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第721話 砂漠の調査へ

俺たちは今、M113装甲兵員輸送車の中にいた。砂漠を走破するためにキャタピラー輸送車にしたのだった。操縦席にはオージェが座り、隣にはナビとしてエミルが搭乗し上部ハッチから顔を出している。11名収容出来る後部座席に、俺とモーリス先生とグレースが座っていた。念のためファントムが同乗し後部ハッチの所にいる。


「魔人達にまで休みを出すとは、どういう風の吹き回しじゃ?」


モーリス先生が聞いてくる。


「ええ。訳あって、組織を改革しようと思ってます」


人間と魔人が共闘するにあたっての課題が見えてきた。砂漠に程近い過酷な環境にいる事で、特にそれらが浮き彫りになっている。本来ならば人間を安全な場所へ追いやって、魔人だけで戦うのがベストだろう。しかしそれは、魔人と人間の共存を唱える俺の理想に反するかもしれない。


「休息の必要がないオリジナルヴァンパイアの、シャーミリア嬢にまで休みをくれてやるとはのう」


「あれも、わざとです。あと彼女らが休みに何をするのか興味はありませんか?」


「確かに興味はあるのう。この極限だからこそ重要な事かもしれん」


「はい。特定した人の気持ちの熱量だけが高くてもダメ、一方で身体能力だけが高くてもダメな感じがしました。この前のファートリア戦では、総合力の低さを痛感したんです」


「うむ。それはわしも感じておった。力の配分が悪かったのう」


「はい」


するとグレースが身を乗り出してくる。


「いまラウルさんのやってる事は、極力、人間と魔人を同じ条件にしてみるって事ですよね?」


さすがはグレース。俺の意図をよくわかっているらしい。


「そうだ」


「思い立ってすぐに動くあたりが、ラウルさんらしいですよね」


「いろいろと急ぐもんでな」


そう、こういう決断は早い方がいい。調整が遅れればそれだけ後の不具合が大きくなる。組織とはそういうものだ。いま痛みを伴ったとしても、最適化するならば早い方がいいのだ。


「久々にスイッチ入っちゃってますね」


「恐らくこれからの戦いにそれが必要だと思ったんだ。それって、そのまま未来に引き継がれそうな気がするんだよ」


「良いと思います!前世でも思ってたんですけど、冴えてる時のラウルさんは判断が早いですよね!」


「アウロラの天啓を受けて、突然閃ひらめいたんだ。そしてなにより、アウロラがこの戦いに必要なのだと確信したのさ」


「そうなんですね!」


「そうだ」


アウロラの話に触発されたからか、俺の脳内はかなり活性化してるみたいだ。そんな俺をモーリス先生が面白そうに見ている。


「やはりラウルは、王に向いた性格をしとるのじゃ」


「そうですかね?自分はただ必要だと思うからやってるだけなんですが」


「ラウルさん。僕も先生の意見と同じで、向いてると思いますよ!それはきっと、凡人にはわからないかもしれません」


「そんな大したもんじゃないって」


「そうですかねえ?とにかく僕にはマネができません」


そんな話をしている時に、唐突にガタンと車内が揺れ会話が途切れる。


「すまん。砂地に入った」


オージェが操縦席からデカい声で報告してきた。するとモーリス先生が言った。


「ようやく砂漠に着いたようじゃのう!」


モーリス先生は嬉しそうだ。


「かなり暑くなってきたな、精霊を呼ぶか」


エミルがそう言うと車内に青い光が広がる。モーリス先生に気を遣って、水の下級精霊を呼んだらしく社内の気温が下がったようだ。


「でも先生。瘴気の影響で珍しい物は見れないかもしれないですよ?」


「以前はあまりじっくりと調査できんかったからのう。どうせ腰を据えて敵を攻めるのじゃろ?むしろこれからの戦いの為にも、砂漠と瘴気の調査はしといた方がいいのじゃ」


全くの正論だ。俺達はこれから南進して敵の本拠地を探っていかねばならない。それには土地の状況を把握しておく必要があった。俺はてっきりモーリス先生が暇になって、砂漠観光がしたくなったのかと思っていた。まあ半分は興味本位だと思うが…


「だいぶ進みましたが、外に出てみますか?」


オージェがモーリス先生に尋ねる。


「そうじゃの!それじゃあ降りてみるとするかの!」


「ここからは特に危険なものは見えませんね」


エミルも周辺を警戒しつつそう伝えてくる。


「わかったのじゃ!」


「じゃあ、先にファントムを降ろして危険が無いかの調査をさせます」


「うむ」


俺はそういうと後部に行って、ファントムを乗り越え後部ハッチを開ける。


「いけ!ファントム!」


フードを目深にかぶったファントムが、その巨体を車外に出した。


すると!ファントムが…これまでにない挙動を見せた。なんと周囲をぐるりと見まわしたのだった。これまでこのような動きを見せたことがあっただろうか?


