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第694話 新世代の神

切羽詰まっている状況なのにアトム神が悠長に話し出した。地上では今でも味方が必死に戦っている状況なので早くしてほしかった。マジで。


「実はのう、ここに現れたバケモンを見てある程度の事情が分かったのじゃ」


アトム神は魔石に包まれている時も外が見えていたらしい。そりゃデモンが居たんじゃ魔石から出てくるわけないか。それで何か気が付いた事があるのだとか。


「外が見えていたのですね?」


早く話せ!


「余が話しておる!」


「すんません」


早くしてほしいんだけどな…


「この子が現れるまでは、誰にも話すつもりがなかった話じゃ」


アトム神がアウロラを指さした。


「私が?」


アウロラが自分を指さして言う。


「そうじゃ、情報がどこから外に漏れるか分からんからな。そこの大賢者が余を助けてくれた時は、まだ時期ではなかったからの」


「それで私を呼んだのですか?」


「そういうことじゃ」


まああの時はモーリス先生も頑張ったと思うけど、俺達魔人もすっげえ頑張ったはずだが。


「なんじゃおまえ?余の話が気に入らんのか?」


「え?いいえ!私、何か変な顔をしていましたか?」


この神様、変に敏感でやだ。


「つまらん顔をしておった。まあもともと、つまらん顔をしているようじゃがな!」


「つまらん顔ですみません」


ムカつく。


「まあよい、それでどこまで話したかの?」


「まだ全然話されてはおりません。さわりだけだと思われます」


俺が話すと角が立つと思ったのか、サイナス枢機卿が代弁してくれる。


「そうじゃったか?」


「はい」


サイナス枢機卿が俺に変わって話を続けてくれるようだ。


「余ですら既に何代目なのかもわからぬのだが、神は代替わりをするのじゃ。古代に神はもっと数がおったのじゃが、今では数えられる程度しかおらん。そして…」


アトム神が少し間を入れた。


「はい」


「代替わりの時がとても繊細なのじゃよ」


「そうなのですか?」


「ふむ。引き継ぐ者がどんな素質かによって、次の時代が決まってしまうのでな」


「新しい神々の時代の本流が変わると言ったところでしょうか?」


「そう言う事じゃな」


んー、ややっこしい。難しい話は早く終わらして仲間のもとに行きたい。とりあえず誰が主導権を持つかの争いみたいなもんなんじゃないの!


「おまえ…」


またアトム神が俺を見て何か言いたそうだ。


「あの!新時代の神々を引き継ぐ者の、素性が影響するという事でしょうか?」


サイナス枢機卿が脱線しないように話を進める。


「そうじゃ、どうやらこの度の龍神、虹蛇、精霊神、魔神はかなり近しい者同士、そして比較的道理が通る者で構成されたらしい。そしてアウロラはこちらに生まれた方が安全じゃった。そこに生まれたのはこの子の持つ天運じゃろう」


「ということは、神を次ぐ者の天命によっても時代は変わるという事でございましょうか?」


「うむ」


「それはアトム神様や、先代の他の神々も同じということでございますか?」


「そのとおりじゃ、余は先代の神とは性格が違う」


「そうなのですね」


「先代アトム神は、魔神と仲が良かったらしいのじゃ」


うっそ!こんな奴と!あ、ちがうかコイツの前の奴か。


ぎろりとアトム神が俺を睨む。


「それが変わってしまったと?」


サイナス枢機卿が話を逸らさせない。しかしこのアトム神は、俺が考えている事を読んでいるのだろうか?


「余は先代魔神とは合わなかった」


「そう言う事でございましたか」


「いがみ合い戦うほどではなかったがの」


「はい」


「まあ、此度の魔神とも合いそうにはないがの」


おおーー!!それは俺も同感だ!気が合うねえ!!


ギロリ


いちいち睨むな!


「余達にもそのような事があったのじゃ。虹蛇は自由奔放に、龍神は自分に厳しく、そして精霊神は洞窟に引きこもりに。じゃがそれらは先々代とはまた違う性格なのじゃ」


まあね…俺達の世代でもそれぞれに性格は違うしね。神を受体する者の性質で、次の神の在り方が決まるって事か…


「そして此度の、世代替わりに問題があったようじゃな」


「問題でございますか?」


「神の誰かにおかしな奴が混ざったようじゃな」


「なんですと?」


「その者が問題を引き起こしておる」


「申し訳ございませんが、私にはそのようには思えないのですが」


サイナス枢機卿が反論する。怒られるんじゃないか?


