第07話:ようは勉強が大事ってこと
昨日は3発で果ててしまった。
たった3発されど3発。しかし3発でも大きな進歩だ。たしかに出してあっさり寝てしまったが、魔力が増えたことは間違いない。結局、朝までしっかりと眠ったらしい。欲張っていっぱい出そうとしてしまった。
《でもいいや本物の弾丸ならいくらでも召喚したいコレクションだ。》
目覚めはスッキリしたものだ。魔力も充填されたらしく体のだるさもない。むしろ、めっちゃくちゃ元気っぽい。弾丸の召喚により深い眠りについたようだった。
昨日のピクニックで、グラムやイオナの話からいろんな事を知ることができた。とても有意義な1日だったと思う。3才の脳みそは若くてどんどん吸収してしまうらしく、寝たらだいぶ整理されているようだった。
昨日の夜に3発も呼び出せたので取り出して並べてみた。まったく同じものが3発。最初は1発で気絶したのに、3倍の弾を呼び出せた…
どう考えたらいいのだろう。
3倍の質量の物が呼び出せるようになったと考えていいんだろうか?
1日で魔力が3倍に増えた?
まずそもそも俺が使えるのは召喚魔法ということで良いのだろうか?
魔力は成長で増えるものならば、たった1日で3倍になるのは不自然なんじゃないだろうか?
疑問だらけだ。
昨日やった事と言えば家族でピクニックに行ったこと。街並みを見たり湖に浸かったり家族とたくさん話をしたりしたぐらいだ。大人と話をした事でかなり前世の記憶もはっきりしてきた。あとは家族の事をよく知ることができた。そんなところだな。
分からない。
でも間違いなく魔力が3倍に増えた。
昨日、両親から聞いた話の内容に、なにかヒントがないか?確か魔力は訓練では増えないということだ。あとは理を学ばないと魔法は使えない。
理を学ばないと使えない…ということだったが特に何も学ぶことなく俺は召喚魔法が使えている。
《サバゲーの戦略を考えるように理詰めで考えるんだ。》
昨日やった事は家族からの情報収集だ。イオナは学んで水魔法を使えるようになったと言っていた。メイドのマリアはどうなんだ?
《マリアにちょっと聞いてみるか…》
俺は部屋を出て一階に降りた。もうみんな起きていて女性陣は台所で洗い物をしていた。すでに父のグラムは仕事に出かけていていなかった。
「母さんおはよう。」
「あら?おはよう。まだ早いから寝ていてもよかったのよ」
イオナはマリアと一緒にグラムが食べた食器を洗いつつ、自分たちと俺の朝食の準備をしていた。
「じゃあ少し早いけどご飯にしましょう。」
イオナが言った。
朝食は硬いパンを温めたものと、野菜をトマトソースっぽいもので炒めた物だった。昨日の薄味スープより酸味があってこっちの方が好きだな。朝食の湯気の向こうにメイドのマリアが座っている。今日はグラムがいないからなのか、マリアも席に座って一緒にご飯を食べていた。
ちょうどよかったのでマリアに聞いてみることにした。
「マリアさんに聞きたいことがあるんですがいいですか?」
「はいラウル様。何でしょうか?」
「マリアさんはどうやって火魔法が使えるようになったんです?」
「はい。それは学んだからですよ」
「学校ですか?」
「いいえ、私は学校には行ってません。私はイオナ様とイオナ様の家庭教師をなさってた方から、台所の裏で教わりました。」
《台所の裏で学んでも使えるようになるものなんだな!そりゃすげえ。》
「でもマリアさんは火魔法ですよね。母さんから学んだら水魔法になるんじゃないですか?」
「私は最初キッチンメイドでしたから、火をつけると重宝がられると思っていたのですよ。雇い続けてもらうのに火魔法を身につけたかったというか、イメージしやすかったといいますか…必死でした。でも何故、火魔法が身についたのかは良くわかりません。」
「そうなんですね。」
んーなるほど、必要だから…もしくは必死だからイメージ出来たってこと?ってことはイオナはどうなんだ。
「母さんは何故、水魔法なんでしょうか?」
「母さんは何故かしらね。子供の頃から草花が好きでお庭や花瓶のお花に水をあげたくて、あるとき何となく水が出せそうな気がして、家庭教師の先生に理を習い水が出せるようになった。そんな感じね。」
ん?ということは?
