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第700話 接触

俺達が礼一郎と少女に走り寄っていくと、彼は気が付いてこちらを振り向いた。

                

「押さえろ!」


俺達が飛びかかるも一歩遅く、礼一郎は風魔法を浴びせてくる。咄嗟にライオットシールドを前面に召喚し防ぐが、魔法の威力が上回り俺は吹き飛ばされてしまった。


バシッ


しかしすぐ後ろにファントムがいて、俺が遠くに飛ばされるのを防いでくれた。

                             

「魅了されてる!」

                     

礼一郎の目を見れば一目瞭然だった。俺を攻撃したことで僅かに隙が出た。そこに、シャーミリアが飛びかかり礼一郎を羽交い絞めにした。


「そのままそこから離脱しろ!」


ドシュッ!


シャーミリアは礼一郎を抱いたまま、その場所から離れるように後方に飛んだ。するとすぐ後ろに岩の壁が現れる。礼一郎が攫われるのを防ぐために、誰かが土魔法で壁を作ったようだった。


ドゴッ!


しかしシャーミリアは止まることなく、体ごと土壁を貫通させてその場から離れた。


「アナミス!」


「はい!」


アナミスは礼一郎の魅了を解くため、シャーミリアが居る方向へと走っていった。


「ごめんね」


俺は謝りながら、目の前にひとり取り残された少女を抱きあげ、そのまま走り出す。横目で周りを見ると、暗闇魔法から出て来た異世界の少年少女が数人いた。一番中心にあの転移魔法を使う小僧がいる。


「ファントム!」


何とかあの小僧を捕縛させるため指示をだす。ファントムが一気に異世界の少年少女に肉薄したその瞬間、


シュッ…!


消えた!

ファントムの速度は決して遅くはないのだが、転移魔法にはなすすべなく、異世界の少年少女を捕らえようと振りかざしたファントムの腕が空を切る。


「どこいった?」


俺が少女を抱きかかえながら、転移魔法の小僧を探すが何処にも見当たらなかった。そして俺が逃げようとした方向に突然、学生服の少女が現れて手に炎を出現させる。火魔法で俺を攻撃するつもりらしい。


「悪いね」


俺は自分の足に魔力を一気に流しこみ、急加速して火魔法の女の子をかすめるように通り抜ける。目の前から俺が消え、戸惑うようにきょろきょろしているところをマキーナに取り押さえられた。


《アナミスの所に連れて行け!》


マキーナは少女を羽交い絞めにしながら、アナミスのいる場所へと飛び去って行った。俺もそのまま方向転換をして、シャーミリア達に合流すべく走る。


おっと…


突然、目の前に転移魔法の小僧と取り巻きたちが出現する。どうやら俺を配下達から孤立させようとしているようだ。ファントムが俺の隣から飛び出し、異世界の少年少女たちに向かって行く。すると、その進む先にまた黒いもやもやが現れた。


《下がれ!》


ファントムは俺の指示にすぐさま反応し、一気に後方へと戻る。どうやらファントムを闇の中に閉じ込めるつもりだったらしいが、俺はその魔法が発動する瞬間を知っていた。


「おっしいなぁ」


馬鹿にしたような声が聞こえた。


「残念だったな。お前の魔法には一度引っかかってるからな、二度はひっかからないよ」


「へー、すげえじゃん」


これまた馬鹿にしたような声だ。


「お前のせいで、何人の日本人が死んだと思ってるんだ?」


「はぁ?お説教ですかぁ?どう見ても同い年くらいじゃんおまえ」


「黙れよ、いくら子供でもやっていい事と悪い事があるんだよ。お父さんお母さん…いや保育園でそう習わなかったか?」


「ははは、バカにしたつもりかよ?」


「いや本気でそう思ってる」


「その女の子は日本人だよ。言わば俺の仲間だぞ!こっちに渡せよ!」


「どうするつもりだ?」


「なんかその子かわいいじゃん!こっちによこせ!」


その声に、俺はバッと女の子をファントムに投げる。


「きゃっ!」


ファントムは俺から女の子を受け取って抱き留めた。女の子を乱暴に扱った事は申し訳ないが、この転移魔法の小僧だけは俺が何とかしなければならない。


「渡さないよ」


「くそが!」


「で、どうするつもりだ?」


「どうってなんだよ?」


とりあえず俺はコルトガバメント ハンドガンを召喚し、声の場所を正確に把握して撃ってみる。


パン!


