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第725話 南部の村の異様

ギレザムとガザムとゴーグが俺達のもとへ到着した。こちらが掌握した情報は念話で、全てヘリ待機組にも伝わっている。それを受けヘリ待機組が話した内容をギレザムが告げてきた。


「ここに来る前にカトリーヌ様がおっしゃっていたのですが、人質の可能性は無いのでしょうか?」


なるほど、デモンと人間の連合軍ではなく人質の可能性は大いにあった。ファートリア神聖国戦でも最初に大量に人間を送り込んで来たが、生贄としてデモン召喚の材料になってしまった事もある。今回もそのパターンかもしれない。


「ドローンで探るか…」


「感づかれてしまった場合はどうされます?」


「そうだな…一度マリア達のヘリを遠ざけて、俺達は山脈方面に潜伏するか」


「ヘリを感知されてしまうのでは?」


「あっちにはカララもファントムもいる。逃げる事くらい出来るさ」


「…囮ですか?」


「そのつもりはないよ。バティンのようなデモンもいるような状況だからな、むしろ既に感づかれている可能性だってある」


「バティンとは、北で遭遇したというデモンですね?」


ギレザムたちはバティンの存在を知らない。火の一族とも遭遇していないので、そいつらの危険性は分かっていない。


「ああ、シャーミリアでも気配感知できなかった奴だ」


「シャーミリアがですか…厄介ですね」


「そうなんだよ」


ギレザムがシャーミリアを見ながら驚いている。するとシャーミリアが口を開いた。


「ギレザム、敵は恐らく別空間に逃げ込んでいる。私の気配感知を搔い潜るとなれば、そう考えるのが妥当だわ」


「別空間…なるほど…」


ギレザムが何かを考え込むように口を噤んだ。


「何かあるのか?」


「いえ、遭遇してみねば分かりませんが、我ならどうにか出来るかもしれません」


「そうなのか?」


「確証はありませんが、時が来たらやってみましょう」


「わかった」


ギレザムには何か策があるらしい。


「敵地にドローンを潜入させる、もう少し近づこう」


「「「「「は!」」」」」


俺達は森を更に南進し、敵との距離1.5キロメートルにまで近づく。偵察ドローンからの映像が届くのは1.6キロメートル以下なので、これが限界の距離だった。


ガパン!


ドローンを操縦するために俺はヴァルキリーを脱いだ。そしてすぐにブラック・ホーネット・ナノを召喚する。10×2.5 cmの超小型ドローンだ。


「何が出るかな?」


ブラック・ホーネット・ナノを飛ばして、俺達はモニターを見た。


「村だな」


ドローンから送られる映像には少し大きめの村が映っていた。周囲に木の柵が施されており、中の様子はうかがい知れない。俺はそのままドローンを上に飛ばして、柵の中を映し出してみた。村には普通に建物が立っており、破壊されている様子もなかった。


「人がいるぞ…」


ドローンからの映像には人間が映っていた。しかしその様子はおかしかった…


「普通に暮らしてないか?」


「はい」

「そのようですね」


ギレザムとシャーミリアが答える。俺達がのぞくモニターの映像では、人間達が普通に生活をしているように見えた。


「ミリア、デモンはいるんだよな?」


「確かに気配はします」


「ラウル様。我にも感じます」


オーガ達は三人とも気が付いているようだ。どうやらあの村では、デモンがいるにもかかわらず人間が普通に生活をしているらしい。もしくは生活しているのを装っているのかもしれないが。


「周ってみる」


ブラックホーネットナノを、村の周辺に沿って飛ばしながら中の様子を探ってみる。しかしどこからどう見ても、普通に生活しているようにしか見えなかった。


「どういうことだ…」


「魅了でしょうか?」


「わからん」


ブラックホーネットからの映像だけでは、人間達が魅了されているかどうかは分からなかった。だが魅了されているとしたら、あんな自然な生活風景になるだろうか?


「馬とかもいるし、荷馬車もあるぞ。どう見ても平和な村の風景だ」


「潜伏してみますか?」


ガザムが聞いてくる。


「感づかれないか?」


「私なら気配を断てます」


「ガザムであれば問題ないかと」


ギレザムもその能力に太鼓判を押してくる。


「よし、少しでも危険だと思ったら逃げるんだ」


「は!」


シュッ!とガザムが消えた。そしてすぐに念話が届く。


《潜伏いたしました》


《中の様子はどうだ?》


《映像のままです。普通に生活しております》


《マジか…》


《はい》


《何を話しているか分かるか?》


《他愛もない話が多いですね。雨が降らないので畑の作物が育たないとか、家の扉の立て付けが悪くなったとか…めぼしいものがありません》


なるほど…普通に暮らしているようだ。


《どうするか…》


《デモンの気配を探れますが?》


《ちょっと待て…不気味すぎる。敵が何を考えているのか分からんぞ…》


俺がどうするか迷っていると、シャーミリアが俺に告げる。


「ご主人様。人を一人攫って来てはいかがでしょう?」


「人さらいか…だが、それもデモンに感知される可能性が高いんじゃないか?」


「それは否定できません」


既にこちらを感知されている可能性もあるが、未だ何もしてこないので、敵も様子見をしているのかもしれない。こちらが下手につつけば、敵が行動に移す事も考えられる。


《ガザム、デモンには近づくな。更に村の様子がどうなっているかだけを伝えてくれ》


《は!》


その後でガザムから伝えられた内容は、何もおかしなものが無かった。普通に店もやっていて、商売をしていたり食事処もやっているようだ。そして南方からは普通に物資が届けられているとの情報もあった。


