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第729話 双頭の大蛇

俺達が拠点で待っていると、シャーミリアがキチョウカナデを連れて帰って来た。キチョウカナデはパイロットスーツとヘルメットとマスクをつけ、酸素ボンベを装着している。シャーミリアの超高速飛翔に耐えるために、俺が頼んでつけてもらったのだった。


「キチョウカナデを連れてまいりました」


「よし!こっちだ」


俺達が潜伏している高台の奥に森があり、カララが捕らえた双頭の大蛇がそこにいた。大蛇はカララの糸でぐるぐる巻きにされているため、全く身動きはとれないようだが殺気をガンガンあふれさせている。その目はジッと俺達を睨み、今にも殺されそうな勢いだ。


「ほう、これは素晴らしいです」


シャーミリアが珍しそうに見ている。


「この山脈の洞窟で見つけてきたんだ、北では見た事ないから珍しいよな」


マリアがキチョウカナデのボンベを外し、マスクも外してやる。マスクの下からはカナデの、ギャル顔がぴょこっと出てきた。少しふらふらしているのは、シャーミリアの高速飛翔のせいだろう。セーブしたとはいえ、あれは人間にはかなりの負担がかかるのだ。


「カナデ!大丈夫か?」


「ラウル様!お呼びいただきありがとうございます!」


俺の心配をよそに、とてもうれしそうに答えてくる。


「すまないね。カナデにやってほしい事があってさ」


「わかりました」


「この蛇を使役して村の周りをウロウロさせたいんだが、出来るか?」


「はい!出来ます!」


「あくまでも村は攻撃しない方向でだ」


「出来ます!やらせてください!」


「わかった」


カナデは無造作に、双頭の蛇に近づいて行く。


「ちょっとまて!ファントム!カナデを保護しろ!」


《ハイ》


ファントムがキチョウカナデの前に立ち、双頭の蛇へと近づいて行く。ファントムが近づく事で、双頭の蛇はとても興奮し始め暴れようとする。だが暴れようとするほど、カララの糸がきつく締めつけて完全に動けなくなった。


「大丈夫ですよ」


キチョウカナデはそう言って、蛇の顔の正面に立ち蛇の目を見つめて手をかざす。


「うっ」

「むっ」


すぐにシャーミリアとマキーナがかすかに声を出した。


「どうした?シャーミリア?」


「とてもうるさい音がしました」


「えっ?」


俺には全く聞こえなかった。だがシャーミリアとマキーナには、大きな音が聞こえたらしい。彼女らは耳の感覚が鋭いため、俺には聞こえない音が聞こえているようだ。


「終わりました」


キチョウカナデが言うと、双頭の大蛇は目を閉じて眠るようになった。既に使役出来ているようだが、俺達から見て何が変わったかは分からなかった。


「糸を解いて大丈夫か?」


「はい」


俺は念のため、AT4ロケットランチャーを召喚して双頭の蛇に狙いを定めた。


「カララ、糸を緩めてみてくれ」


「はい」


カララが糸を緩めても、双頭の蛇はピクリとも動かなかった。殺気は消えて、穏やかに眠っているかのように見える。完全に糸を緩めても大丈夫なようで、双頭の蛇は地面に横たわっている。


「寝てるのか?」


「いえ、寝てはいません。私が落ち着いて目をつぶるようにさせているだけです」


「そうなのか?」


「はい」


「起こしてみてくれ」


俺が言うと、すぐさま双頭の蛇がスッと目を開ける。だが暴れる様子もなく、じっと俺達を見ているだけだった。


「動く?」


「もちろんです」


キチョウカナデは、大蛇に向かって手を上げる。すると大蛇はジッとカナデの手のひらを見つめていた。まるで催眠術士のように、ゆったりとその手を揺らす。すると大蛇の二つの頭が左右に揺れるのだった。


