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第717話 気の利く友達

「いやぁー寝た寝た」


俺がミーシャを寝所に送ったあと軒下の日陰で休んでいるところに、オージェが寝癖をつけて現れた。


「だいぶ、お疲れだったようだな」


「まあ多少な。俺は寝だめが出来るから、これでまた無理が出来るぞ」


「いや…無理させて悪かった…」


「そんなでもないけどな」


俺は北での戦闘を経て、異世界人やデモンの脅威に加え、火の一族とやらの恐ろしさを目の当たりにして焦っていた。それもあって状況確認もそこそこに、オージェ達をヘリコプターの操縦訓練につきあわせてしまったのだ。


「しっかし、あんなに大変なもんかね。ヘリって」


空を見上げながら呟くように俺が言う。


「まったくだな」


オージェが苦笑いをしながら答えた。


「俺達にはセンスが無いんかもよ?」


「あんなもん、ぶっつけで飛ばせる方がおかしいって、エミルも言ってたじゃねえか」


「それはそうだけどさあ…」


俺が物思いにふけるように言うと、オージェが察したようだ。


「…お前んとこのメイドな…」


「ああ…」


「あれ、どうなってんだ?」


「知らん」


俺が首を振ると、オージェも空を見上げる。いきなり操縦出来ちゃったマリアの事を思い浮かべているのだろう。拳銃を持たせれば銃格闘をし、スナイパーライフルで超ロングスナイプを決め、装甲車の運転が得意で、ヘリの操縦もこなす。そんなメイドがマリアだった。


「まるでハリウッドのスパイ映画のエージェントみたいだ」


オージェに言われてハッとする。確かにその通りだ、ハリウッド映画のエージェントのようにも超一流スパイのようにも見える。または…世界を股にかける大泥棒を手玉に取る、小悪魔の美人にも見えてくる。


「いたなあ…そういうの…。でもあれって架空の世界のヒーローだよな」


「言ったら今の俺達がそうなんだけどな」


確かにオージェの言う通り、オージェは龍神を受体し俺は魔神を受体している。スパイ顔負けの力を持っているはずだ…それなのにヘリの操縦が出来ない。


「確かに俺ら人間離れしてるけど…」


「そうだよなぁ…彼女はただの人間なのになあ…」


「俺もお前も神を受体してるんだけどな、ヘリの操縦が出来ないなんてな」


「ああ、一体何が神なんだって思わねえか?」


「たぶん俺達が優れてるのって、身体能力だけなんじゃね?」


「かもしれん」


俺もオージェも、人間離れした強さを持っている。俺は武器の召喚ができるし、オージェは恐ろしい強さの体をもち火を吐く事だって出来る。だが、マリアからあんなにあっさりヘリの操縦をされてしまうと、まだまだ努力が足りないって思ってしまうのだ。


「「ふぅ」」


俺とオージェが同時にため息をつく。


イオナもマリアも、ミーシャもミゼッタも類まれなる努力によって、凄い能力を身に着けているのだ。それに比べて、俺たちは自分の能力を過信しすぎているような気がしてくる。


「ラウルよ」


「ああ」


「見直さねえとな」


「そうだな」


「その前に飯でも食いに行こうぜ」


オージェが座る俺に手をだし、俺はその手を握って立ち上がった。


「オージェ、魔人達の食堂へ行こう」


「ああ」


「ちゃんと並んで受け取るんだ」


「わかってる」


俺とオージェが、魔人の食事場へと足を向けた。街道を歩きながらオージェが言う。


「でもな」


「ん?」


「焦るこたぁねーぞ」


「まあそうだな」


「ヘリの訓練の事だけを言ってるんじゃない、これからの戦いの事だ」


「…そうだな」


俺が返事をするとオージェはもう何も言わなかった。俺の焦りを見抜いているらしく、腰を据えて考えろと言っているらしい。オージェは前世のころから良く助言をしてくれた。オージェの言葉はいつも俺が必要としている言葉だ。その言葉で視界が開け助けられる事が多かった。