「びっくりしたぁ!」


どうやら闇魔法の中に銃を撃ちこむことは出来ないようだ。ということは、爆撃をしても効かない可能性が高いだろう。


「いいか?俺はお前と話をしたい」


「俺は別に話なんかしねぇ」


「どうするんだ?その中からこっちに攻撃もできないだろ?」


「馬鹿じゃね?今までさんざん苦しんでたじゃないか」


俺はその言葉に、すぐに後方を振り向いた。この行動は既に勘でしかなかった。だが俺の推測通り目の前に、高校生くらいの少年が突然あらわれて俺に手を伸ばす。


ズドッ!


その少年の腹に思いっきり拳をのめり込ませる。メキメキと肋骨が折れる音がした。少年は血を吐いて倒れるが、気を失っただけだった。死にはしない。


「ひっでぇなあ!いきなり殴るとか野蛮だな!おまえ!」


「同じ日本人を、俺達に特攻させるお前のほうが外道だと思うがな」


「知らねえよ!どうせ顔もしらねえ奴らだ、日本から来たとかいっても別に知り合いなわけじゃねぇし」


「だから特攻させるのか?空から落ちてきたやつは、魔法を撃つので精一杯で地面に激突して潰れたぞ」


「まったく使えねぇ奴らだったよ」


「お前、友達いないだろ?恐怖で従わせるんだろ?そんで、お前より強い奴らにはへこへこするのが関の山だろうな!」


「うるせえ!」


怒った。どうやらこのあたりがこいつの琴線に触れるらしい。


「可哀想にな。日本じゃ友達がいなくて、こっちじゃ魔法で従わせてか。本当に孤独なやつだな」


「うるせえ!うるせえ!」


「友達がいないってのも寂しいもんだ」


「いるさ!」


「へー。まあ口先だけならなんとでも言えるよな」


「お前がさっき連れて行ったヤツは俺の友達だ!」


「俺が連れて行ったヤツだと?」


「ああ、友達の名前は芦田礼一郎だ!」


なんだと?


「礼一郎がお前の友達?」


「ああそうだ!」


「ふっ…あははははははは!」


俺は思わず大笑いしてしまった。


「何がおかしいんだ!」


「友達に魅了かけるか?普通」


「だ、だってあいつは俺の言う事を聞くべき人間だからだ!」


「…なんだその、言う事を聞くべき人間ってのは?」


「あいつはあっちの世界でも俺の言いなりだった!お前よりも付き合いが長いんだ!」


「馬鹿じゃね?それ、友達って言わねえよ」


「うるせえ!!」


救いがたいバカだ。だがどうやら礼一郎の知り合いというのは間違いないらしい。コイツは礼一郎を知っている。


「アイツはアイツなりに一生懸命やったんだ。お前の操り人形になる筋合いはない」


「はあ?礼一郎は俺には逆らわねえよ」


「お前はあいつの何も知らない」


「知る意味あんのかよ!」


こいつの友達という概念は根本から間違っている。こんなモンスターを育ててしまった親の顔が見てみたい。何かが狂ってしまっているのだろう。


「コイツに従ってる君ら!もし魅了にかかっていないのなら、よく聞いて欲しい!」


俺が転移魔法の小僧の取り巻きに声をかける。


「う、うるせえ!話しかけんな!」


「お前に話してない」


「お、おい!聞くなよ!」


俺は無視して取り巻きに声をかける。


「君らはまもなく日本に帰る事になる。その力はそのままかもしれない、もしくは奪い去られてしまうかもしれない。だがな日本で元通りの生活に戻れるのは間違いない。もう馬鹿なお遊びにつきあう必要はないんだぞ」


