第698話 炎龍のフー
ゴオオオオオオ!と燃え盛りながら、フーの炎龍が俺を睨みつけている。
「いやあ…俺は一緒に行きたくないけどね」
フーに向かって言う。
バフゥゥゥッ! 炎龍が更に膨れ上がり俺を威嚇してきた。どうやら俺の軽口が気に入らなかったらしい…、これからは言葉に気をつけようと思う。うん。
「逃げろ!」
俺とファントムは一気に走り出す。その瞬間、落とし穴の底から炎龍が飛び出し、俺達に向かって突進してくる。走りながら俺は腕につけている時計を見た。
《時間は午後の四時過ぎか…日が暮れてしまうまでに決着がつかないぞ》
《ご主人様!ここは私奴が食い止めます!》
《いやシャーミリア。とりあえず、俺達と一緒に逃げてくれ》
《かしこまりました!》
《俺は敵の攻撃対象の一人らしいから、あいつは俺を狙い続けるだろう》
《それではなおの事、私奴がヤツを引き留めます》
《シャーミリア。ひとまず、そのもう一人である可能性の人物からあいつを出来るだけ引き離したいんだ》
《もう一人…という事は、アウロラ様でございますね?》
《そういう事だ》
《かしこまりました》
どうせ狙われるなら、俺に集中させることで、アウロラを危険から遠ざけたい。そして炎龍が二匹から一匹になっただけでも、だいぶ状況はいい方向に向いているはずだ。
とにかく俺たちは、アウロラがいる場所とは逆の方向へと走る。
《光柱にも慣れてきたな》
行く手を阻むようにあちこちに立っている光柱だが、位置を把握してしまえば問題はなかった。
《触れなければどうという事は無いようです》
《光柱にはあの炎龍も近づかない》
《恐らくは力をそがれるのだと思われます》
《…えっと、あれの素って…アトム神の魔石から生まれた魔石粒だったよな…》
《はい》
《……じゃあアトム神はあいつを封印とか出来ないんだろうか?》
《デモンから身を護るために、魔石で自らを包んだようですが》
《そうだな…という事はアトム神と一緒じゃないと発動できないという事か…》
《そうではないかと愚考します》
俺達はそのまま瓦礫の山を右へ左へと迂回しながら、正門とは反対側の都市部へと来た。俺達が進んで来た道なりに炎が上がり、建物が焼け落ちていくのだった。
《ファントムはそのまま走れ!シャーミリアは俺を連れて真上に飛べ!》
シャーミリアに指示を出す。
《は!》
ドシュッ! 俺を抱いてシャーミリアが垂直に上昇した。
どうだ?
炎龍は俺達を追うように空に向かって飛んだが、シャーミリアの飛翔速度にはついて来れないようで、遥か下で口を開けて体をうねらせている。
《よし!》
俺はそのまま上空からMk.84 汎用爆弾を降下させてやる。重量約1トン、炸薬量429kgの自由落下する無誘導爆弾だ。それが真っ逆さまに、下にいる炎龍の口にすっぽりと入った。
《飲んだ!》
ズゥゥゥゥゥンッ!!と空中で大爆発を起こして、炎龍が爆散してしまった。水が効かないのなら、爆風消火を試みて見ようと思ったのだがそれが功を奏した。
「よっしゃ!」
「さすがでございます!」
上空に昇っていた炎龍が頭から尻尾に向けて消えていくのだった。
「降ろしてくれ」
「はい」
シュンッ!ドン!と一瞬で地面に着いた。シャーミリアも嬉しくなってテンションが上がったらしい。俺はシャーミリアのそのスピードに、もう少しで失神するところだったがなんとか耐えた。
「フーはどこだ?」
「気配はあちらです」
《ファントム!来い!》
そしてファントムと合流し、俺達を追いかけてきているであろうフーを待ち伏せる。
《来た》
フーは残った右手を黒焦げにしていた。だが右手はまだ健在のようで動かせているようだ。
しぶといな!
《もう一度劣化ウラン弾を叩きこみたいところだが、フーがまだ何か隠し持っている可能性もある。罠は読まれてしまうかもしれない。どうするか》
《炎龍が飛ばぬのであれば、私奴が攻撃をくりかえせばいつかは倒せるかと》
《いやそれでは日が暮れる。恐らくは日没に光柱が消えれば、アイツの体は復活するかもしれない。とにかく光柱の生きているうちに、この都市内でアイツを仕留めたい》
《あの高熱の膜が邪魔をします》
《意識外から劣化ウラン弾を撃つしかないか…》
《見つかりました!》
フーは俺達が隠れている瓦礫の方を凝視していた。どうやらこの炎の中ではアイツにだいぶ有利に働くらしい。
「どうした!自慢の炎龍は使えなくなったみたいだぞ!」
フーはただ俺を睨んでいた。しかしその体は更なる熱気のためにゆらゆらと揺らいでいた。足元の地面がぐつぐつと溶岩のように沸騰している。
あらら…めっちゃ怒ってんじゃん…
ガシャン。俺はマクミランTAC50スナイパーライフルに、12.7mm焼夷徹甲弾を装填した。そして目線にスコープを合わせて狙いを定める。
「動いてみろよ!俺の魔法がお前を撃ち抜く!」
フーは睨みつけたまま、こっちに向かって歩いて来た。
ズドン!
TAC50から放たれた弾丸はフーの目前で火花となって消えた。
「魔人の魔法など聞いた事が無い!お前はいったい何者なんだ!」
フーがめっちゃ叫んでる。なんだろ?俺の事をちゃんと親分から聞いてこなかったのだろうか?