「美味そうな匂いがするな」


オージェが言う。街角を曲がり、食事場所まで行くといい匂いがしてきた。


「オージェ。この匂いって和だよな」


「だな。シン国ってのは風景も和っぽかったし、日本に近い文化を持っていた。食事も日本っぽい味付けで、俺もグレースも気に入ってんだ」


「やっぱりそうか。俺も美味いと思ってた」


「口に合うってやつだろ?」


「そうだ」


そして俺達はこっそり、魔人達の後ろへと並ぶのだった。


「「「ラウル様!オージェ様!」」」


俺達を見つけた魔人たちが振り返り挨拶をする。


「よお。今日も大盛況だな」


「はい。おかげで戦闘訓練にも身が入ります!」


「そうか」


そして魔人はチラリとオージェを見て言う。


「オージェ様には、かなりの事を教えていただきました!」


なかでも一回り大きな体の奴が言う。二次進化以上をしているので、元が何の魔人だったのか分からないが、体の大きさから言うとオーガかオークだ。地味っぽい顔立ちなので、恐らくはオークなのだと思う。


「オージェは、厳しくないか?」


「いえ!実戦で苦戦しないように、十二分に力を引き出してもらっております!」


これまた筋肉隆々の偉丈夫が返事をする。顔立ちがカッコイイので、恐らくはオーガの進化した奴だろう。


「お前ら、俺の前だからってお世辞言ってないか?」


オージェが笑いながら魔人達に言う。


「ははは、オージェ様の前でなんでお世辞が必要なんです?」

「そうそう。常に平常心で事に向かえとおっしゃってるじゃないですか」


「そのとおりだ。指示系統は大事だが戦局を有利に持ってくるためには、冷静な状況判断が大事だからな。まあ反抗的な態度はシメるがな」


「おっかねえ!でも俺達が反抗的な態度なんかとりましたっけ?」


「どうだったかな?」


「「あっははははは」」


魔人たちが笑う。俺に対しての接し方とはだいぶ違うようだ。まるで戦友のようにざっくばらんに話をしていた。


「お前達」


「は!ラウル様!失礼をいたしました!」


ビシッと三人が直立不動になってしまった。どうやら系譜の下にいるために、何らかの力が働いているらしい。


「いや、何も失礼な事は無い。むしろいい感じに力が抜けていていいな」


「「ありがとうございます!」」


うーむ。堅い。


「ははははは!」


オージェが笑い出した。


「なんだよ…」


「なんつーか、俺が軍曹でお前は総帥なんだよ!その関係性で良いと俺は思うぜ!」


「そういうもんか?」


「いいもなにも、俺は魔人から見ると部外者だし、お前は正真正銘の総帥なんだからな。何も間違っちゃいない」


「まあ…そうか…」


「俺からすれば総帥が一般兵と同じ列に並んで、飯をもらうってのが違和感あんぞ?」


俺は魔人たちと打ち解けるために、ここに並んで一緒の飯を食っているつもりだ。そうする事で魔人の一般兵と打ち解けられると思い込んでいた。しかし、オージェの言う通り俺は国家の総帥であり、彼らからすれば雲の上の存在だ。そう簡単に打ち解けられるはずがないのだった。