《南方から物資が届く?》


《そのようです。荷馬車があり、届いた物資が市場で売られているようです》


《南方にも普通の人間の営みがあるというのか…》


《どうでしょうか?アラリリスから人が来るのだとか》


《アラリリス、砂漠の国か…そこにも人が生きてるんだろうな…》


《そして、恐らくでございますが…この人々は魅了を受けていません》


《その暮らしの状態ならそうだろうな》


《はい》


ブラックホーネットナノから送られてくる映像でも、間違いなく人々は普通の生活をしているようだ。ガザムから伝えられる情報からも、特にめぼしい物は無い。


《ガザム、戻れ》


《は!》


少ししてガザムが戻ってくる。村に不穏な空気は無く、普通に人々が暮らしているように感じたと言う。


「どういうことだ?」


「分かりません」

「どうなっているのでしょう?」


ギレザムにもシャーミリアにも見当がつかないようだ。デモンがいる状態で村が無事な状況は、北大陸では一度もなかった。


「デモンがいるのに、何故村が壊滅していないのかだよな?」


「申し訳ございません。分かりかねます」

「我も分かりません」


シャーミリアもギレザムにも見当がつかないようだ。


「シン国が襲われなかったのは、進軍のルートから外れた為だと思っていた。だがデモンがいる状態で、普通の人間の暮らしがあるなんて想像もしなかったな」


「「はい」」


いっそデモンだけだったら、俺達はすぐに総攻撃を仕掛けていた。だが普通の人間達の営みがある以上、そんな事をするわけにはいかなかった。それじゃあ北大陸で、敵がやっていた事と変わらない。


「そろそろドローンのバッテリーが切れるな」


俺が見ているモニターの映像も消えた。バッテリー切れでブラックホーネットナノが落ちたのだろう。


「どうします?」


ギレザムが聞いてくる。


「正直、次の手が出てこない。もしかしたら、南国は北大陸のようになっていない可能性もある」


「そうでしょうか?」


「もしくは俺達が進軍してくるのを見越して、生贄を普通に暮らさせているとも考えられるが」


「なるほど、生きていてもらわねばなりませんからね。それの面倒を見るのではなく、勝手に生きていてもらっていると言う事ですか…」


「ああギレザム。とにかく真意が分からない以上は手出しができないな」


「陽動してみますか?」


「ダメだ。敵が俺達の動きに反応してデモン召喚魔法陣を発動させたりしたら、せっかく生き残った人間が全滅するぞ」


「はい…」


すると今度はゴーグがあっけらかんと言う。


「じゃあここを無視して先に進んだらいいのでは?」


うん、やはり何も考えていない。


「いや、もしこの先で敵に遭遇したら、挟み撃ちにされる可能性がある。ここを無視していく訳にはいかないよ」


「そうだぞゴーグ。ラウル様達が遭遇したというデモンも潜伏しているかもしれない、不用意に動く事は出来ないんだ」


ギレザムがゴーグに諭すように教えた。


「うん、わかった」


さて困った。どうすべきか、この村を攻略しなければ先に進むことはできない。そしてせっかく生存している人間がいるのならば、助けなければならない。


「もう一度潜入して、魔法陣の有無を確認しますか」


「いや…鏡面薬で確認したのがバレれば、すぐに魔法陣を発動させる可能性もある」


「ファートリア西部線では、村の住人を全て避難させてから行いましたからね」


「ああ」


いきなり手詰まりになるとは思わなかった。どうやってもまずい展開にしかならないように思える。


「一度ヘリに戻る」


「「「「「は!」」」」」


俺達は一度ヘリに戻る事にした。このままここに居ても何も進展が無い。大量のデモンと戦うには、カララとファントムの力がいる。


「周辺の確認をしながら戻るぞ。シャーミリア、マキーナは上空から周辺の探査をしてくれ」


「「かしこまりました」」


そして俺達は森と周辺を探査しながら戻る事にするのだった。


どうする…もしかしたら、南国ではデモンと人間がよろしくやっている?いや…そんなことはない。あんなに残虐な事をしたデモン達が、人間と平和に暮らしているなどあり得ない。だが…可能性は無いとも言えないのか…?


帰りの道中は何も見つけることが出来なかった。小型の魔獣しかおらず、シャーミリアが食料調達のために捕獲しただけだ。


「おかえりなさいませ」


ヘリに着くと、ルフラを纏ったカトリーヌが出迎えてくれる。


「ラウル様、どういう事でしょう?」


そばに居るカララが聞いてくる。


「わかんないんだよ。デモンと人間が普通に暮らしていたんだ」


「そのようなことがあるのでしょうか?」


「それが、あったんだな…これが」


「どうされます?」


「今のところ、わからん」


「はい…」


「俺の推察だと、恐らく生贄の為に人間達を生かしているんじゃないかと思うんだがな」


「もし普通に共存していたら?」


カトリーヌが言う。


「もちろんその可能性もある。敵の真意が分からないと手の出しようがない」


「そうですね…」


どうやって攻略するのかを、これから全員で話す必要がある。


「帰りの道中でシャーミリアが魔獣を取ってくれたんだ。とりあえず昼飯にしながら話そう」


「はい」


シャーミリアは手にいっぱいの小型の魔獣を見せてニッコリと笑う。シャーミリアご自慢の魔獣バーベキューを食べながらの、ランチミーティングの時間が来たのだった。

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