第696話 地雷原の先へ
「ふはははッ!どうした!」
フーが、苦戦するシャーミリアとファントムを見下すように嘲笑している。未だかつて、こんなシャーミリアとファントムを見たことがない。そこにマキーナがM240中機関銃を撃ちこみながら突入していく。
「シャーミリア様!」
しかしマキーナの機銃掃射はフーには届かず、高温のベールに弾かれてしまった。
「マキーナ!あれに銃は効かぬぞ」
シャーミリアの口調もいつもと違う。よほど切羽詰まっているらしい。
「酷いお怪我をなさっております!」
「私は問題ない、表面だけだ」
「負け犬が、強がりを言っておるな」
銀のたてがみをなびかせながら筋肉隆々のフーが、再び自身の体の周りに、二匹の炎龍を飛ばし始めた。高熱のベールに包まれて攻撃が届かないうえに、炎龍の遠隔攻撃が飛んでくる。逃げようとするとあの炎の壁が地面から立ち上がり、行く手を阻む。その間をうまく潜り抜けたとしても光柱がそれを邪魔するのだった。
ガガガガガガガガッ!と、マキーナがM240を掃射するが一向に弾が通らない。
「その女の劣化版が来たところで、我に攻撃が通じるわけがあるまい」
「ふふふ、そうかしら?あちこちに傷がついているように見えるけど」
「こんなかすり傷など、どうということはないわ!そこのでくの坊は腕を取られ、お前は真っ黒こげだ。割に合わんな」
ガチン!撃ち続けていたマキーナのバックパックが空になってしまったらしい。M240中機関銃がその攻撃を止めてしまう。
その戦闘の現場を俺は離れた所で見ていた。そこへモーリス先生が遅れてやって来た。
「ふぅふぅ遅くなったのじゃ」
「すみません」
「どうじゃな?」
「あれを見てください」
俺と先生が瓦礫の後ろからのぞく。
「なんと…あんなバケモノがおるのか?」
「あれはフーが出す炎の龍ですよ。まるでそれぞれが生きているかの如く、対象を追いかけ続けるんです」
「シャーミリア嬢があのように苦戦するとは…」
「上には上がいるという事でしょう」
「まあ炎の龍はシャーミリア嬢を捕らえられんようじゃな」
「速さはシャーミリアの方がはるかに上回っているのですが、どうしても攻撃が通らないようなのです」
とにかくこれ以上シャーミリア達に攻撃を続けさせるわけにはいかない。一方的に消耗してしまうだけだ、いずれやられてしまうだろう。
《ミリア!ファントム!》
《は!》
《……》
《逃げに徹するんだ。だがつかず離れず逃げ続けろ》
《かしこまりました》
《マキーナ!おまえは追いつかれる可能性がある。シャーミリアたちに任せ離脱しろ》
《かしこまりました》
そして俺は先生に振り返ってどうするのかを伝える。
「先生、攻撃が通らないなら罠を仕掛けます。手伝っていただけますか?」
「もちろんじゃとも」
「モーリス先生にはこの路地の地面一体に、穴を大量に開けてほしいのです」
俺は身振り手振りで深さと幅をモーリス先生に伝えていく。
「こうか?」
ボコボコボコボコ!と地面に穴が空き始めた。さすが魔法の精度にかけては天下一品で、等間隔と同じ深さで地面に穴が空き始めた。俺はその空いた穴に走り寄る。
「ここにあるものを置いて行きますので、先生の土魔法で綺麗に埋めてほしいのです。これは足で踏むと爆発する地雷というもので、地表に分かりずらいように装飾していただきたいのです」
「ふむふむ」
俺は数種類の地雷を召喚して置いて行く。M16A1跳躍地雷、M19対戦車地雷を交互に設置していくと、モーリス先生が絶妙なバランスで土を固めて行ってくれた。M16A1跳躍地雷は地上に飛び出て破片を四方に散らす事で人を殺傷する。M19対戦車地雷はその名の通り、戦車を破壊する為の地雷だ。どちらが通用するのか分からないため、二通り設置したのだった。
「さすがです」
「容易い」
