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第737話 デモンがいる村へ

 俺達が開放した商人達が、人形に連れられて村に入ったのを確認した。商人達は夢と現実の狭間で、神獣の御告げがあった事を村人に話すだろう。アンフィスバエナが襲ったら逃げるように、村人を説得できればいいのだが、上にバレれば彼らが反逆罪で処分される。その前に俺達が事を起こす必要がある。


 俺はヘリを操縦しているマリアに話しかけた。


「少し視界が悪いな」


「風があるようなので、砂が舞い上がっているのでしょう」


 操縦しながらマリアが俺に答える。俺達はCH-47チヌークヘリにアンフィスバエナを吊るし、砂漠の上空を飛んでいた。見つからぬよう山脈の奥から目的地の村を大きく迂回し、西側の砂漠へとやって来たのだった。上空から更に西を見れば、空母落としをした地が瘴気渦巻き、うねりを上げているのが分かる。


「カナデ!」


 俺は後部座席に座っているカナデに声をかけた。


「はい」


「体はどうだ?」


「十分回復しました!魔力も溜まっているようです!」


「了解だ。それじゃあこのあたりで良いかな」


 あの村の住人をどれだけ救えるかは分からないが、偽装工作はやるだけやった。あとは、住民達の救出作戦に取り掛かるだけだった。


「細工は流流仕上げを御覧じろってところだな」


 俺が言うとコクリと皆が頷いた。言葉の意味を分かっているのだろうか?魔人の系譜を伝って、だいたい俺の言いたいことは分かっているだろうけど。


「マリア、このあたりにヘリを降ろしてくれ、アンフィスバエナもいるからそーっとな」


「はい」


 マリアはすっかりヘリの操縦に慣れていた。きっと『マリア』と書いて『何でもできる』と読むに違いない。俺は幼少の頃から、この天才にずっと救われてきた気がする。チヌークへりのタンデムローターが、砂塵を巻き上げて砂漠へと着地した。


「ここで日が暮れるのを待って村に向かう」


「「「「「「は!」」」」」」


 熱砂の砂漠は人間組の体力消耗が激しいので、エアコン付きの自衛隊軽装甲機動車を召喚し、カトリーヌ、カナデ、マリアをそこに待機させる事にする。俺はヴァルキリーを着ているから問題はないし、魔人達はそのままCH-47チヌークヘリで待機してもらう事にした。


「ラウル様」


 カナデが俺のところまで来て話しかけてくる。


「なんだカナデ?」


「この子が、嫌がってます」


 カナデはアンフィスバエナを指して言った。


「…暑いのか?」


「はい」


「わかった、コイツをヘリに乗せろ。みんな!ヘリの中が少し生臭くなるかもしれないがいいか?」


「問題ございません」


「おとなしくしてるのよ」


 カナデが言葉をかけると、アンフィスバエナが後部ハッチからチヌークの内部に収まっていく。コイツにはたくさん働いてもらわなければいけないので、体力を温存してもらう必要があった。あとは時間が来るまでじっと待つのみだ。そして次に俺は装備しているヴァルキリーにある事を聞く。


《ヴァルキリーは『それ』が嫌じゃないか?》


《はい、我が主。全く問題ありません》


《そうか》


 俺はアンフィスバエナ化身設定を更に強く印象付けるため、アンフィスバエナからはがした鱗をヴァルキリーに取り付けていたのだった。装甲の上に鱗をはりつける事で、どこからどう見てもアンフィスバエナの化身になれている気がする。


「作戦決行まであと少しだ。日が沈めば気温は下がる、そしたら村へと向かうぞ」


「「「「「「は!」」」」」」


 そして時間は過ぎ太陽は西の地平線に沈んでいった。太陽が沈み気温が下がってきたので、暑さを嫌がっていたアンフィスバエナを外に出す。


「暑いけどお前もがんばれ」


 シャー―――


 ん?今返事した?