俺はつい、休みをあげたはずのシャーミリアに念話を繋げてしまった。


《シャーミリア!》


《は!》


《休みの所すまない》


《そのようなお言葉!必要ございません、私奴はいつでも!…》


《それはいい!》


《申し訳ございません》


俺はシャーミリアの話をぶった切って用件だけを伝える。


《ファントムの挙動がおかしいんだが、何か心当たりはあるか?》


《報告が遅れました、ご一緒に出動した際にご説明しようと思っていたのですが…》


そういえば俺は、シャーミリアに何も説明せずにいきなり休みにしてしまったんだった!


《なるほどね…そこに俺が、急の休みを出したわけだ…》


《い!いえ!ご主人様には一切の不手際は無く!》


《いや違うんだ。俺が予告も無しに急に休みを出したからね、お前に非は一ミリも無い》


《そのような!私奴は!…》


《いやいや!いいからいいから!》


とにかく話が進まなくなってしまうので、また話をぶった切る。


《はい!》


《とにかく本当にごめんな。ミリアの事だから、実際にファントムを稼働させながら説明するつもりだったんだろう?系譜でその気持ちがしっかり伝わってきているから、申し訳ないなんて気持ちをこれっぽっちも持たなくていい。マジで悪かった》


《いえ…》


《で、今目の前で見てるんだが、ファントムが周囲を見渡すような行動をしているんだが?》


《実際に見ております》


《やっぱりか!》


《もしご主人様が必要であれば、念話で話しかけてみてくださいませ!》


《何が起きる?》


《反応があるかと思われます》


《ちょっと待て…じゃあ聞いてみる》


《は!》


俺は半信半疑でファントムに念話を繋げて聞いてみることにした。


《ファントム!危険はあるか?》


《…ナイ》


おおおおおおおおお!なんとファントムから反応が来た!嘘みたい!いままで何の反応も無い、それこそでくの坊のようだったファントムから返事が来た!実際に発した言葉ではないが、なんとなく電気信号のような感じで返答が来た。


《シャーミリア!》


《は、はい!!》


《凄いぞ!返事をした!!なんでこんなことになってんだ?》


《説明が遅くなり…》


《そんな事は良い!どうしてだ?》


《はい。実はファートリア神聖国で火の一族を吸収させました。そして大量のフレイムデモン、異世界人の死体を大量に吸収させたのです。その時ファントムに興味深い変化が現れましたので、私奴の血を与え改良を加えた次第でございます!それにより、生まれたての魔人の赤子程度の自我が芽生えました。これからのご主人様の育成次第で、これまでよりも更に進化させる事が可能となりました》


え?なんかロボット工学のAI技師から話を聞いているみたいだけど、ファントムが育成型ハイグールになっちゃったみたい。そんなことが出来るなんて、数千年生きた魔人の御業は本当に凄い。


