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第711話 魔導鎧強化装備

俺は砂漠の魔人軍基地内にある格納庫にいた。戦闘に備え戦闘ヘリや装甲車を保管してあり、そこで俺は久しぶりにヴァルキリー(魔導鎧)を装着して準備をしていたのだった。


《お久しゅうございます、我が主》


《そうだなヴァルキリー。グレースの保管庫で何してたんだ?》


《あの中は、とても広大で訓練場のような物を発見しました》


《そうなのか?あの中ってそんな広いんだ》


《はい》


ヴァルキリーに感情は無いはずだが、どことなく嬉しそうに感じる。というか久しぶりにヴァルキリーを装着して、俺自身がウキウキしているのかもしれない。


「ほっ!はっ!」


俺はファントムを相手に、ヴァルキリーを着たまま組手を始めてみる。その久しぶりの装着感を確かめるように、体を動かし続けるのだった。同じ格納庫内では、ミーシャとカララが何やら準備をしていた。


「ラウル様!準備が出来ました!」


しばらくして、ミーシャが俺に声をかけて来る。


「わかった」


ファントムとの組手をやめて、ミーシャたちが作業をしていた場所に向かう。格納庫の天井には、見たことのない機械のような物が鎖で吊るされている。これはミーシャが、俺の為にグラドラムから持ってきた物の一つだ。ミーシャはその鎖を降ろして、スルスルとその機械を俺の頭上に持ってくる。それをカララが蜘蛛の糸で上手く動かして、ヴァルキリーにはめ込んでいく。


ガッシャン!


何かをジョイントするような音がして、その機械がヴァルキリーに装着されていく。


「なかなかに重いな」


「もう少しお待ちください」


全ての作業を終えたミーシャが、俺の目の前に来て装置の微調整をしている。俺はいったい何が起きるのかワクワクして待っていた。


「終わりました。ラウル様、魔力を流してください」


ようやく取り付けが完了したようで、ミーシャが俺に手を上げて合図をする。


「あいよ」


俺はカララの蜘蛛の糸に魔力を流したことがある為、あの要領で魔力を機械に放出する。


ウィィィィィ!ガシュンガシュン!


「おお!」


なんと!ヴァルキリーに長い尻尾のような物が生えたのだった。それは背中から生えているようで、細長い蛇のようにうねうねと動き出す。ひゅんひゅんと音を立ててその尻尾は左右に揺れた。


「あとは、ラウル様の意識で動かせるはずです」


「こうか?」


シュルルルルルルルッ!


すごっ!


本当の蛇のように、その尻尾が自由自在に動いた。まるで生きているようなその動きに俺は感動を覚える。


「ラウル様、あの果実を」


ミーシャが、少し離れた場所に置いた桃の果実を指さした。


「おう」


シュッ。トスッ!


その尻尾の先端が軽く果実に突き刺さる。俺はそれを持ち上げて、引き寄せるように目の前に持ってきた。尻尾の先から手で果実を抜き取って覗けば、綺麗に穴が空いている。


「凄いな!」


「喜んで頂けて何よりです」


本当に凄い…こんなの前世でも絶対にない。


先ほどからミーシャの説明を聞きつつ俺が試験しているのは、バルムスとデイジーとミーシャが共同開発した、ヴァルキリー用に作られた新しいアーマーだった。


「意識で操作できるため、かなり自由な動きが可能となります」


シュッ!ガシュン!ガシュン!シャッ!


ミーシャに言われていろんな動きを試してみるが、まるで自分の腕のように自由に動くのだった。


「これは防御にも使えるのか?」


「もちろんです。攻撃だけではなく、それを展開する事で盾にもなります」


「こうか?」


バシュッ!


「うお!」


広がって盾のような形状になった。何というかキングコブラが威嚇しているような形だ。俺は攻撃された状況をイメージし、それを右に左に動かすが俺の思った場所に持ってくる事が出来るようだった。


「ラウル様」


カララが話しかけてくる。


「なに?」


「まるで私の糸のように自在に動かせるのですね?」


「そうみたいだ。以前カララの糸を使わせてもらった時の感覚そのままだ」


「素晴らしい」


「本当だよ」


カララがとても興味深そうに、その尻尾を眺めている。うねうねと蠢く蛇が俺の背中にいるようだ。閉じたり開いたりを繰り返してみる。


「ミーシャ、これの強度はどうなんだ?」


「それも試験します」


「わかった」


「ここでは狭いので外へ」


俺とミーシャとカララが、そのまま外に出て戦闘訓練場へと向かった。魔力を流し続けているうちは、その尻尾に重量を感じず苦にならない。ファントムも黙ってその後ろをついて来た。