「みんな!行くぞ!」


 俺達が隊列を組み、その後ろをマリアが運転する自衛隊軽装甲機動車がついてくる。そのまた後ろにアンフィスバエナがついて来ていた。そして俺はすぐに、村の監視のために配備したガザムに念話を繋げる。


《ガザム!村の様子はどうだ?》


《静かなものです。南北の門の付近に、大量の人形を配置して警戒していますね》


《よし。まんまと俺達の策に乗ってくれているってわけだ》


《今のところはそのようです。計算通り砂漠側は警戒されていないようです》


《了解だ。警戒を怠るな》


《は!》


 そして砂地から次第に地面が硬くなり、荒野ゾーンへと突入する。土地には全く草木が生えていないようだ。そろそろ敵から発見される可能性がある為、自衛隊軽装甲機動車を廃棄する必要があった。


「マリア!車を処分するぞ、カトリーヌとカナデも降りてくれ」


 三人が車を降りると、カララがあっという間に自衛隊軽装甲機動車を分解し、証拠を残さぬようにファントムが車両を土に埋める。日が落ちて暗くなっているので、ここまでは見通せないだろう。更にここから前進するために、更にひと手間かける必要があった。


「武器を召喚する、受け取ってくれ!」


「「「「「「は!」」」」」」


 ギレザム、ファントム、アナミス、シャーミリア、マキーナにM9火炎放射器を持たせた。アンフィスバエナ火炎マシマシ、さらに倍、そしてドン!作戦だ。


「後方支援組の装備を渡す」


 マリアにはTAC50スナイパーライフルとナイトスコープを、狼形態のゴーグの背中には12.7㎜M2重機関銃を設置し、ルフラを纏ったカトリーヌがその背中に射手として乗った。俺とカララが手ぶらで状況に応じて対応する事にする。


「全員、鏡面薬で体を隠せ!」


 俺とアンフィスバエナ以外の全員、魔人も人間も鏡面薬を使って不可視化するのだった。


「カナデもカトリーヌと一緒にゴーグに乗れ」


「ラウル様。この子に細かい指示が出せなくなりますが?」


「アンフィスバエナに乗るか?危険だぞ」


「大丈夫です。この子が守ってくれます」


「じゃあ乗ってくれ。マキーナは護衛の為、一緒にアンフィスバエナの背中に」


「は!」

「はい」


「カナデは魔法で俺を不可視化してくれ!」


 カナデの不可視化魔法で俺の姿も見えなくなった。これで姿を現しているのはアンフィスバエナだけとなる。皆の準備が出来たので、先に進むために号令をかける。


「まだ距離はある。ガザムからの連絡ではこちら側は警戒されていないらしいが、全員気を抜くなよ。突然バティンのようなデモンが出る可能性もあるからな」


「「「「「「は!」」」」」」


「いくぞ!」


 そして俺達は村に向かって歩く。今宵は月が出ているようで、全く周りが見えない訳ではない。この荒野には草木が生えておらず、地面もかなり硬いようだった。砂漠のサメやサソリがこっちに来ないのは、土地の影響もありそうだ。俺は再度ガザムに念話を繋げる。


《ガザム、こちらは不可視化した。まもなく到着する》


《こちら特に動きはございませんが、十分ご注意ください》


《了解だ》


「よし!後方支援組はここで待機だ」


「「「はい!」」」


 透明なのでどこにいるのか分からないが、マリアとカトリーヌとゴーグが返事をする。


「全員、万が一デモン召喚魔法陣が発動してしまったら、後方待機組の所に集まるんだ」


「「「「「は!」」」」」


「じゃあ、ここの指揮はマリアが頼む」


「かしこまりました」


「他のみんなは、先に行くぞ!」


「「「「「は!」」」」」


 更に進み村が見えてきたが、木の塀で囲われているため町の中は見えない。小さい魔獣の対策は出来ているようだがアンフィスバエナのような、大型の魔獣の対策はされていないように見える。