先生の魔法のおかげであっというまに、百個以上の地雷を埋める事が出来た。そして道端の草が生えているところに、M18 クレイモア地雷を設置していく。これからあいつをおびき寄せる時間を考えて、時限装置などの起爆方法を取った。
「待っていてください!」
俺は瓦礫の端に行って戦闘の様子を見る。やはりシャーミリア達の攻撃は通っていないようだが、マキーナまでも負傷しているようで足が無いようにみえた。恐らくは飛びながら敵の攻撃を回避しているのだろう。
《もうすぐだ!》
《《かしこまりました!》》
どう考えても返事に余裕はなかった。そのまま急いで先生の所に戻る。
「ではこの更に奥に行きます。間違って踏まないでください」
「自分の魔力が作用したところなら、間違いようがないわい」
「安心しました。では先生が先に通りの向こうまで行ってくださいますか?私が先生の足あとを追うようについてまいります」
「うむ」
先生が埋めた地面はすっかり元通りになっていて、どこに地雷が埋まっているか分からなかった。そのため俺は先生の踏んだ地面を踏んで進んでいく。
「ここまで来れば安心じゃ」
「ではここに新たな罠を仕掛けます」
「うむ」
「また穴を掘っていただけますか?」
「さっきの要領じゃな」
「そうです」
俺とモーリス先生がまた地雷の設置作業を行った。
「ではいきます」
「うむ」
そしてその先の道を左に折れ、そこでまたモーリス先生に言う。
「ここにもお願いします」
「うむ」
そして今度は地雷ではなく、信管を取り付けたC-4プラスチック爆弾をモーリス先生が空けた穴に埋めていく。しばらくその作業を続けてそこら辺中をプラスチック爆弾だらけにした。
「では先に」
「うむ」
先生と俺がそこから百メートル先に進むと、今にも崩れ落ちそうな燃えた建物があった。
「ここが良いな…」
「どうするのじゃ?」
「ちょっと待っててください」
《シャーミリア!》
《……》
どうやら角を二つ折れているので、シャーミリアに念話が通じないようだ。光柱がそれを阻害しているらしい。
「先生、あの建屋の中に兵器を召喚します。先生はそこで待っていてください」
「わかったのじゃ」
俺は先生と崩れそうな建屋に入り、俺はそこにM1エイブラムス戦車を召喚する。ガパン!とハッチをあけて、モーリス先生を中に入れた。
「私が戻ってきたら入れてください」
「気を付けてのう」
「はい」
俺は今来た道とは違う方向から周っていく。自分で設置した地雷を踏んでしまったら、アホすぎるので回り込んでシャーミリア達が戦っている方に向かう。
《シャーミリア!》
《は!》
《良く耐えてくれたな!陽が沈めば光柱が消えてしまう、その前にかたをつけないと恐らく、そのバケモンは更に力を強めるだろう》
《私奴も発揮できます!》
《いいんだ、シャーミリアは無理をするな》
《何としてもこやつを消さねばご主人様に災いが!》
《大丈夫だ》
《どうすれば…》
《そのフーが追いかけてくるように三人で戦線を離脱しろ。行く方向は俺とマキーナが来た方向に向かって行き、最初の角を右に曲がれ。さらにその先の角を左に曲がるようにしてくれ。最初の角を曲がればまた俺と念話が繋がる、視界共有をするぞ!》
《は!》
俺は急いでモーリス先生の待つ戦車まで戻った。ハッチをあけて中にいる先生に声をかける。
「先生!私が乗ったらこの建物を崩せますか?」
「簡単な事じゃ」
俺がハッチから中に入り、先生がハッチの外に向かって魔法を発動する。すると風魔法の影響でその木造の建物が一気に崩れてきた。ハッチに瓦礫が積み重なる前に閉めた。
「いい感じです」
「それでどうするのじゃ?」
「待ち伏せをします」
「わかったのじゃ」
そして砲塔をC-4プラスチック爆弾を設置したほうに向ける。音がする為、戦車のエンジンはかけないでいた。
「では、先生はこれを」
俺はモーリス先生にC-4プラスチック爆弾の起爆装置を渡した。
「これは?」
「私が合図をしたらそれを握ってください」
「わかったのじゃ」
