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第699話 救いの手

炎龍のフーを仕留めた俺達は、皆のもとへと向かっていた。


「ちょっとこっちから行く」


「は!」

「……」


シャーミリアとファントムが俺の後ろをついて来る。


最初にフーやバティンと遭遇した場所へ立ち寄って行きたかったのだ。そこには礼一郎と、さっき転移して来た少女を放置してきたため、彼らをピックアップする必要があった。


「あそこです」


シャーミリアが指さした方向にワイバーンの死骸が見えている。ここからあの辺りまでの道沿いでも戦闘があったため、住居はかなり崩れていた。


「建設作業のやり直しだな」


「はい。せっかく復旧していましたのに、人間達の労力が無駄になりました」


シャーミリアが人間なんかの労力を気にするなんて!なんて進歩なんだ!俺と一緒に行動してきた影響か?元々の感覚なのか?よく分からないが、こんなシャーミリアは新鮮だ!


「損害賠償請求したいところだがな。相手がいないから、俺の国で持ち出ししなきゃいけない」


「はい。ですが光柱が取り除かれれば、魔人達が大々的に介入できます。さすればすぐに復旧はなされるかと思われます」


「間違いないだろうな」


「はい」


歩きながら話していると、シャーミリアが立ち止まる。


「ご主人様」


シャーミリアが何かに気づく。


「なんだ?」


「あの少年少女がおりません」


「え!マジか」


俺は急いでワイバーンの死骸を避けて、礼一郎達を寝かせていたはずの場所を見る。


「いない…」


「どうやら目覚めたようですね」


「一体どこに行ったんだ?」


「申し訳ございません。光柱の影響で気配を追う事が出来ません」


「仕方がない。いずれにせよ受体が終われば、異世界人はあちらの世界に帰るはずだ。だけど礼一郎は魅了を受けたまま帰る事になる。それを解いてやりたいと思うんだよ…もしかしたら戻る事で魅了は解けるかもしれないけどね。それが分からないからこそ全員の魅了を解いてあげたい」


「とてもお優しいお考えでございます」


日没まではまだ時間がある。その前に異世界人を集めて説明をしたいところだが、未だにあちこちで魔法の戦闘音が聞こえてくる。このままなんの説明も無いまま帰ったら、異世界人の少年少女が向こうで問題を起こす事は目に見えている。


「どうにか全員に説明したいところだが、魅了を解かないといけない異世界人がたくさんいるしな。主犯格の少年も見つけなければまずい。とにかく時間が無い」


「日没まではどのくらいあるのでしょう?」


俺が腕時計を見ると、すでに五時をまわっていた。恐らく日没までは一時間から一時間半と言ったところだ。どう考えてもその時間で事態を収拾し説明することは不可能だ。


「主犯格の転移魔法使いを見つけなければならない…」


俺はもう一度呟く。


「この周辺にいるのでしょうか?」


「わからない。とにかく礼一郎だ、アイツはなんとか見つけたい」


「は!」


俺達が動こうとしたその時。


「ラウル様!」


道向こうからアナミスが声をかけてきた。その隣にはマキーナがいるので、どうやらモーリス先生を連れて行ったマキーナが、代わりにアナミスを連れて来たらしい。


「アナミス、アウロラたちの状況は?」


「イオナ様とアウロラ様、そして皆様にお怪我はございません」


「モーリス先生は?」


「魔力を消費しておいででしたがお元気です」


「よかった」


一安心だ。


モーリス先生にはだいぶ無理をさせてしまったので、今は安静にしてもらいたい。


「よく気が付いたわね」


シャーミリアがマキーナに労いの言葉をかけている。


「アトム神様との受体によって、転移して来た少年少女が元の世界に戻されるとお聞きしました。恐らくご主人様であれば、異世界人の少年少女を普通の状態にして返したいとお考えになるのでは、と愚考しました」


「そのとおりよ。ご主人様は魅了を解いて、説明してあげたいと考えているの」


「はい」


なるほど。マキーナは自分で考えて、魅了を解くアナミスを連れてきてくれたというわけか。シャーミリアはマキーナを育てたいと言っていたが、彼女は先回りして考えるようになってきたらしい。それを見ているシャーミリアが、心なしか嬉しそうだった。