「なぜじゃ?」


怒らないし…


「龍神様、虹蛇様、精霊神様、魔神様、そしてここにいるアウロラ様に問題があるように思えません」


「そうじゃな、まあこの魔神候補に何か問題はありそうじゃがな。それでもこんな問題を起こすほどじゃない」


俺のどこに問題があるつーんだよ…


「いまひとつ、アトム神様の言っておられることがよくわからないのです」


「なにがじゃ?」


「五大神様の誰もがおかしくないとなれば、このような問題は起きないのではないですか?」


「ん?神は五神だと誰が言った?」


え?それは今までになかった情報だぞ。これまで会った神もそれは言ってなかったし、モーリス先生の調べでもそんな話は出たことがない。


「もうしわけございません。私が無知なもので…存じ上げないようです」


「古代にはもっと神はたくさんおったのじゃ。代替わりしていくうちにその数を減らしていったのよ」


「他にも神はいると?」


「確かに北の大陸には余と龍神、虹蛇、精霊神、魔神しかおらん。だが世界は広いのじゃ、まあお主たち北大陸の人間が分からんのも無理は無いか」


ああ…確かに、成層圏まで上がった時に見たらめっちゃ広かったし、世界の果てが見えないほどだった。北大陸に五神しかいなかったとしても、他にいたっておかしくはない。


「そうなのですね…」


今度はモーリス先生の目がキラッキラに輝いている。こんな世界の真理を聞く機会など他には絶対にないだろう。


「じゃが…余がすべてを知っておるわけでもないぞ。数代前の世界がどうだったかは知らん」


なんだ…こいつの主観的なものも入ってるのか…データはもっと正確に伝えてもらわないと!


ギロリ


また睨む!いったいなんなんだ!


「どういうことなのです?」


「ふむ。恐らくおかしな奴が神を代替わりしたようじゃ」


「他の神と申しますと?」


「ここを埋めた、バケモノを見て余は確信した」


「デモンということでしょうか?」


「そうじゃな」


「どういう事でしょう?」


「あれは恐らく、最下のデモンに何らかの力を付与しておるのじゃ。そしてその付与をしている者が問題じゃ。本来のデモンにあんなものはおらぬ」


え!そうなんだ!なんかいつも出てくる奴は、大抵あんな感じなんだけど。あれってデモンになんかが付与されてるって事なのか…


「誰がそのような事を?」


「恐らくは…」


アトム神が考え込むような姿勢を取る。


「はい…」


「恐らくじゃが、それは火神じゃ」


「火神でございますか?初めてお聞きました」


「その名は火神アグニという」


「火神アグニ…」


なーんか前世で聞いた事があるような名前が出て来た。たしか火にまつわる神の名だ…もしかして前世のも同じ神様の事を言っているのかもしれない。


「あのような炎を纏うデモンは見たことがない。恐らくはアグニの仕業じゃろう」


そう言えば…さっきまで戦っていたフーとか言うやつも火だった。


「あのー…」


「なんじゃ!余が話をしておる!」


また怒られる。


「聞いてあげてもらえますか?」


アウロラがサポートしてくれた。


「そういうなら聞こう」


「ありがとうございます。さっきまでフーとかいうやつと戦っていたのですが、何かご存知ではありませんか?」


「知っておるぞ」


「本当ですか!」


「余が嘘をつくと申すのか!」


「そう言うわけではないです」


いちいち面倒だ。


「まあよい、フーというのはムスペル六人衆の一人よ」


「ムスペル六人衆ですか?」


「うむ。火の一族じゃな、その六人衆の事をゼクスペルというのじゃ」


あ、それ聞いた。たしかバティンかダンタリオンが言ってた気がする。


「それはどういう者なのですか?」


「火を操る一族よ、それは火の悪魔スルトの配下じゃな」


「えっと、火の悪魔スルト?」


「そうじゃ。恐らくスルトとアグニは通じておるのじゃろ」


「組んだ、という事でしょうか?」


「まあそんなところじゃ。よほど厄介なやつがアグニを継いだのじゃな」


なるほどなるほど。俺達のように神様を受体したやつが居て、そいつがデモンと手を組んで何かをやらかし始めた。そいつがこの戦いの引き金を引いたって訳か…さらにそいつは何らかの方法で、アウロラの存在とイオナの事を知って殺そうとしてきた。その後、俺達が逃げて他の神々を代替わりさせてそしてここまで戻って来た。


まるで神話だな。


「さすがはアトム神様です。やはり神の事は神に聞けってやつですね!」


俺はアトム神を褒めてやる。


「んぐぐ!おまえは身の程を知れ!余にそのような口をきいて良いと思っておるのか!」


うん。良いと思ってる。


「申し訳ございません。出過ぎた真似をしました」


「まったく、お前が覚醒もせんとウロウロしておるから、このような事になったのじゃぞ!」


「あい、すいません」


そしてアトム神に間が開いた。


「待て待て…よく聞けば、お前はさきほどフーがこの地に来ておると言ったな!?」


「そうです」


「お前はそんなときに、なんでこんなところで油を売っておるのじゃ!こんな場面しか魔神の働きどころなどはないであろう!!」


だから!仕事をしに行こうと思っていたんだが!お前が悠長に話しはじめちゃったんじゃないか!馬鹿かコイツは!?