「嘘だ!みんな!聞くな!騙されてるぞ!」


転移魔法の小僧がうろたえていた。


「本当の事だ。それももう間もなくそうなる」


「聞くな!」


すると闇の中から女の声が聞こえた。


「戻れるって事?」


「そうだ!だがこの世界で死ねば終わりだ。もう二度と戻る事は出来ない」


「……」


今の言葉はどうやら転移魔法の小僧にも響いたようだ。全員が黙りこんでしまった。


「…騙されるな…そんなわけない」


「面白いな!この世界に来た事がそもそも常軌を逸してるんだ。帰れることが信じられない?お前は馬鹿じゃないのか?正常な世界に戻れるんだぞ。おまえは何だったら信じられるんだよ」


「……」


どうだろう?もうひと押しだろうか?この沈黙がどっちの沈黙か分からない。


「…あの、いいかな?」


暗闇の中から男の声が聞こえた。これは北の村で聞いた声だった。転移魔法の小僧を恐れて従っていた男の声だ。


「なんだ?」


「あなたは何故、俺達がいた世界の武器を持っているんですか?」


なるほど、いい質問だ。だが…


「申し訳ないが、それは話す事は出来ない。君らが手を組んだ、あのバケモノ達に情報が流れると都合が悪いんだ」


「骸骨の?」


「そうだ。だがあれはあちらの下っ端の兵士だ。銀髪の筋肉のヤツとあと小柄な女の子の風体のヤツがいただろ?」


「ああ…双子の」


「そうだ。あれは俺達の敵なんだよ。あいつらと戦っているところに君らが介入して来たんだ。だから君たちに敵対心は無い、君らが手を組んだ悪魔たちを倒すために戦っているだけだ」


「あれが…悪魔?」


「そうだ」


どうやらバティンやダンタリオンの戦いを見ていないらしい。確かにフーは悪魔じゃないかもしれないが、どう考えてもバケモノだった。だが人間のようにふるまっているあいつらしか知らないのだろう。


「……」


またみんなが黙り込む。


「いや!おかしい!」


転移魔法の小僧が叫ぶ。


「なにがだ?」


「あんな可愛らしい子らが悪魔な訳がねえ。むしろそこの女の子を抱いているヤツこそ悪魔だ!」


俺がチラリとファントムを見る。


確かに…


だが違う。


「この世界は見た目じゃない。お前たちのいた世界のゲームならそうだろうが…いや…ラスボスとか意外にスッキリして無いか?」


「ラスボス?」


「そうだ。ゲームが好きなら分かるだろ?」


「嘘だ…だってそこにいるやつは絶対ゾンビじゃねえか!」


違うよ。ハイグールだよ。


「顔色が悪いだけだ」


「そんなわけねえ!」


うーん。上手く行きかけていたけど、なかなか難航しているな…


「信じるも信じないも構わない。ここで俺にやられるつもりなら、降参する必要はない。徹底的にやらせてもらう。だがもし降参して話を聞くつもりながら危害を加えるつもりはない」


「うるさい!」


「いや!お前が黙れよ!」


「なんだと!」


暗闇魔法の中で、転移魔法の小僧と高校生が言い争い始めた。このままでは闇魔法の中で殺し合いが始まりそうだ。


まあ…それならそれでもいいか。マキーナの言う通りこの数名を犠牲にして、大勢の異世界の少年少女が救えるなら、それはそれで良いような気がする。


《ご主人様》


シャーミリアから念話が来る。


《どうした?》


《レイイチロウがお会いしたいと》


《後にしてほしい》


流石に今は取り込み中だ、それにせっかく魅了が解けたのならそのまま日本に帰ってほしい。


《それが…、その転移魔法使いと知り合いだとかで、話が出来ないかとおっしゃっています》


本当に知り合いだったんだ…どうする…


《魅了は解けたんだな》


《はい》


《連れて来い》


《は!》


礼一郎はこいつに用があるらしい。向こうに帰る前に話し合いをさせてスッキリさせた方がいいのかもしれない。迷ったが俺は礼一郎を転移魔法の小僧に会わせることにしたのだった。

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