「今も庭の手入れをしているのは?」
「私ね。」
そうなんだ!庭師がやってるんだと思ってた。イオナ母さんを改めて尊敬し直しました。人を幸せにして草花が好きな上流貴族のお嬢様ってそんな人いるのか。超がつくほどの美人だし完璧じゃねーか!ということは…
「あの…馬は?」
「もちろん私が世話をしているわ」
イオナはさらりと言う。
やっぱりそうなんだ。上流階級のお嬢様っていうと、どうしても意地悪ってイメージがある。汚い事は何もしないでキレイな物ばかりを見ているイメージだったが、イオナは真っ向から違うようだった。
「そうなんですね!」
するとマリアが俺に教えてくれた。
「お嬢様は昔からそうです。生き物が大好きで、お優しくてすごく美しくて、なぜ私を気にかけてくださっているのか不思議なくらいです。」
と、熱のこもった眼差しでイオナを見つめながら言った。
「それはマリアが大切だからよ。」
イオナの言葉にマリアがうっすら涙をためて頷いていた。
《イオナはなんというか貴族のイメージとはかけ離れている人らしいな。》
話ながら朝食をとっていたが、綺麗に食べ終わったので席を立つ。
「ごちそうさま。美味しかったです。」
俺は2人にお辞儀をしてリビングをでて、自分の部屋に戻って情報を整理してみる。
イオナもマリアも子供の頃に必要だったり必死だったり、自分がやりたい事のために魔法が出せたそうだ。もしくは覚えたかったという思いがあり、そして学びがあったということだ。
であれば俺の魔法も合点がいく。子供の頃に武器大百科をひたすらノートに書いて覚えたり、小学生時代は武器の事ばかりネットで調べてはデータベース化していた。いつも本物の武器を触ってみたいと思っていた。本物の兵器は俺の子供の頃の憧れだった。
《おそらく俺が子供の頃からやりたかった事がベースになっていると思って、間違いないんじゃないか?》
今はまだ3歳だが既に魔法が使えている。しかもこの世界に無い武器召喚魔法だ。俺はそこでひとつの結論に至った。
《魔法はまずその人に魔力がある事が大前提だが、本人がもっとも求めるもの。その人の根幹にある物がトリガーになって引き出されているのでは?》
その思いに至った瞬間だった。
ドッとなんらかの知識が脳内に降りてきた感覚に襲われた。目が…目がまわる。少し経つとそれがおさまった。気がつくと俺は床に這いつくばっていた。
わっ!分かった!
頭が急激にスッキリした。どこかうっすら靄がかかっていたような状態だったのだが、車のワイパーでフロントガラスが綺麗になるように視界が開けクリーンになった。
-そして理解した-
魔法はその人物の根幹にあるもの。魔力量はそれらを理解する理解力、すなわち知力が高ければ総量は増えるということを。
なぜ、急に理解に至った?
なぜ理解したのかは分からない。おそらく前世の記憶や知識のなせる技なのか、それとも人知の及ばない存在の力なのかもしれない。しかしながらさっき降りてきた知識がなんなのかはわかる。
俺が前世で学んだ武器に関するマニアックすぎるほどの知識。小中高大の学校で学んだ知識。会社で学んだビジネススキル。テレビの情報番組でみたあるあるなどの雑学。ようするに俺の前世の人生の記憶そのものが、魔法や魔力の知識と共に降りてきた。
知力だ!
前世の高山淳弥31才の知力分の、魔力が一気に脳に流れ込んだそんな感じがした。この異世界とは比較にならないほどの科学文明を生きてきた俺はおそらく、この世界ではかなり知力が高いかもしれない。体に力がみなぎるのを感じる。
《ということは学べば学ぶほど魔力が上がるってことか。》
ふはははは
チ、チートだ!
異世界の大賢者と呼ばれる人達が、なぜにじいさんばかりなのか納得したぞ!
魔法は知力や賢さが重要なのであるということを知っている。それは前世でやったRPGで、魔法使いという職業の知力や賢さの数値が高いキャラは、魔力量が多く設定されていたと思うからだ。ん?RPG?
あ…
理解に至ったのは人智の及ばない存在の力ではなかった…RPGゲームの知識だったのか!
《よ、よし!と、とにかくゲームメーカーの担当者に感謝するとしよう…》
有名なゲーム会社の、プログラマーやキャラ設定を考えた人たちにひとしきり感謝した後、それならばと思いやりたいことがあった。
よし!魔力も増えたし理解もした。俺はまだ3歳だ!子供だ!きっと魔法の種類も増やしていけるかもしれない。三つ子の魂百までというしな。前世のことわざだけど。
「水よ出ろ!」
・・・・・
・・・・・
「ウォーターよいでよ!」
・・・・・
・・・・・
「火よ燃え盛れ!」
・・・・・
・・・・・
「フフフ。炎の力を示せ!敵を燃やし尽くせ!」
・・・・・
・・・・・
「光の巫女よ…」
「闇属性の力よ我に…」
「癒しの力で傷ついた神の子を…」
考え付く限りRPGで見た事のある呪文を半日やった。
前世のゲーム内で魔法の詠唱みたいな物があったので、きっとそれで間違いない!と思ってやったのに…昔のRPGのパスワードを忘れてしまうと復活出来なくなってしまうように、一字一句間違ってはいけないのだろうか?
それともこちらの世界ならではの秘密の言葉があるのか?とにかく魔法使いが言うようなセリフを、どれだけ言ったところで…なんにも出てこななかった。びっくりするほど魔力を消化していない。こんなに頑張ってるのに?必死なのに?心の奥底では願ってないのかな?
なんか、おっしい感じはするんだがなー
ふう。
「弾よ出ろ」
ポトリ
弾丸はすぐでるのね。
「ラウルーお昼ご飯よー」
イオナに呼ばれた。
「よしっと・・昼飯でも食って考えたらきっと出来るかもしれないな。」
とりあえず召喚魔法は確実に使えるんだから・・
と自分に言い聞かせて食堂に降りて行った。
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