「この基地にも、サバゲ会場があるのか…」


訓練場はサバゲの会場のようになっていた。魔人は俺の影響を多大にうけているので、こうなってしまうのは仕方のない事だ。あちこちにある障害物を見ていると、サバゲがしたくてうずうずしてくる。


「ここで試験してみましょう」


「どうする?」


「ラウル様が強力な銃を召喚してください」


「あいよ」


俺はすぐにPGM ヘカートII ライフルを召喚した。重機関銃用の.50BMG(12.7×99mm)弾を使用する、ボルトアクションの対物ライフルだ。


「ありがとうございます」


「いきなりこんな強い銃でいいのかな?」


「問題ございません。カララお願いします」


「わかったわ」


カララはPGM ヘカートII を糸で浮かして、少し離れた場所へと歩いて行く。だが三十メートルも無い、こんな距離でヘカートII の狙撃を受けたらただでは済まない。


「ラウル様!撃ちますので、その盾で受けてください」


ミーシャが言う。


「本当に大丈夫なのか?」


「はい」


「よし!カララ!撃って!」


ミーシャがカララに伝える。


ガシュン!


俺は目の前にその尻尾アーマーを広げて攻撃に備えた。


「では!行きます、3、2、1」


カララがカウントして引き金を引いた。


ズドン!ガイイン!


「はっ弾いた!」


「はい」


なんとその盾は、至近距離のPGM ヘカートII から射出された.50BMG弾を防いだのだ。破損もしておらず、何事も無かったようにうねうねと動いている。


「マジか…」


「マジです」


ミーシャがニッコリ笑って、サムズアップする。


…ちょっとかわいい。


…それはさておき、凄い防御力だ。これはかなり使えそうなアーマーだ。


「いかがでしょう?」


「凄いぞ!これは使える!間違いなく戦闘で役立つぞ!」


「それは良かったです!」


「ありがとうな!」


「はい。それでは耐久試験及び攻撃運用を兼ねた情報収集を行います」


俺の感動をそっちのけで、ミーシャは兵器の情報収集に集中しているようだ。冷静に言いながら、ミーシャが大きな目に眼鏡をかける。


「え?その眼鏡どうしたの?」


「私の為に、バルムスが作ってくれました」


「そうなんだ。なかなか似合ってるよ」


「あっ!ありがとうございます!」


ミーシャが顔を赤くした。


「コホン…では」


気を取り直したように、ミーシャが厚い本のような物とペンをバックから取り出す。


「戦闘情報をとります。ファントムと実戦訓練をしてもらえますか?」


「わかった。実戦訓練という事は、ファントムにある程度力を出してもらわないとね」


「はい」


「どのくらいだろうな?」


「七割ほどの力から試験してみましょう」


「わかった。ファントム!これから俺と組手をする。七割ほどの力で俺に攻撃を仕掛けろ」


シュッ


スタートの合図も無しに、ファントムがいきなり飛びかかって来た。不意をつかれたようになったが、俺は慌てることなく目の前に尻尾アーマーを広げた。


ガィィィン!


ファントムが思いっきりその盾を殴る。


なんと!盾はファントムの攻撃にびくともしなかった。未だかつてそんなことがあっただろうか?オージェでも構えを取るのに、無造作に現れた盾が完全に攻撃を防いだのだ。


「反撃を!」


シュッ!シュッ!シュッ!


ミーシャの言葉に、俺は尻尾アーマーの先を尖らせてファントムに突きを繰りだした。しかしファントムはその尻尾の動きを見切って、スッと脇に挟み込み手で鷲掴みにして振り回そうとする。


「広げて!」


バシュッ!


尻尾アーマーが再び盾のように広がると、ファントムの指が飛んだ。ファントムの手から逃れた俺は、一気に尻尾を自分のもとに手繰り寄せる。ファントムの指はあっという間に回復し元通りになった。


「撃ってこい!」


俺が言うと、ファントムはM134ミニガンを腕から生やして撃ち始める。


キュィィィィィィィィィィィ

ガガガガガガガガガガガガガ


すぐに攻撃の方向に盾を広げて銃撃を防いだ。


カカカカカカカカカカカン!


全ての銃撃を防いで何事も無かったように尻尾の形状に戻った。俺の過剰な魔力の反応で、うねうねと激しくのたうち回っている。


少し魔力の調整が必要か…


俺とファントムの戦闘を見ながら、ミーシャが何やらメモを取っているのだった。


「これはどうかな?」


俺はその尻尾を尖らせ地面に突き刺すと、尻尾を支点にして自分の体を浮かせる。思いっきり尻尾を伸ばすと、俺は空高く舞い上がるのだった。尻尾をばねにして、物凄い高さまで飛びあがる。


「うおっ!」


思いのほか高いところまで上がってしまう。そこにファントムがジャンプで追撃をかけて来た。飛びあがったファントムの側面から、その尻尾を思いっきり鞭のように叩きつけた。


ゴッッシャァ!