《ご主人様、最初の角にまいりました》
《全員そこから地面を五十メートルほど飛び越えろ、罠が仕掛けてある》
そして俺はシャーミリアの視界を借りる。シャーミリアの右にファントムが居た。二人ともボロボロだが、逃げるには支障が無いようだった。後ろを振り向くと、炎龍が追って来ている。
《そこで出来るだけ、その龍から逃げてくれ》
《は!》
一度立ち止まりそこで炎龍を待ち構え、逃げ回る。すると街角を曲がってフーが歩いて来た。
あの余裕がムカつく。
《おびき寄せろ!》
《は!》
そこで逃げ回りながら、フーが来るのを待つ。
「どうした?もう逃げるしかないようだな!」
フーが街角を曲がり足を踏み入れた時、バシュ!バズゥン!とフーの足元からM16地雷が飛び出して爆発する。
「ん?」
しかしフーの熱のベールが鉄の破片を寄せ付けず、攻撃がまったく通らない。
「なんだ?この蚊がさしたような攻撃は?魔法か?」
本当になんともないようだ。フーは何事も無かったように、一歩足を踏み入れる。バズゥン!バズゥン!バズゥン!ズズッゥウン!と次々に地雷が発動して爆発していく。
「はははははは!」
無人の野を行くがごとくフーが歩み寄ってくる。
「無駄な事を!」
《よしシャーミリア、先に進め!同じく五十メートルほど跳躍するようにな》
《は!》
シャーミリアの視界がまた動く。せわしなく炎龍を避け、視界が凄いスピードで揺れるので酔いそうになる。後ろを見れば、ズドン!と先ほどと同じように地雷原をものともせず、爆発させながらフーは歩いて来るのだった。
《最後の角を曲がれ》
《は!》
シャーミリア達は最後の角を曲がり、俺と先生が潜む路地に入り込んで来た。俺は固唾をのんでC4プラスチック爆弾を仕掛けた場所を見ていた。俺達の脇をシャーミリア達がわざと通り過ぎていく。
「暑いのう…」
「恐らく炎龍が通り過ぎたことで、この建物がまた燃えだしたのでしょう」
「なるほどの」
俺が窓からのぞいていると、曲がり角を曲がってフーがこっちに入り込んだ。
「先生」
「うむ」
ボボボボボン!と一気にC4プラスチック爆弾が爆発した。煙が上がりフーの姿が見えなくなった。
《ご主人様!炎龍が消えました》
《そうか!》
やったか?
いや…
その煙の中から人影が出て来た。フーは多少の血が出ているようにみえるが五体満足無事なようだ。
「ふははははは!今のは少し痛かったぞ!強い魔法を使ったのか!だが、我にほとんど傷をつけられぬではないか!」
カチッ!ズドン!
そして俺はすぐさま、M1エイブラムス戦車の120ミリ砲弾を撃った。
ズボォォォ!
その玉は思いっきりフーの胸を貫通した。
「ぐおおおおっ!」
よっしゃ!効いた!
俺が撃ったのはM829劣化ウラン弾だったのだ。4.9kg の劣化ウラン貫通体を持った驚異の威力を誇る弾だ。逃げられる可能性があったのでここまで用意周到な罠を仕掛けていたのだ。
「上手くいったのう!」
「はい!」
俺は喜びながらも次弾のM829劣化ウラン弾を召喚して装填した。二つの地雷原はあいつに傷すら負わせられないのは分かっていた。次のC-4プラスチック爆弾でも、そこまで致命傷を与える事は出来ないだろうと思っていた。だが間違いなくあいつが気を散らす瞬間が出ると思ったのだ。そして目論見通り、あいつは集中力を欠いた。
「なぜ効いたのかの?」
「この弾は特別製なんです」
「なるほどのう」
そして再びあいつにとどめを刺そうと狙いを定める。
「……ん?」
「どうしたのじゃ?」
「アイツこっち見てます」
「それは…」
俺が急いで次弾を撃つと、膝をついているフーが左腕を上げてその弾を防ごうとした。ブチッ!と腕を飛ばしながらも立ち上がり、こちらに向かって走ってきた。さらに一匹の炎龍が傍らに出てきたのだった。
「どうやらあいつの龍は、あいつ自身の腕のようです!」
「来たのじゃ!」
俺は急いでM1 エイブラムスのエンジンをかけるのだった。