「凄いな…」


俺が言うと、マリアもボソッと呟いた。


「イオナ様とはまた違うようです」


確かにそうだ、イオナはどちらかというと手懐けるといった感じだ。だがこれは、催眠で操っているかのように見える。カナデが更に大きく振りかぶると、双頭の大蛇は鎌首を上げて俺達を見下ろした。


「完全に入ってます」


カナデが言う。


「俺が言ったように、村の周りをウロウロさせたいんだがどうしたらいい?」


「私がこれに乗って行けば、すぐにでも」


「いや、それはダメだ」


キチョウカナデを犠牲にするわけにはいかない、彼女の能力は貴重だし、これからも働いてもらう必要がある。それにも増して、将来的に前世に戻せるなら戻してやりたいと思っているのだ。


「で、あれば。少しお時間を必要とします」


「どのくらいだ?」


「一日あれば出来ます」


「わかった。どうすればいい?」


「この森で、この子を仕込みます。森に魔獣とかはおりますでしょうか?」


「小さいのがいる」


「わかりました。それならばなおの事、好都合です」


「マキーナとガザムとゴーグが彼女の護衛についてくれ。完全に使役できるようになったら、すぐに作戦決行する」


「「「は!」」」


そしてキチョウカナデと魔人三人は、双頭の大蛇を連れて森の中へと入って行った。俺達は一旦拠点に戻り、これからの作戦について詳細を詰める事にした。


「凄いですね…」


拠点に戻りマリアがカトリーヌに森で起きたことを聞かせると、カトリーヌはその力に驚いている。俺達魔人もキチョウカナデの能力を見るのは初めてだったので、改めて彼女の力のヤバさを実感していた。


「あんな感じなんだな」


「ええ。あれは…私奴の眷属支配か、アナミスの催眠に似ているようです」


「そう見えるか?」


「はい、イオナ様のように心を通わせているという感じではございません。命令を聞かねばならないと、双頭の大蛇が思っているようです」


「絶対服従って感じか…」


「はい」


一体、カナデは幼少の頃なにに憧れていたのだろうか?俺が察するに、前世の催眠術のテレビ番組を真に受けているように思える。しかしそれは、この世界では現実のものとなるのだ。つくづく彼女の魂核を書き換えて良かったと思う。あのまま前世に帰したら、取り返しのつかない事になりそうだった。


「そろそろ夜が明けるようです」


ギレザムが言う。薄っすらと空が紫色になり、見渡す森のあちこちで鳥のさえずる声が聞こえてきた。村を見れば灯りが消されているようだった。


「ドローンで偵察する」


俺はすぐさま、監視用の軍事ドローンを呼び出して飛ばしてやる。モニターには森が映し出され、その先の村へと一気に飛んでいくのだった。村では既に村人達が動き始めていた。どうやら昨日到着した、商隊が市場に物資を並べ始めているらしい。


「やっぱ人々は、普通に暮らしているみたいだな」


そう俺が言うと、俺の隣りでモニターを覗いていたギレザムが、何かを気にしているようだ。


「あの人形たちはどこへ行ったのでしょう?」


「わからん」


「勝手に動いているようでしたが」


「操ってる者がどこかにいるんだろうか?もしくはグレースのように命を吹き込んだとも考えられる」


「はい、動きも自然でしたし。何か…不自然な感じでしたね」


「だな。あんな自然な動きが出来るなんてな、グレースにも見せてやりたい」


そんな事を話ながらも、ドローンを旋回させて上空から村の内部を監視し続ける。だが村に変わった様子はなく、普通の生活をしているようにしか見えなかった。ドローンを飛ばしていると八本足の馬を見つけた。馬は綱で大木に繋がれて、おとなしく餌を食っている。


「スレイプニルだわ」


カトリーヌが呟く。どうやらあの魔獣の名前を知っているらしかった。


「スレイプニル?」


「あれは唯一、人間の言う事を聞く事があると聞いています」


「そうなのか?」


「特にバルギウス帝国で使われた事があると、子供の頃に聞いた覚えがあります」


「バルギウスか…」


「昔話に出てくるようなものですが」


「なるほどね」


俺は重点的にスレイプニルのいる周辺を探査してみるが、これといった手がかりを見つける事は出来なかった。あの謎の人形の情報と、デモンの情報が取れればいいと思うのだが影も形もない。