「なんじゃその不服そうな顔は!」


「それでは!我々はすぐに、地上で戦う仲間の援護に向かいます!」


「こりゃ!既に余と世継ぎが出会ったのじゃぞ!もう結界に潜る事は出来ん!」


「え、そうなんですか?」


「そのあと誰が結界から出すのじゃ!」


「自分で出れないんですか?」


「出られたら苦労はせん!」


うっわ。面倒くさい…そんな面倒な能力だったのか。


「ならばここは危険です。デモンを送るための座標が作られたと思います」


「分かっておる!」


「では一緒に上がるしかないですね」


「それしかないじゃろ!連れて行け!そして余とアウロラを全力で守れ!」


「わかりました。それでは全員で上がります」


「まったくもう…これだから…魔神は…中でなにがどうなっとるのじゃ…」


アトム神がブツブツ言ってる。見た目が座敷童なのに、何て憎たらしいんだろう。


「とにかく、階段を上ります」


「誰が余をおぶるのじゃ?」


アトム神が聞いて来る。


「えっ?」


「なんじゃ!聞こえんのか!誰が余をおぶるのじゃ?」


「なんて?」


「だから!誰が余を背負うのじゃと言っておる!」


背負う?あ、おぶるって背負うって言うのか…っつーか自分で歩けよ。


「あの、歩いてはいかがでしょう?」


「いやじゃ!あんな階段を上りとうない」


俺はサイナス枢機卿を振り向いた。


「はい、アトム神様がここに出入りする時は信者が背負っておりました」


うっわ、クソじゃん。


「わかりました…」


《マキーナ、悪いんだけど戦車から出てきてくれ》


《かしこまりました》


ガパン。マキーナが隠れていた戦車のハッチをあけて出て来た。


「すまんが、アトム神様をおんぶしていってくれないかな」


「かしこまりました」


「なに!魔人風情におぶされじゃと!」


おいおい、何が不服だ?こんな美人に背負われたら普通本望だろう。


「すみませんが、人間は皆ボロボロなのです。背負えるのは私かマキーナしかおりません」


「ふーん。じゃあお前が余を背負え」


「私が?」


「そうじゃ」


なんだろう…まあマキーナが可哀想だし俺でもいいけど、何かあった時すぐ動きたいんだが…


ほーれほーれと、俺の周りでおんぶをしろの踊りを踊るアトム神。


コイツが神でなければビンタの一つもしたところだが…ここはグッと我慢するのだった。ここで揉めて上がるのが遅れたらそれの方が問題だ。


「あの、その前に寝ている彼らを起こしてください」


ケイシー神父やイショウキリヤ達、もう一人の少年を見て言う。


「あ、そうじゃったな」


アトム神が寝かされている人たちに向かって息を吐く。


「ふぅぅぅぅぅ」


「うん…」

「あれ…」

「私…」

「僕は‥」


ゆっくりと人間達が起きだした。


「あ!ラウル様!サイナス様も!」


ケイシー神父が飛びあがり、俺達のもとへとやってくる。


「やあ、ケイシー」


「あれ?さっきここに来たと思ったらえっと。あれ?あ!君たち!」


ケイシーがイショウキリヤを見て言う。


「すみません。僕たちもどうなったのかよくわかりません」


キリヤも言う。どうやらこの人間達の記憶は止まっていたようだ。


「君は…もしかしたら日本から来たのかい?」


端に立っている少し青い顔をしている少年に向かって俺が言う。


「そうです。あなた達は?」


「この世界の人間だ。君の名は?」


「梶貴晴といいます」


「カジタカハルか。わかった、これから地上に上がるんだがついて来れるか?」


「はい!大丈夫です」


今までの転移者には無い礼儀正しさを持った少年だ。この少年なら魅了されない限り、俺達の敵にまわる事は無さそうだ。


「じゃあどうぞ」


「苦しゅうない」


俺がしゃがんで言うと、アトム神は俺の背中に乗ってくるのだった。

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