「マキーナ、よくやった。丁度アナミスが必要だった。光柱のおかげで念話が通じないし、よくそれに気が付いてくれたと思う。礼を言う」


「お礼だなどと!滅相もございません!私のお粗末な頭で考えた結果ですので、その様なお褒めの言葉など頂くわけにはまいりません!」


「いや、マキーナ。本当に助かったよ」


「あ、ありがとうございます!」


マキーナがめっちゃ恐縮している。


「あちらにいる皆様は何と?」


シャーミリアが聞く。


「既にサイナス枢機卿から皆様に、受体による光柱の消滅と、光柱の影響によってこの世界に来た人々の送還が始まるとお伝えしています。そのため戻られた恩師様とお話し合いを持たれ、異世界の少年少女ために尽力されるとのことでした。ハイラやイショウキリヤ達も一緒に動くそうです」


「それは助かる!こっちだけでは手いっぱいだからな。本来は合流して打ち合わせをしたいところだが今はその時間が無い」


「サイナス枢機卿も恩師様もそのようにおっしゃっておりました」


「わかった」


マキーナはきちんと状況把握をして俺に伝えてくれた。モーリス先生たちの動きが気になる所だが、スラガもルフラもルピアもいる。何よりもメリュージュさんがついている以上、俺達より安全かもしれない。まあ…アトム神もいるが…あいつはあまり役に立たないかも。


「じゃあ俺達は俺達の出来る事からやろう。戦闘地帯に行って相手を制圧し、魅了を解除していくんだ!」


「「「は!」」」

「……」


俺達は音を頼りに、一番近くで魔法戦闘が行われている場所へ向かった。


「あそこだ!殺すなよ!」


「「「は!」」」


これ以上無駄に傷つけても仕方がない。魔法の性質上どちらが異世界人かは一目瞭然だ。俺達は躊躇なく一気に異世界人たちの潜んでいる場所へと突貫する。


「わっ!」


反応した異世界人は、たったの一人だけだった。それも魔法を発動させるには至らず、全てが俺達に意識を刈り取られる。俺やマキーナにとってみれば、異世界の少年少女たちなど赤子も当然。シャーミリアやファントムに限ってはミジンコ以下かもしれない。


「では」


アナミスがそこにいた全員の魅了を解いて行く。


「終わりました」


「特に救出はしなくていい!ここに置いて行く!位置だけ把握しろ!」


俺がシャーミリアに言う。


「かしこまりました」


「次だ!」


「「「は!」」」


俺達はまた戦闘音が鳴っている方向へと走り出すのだった。彼らを救出する時間など残されていない、とにかく一刻も早くすべての異世界人の魅了を解かねばならない。あの魅了の力は味方以外の人間がバケモノに見えるという代物で、自動で魔法攻撃してしまうらしい。『周りの人間がバケモノに見える』などという状態であちらの世界に戻すわけにはいかない。


「あちらです」


シャーミリアの後ろについて、俺たちは再び魔法の小競り合いをしている場所に向かう。あっという間にその場所も制圧して、アナミスが魅了を解く作業をした。


「異世界人は、一体どのくらいいるのかな?」


「実際の所はわかりません」


「だろうなぁ」


時間がない。


どうしようもないのかもしれない。しかし出来るだけ多くの異世界人の少年少女を救ってあげたいと思っていた。説明するまでの時間が取れるかどうかも分からず、とにかく効率よく魅了を解いて行くしかなかった。


「次!」


俺達はとにかく走った。走って走って魔法を使用している場所に赴いては、制圧と魅了の解除を続けていく。


「日はまだある!急げ!」


「「「は!」」」


まだ太陽は浮かんでいる。オレンジ色の光が都市を照らしていた。


俺達はとにかく急いで光柱の町を走り抜けた。一人でも多く魅了を解く!という、ただそれだけの思いでひたすら走り続ける。


「はぁはぁ」


アナミスが息を切らし始めた。大量の人間の魅了を解きながら、制圧しては走り、また魅了を解いては走るを繰り返しているうちに魔力が足りなくなってきたらしい。


「俺の魔力を使え」


俺はアナミスに手を付けて魔力を送ってやる。倒れている異世界の少年少女にアナミスのガスがかかり魅了が解けていく。


「次だ!」


「「「は!」」」


「ファントムはアナミスを抱いていけ!」


「……」


アナミスがファントムの腕にすっぽりと抱かれて、そのまま運ばれてくる。アナミスの体力を出来るだけ温存するためにこれが一番だ。それから俺達は、数か所の戦闘が行われていると思われる場所を回り続けた。同じ作業を行っていくと、少しずつ魔法戦闘の音が減っていく。


