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第709話 北大陸の掌握

ケイシーの教育的指導が終わり、俺達は本題のファートリア神聖国の今後について話し合った。会議は午前中いっぱい続き、大まかな部分の話が終わる。詳細については各方面の担当者に任せる事となったのだった。


俺はサイナス枢機卿とモーリス先生、イオナの顔を見渡した。


「大まかな所は、それで決まりという事で良いですね?」


俺が言うと、みな異議は無いようだった。


「では、これにて会議を終わります」


話し合いが終わり、俺はそばに立っているシャーミリアに指示を出す。


「ミリア!悪いんだけど、皆を集めて来てくれ」


「かしこまりました」


すぐにシャーミリアが部屋を出て行った。会議は主要メンバーで行われたが、その後は皆で会食をすることが決まっていたのだ。カトリーヌやアウロラとエミル達、ハイラとその一行、カーライルや聖女ミシェルも呼んでもらう。もちろんケイシー神父も参加してもらう事になっていた。魔人も誘ったのだが、彼らは既に復興の準備に取り掛かっているためと辞退してきた。俺がすぐに次の作戦に移りたいことを知っているからだ。


扉の外からはカチャカチャと食器がふれる音が聞こえて来る。


「失礼します」


マリアが扉からお辞儀をして入ってくると、ミーシャとミゼッタが料理をカートに乗せて運んできた。他にも数人の人間のメイドがいるのだが、どうやら人間の魔法使い達がやっているようだ。魂核をいじっているので、まるで俺の使用人のように従順に従ってくれている。


「お連れしました」


その後ろから別室で待機していた皆を、シャーミリアが連れて来た。皆が入り口でお辞儀をして、部屋へと入って来る。皆が席に着くと同時にグラスに飲み物が注がれていった。料理はマリアとミーシャ、ミゼッタ達が振舞うユークリット料理だった。


「マリア!ミーシャ!ミゼッタも座れよ!」


俺が言うと、コクリと頷いて席の端っこの方に座った。


「ラウル、皆さんにお話を」


イオナが俺に始まりの挨拶をするよう促して来た。俺は頷いて立ち上がる。


「えっと、堅苦しい話は無しにします。今回の件でファートリア神聖国が、さらに深刻なダメージをおってしまいました。魔人と人間が協力し合って、国の復興に力を注ぐことを約束しましょう!」


皆がそこで拍手をする。


「我が魔人国は友好国のために力を惜しみません。そしてまだ敵の脅威がなくなっていない以上、大陸のどこにいても安全な場所はないでしょう。それを勝ち取るまで、皆が一丸となって戦っていきましょう!乾杯!」


「「「「「「乾杯!」」」」」」


皆が盃をかわして飲み物を飲み干した。そしてすぐに拍手が起きる。


「では、皆お待ちかねのユークリット料理です。ぜひ楽しい食事をお楽しみください!」


皆が久しぶりのユークリット料理に舌鼓をうち歓談を始めた。あっというまにテーブルの料理が消え、次々に魔法使いのメイドたちが料理を運び盛り分けていくのだった。


「この味!久しぶりなのじゃ!このセルマ直伝の魚のパイ!しかもミーシャの調味料とやらで、味も格段に向上しているのじゃ!これでセルマも思い残す事はあるまい」


酒も入って、モーリス先生が上機嫌で話を始める。


「先生。セルマはまだいますわ!熊になりましたけど」


イオナが言葉を返した。


「すまん、そうじゃったな。なにぶん熊のセルマに慣れておらんでのう」


モーリス先生が取り繕うように言うので、俺がツッコみを入れた。


「えっと…先生。昨日は捜索場所に行くまで、楽しそうにセルマに乗ってましたよね?」


「そ、そうじゃったっけ?まあ…セルマはとってもモフモフで気持ちいいのじゃよ」


「ゴーグとどっちがいいですか?」


「甲乙つけがたいわい!ゴーグの疾走感はたまらんぞ!」


モーリス先生の事をミゼッタが羨ましそうに見つめている。


「先生。本来ゴーグの背中はミゼッタの特等席ですよ」


俺が言う。


「そ、そうじゃった!すまんのうミゼッタちゃん!」


「い!いえ!ゴーグの背中は誰のものでもありませんし!状況次第で誰が乗っていいものだと思います」


真っ赤な顔をしてミゼッタがあたふたしている。ミゼッタがゴーグを気にいっている事は、ここに居る全員が知っている事実だった。本人はそれを気づかれていないと思っているようだが…


テーブルの上の料理が瞬く間に消えて、追加の料理が運ばれてくる。どうやらミーシャの香辛料は他にもあったようで、相当素材のうまみを引き出しているようだった。


これは間違いなく売れる!