「こっちが聞きたいね。俺はお前の事をなんにも知らないぞ」
「我はゼクスペルが一人、炎龍のフーだ!」
「なるほどね、二つ名があるんだ。じゃあ俺はラウルだよ。元ユークリット王国の地方貧乏男爵の一人息子のラウルだ!」
「地方貧乏男爵の息子?」
「ああ、そうだ!なんだ?お前の親分から聞いてないのか?」
「その必要はない!」
フーが地面の石をつかみ取り、俺に向かっていきなり放り投げてきた。それを俺達が間一髪で避ける。どうやらあいつは野球も得意らしい。
バシュッ!俺達が避けた先では、瓦礫が吹き飛びまた燃え上がる。どうやら石を拾い上げて溶岩の礫にして投げて来たらしい。炎龍より小さい炎だが、その速度は炎龍よりはるかに速い。あんなものにあたったらただでは済まない。
俺達は散開して次の攻撃に備えた。するとフーはそこいらじゅうの石を拾い上げては、俺に投げつけてくる。しかも狙っているのはどうやら俺だけのようだ。
「コントロールが良いな!メジャーにでも行ったらどうだ?」
「こんとろおる?めじゃあ?なんだそれは!」
「まあ、田舎もんにはわからんさ!」
俺は言葉で意識を散らそうとしたが、アイツは攻撃の手を緩める気は無さそうだった。左手は劣化ウラン弾で千切ったため無くなり、穴の開いた胸を補うように炎が渦巻いている。どうやらあの炎で傷口か塞がっているようだ。
ズドン!
俺は迂回しながらも、TAC50スナイパーライフルで焼夷徹甲弾を打ち込んでいく。しかし何度やってもそれはフーの目の前で火花となって消えた。
「あっちいな」
俺は一人でそのフーの攻撃から逃れ続けた。フーはなにがなんでも俺を仕留めたいらしく、執拗に攻撃を続ける。
《ファントム撃て!》
キュィィィィィィ!とM134ミニガンが回りガガガガガガと雨あられのように、フーに向けて銃弾を降り注いだ。
「ふははははは!いくらやっても効かぬ!」
どや顔でフーはファントムに溶岩礫を投げた。フーの溶岩礫はファントムのM134ミニガンにあたり、解けたミニガンをファントムがフーに放り投げる。フーの目の前でM134ミニガンが溶けてはじけた。更に俺が反対側からAT4ロケットランチャーを撃った。
バグゥ!とフーの目の前でロケットがはじけ、爆風と煙がフーを覆った。
バシュッ!スボォ!
「よし!」
俺が逃げる途中で瓦礫の後ろに召喚していたM1エイブラムス戦車から、M829劣化ウラン弾が射出されて見事にフーの腹に穴を空ける。俺が意識をひきつけている間に、シャーミリアが乗り込んでフーに狙いをつけていたのだった。
「ぐぅぅぅ!!」
フーがたまらず膝をつく。胸と腹に大穴を空け、さすがに立っていられなくなったようだ。ズドン!俺がそのままフーの頭に向けて、TAC50スナイパーライフルを撃ちこむ。
シュバ!やはり熱のベールに包まれており俺の攻撃が届かない。
「頭を重点的に守っているのか」
フーはまた石を拾い上げて、それを溶岩の礫に変えてM1エイブラムス戦車へと放った。しかしその溶岩を突き破って次弾のM829劣化ウラン弾が、フーの頭を突き破るのだった。
どうか?
フーはバタっと倒れた。それと同時にあたりの熱の揺らぎがなくなり、次第に煙もおさまっていく。
《やったか?》
《反応はございません》
《ファントム!確認しに行け!》
《……》
ファントムがフーに近づいて行く。そしてフーの側に立つと、右腕にブローニングM2重機関銃を出して、ガガガガガと至近距離から撃った。その弾は全弾フーの体に命中して体は四散してしまった。
「よし!」
俺がファントムの場所まで走ると、シャーミリアも俺のもとへと戻って来た。
「気配は?」
「消滅しました」
「やっとか…」
「さすがですご主人様」
「いや、ミリアの砲撃が絶妙だったぞ!いつの間に砲撃の腕を上げたんだ!よくやってくれた!」
「ああ…はぁはぁ」
ペタン
ああ…間違ってシャーミリアをべた褒めしてしまった。顔を紅潮させて、だらしなーく笑っている。まあそのぐらいの戦果を挙げたのだから、俺はしばらくシャーミリアをそのままにしておく。
「そろそろいいか?」
「は!も、申し訳ございません!」
「じゃあみんなの所に向かうぞ!」
「はい。恐るべき敵でございました」
「コイツがゼクスペルという集団の何番目の強さなのか知りたいな」
「はい」
「じゃあファントム!こいつの残骸を吸収しろ」
「……」
ファントムがフーの残骸を吸収した時だった。
「うおっ!」
俺は思わず尻餅をつきそうになった。
「いかがなさいました!」
シャーミリアが慌てて俺を支える。
「いや…すっごいぞ…、恐らく俺の魔力溜まりとやらが拡張したかもしれない。今までにないほどの力を感じる」
「確かにご主人様のお身体が更に強靭になったようにお見受けいたします」
「マジ?」
「はい!マジでございます!」
シャーミリアは俺の言葉遣いが好きだ。そのため俺の前世の口調が出てくるとやたら喜ぶ。
「なんか汗が出て来る」
「はい、ここはご主人様にとっては熱いのではないかと思われます」
周りの残骸は未だにメラメラと燃えていた。どうやらこいつが死んだからといって、火事が治まるわけでもないらしい。全く迷惑なやつだ。
俺が皆のもとに向かうとシャーミリアが嬉しそうに、ファントムがいつもの調子でどこか遠くを見ながらついて来るのだった。
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