「ご主人様」


「なんだ」


「恐らく、あと一カ所かと思われます」


「よし!急げ!」


俺達はシャーミリアについて、異世界の魔法使いがいるだろう方角に向かう。


「止まってください!」


シャーミリアに言われ全員が足を止めた。


「どうしたシャーミリア?」


「あれは…恐らく闇魔法です」


ここからはだいぶ距離があるが、まだ明るい都市の中で暗い影を落としているところがあった。周りの空気が歪み、あそこに何か異質なものがいる事が分かる。


「…たぶんあいつがいる」


「転移魔法使いですか」


「そうだ」


俺にはなんとなくわかった。あの闇魔法に包まれた事があるから、その魔法の気配が感じ取られるのだった。そして恐らくあいつはまだ、仲間のデモンがやられた事を知らないでいるのだろう。そうでなければ、とっくにここから逃げているはずだ。送り込む異世界人の調達場所が、まさかこの聖都内だったとは。ワイバーンに乗って来たからてっきり外で調達していると思っていた。


あれも…カモフラージュだったのか?


「いかがなさいましょう?」


「あの闇の中にアイツしかいないのであれば、爆撃して殺すところなんだがな。奴が一人とは限らない」


「多少の犠牲はやむを得ないのではないでしょうか?」


マキーナは俺が考えないようにしていた正論を言う。確かにそれは俺も思っていた。たくさんの日本人を救うためには、多少の犠牲は仕方がないかもしれないと。


「もう少しでアトム神の受体がなされ、異世界の少年少女は元の世界に帰れる。ここに来たら一人でも多くの人間を普通に戻して帰してやりたい。俺が許せないのはあの転移魔法を使ってた小僧だけなんだ。あの小僧をあのまま元の世界に帰してもろくなことにはならん。あの小僧の取り巻きたちは、無理やりやらされていた感じだったが、最悪そいつらは俺とアナミスで矯正して帰そうと思っていた。魅了なんてあちらで使われたら国が崩壊するレベルだしな」


「出過ぎた意見をして申し訳ございません」


「いや、マキーナ。そういう意見が大事なんだよ。これからもどんどん言ってほしい」


「しかし…」


「マキーナ。ご主人様がこうおっしゃっているのだからおやりなさい。お前は特にその能力に長けているのです。これからもご主人様のために思う存分、能力をふるうの」


シャーミリアが言う。


「かしこまりました」


「しかし…あの小僧には不用意に近寄れない。近寄れば逃げてしまい、受体が終わればあのまま向こうの世界に消えてしまう」


この状況では、あの転移魔法の小僧をどうにかするのは難しかった。


「ご主人様!あれを!」


シャーミリアが言う。距離があるためはっきりと見えないが、何やらその闇魔法に近寄る人影が見えた。俺はすぐさま軍用双眼鏡を召喚して覗き込む。


「礼一郎…」


その陰に近づこうとしていたのは、なんと礼一郎と少女だった。どうやら礼一郎に魅了をかけたのは、敵の魔法使いらしい。目覚めて引き戻されたのだ。


「くそ!礼一郎を魅了していたのは、やはり敵の魔法使いだったか!」


「接触する前に、彼を止めましょう!」


「そうだな!急ごう!」


俺達は闇魔法に接触しようとしている礼一郎めがけて急接近していく。せっかくここまで守ってきたのに、水の泡に帰してしまう気がした。残り時間はあとわずか。このままでは礼一郎はあちらの世界で、操り人形になって生きていく事になる。もし犯罪者に仕立て上げられでもしたら、俺は悔やんでも悔やみきれない。


そんな時、俺達の眼前で突然、闇魔法が解かれたのだった。

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