《凄いよ!ミリア!やっぱりお前は天才だよ!俺が一番欲しがっている物を分かってるんだな!やっぱり一番の秘書だ!》


《ああ…はぁはぁはぁ、うぐぅっ》


きっと念話の向こうでシャーミリアは、ハァハァペタンになっているだろう。だがそれだけの価値がある。シャーミリアは近未来の技術を持っているのだ。


《とりあえず、いろいろ試してみるよ!お前のプレゼント確かに受け取った!詳細は帰ったら聞くからな!ありがとうな!》


《あ、ありがたき幸せ!存分に躾けてやってくださいまし!》


《とにかく休み中にすまなかった、休暇を楽しんでくれ!》


《は!》


シャーミリアからの報告に俺は興奮してしまっていた。何も言わずにいきなり興奮している俺に、先生が恐る恐る声をかけてくる。


「ラウルよ…どうしたのじゃ?」


「すみません先生。シャーミリアと念話をしておりました。ちょっと技術的な進歩がありましたので興奮してしまって」


「それなら良いのじゃ」


「いきなり鼻息が荒くなるからびっくりしたぞ」


俺の隣りにいつの間にかオージェが来て笑っていた。俺は間の抜けた顔でもしていたのだろうか。


「とにかく周辺に危険はない。そうファントムが教えてくれた」


「そうなのか?」


「ああ」


ファントムが周囲を感知して、危険が無いと教えてくれたので俺が後部ハッチから外に出る。俺が確認しても特に危険は無いようだった。砂嵐も来ていない。


「みんな出て来て大丈夫だ!」


俺が言うと、モーリス先生とオージェが下りて来た。エミルはM113装甲兵員輸送車の天井に立ち周辺を見渡している。グレースが外に出て空を見上げ眩しそうにしていた。


「よし、ファントム!周辺に危険なものが無いか探索してきてくれ」


バッ!っとファントムが消えた。瞬間的に数百メートル先を見回っている事だろう。


《どうだファントム?危険なものはあるか?》


《ナイ》


《了解だ。戻ってこい》


《ハイ》


バシュン!砂煙を上げて目の前にファントムが戻って来る。いつもはどこか遠くを見て突っ立っているだけだったが、なんとファントムからの視線を感じる…俺を見ていると分かる。俺が左にずれると俺を追って顔を回し、俺が右にずれると俺を追って右に顔を回した。


すげえ!


ファントムが立った!


って言いそうになる。


「それじゃあラウルよ、ちと小便でもするかの」


俺が興奮しているところに、モーリス先生がアホな事を報告してくる。


「えっ?」


「ラウルが言うとったろう?砂漠に魚がおるって、それは確か小便に呼び寄せられるんじゃなかったかの?」


「そうです」


どうやらモーリス先生は、俺とトラメルとケイシーが砂漠をさまよった時に見たサメの事を言っているらしい。だがこんな入り口付近で出るのだろうか?


「先生。もし万が一あのサメが出たら危険です。ここは私が」


「悪いの」


俺は皆から離れ、ズボンを降ろし景気よく小便をした。溜まっていたわけではないが、快晴の空の下で堂々と小便をするのは気分が良い!小便をし終わって俺はズボンを上げた。


・・・・・・・・・・


やっぱり…


全く反応が無かったので、俺はそのままみんなの所に戻る。


「先生。やはりここは砂漠の入り口ですので、砂のサメは居ないと思います。もっと深くに入らないと無理かと」


「なんじゃ…そうか‥‥。バカでかいサソリとかもいたと聞くが」


モーリス先生は残念そうだ。


「ファントムが調査した通りですね。このあたりには危険生物は居ないようです」


「ならばもっと奥に行ったらええんかの?」


先生が悔しそうに言う。しかしながら砂漠の奥は俺が空母落としをしたために、瘴気が渦巻く死の大地となってしまっている。俺達でも危険だったのに、モーリス先生が行って無事で帰れる保証はない。


俺が口を開こうとすると、オージェが先に先生に言う。


「先生。砂漠の奥は危険です。かなりの瘴気が渦巻いており、もし調査をするのであれば別動隊を組んだ方が良いかと」


「わしの結界を試してみたいのじゃが」


「瘴気に対してですか?」


「うむ。あと瘴気は吸わねば問題はない、長時間晒されれば危険かも知れぬがの。ラウルが召喚する、防護服とガスマスクをつけて行けばそれほど問題はなかろう」


モーリス先生はどうしても、あの瘴気の渦の調査がしたいようだった。俺達ならいざ知らず、モーリス先生がその環境で耐えられるかどうかが分からない。


「…わかりました先生。その代わり少しでも危険だと思った時はすぐに引きます」


俺が言うとモーリス先生の表情がパァっと明るくなった。


「わかったのじゃ!言う事をちゃんと聞くのじゃ!行こう行こう!」


「わかりました」


「オージェ!グレース!エミル!これから瘴気の中に入る!全力で先生を守りたい!いいか?」


「「「了解」」」


三人が少し険しい顔をしながらも返事をする。正直俺もオージェも気が進まなかった。あの瘴気の中は本当に生命の危険を感じる場所だった。それはそうなのだが、先生の言うようにあの中の調査が必要なのは確かだ。デモンが潜んでいないという保証はないからだ。


俺達は再びM113装甲兵員輸送車に乗り込んで、砂漠を南下してみることにしたのだった。

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