《カララ》


《はい》


《これから俺が使用し終わった武器は、全て粉々に破壊してくれ》


《かしこまりました》


《マキーナは、カナデにここで待機するように伝えろ》


《は!》


《全員アンフィスバエナの周りに!》


《《《《は!》》》》


 俺の指示と共にアンフィスバエナが停止した。地面にふせるようにして目立たないようにしてくれている。


《じゃあ、カララいこうか》


《はい》


 俺とカララが先行して、村の外壁のそばまでやって来る。二人とも不可視化しているため誰からも見つかる事は無いだろう。


《じゃ、切ろう》


《かしこまりました》


 カララは木の塀を糸で丸く切り取って、人が入れるだけの穴を空けた。俺とカララはその穴を通って村に足を踏み入れてみた。何かが発動するかもしれないと思い、緊張したが特に何も起きなかった。


《あの商人を探すぞ》


《すぐに見つかります》


 カララは自分の糸が切れても、どこにあるのかが分かるのだ。あの商人の娘に糸を一本巻きつけて解き放ったので、その糸をめどに探せばすぐに見つかるらしい。恐らくあれに気が付く者は誰も居ないだろう。カララの目に見えない細い糸は、空気にも浮かびあがるくらいに軽い。それなのにタングステンワイヤーよりも強度があるのだ。


《では》


 カララはその見えない糸を俺に巻き付けた。もちろん不可視化しているため、俺とカララがはぐれてしまわないようにだ。カララが飼い主で俺が犬みたいなもんだ。よくわからんけど。


《デモンだけは気をつけないと》


《大まかな位置は掴んでおります》


《了解だ》


 そしてカララの言うとおり商人がいる家はすぐにわかった。まだ明かりが灯っていて起きているようだ。俺達は家に近寄り窓から内部を覗き込んでみる。


《いた》


《はい》


《一人じゃないぞ》


《そのようです。一体誰なのでしょう?》


 覗く建物の中で、あのロームという商人と数人の人間が話をしていた。


《何を話しているんだ?》


《聞いてみましょう》


 カララが窓ガラスに糸を張り付けて、ピンと張りヴァルキリーの頭のあたりにくっつけた。すると内部の音が俺に聞こえてきたのだった。えっと…これはあれだ、糸電話だ。


「一体いつ襲ってくるというんだ?」


 ローム商人ではない男の声が聞こえる。集団の中の一人が話をしているようだ。


「それは、分からない。だが、わしは本当に聞いたんだ」


 ローム商人が必死に答えた。


「信じられるものか、あんなバケモノと話をするなど」


「本当だ」


「ばかばかしい、そもそもあれが神獣などと」


「いえ、私も確かに聞いたのです!」


 あの時一緒にいた御者も肯定するように話している。どうやら俺が言った神獣が襲って来るから逃げろ、という話をしてくれているようだった。


「そもそも餌にされそうなところを、バケモノから助け出されたのではないのか?領主さまがドゥムヤを出してくれたのだぞ」


「それはそうだが、おぬしらはあのドゥムヤの事をどう思っておるのだ!?」


「新しい王様が連れてきてくれた、強い兵隊だろ」


 他の奴が怒ったように言う。どうやらローム商人の事を誰も信じてないようだ。あの人形たちに絶大な信頼をおいているらしい。


「神獣様がおっしゃるには、あれは悪しきものが遣わしたというのだ」


「またお前はそんなことを!日中も街の人間にそんなことを言っていたではないか!」


「だから、本当に見たのだ!この耳で確かに聞いたのだ!」


「毒でも食らったんじゃないのか?」


「いたって正気だ!」


 なるほどなるほど…俺の言いつけを守り、人間達に逃げるように説得してくれたが、逆に街の識者に説き伏せられているようだ。人間は、やはり神獣のお告げなど信じられないようだ。


《カララ。どう考えても、あの人形の存在の方がおかしいのになぁ》


《そうですよね…。恐らく正しいことが見えなくなっているのでは?》


《偽りの平和でも、あの人間達にとっては本物なんだろ》


《盲目ですね》


《そう言う事だ》


 この街の人間は既にデモンに飼いならされているのかもしれない。少しは助けられるかと思ったが、どうしたものか…そんなことを考えつつも俺とカララは次の作戦に移るのだった。

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