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第720話 強制組織改善

アウロラがデジャヴュを感じる時、そのタイミングでアトム神の感覚が蘇り予知的なことも出来ているようだった。アトム神の能力が覚醒し始めているのかもしれない。


「はっきりは、してないんだな?」


「うん。ただ、そうだなって分かってる感じ」


「定かではないと?」


「私の頭では定かじゃないんだけど、体がそう理解している感じって言えば良いのかなあ…」


具体的な詳細などは分からないようだった。なんとなく、あっ!それ知ってる!的な感覚らしい。しかしアウロラはアトム神を受体しているため、ある程度の信ぴょう性があった。


「…アウロラ?」


俺が見ている前で、アウロラの様子がおかしくなってきた。目がトロンとして揺れている。


「あの…話をしているのにごめんね…」


「どうした!」


「眠くて…、おき…て…いられな…」


アウロラがコクンと頭を落として、俺の方に倒れこんできた。


「おっと」


俺がさっと抱えると、スースーと寝息をたてながら眠り始める。


「魔力を使ってんのか?」


魔力切れの症状と似ていた。アウロラが魔力持ちかどうかは分からないが、力を使って眠くなってしまったらしい。


「アウロラちゃん、受体してそう時間が経っていないんだろ?」


オージェが心配そうに聞いてくる。


「そうだ。ファートリアで受体したばかりだ」


「あまり無理はさせられないだろう。まだアウロラちゃんは小さいんだからな、体がついていかないと思う。お前のテンションは分かるが、周りがついていってない気がするぞ」


「わかった…。みんな、時間を割いてくれてありがとう。彼女を母さんの所に連れて行くよ」


「そうしてやれ」


俺がアウロラを抱いて廊下に出るとシャーミリアが待っていた。俺からの指示を待っているようだ。


「ミリア」


「は!」


「もう休んでいいぞ」


「は?お休みでございますか?」


一瞬何を言われたのか分からなかったらしい。


「ああ」


「いえ、休息は必要ございませんが…」


「いいから。お前とマキーナは今日はもう休みだ」


「そのような…」


「命令だ!」


「かしこまりました」


シャーミリアは、何をしたらいいのか分からないような顔で俺を見送った。俺はアウロラを抱いたまま、司令塔を出てアウロラたちの宿舎へと足を運ぶ。先ほどミーシャが寝込み、オージェが深い眠りから起きてきたばかりと思ったら、今度はアウロラが眠ってしまった。小さい体に無理をさせてしまっていた事を反省する。


「あ、ラウル様!」


ゴーグの声が聞こえてきた。振り向くとゴーグが狼形態になってこちらに近づいて来る。


「ゴーグ!お疲れ様」


「はい。ミゼッタを乗せて基地周辺を探索してました」


デートのつもりで時間を与えたつもりだが、仕事をしていたようだった。


「探索か…今日はもうやめて良いぞ」


「そうですか?分かりました…では何を?」


「ミゼッタと遊んでやれ」


「はい」


ゴーグが嬉しそうだ。俺は背中の上に乗っているミゼッタにも話しかける。


「ミゼッタもあと自由でいいぞ」


「うん」


「じゃあな」


俺が立ち去ろうとすると…


「アウロラちゃんはどうしたの?」


ミゼッタが心配そうに聞いてくる。ミゼッタはグラドラムで、ずっとアウロラの面倒をみてくれたお姉ちゃんだ。まるで本当の妹のように接してくれていた。


「ああ、ちょっと疲れたみたいで寝ちゃったんだ」


「小さい体で頑張ってたから」


「ちょっと休ませようと思う」


「その方が良いと思う!」


「心配してくれてありがとうな」


「ううん。本当にいい子なの…」


「知ってる」


「ふふっ」


ミゼッタお姉ちゃんは優しく笑った。俺はゴーグとミゼッタに別れを告げ、イオナがいるだろうグリフォンの厩舎に入って行く。


ぐるるる!


厩舎の中からバカでかいレッドベアーが出て来た。もちろんセルマ熊だ。


どうしたのです?と言っている。


「ああ、寝ちゃったんだよ」


がうがうううー


ちっさい体でがんばってるからね!と言っている。


「だよね。母さんは?」


がるがるぐるぅぅ


裏手で花を植え始めているわ!と言っている。


「わかったありがとう」


がるぅぅぅ


どういたしまして!と言っている。


キュグウウウウゥ!ガアァァァァァァ!ギャーギャーゥ!ギャギャオォォ!グルキュッゥゥ!