「だが、お前も龍神じゃないか?」


「ん?魔人らは、龍神も精霊神も虹蛇も良く知らんぞ。こいつらの絶対神はお前なんだよラウル」


…そういうことか。


系譜の力以外にも、魔人が俺にひれ伏すのはそう言う理由があったんだ。


「皆、銃の手入れは怠ってないか?」


「「は!もちろんであります!下賜いただいた武器をおろそかにするわけにはまいりません!」」


声をそろえて言う。別にこんな教育した覚えはないのに。


「そうか、ならいいんだ。いざとなった時はそれが自分らの命を守るからな」


「「は!肝に銘じます!」」


やっぱり俺は魔人からすれば総帥なのだ。打ち解けられるわけがないというのは重々わかった。


「オージェ、行こう」


「ん?飯は良いのか?」


「シャーミリアに肉焼いてもらう」


「えーっ!肉ぅ!俺はここの料理が食いてえなあ」


「だって…」


俺とオージェが揉めていたら、調理場の方からおばちゃんが小走りにやって来た。ギレザムに紹介されたシン国の将軍付け料理人トメだった。


「ちょいとちょいと!…あら、ラウル様でないかい!」


「あ、ごめんね。なんか邪魔になってるみたいで」


「うーん。そうだねえ…ラウル様に並ばられると、魔人がざわつくんですよ。このまえも言いましたが、できれば食堂の中で食べてくださると助かるんです」


「並んでいるやつらに悪いと思ってさ」


「いえ、並ばれる方が…」


「迷惑ってこと?」


「まあ…」


なんか魔人達の前で、おばちゃんに小言を言われている総帥って変な図が出来上がっている。魔人達もどうしていいのか分からずオロオロしているようだ。


「ラウルよ。トメさんの言うとおりにしといた方が良さそうだぞ。そしてお前の時間はかなり貴重なんだ、ここは時短という意味も込めて奥に行った方がいい」


「…わかった」


俺とオージェは、トメから調理場の奥に案内される。調理場の奥には特別な個室が用意されていて、そこにテーブルがあり座るように言われるのだった。部屋には俺とオージェ以外には誰もおらず、窓も一つしかないので静かだった。


「こんなところがあったのか」


「特別室だな」


「そうだな」


俺とオージェの前に、トメがトレイに乗った料理を運んで来てくれた。料理は魚料理で、野菜もふんだんに盛り付けてあり、おつゆがついていた。煮つけみたいなものもあって、とてもうまそうだ。


「どうしてもここで食べたきゃ、これからはこの個室で食べておくれ」


トメがニッコリ笑って言う。


「わかった。それじゃあ次からはそうする」


そして俺とオージェは早速料理に手を付けるのだった。並んでいる魔人達には申し訳ないが、確かに俺は時間がない。ここの料理の味が好きだから来ているのだが、長時間待つのは得策じゃないってのはオージェの言うとおりだ。


「それで、どうするつもりだ?」


オージェが聞いてくる。


「この都市の強化の為に試行錯誤していたんだがな、どうやら魔導エンジンがそれに一役買いそうなんだよ」


「魔導エンジンか!」


オージェが思わず身を乗り出して来た。魔導エンジンという未知のものに対し、すごく興味をもっているようだった。なんか響きもカッコいいし分からんでもない。


「更に小型化して、パワーがかなり上がったらしい」


「すげえな!それをどうする?」


「この基地に設置して、その動力を活用するつもりだ」


「…出来るのか?」


「やってみないと分からない。グラドラムでは既に2基の魔導エンジンが動いているらしい。都市の動力を全てその二基でまかなっているんだとか」


「すげえな」


「ああ…ただ…」


「ただ…なんだ?」


「それをするにはドワーフの数も、研究員の数も足りない」


「…そんな事なら、俺に言ってくれればいいだろ!」


飯をむしゃむしゃと食いながら、オージェが言った。


「どうにかなるかな?」


「母さんに頼んで、連れて来てもらったらいいだろ」


「えっと…グラドラムから?」


「バルムスさんとドワーフ技師、そしてデイジーさんが必要なんじゃないのか?」


「そのとおりだ。でも…いいのか?」


「問題ない。その魔導エンジンってやつの可能性を見たくないか?」


「ああ、だから設置してもらうんだ」


「なら百パーセント力を発揮させた方がいいだろ?」


オージェの言うとおりだ。ここではフルにその力を発揮してもらいたいところだ。


「もちろんだ」


「そうと決まれば善は急げだ。それより早く食おうぜ!」


そう言ってオージェは、魚の甘露煮を口に放り込んだ。俺もそれにならって、甘露煮を口に放り込む。和の味が口いっぱいに広がってご飯が欲しくなる。


そして…


…結局また食べ比べになってしまうのだった。


もちろん…俺の惨敗だったが…

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