ファントムが左腕で尻尾を受けて吹き飛ばされていく。地面に激突して土煙をあげ体が見えなくなった。俺もそのまま自由落下し、地面に落ちる前に尻尾を障害物に絡め着地の衝撃を和らげた。


ブオッ!


着地と同時にファントムが近くにあった障害物を俺に投げつけて来た。だが俺は、その障害物を尻尾で巻き取るように受け止めてドサリと地面に置いた。


「じゃあこれはどうだ」


俺は自分の体の真下に尻尾を差し込み、正面に向かって自分の体を飛び出させた。高速でファントムに突撃すると、ファントムは腕からブローニングM2重機関銃を生やして撃ってきた。


「想定通りだ」


俺は自分の体を尻尾でぐるぐる巻きにして回転させて突進する。尻尾のアーマーは12.7㎜弾を弾きつつ、ファントムのすぐそばにまで到達した。


ズドン!


バレット M82ライフルを、至近距離からファントムに向けて撃ち込んだ。するとファントムはそれに反応して、ブローニングM2重機関銃を生やしたままの腕て防ごうとする。


バキャーン!


至近距離からの攻撃を受け、ブローニングM2重機関銃をひしゃげさせた。ファントムはすぐにブローニングM2を放棄し、俺に向けて右の拳を叩きつけてくる。


シュッ!


ファントムの拳と俺の間に、尻尾アーマーの盾が出現しそれを防いだ。だがそのファントムの拳の威力でそのまま後方に吹き飛ばされる。しかしすぐさま、地面に尻尾を突き刺して俺は空中に止まるのだった。尻尾で空に浮かんだまま俺が告げる。


「よし!ファントム!終わりだ!」


俺が指示をすると、ファントムはその場にだらりと両腕を下げて立ち尽くした。シュルシュルと尻尾を変化させて俺が地面におりてくる。


「すっっっっっげぇぇぇぇぇぇぇ!ミーシャ!これは凄いぞ!七割のファントムと互角以上に戦える!」


「良かったです!」


ミーシャは手に持っていた本のようなメモ帳を畳んで俺に微笑み返した。カララが俺の戦いぶりに感動して拍手をしている。このアーマーは破壊力と強度ともに申し分ない。反射速度も十分に戦闘に耐えうるだろう。


「ラウル様!魔人に引けを取らない強さでございますね!」


「だな!」


「是非次回は、シャーミリアかギレザムとの組手をしてみてはいかがでしょう!」


「わかった。彼らには今度頼んでみることにしよう」


俺は再びうねうねと尻尾の動きを確認して見る。全く故障もしておらず、スムーズに動くようだった。シャーミリアを相手にどこまで通用するのか、ぜひ試してみたいものだ。


「それではラウル様。格納庫に戻ってください」


「えっ?もう少し試したいんだが」


「今ので、だいぶ修正箇所が分かりました。すぐに手を入れたいと思いますので、お願いできますでしょうか?」


ミーシャがキリリとペンで、自分の眼鏡の縁をクイっと上げた。それもなかなかに様になっている。


「わかった」


「このアーマーの調整が終わりましたら。次は小型の魔導エンジンを見てもらいたいのです」


「えっ!アレ完成したの!」


「まだ完成形では無いようですが、前線で活用するように言われています」


「いや…それ持ち出しちゃダメなんだけどな。魔人軍の…」


「重要機密ですよね…」


「そうなんだよね。誰が持っていけって言ったの?」


「デイジーさんとバルムスです。運用して情報を集めろと言われました…ラウル様なら使い方を教えてくれるだろうと」


「なるほどね…そういうことか…」


「はい」


魔王軍のマッドサイエンティストグループは、いつの間にか近未来の技術に手を染めていたようだった。作った数々試験品を俺に試させて、データを採取してくるようにミーシャに言いつけたらしい。


《我が主…我は…どうなってしまうのでしょうか?》


《そうだな…お前も尻尾とかくっつけられてびっくりしたろ?》


《それは良いのですが、我自体には手を入れられたりするんでしょうか?》


《いやあ…それは無いと思うけどね》


《…そうですか…》


心なしかヴァルキリーが不安になっているように感じた。俺もちょっと不安になってくる。


《俺が着れなくなったら困るから、絶対にいじらないと思う》


《分かりました》


ヴァルキリーと話をしつつミーシャの表情を見る…


彼女は、目を爛爛とさせて自分が書いたノートを食い入るように見ていた。どうやらデイジーとバルムスだけではなく、ミーシャ自身もだいぶ毒されてしまっているようだった。俺はヴァルキリーを、マッドサイエンティストから守ってやらねばならないのかもしれない。


そう思うのだった。

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