厩舎の奥から、俺に気付いたグリフォンのイチロー、ニロー、サンロー、シロー、ゴローがやって来て騒ぎ始めた。どうやら俺に甘えたいようだ。


がああああああおおおお!


セルマ熊が、あなたたち!静かにしなさい!と怒っている。


セルマ熊に怒られてグリフォンたちがシュンとしてしまった。


がおがおくるぅぅ


大丈夫。この子達に悪気はない。といっている。


「わかった。セルマありがとう。裏庭に周ってみるよ」


俺はアウロラを抱いたまま、厩舎の裏手に周りその更に奥に進んでいく。すると屋根のついたガレージのような物が建っており、その日陰でイオナが座って作業をしていた。


「母さん」


「あら?アウロラ寝ちゃった?」


振り向いたイオナの顔には泥がついていた。


「たぶん、アトム神の力を使い始めてる。魔力切れに似た感じだよ」


「あらあら。それじゃあ休ませましょうね」


「うん」


イオナが立ち上がりエプロンで手を拭いた。土いじりをしていたみたいで、服も泥で汚れている。物凄い由緒正しい貴族なのに、土いじりが好きという不思議な人だ。


「こっちね」


俺がアウロラを抱いたまま、宿舎の裏口に連れていかれる。


「ちょっと手足を洗っていくから、先に私の部屋へ連れて行って」


「わかった」


イオナに言われて、俺は先に宿舎に入るとカトリーヌが出迎えてくれた。


「ラウル様、どうしたのです?」


「アウロラが寝ちゃったんだ」


「疲れちゃったのかな?」


「魔力切れに似てる気がする」


「とにかくお部屋に」


「ああ」


カトリーヌに連れられてイオナとアウロラの部屋へ入る。俺がアウロラをベッドに寝かせ靴を脱がせてやった。


「カティ。着替えさせてやってくれるか?」


「はい」


俺はカトリーヌに頼んで部屋を出る。すると手足を洗ってエプロンを取ったイオナがやってきた。


「どうかしら?」


「寝ているよ。カティが着替えさせてくれている」


「そう…」


まさか話を聞くだけで眠ってしまうなんて思っていなかったので、とても申し訳ない気持ちになる。疲れていたのも分からないなんて、兄貴としてどうなんだ?


「ごめんね話をしていただけなんだけど」


「疲れていたのだと思うわ、ラウルに会えて相当喜んでいたから無理をしたのかも」


「すまない。気遣いが足りなかったね」


「そんなことは無いわ、アウロラが望んだことよ」


「あとは頼むよ」


「ええ」


「マリアは?」


「どうやらマリアも疲れていたようだったので、私が指示をして眠らせたわ」


「そうか…ありがとう」


「いいのよ」


イオナは少し心配そうな顔をして部屋に入って行った。


「みんな無理してたんだ…」


彼女らは俺達の足を引っ張らないように、必死だと言う事が分かった。


そして俺はといえば魔人達との行動に慣れ親しみすぎて、人間のキャパシティーを見誤ってしまっているらしい。マリアもかなりの身体能力を持っているが、やはり人間なのだ。直属の魔人達のタフさに慣れてしまい、麻痺していたようだ。


「彼女らは、俺の基準に合わせてはいけないな…。って事は…待てよ…」


俺は他にも居る普通の人間を思い出した。今はモーリス先生と一緒に魔術の精度向上訓練を行っているはずだが、そうとう体に無理がかかっているのではないかと思ったのだ。


「えっと、先生たちはどこにいるんだ?」


俺が館内を探し回るが、先生たちはどこにもいなかった。


《シャー…》


俺はつい休みをあげたばかりのシャーミリアを呼んで、モーリス先生がどこにいるか聞きそうになる。せっかく休暇を与えても、上司から連絡が来たんじゃあ休まるものも休まらない。まあ…オリジナルヴァンパイアである彼女に休みは必要ないのだが、それでも俺が決めたことだ。シャーミリアや魔人達の手を借りずにモーリス先生を探す必要があった。