「やはり陽動しかないだろうな」


「そのようですね」


「あの双頭の大蛇に村を襲わせれば、人間達は外に逃げ出してくれるんじゃないか?」


「デモンが出てくる可能性もあります」


「そうだな。ひとまず作戦までに、村の地図と構造を頭に叩き込んでおこう」


「「「「「は!」」」」」


それからしばらくは、村の中と周辺をくまなくドローンでチェックした。デモンの居そうな場所については三か所、人形が隠れていそうな場所も確認できたが一切の確証はない。俺が怪しいと思ったのは、逆に人の出入りが全くない場所だった。もしかしたらただの空き家の可能性もあるが、何かが潜んでいる可能性も否定はできなかった。


「暑いな」


俺はヴァルキリーを脱いでいるので、直接暑さが身に染みてくる。昨日のマリアとカトリーヌもこの環境に居たので、バテてしまいそうだが上手に水分補給をして塩も取っていた。


「この車の中に居ればある程度は大丈夫です」


木の板のような物でパタパタと顔をあおぎながら、カトリーヌが言った。


「マリアも大丈夫か?」


「問題ありません。暑いとは思いますが、高台なので風が入ります」


「確かにな、とにかく明日までの辛抱だ」


「「はい」」


既に太陽は真上を通り過ぎて傾き始めていた。時間としては一番暑い時間帯だった。岩塩と水分補給をして、体がまいらないように気を付ける。ドローンでの偵察は一旦中止して、皆でじっと待機しているのだった。


「ちょっと、カナデたちの様子を見てくるよ」


俺がそう言うと、カトリーヌがこちらを見る。


「私もその双頭の大蛇を見たいのですが」


「わかった」


「ルフラ!カトリーヌを頼む」


「はい」


ルフラがカトリーヌに近づき、スッと水のようになって彼女を覆い隠した。ズズズズっと、カトリーヌにスライムが浸透していく。


「あっ…」


ルフラは感覚を共有するために穴という穴に入り込むのだが、あの感覚だけは慣れるものではないだろう。


「じゃあ行くか?」


「はい」


「みんなは監視を続けてくれ!」


「「「「「は!」」」」」


そして俺達は、カナデたちがいる場所へと向かうのだった。


「楽しみです」


「凄い奴だったよ」


「そうなのですね?」


大蛇なんて見たくないのかと思いきや、カトリーヌはウキウキとして俺についてくる。まるで休日に散歩しているかのような雰囲気だ。俺達が森に入って行くとゴーグが居た。


「あ!ラウル様!面白いですよ、ほら!あれ!」


俺とカトリーヌが、嬉々としているゴーグの指をさす方を見る。


「えっ!」

「なに?」


俺達の視線には信じられないものが映っていた。なんと双頭の大蛇が、お互い大木を加えてブンブンと振り回している。まるでダンスでも踊っているかのようだった。


「あれは何をしてるんだ?」


「よくわかんないです」


ゴーグに聞いても分からんようだった。俺はその大蛇の近くにいるキチョウカナデの所に行く。


「あ、ラウル様!ようやくここまで出来るようになりました!」


ここまでって…


「これは何をしてるんだ」


「ちょっと見ててください」


よく見れば、大蛇の二つの頭はシンクロするように全く同じ動きをしていた。大木をクルクルと回しているのだが、やたら規則的に動いているように見える。それを見ていた俺はなんとなく何をしているのかが分かってきた。


「もしかして、バトントワリングか?」


「はい!」


なんと、双頭の大蛇はカナデの指示でバトントワリングをしていたのだった。それはそれは、器用に大木をクルクルと回し息をぴったりと合わせ、お互いのバトンを交換したりしている。


…これ…見世物になるじゃないか!


俺はまた、新しいビジネスのタネを発見するのだった。

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