがそれを台車ごと呼び出した。


バララララララララララララララ


ものすごい勢いで弾丸が射出される、触手の肉がはじけボロボロになりつつも、俺を襲おうと追撃の手を緩めない。しかしM61の威力に近づけないでいるようだった。


グボォォォォォォォォォン


また重低音の幻獣の声が響き渡る。すると・・


ゴゴゴゴゴゴゴ


地鳴りがし始めた。山の上の方を見ると・・なんと雪が大量に滑り落ちてくる!雪崩だ!!M61A2バルカンを放棄し脱兎のごとく洞窟の方へ走り出すが、一歩及ばず雪崩に飲まれてしまった。



「ぐおっ!しまっ・・」


縦だか横だかわからんようになってしまった。


ヤバイヤバイ!



ようやく動きが止まった。いま自分がどういう状況かは分からないが視界は真っ暗だ。


「う、動けない・・」


少しずつ苦しくなってきた。


「呼吸を整えないと・・」


少し心拍数を抑えて酸素の消化量を減らすように努力する。しかしここまで走り抜けたせいもあってなかなか収まらなかった。動けなくなり7分は経過しただろうか・・まだ、俺は意識を保つことが出来ていた。


「抑えろ・・・」


10分ほど経過したころ、そろそろヤバくなってきた。


「ぷ・・プ八ぁ」


肺にためていたものを全て吐き出してしまった・・


「し・・死ぬ。」


と思った瞬間だった。


ボコォ!


と俺の足首を持って雪から引っこ抜かれたのだった!



「ゴホゴホ!ぷはぁああぁぁ」


思いっきり酸素を肺に詰め込んだ。


「大丈夫ですか!?」


ラーズが俺の匂いで探し出し、掘り出すのに時間がかかったようだった。


「ありがとうラーズ助かった!あいつは?」


「いなくなりました。」


「そうか・・あんなのを退治しようとしてたんだな。俺達・・」


「ええ・・無謀でしたね。」


「プッ・・アハハハ」

「ハハハハ」


俺とラーズは二人で大笑いした。


「ところで・・グレイトホワイトベアーは?」


「それが・・」


二人で洞窟に入っていくと、倒れたグレイトホワイトベアーの横に小熊がいた。


「ウォォオオン、ゥォォオオン」


動かない母クマに小熊が寄り添って叫び声をあげていた。


「ラーズ、どうだ?」


「だめです。虫の息です。」


「しばらくここにいてやろう。」


「そうですね。」


俺たちがこの洞窟にさえ来なければ、この母熊は死ななくてすんだ・・申し訳ない気持ちでいっぱいだった。しばらく親子のそばで見守っていた。すると・・しばらくして子供のグレイトホワイトベアーが泣き止んだ。


「ごめんな。そんなつもりじゃなかったんだ。」


俺は子供のホワイトベアーに話しかけた。


「でも・・この子供・・ここに置いて行ったら外に出ますね。」


「だと死ぬだろうな・。」


「ええ・・」


俺達二人はしばらく考えこんだ。そしてある結論に至った・・


「母熊の死体と小熊を連れて下山しよう。」


「つれていくんですか?」


「このさい仕方がない。」


「わかりました。」



俺はナイロン製のテントを召喚して、母熊の遺体をくるんでやった。


「マグロ缶を食わせてやるからな。」


その後マグロ缶を大量に召喚して開けてやると、子供のグレイトホワイトベアーはガツガツと食い始めた。しかし・・食べるな・・40個くらいのマグロ缶を食べてようやく落ち着いた。


「くぉおおん。」


「ん?お礼か?」


俺とラーズが二人でナイロンに包まれた遺体を外に運び出すと、いつの間にか太陽が昇っていた。短い昼間が訪れたのだった。ぬけるように青い空がまぶしく俺達を照らしつけていた。


「まぶしいな。」


「そうですね。」


「じゃあ山をおりよう。」


「はい。」


俺達はロープで括り付けられナイロンにくるまれたグレイトホワイトベアーの遺体を、二人で雪の上をずるずると引きずりながら進むと、小熊のグレイトホワイトベアーが後ろをちょこちょことついて来た。


「グレイトホワイトベアー飼っていいって言われるかなぁ?」


「うーん・・まず誠心誠意お願いすれば、ルゼミア様もお許しになるでしょう。」


「だといいなあ・・」


俺はテクテクとついてくる小熊を見て軽くため息をついた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 二年ぶりの雪中行軍…武装はあくまでも訓練の護身の為…と、思いきや、魔獣討伐も兼ねてるとは… 流石に二年も経過してると、少なくともラウル君の配下や近しい人達は召喚術の事を知っているようですね…
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