「精度向上か…。えっと俺が子供のころは何をしたっけな…」


思い出した。そう言えば俺は座学を行っていた。もしかするとモーリス先生は魔法の座学をやっているかもしれない。


「どこだろ?」


俺はあちこちと探し回ってみたが、モーリス先生たちはどこにもいなかった。


「分かった…」


そのまま俺は宿舎を出て、魔人軍が使っている講堂へと向かう。すでに夕日が基地内を照らしている。西日がきつくて、とにかく暑い。


「いた」


俺が講堂に入って行くと、モーリス先生の前で異世界の魔法使いたちが、座禅を組んで瞑想にふけっていた。邪魔をしないようにそーっと彼らの後ろに座る。モーリス先生は俺に気が付くが声をかける事をせず、ただ目の前の生徒たちを見つめていた。先生の魔法の杖からヴォーーーーーーと、不思議な音が響いていた。


こんな魔法の訓練があったのか?今まで俺が見たことがない訓練の方法だった。


「やめ!」


先生が言うと、皆が目を開けてスッと立ち上がった。その物静かな所作は今までの彼らにはない雰囲気だ。ハイラまでが真剣な顔で同じことをしている。


「ラウルよ、混ざるかの?」


モーリス先生が俺に声をかけると、皆が一斉にこちらを振り向いた。集中していて俺が来た事にも気が付いていないようだった。


「何をしているのです?」


「以前カゲヨシ将軍に聞いておった、禅というものを試しておる。ここに居る者達も大まかになら分かるというものでな」


「先生。シン国と私達がいた国は、よく似た文化を持っているんです。だから禅はすんなり入ってくると思いますよ」


「なるほどのう。むしろワシも教えられておったわい」


「はい。では私もやってみます」


「見よう見まねじゃがの。無我の境地などわしにはよう分からん…雑念だらけじゃったからのう。じゃがハイラ嬢たちに、これが訓練になるかもしれないと言われたのじゃ」


そして俺も皆と一緒にその場に座って、座禅を組んだ。


ヴォーーーーーーという音が響いてくる。なんとなく集中できそうな周波数が出ている気がする。


俺は目をつぶって何も考えないようにしてみる。


だが…全く集中できなかった。雑念だらけだというモーリス先生と同じく、戦闘の事やこれからの作戦の事、仲間の事が次々と頭に浮かんでくる。しばらくそのまま頑張ってみるが、一向に無我の境地にはなれそうにもなかった。


「ラウルよ。どうじゃな…」


「私には無理のようです。雑念ばかりですよ」


「そうか…わしもじゃ。これで何かの訓練になるのかのう?」


「もしかしてよく分からないのに、やっていたのですか?」


「そうじゃ。いろいろ試してみんとな」


流石はモーリス先生だった。新しく覚えたことはすぐに試してみたくなる。大賢者っていうから、型にはまった訓練をしていると思うだろうが、実は先生はどんどん新しい事にチャレンジするタイプなのだった。


「やめ!」


先生の声に皆が目を開ける。そこで俺が声をかけた。


「みんなファートリアからここまで、全然休んでいないんだ。そろそろこのあたりで休みを取ったらどうかと思ってる」


「必要ありません」

「私も」

「俺も特には」

「私もですね」


ナガセハルト、イショウキリヤ、キチョウカナデ、ホウジョウマコが口をそろえて言う。やっぱり魂核をいじってしまった人間は違う。俺の言う事が絶対の、ブラック企業社畜タイプになってしまった。


「でも休みも大事かも」


ハイラだけが賛成してくれた。


「ハイラの言うとおりだ!先生!皆に休みをあげたいのですがいいでしょうか?」


「わしゃかまわんよ」


「ありがとうございます!じゃあ今日から明日一日休みを取ってくれ」


「「「「はい!」」」」


ハイラを除いた全員が快く提案を受け入れてくれた。


「じゃあ、ハイラ。皆で宿舎に戻って思い思いの過ごし方を」


「わかりました」


そう言って、ハイラと皆が部屋を出て行くのだった。


「先生は疲れてませんか?」


「いいや、ぜーんぜん。むしろ何か新しい事を探しておるわい」


「そうなんですか?」


「そこでじゃ…」


「なんです?」


モーリス先生がもじもじしながら言う。


「わしも砂漠に連れて行ってもらえんかのう…」


やっぱりこの人は凄い。


「えっと…みなには休みを出したので、私とオージェ達と行きましょうか?」


「行くのじゃ!」


モーリス先生が目をキラキラさせて言うのだった。俺は好奇心モンスターを呼び覚ましてしまったようだ。


「明日の朝からでいいですか?」


「いいのじゃ!」


あまり知らない未開の地へ行ける事で、モーリス先生のテンションが爆上がりした。俺はつい余計な事を言ってしまったと反省しつつ、先生が砂漠の何に興味を持っているのか知りたくなるのだった。

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