俺が捕らぬ狸の皮算用をしていると、サイナス枢機卿が真剣な顔をして語り掛けて来た。


「しかし、ラウル君。魔人達を大量に駐留させて大丈夫なのかね?」


「もちろんです。魔人達の力は凄いですよ!既に西の前線基地から内地に入ってきております」


「すまんのう。魔人達の力が凄い事は既に知っておる。このファートリア聖都内の整備はまだまだじゃし、強靭な魔人達の助力は本当に助かる。じゃが戦争をやっているというのに人員は大丈夫なのかね?」


本当はファートリア神聖国に、いっぱい貸しを作るためにやってるんだけどね。それは胸の中にしまいつつ、建前を話す事にする。


「ファートリア神聖国内もまだまだ危険です。言わば戦場の一つとして考えております。そして聖都を移せない以上は致し方ないと思いますが?」


「わかったのじゃ」


実は会議で、俺がサイナス枢機卿に遷都せんとの提案をした。この場所は阿久津の転移座標としても覚えられていたし、それに連れられて入ってきていたデモンのバティンもまだ生きている。ビクトールの生死も確認できていない為、再び戦場になる可能性は十分にあった。


「やはり遷都は無理なのですよね?」


「そうなのじゃ。わしは知らんかったが、ケイシーが言うにはそのようじゃ。聖都の地下に動かせぬ理由があるらしいと、教皇が言っていたらしいのじゃな」


なるほど…だとすればあの巨大魔石が浮いていた奥の部屋の、壁の向こうにある秘密の部屋の事だろう。どうやらあそこにアトム神、もしくはファートリア神聖国にまつわる重大な秘密が隠されているらしいのだ。それがあるからこそ、アトム神はこの地に居座ったと言われているらしい。


「なるほどです。そのことですが、本当に地下を埋め立ててしまっていいのでしょうかね?」


会議では地下への敵の侵入を防ぐために、地下道を全て埋め尽くす事が決定していた。


「万が一、地下に敵が出現してはたまらんからのう。むしろ埋め立てなどやれるものなのかの?」


「それは問題ありません。なあミーシャ」


俺は端で食べていたミーシャに声をかける。ミーシャは慌ててこちらを向いて頷いた。


「はい!」


「あの埋め立て用の強化泥はどこでも用意できるんだろ?」


「できます!それを地下に流し込めば、がっちりと固めてしまえますよ」


「分かった」


強化泥とはデイジーとミーシャが作った、コンクリートより強靭な岩を作れる新型の泥の事らしい。固まるとかなりの強度となり、ちょっとやそっとの攻撃じゃびくともしないらしいのだ。複雑な調合が必要となるらしいのだが、ドワーフならば間違いなく出来るらしい。そのためドワーフは既に北の拠点から呼び寄せ中だ。


「というわけなので、地下は全て固めてしまいます。もういけなくなりますが、問題ないのですよね?」


「大丈夫じゃ。むしろ堅牢に守られて良いと思う」


「わかりました」


ファートリアの地下に危険が及ぶ事は今回の戦いで分かった。避難場所としても使えそうだったのだが、また転移魔法を使えるヤツが出てきたらすぐに占拠されてしまうだろう。そこで俺は、地下を強化泥コンクリートで埋め立ててしまう事を提案したのだった。


サイナス枢機卿は続ける。


「あと、マカ君、クレ君、ナタ君を聖都に置いて行ってくれるというのもありがたい」


「それは元より決まっていた事です。彼らが魔人兵と人間兵の指揮を執り、国内の整備にあたります。治安維持はもちろん流通経路の確保、そしてファートリアの名産などの復活を主に行います。リュート王国のゼダ王も喜ぶでしょうし、ぜひリュート王国とユークリット王国を繋ぐ、分岐の国として流通を確立させてほしいのです」


「まったく…至れり尽くせりなのじゃ。友好国とはいえそこまでやっていただいて良いのかどうか」


だって、将来的に魔人国の属国になってもらった方がありがたいんだもん。守りやすいしね。


「ここまで一緒に戦った仲です。お気になさらずにお願いします」


「良かったのう、ケイシーよ」


サイナス枢機卿にふられてケイシーが立ち上がって頭を下げる。さっきのドッキリがまだ響いているようで、立ち直っていないようだ。


「ケイシー、さっきは驚かせて悪かった。俺も知らなかったんだけど、やっぱやる時はやらないとダメなんだなって俺も思ったよ。お互い気を緩めずにやって行こうな!」


「すみません。ラウル殿下、私は…」


「ケイシー!殿下なんて言わなくていいよ、俺はお前をケイシーと呼ぶし。お前も今まで通りで良いって」


「わかりました。では…ラウルさん…でよろしいですか?」


「それでいい」


ケイシーの気持ちは少しだけ緩んだようだった。ケイシーは元々楽観的な部分が良い所だと思っている、俺はそのままのケイシーでいてほしかった。


「そしてありがとうございます!ファートリア神聖国の復興のために多大な尽力を頂きまして、なんとお礼を言っていいのやら…」


「いいっていいって!」


君らにはアトム神となったアウロラを、きっちり信仰してもらわなければならないからね。そうしてもらう事で、アトム神としてのアウロラの力を高めてもらわないといけないんだ。俺は前のアトム神から、アウロラの時代をよろしくとお願いされてるし、もっとファートリア神聖国に力をつけてもらって、北大陸はおろか大陸全土にアウロラの信者を作ってもらいたいと思っている。


「ユークリット王国とも、再び信仰を深めていただければありがたいわね」


イオナが俺の言葉に付け加えるように言った。


「もちろんです!ねっ!枢機卿!」


「そのとおりじゃ。先に復興を進めているユークリットとの国交は、願っても無いことじゃ」


「それを聞いて安心しましたわ」


イオナの目の奥底に、いろんな企みが眠っているのを俺は知っている。恐らく彼女に任せておけば、隣国との交渉事もかなり有利に進めてくれることだろう。既に各国へは魔人軍基地を設置し大量の魔人が進出しているので、交渉事は難なく進むだろう。魔人国の圧力を最大限に使ってくれるだろう頼もしい母親だ。


「バルギウス帝国との軋轢も解消されたのでしたな」


サイナス枢機卿が聞いて来た。それはもちろんだ、既にタロス率いる魔人軍の精鋭部隊がバルギウスに、にらみを利かせている。恐らくあそこの人間が一番不自由かもしれない。だが今は他の国々の戦力がズタボロなので、それぐらいでちょうどよかった。


「ええバルギウスは既に我が手中にあります。脅威にはなりえません」


「歴史が変わったのじゃな…」


モーリス先生が酔いながら話に加わって来た。


「まさにそうじゃな」


サイナス枢機卿も同意する。


「これまではユークリットとファートリアが同盟を組んで、バルギウスを押さえ込んで来たのじゃ。あの軍事国家をあっさりと押さえつけてしまうとは、未だに信じがたいことじゃ」


「そうじゃの、ファートリアに生まれこの年齢になるまで、その様な時代が訪れるとは思わなんだ」


「まったくじゃ」


まあ…バルギウスの兵士も早死にしたくないだろうしな。そうか…おじいちゃんたちは、きっと死ぬまでバルギウスの脅威にさらされながら生きていくと思っていたんだな。でももう大丈夫だよ、あそこの国は既に骨抜きになっているから問題ない。皇帝代理を務める、ジークレストが他の国に手を出すとは考えにくいし。


「まあ魔人達が、皆さんを守る約束ですからね。心配いりませんよ」


「頼もしいのじゃ」


サイナス枢機卿が言う。


北の国々はこれで百パーセント、魔人国の手中に落ちた。ユークリットは実質、魔人国の州のような状態になっており、将来的にはイオナかカトリーヌが実権を握る。シュラーデンは既にマーグが王として君臨しており、魔人軍基地も拡大中だ。ラシュタルのティファラ女王とルブレストキスクが、目下脅威となりえる存在だが最も友好的な国なので問題はない。リュート王国のゼダは俺に恩義があり、このファートリアも既に俺達抜きでは国営を語れないのだ。


「そして、各地に更に基地の設立を行う事になりました。ユークリットとファートリアの国境には軍事基地が三カ所にあります。ユークリット地内にも数か所、ファートリア地内にもラシュタル地内にも数か所あります。なにかあった時は最寄りの魔人軍基地を頼っていただけますようにお願いします」


「わかったのじゃ!」

「ありがとうございます」


サイナス枢機卿が代表して礼をすると、ケイシーと聖女リシェル、カーライルの合わせて礼をする。


するとその光景をアウロラが側でじっと見ていた。


「お兄ちゃんって…凄いんだ…」


アウロラがポツリと言う。


えっ?そう?お兄ちゃん凄い?えへへへへ…!そうだろそうだろ!


「いやいや。アウロラ、お兄ちゃんは皆のために出来る事をやっているだけだ。その結果がこうなったというだけだよ」


出来るだけ真顔で真面目に答えた。


「ううん!凄いよ!」


アウロラがよろこんで側に寄って来たので、俺はアウロラを抱き上げた。膝の上にいるアウロラの尊敬のまなざしに、俺は鼻を伸ばしながらへらへらと喜んでいるのだった。そしてその兄妹の仲睦まじい光景を皆が幸せそうな表情で見つめていた。明日からの作戦再開に向け、皆がひと時の平和を楽しむのだった。

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