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第690話 援軍

どうするか?このフーとかいう、得体の知れないやつに勝てそうにない。


「あぶな!」

「あつっ!」

「うわっ!」

「おっと!」


俺とクレ、マカ、ナタが必死に炎龍から逃げ続ける。都市内を逃げ回り続けるうちにそこいらの住宅が燃え始め、大火となって一面に火が燃え広がり始めた。


《せっかく建てた住居が!》


《あの光柱も邪魔です!》


《くそ!ムカつく!》


俺たちは炎龍から逃げ回りながらも、ある場所に向けて走っていた。するとようやく目的の場所が見えてきたのだった。


「あの建物だ!」


先に乗り捨てたAAV7 SU装甲輸送車のもとにたどり着いた。すでに中には人は乗っておらず、もぬけの殻になっているはずだ。


「あの陰に!」


「「「は!」」」


俺と三人の超進化ゴブリンがAAV7 SU装甲輸送車の後ろに回る。炎龍はこちらに向かってきており、炎龍の後ろからはフーが余裕で歩いて来ていた。あの余裕がどこから来るのかは分からないが本当にムカつく。


「これをあいつにめがけて投げ俺についてこい!」


「「「は!」」」


召喚して渡したのはM18発煙手榴弾だった。炎龍の方角に向かって投げると、手榴弾から緑色の煙が一気に辺り一面に広がって視界が閉ざされた。


《来い!》


俺たちが向かった先は、さっきファントムたちと一緒に掘った住居内の穴だった。


《飛び込め!》


俺を先頭に三人の進化ゴブリンもその穴に飛び込むのだった。


どっぼん!どっぼん!と俺達は穴の底に溜まっていた水に落ちる。既にかなりの湧き水が噴出しており、井戸のように水がたまっていた。ゴボゴボ言いながらも、俺はすぐさま酸素ボンベを召喚して、クレ、マカ、ナタの順に渡す。最後に俺の分を召喚して水素ボンベを咥えた。


《なんでこんなところに水が?》


《さっき掘った》


《そうなんですね》


《とにかく一旦やり過ごそう》


《わかりました》


俺達は更に深いところまで潜っていくのだった。


《結構冷たいな》


《はい。ですがあの火の龍でひりひりしていたので気持ちいいです》


《さてと…あいつはきっと俺達を探してるよな?》


《かと思います。光柱があるため、あちらも正確に探せないんじゃないですかね?》


《恐らくはな》


とはいえ、どうしたものか…このままあいつを野放しにしたら、味方が全員焼かれてしまうだろう。それでなくても魔法の空爆によってあちこちで味方が死んでいるはずだ。


《不意打ちなら何とかならないかな?》


《不意打ちですか?》


《いかにあいつでも意識の外から攻撃されれば当たるんじゃないかなって》


《弾が届きますかね?》


《そこなんだよ》


俺達が念話で話していると、ボグゥン!と水が揺れた。地上のAAV7 SU装甲輸送車が爆発したのかもしれない。こんなところにいつまでも隠れてはいられないのは確かだった。


俺はすぐにシャーミリアに念話を繋げる。


《シャーミリア、そっちはどうなってる?》


《それが…》


《どうした?》


《申し訳ございませんご主人様。いま全員で聖都に向かっております》


《なんだって!?人間も?全員で?》


《はい。全員で》


《なんで?》


《それが…申し上げにくいのですが》


《なんだ?》


《アウロラ様が天啓を受けたとおっしゃいまして、すぐに聖都に向かわなければならないと》


《アウロラが?》


《そうしないと仲間が全滅するからと》


まあ間違ってはいないが、アウロラはどうにかしてこちらの状況を掌握したらしい。


なんでだ?


《アウロラを止められなかったのか?》


《基地周辺に居た敵は全て聖都に集中しているからと、そしてもし私奴やメリュージュが行かなければ一人でも行くとおっしゃいまして》


《いまは?》


《私奴とアナミス以外はメリュージュとグリフォンたちの背に》


《へっ?飛んでるの?》


《はい》


《えっと誰が来てるの?》


《先ほども言いましたように全員です。母君も恩師様もカトリーヌ様もいらっしゃいます。さらにはマリアとミーシャとミゼッタまでが…行くと言い出しまして》


《マジか…人間ではどうする事も出来ないぞ?》


《すでに聖都がみえてまいりました》


マジか!もうそんなところまで!


《それはダメだ!ここには今までにないほど強力な敵がいる!今は俺とクレ、マカ、ナタが避難し、ルピアも逃がした。マキーナは恐らく敵の魔法使いの排除に奔走している》


《それではご主人様が危険なのではありませんか?》


《ま、まあ多少だ。だが俺はこれを突破する手立てがある。とにかくアウロラとイオナを連れて帰ってくれ!》


・・・・・・・・・・・


返事がない。あれ?いきなりつながらなくなったぞ。もしかしたら聖都に着いちゃったとか?


《クレ、マカ、ナタ!すぐに地上に出る!》


《《《は!》》》


俺達は急いでボンベを捨て、一気に水面に出て縦穴の壁を這い上がる。地上に出ると建物が炎上しており辺り一面が火の海になっていた。


「あっつっ!とにかく外に!」


「「「は!」」」


路上に出ると既にフーはどこかに歩き去ったようだった。恐らくは俺達を探しているのだろう。まだ都市のあちこちから魔法攻撃の音が聞こえていた。空を見ればあちこちにワイバーンが飛んでおり、相変わらず地上の人間達を蹂躙しているようだ。


「くそ!」


キュォオォォォォォォォン!と耳を斬り裂くようなバカでかい超音波のような叫び声が聞こえた。俺とクレ、マカ、ナタが思わずふらついてしまう。三半規管がかき回されるような鳴き声だった。耳を塞いだ俺達がふらつきながらも上空を見た。


「なんだ!!!!」


「落ちていく…」


「本当だ…」


聖都の空を埋め尽くしていたワイバーンが、全部地上に落ちて来たのだった。今の鳴き声はなんらかの攻撃だったのかもしれない。


「よし!落ちて来たワイバーンと乗っているやつを始末しよう」


「「「は!」」」


一番近くに落ちたあたりに走っていくと、ワイバーンは気絶でもしているのかベロを出して横たわっていた。


「なんだ!」

「くそ!」


二人の異世界人がワイバーンから投げ出されたのか、近くに転がって悪態をついていた。俺達が急いで近づいて行くと、こちらに気が付き俺達に向けて手を向けて来る。


「魔法を使わせるな!」


パン!パン!パン!とクレ、マカ、ナタが走りながらVP9 ハンドガンを魔法使いに向けて撃った。数発撃ち込まれた魔法使いはそこに横になり動かなくなる。俺達はそのままそこを走り抜けて更に先に進んでいく。


「あそこで魔法使いたちが戦っているようです!」


ナタが指さした方角では、落ちて来たワイバーンの陰に隠れた異世界人たちと、建物の中から魔法を撃っている者たちがいた。どう考えても異世界人たちの魔法の威力が上回っている。


《俺達に気が付いていない》


《はい》


俺は即座にウージ―サブマシンガンを召喚して、敵対する魔法使いのいる場所に乱射した。


「うっ!」

「わぁああ!」

「ギャア!」


バタバタと倒れる異世界の少年少女たち。だが今はそれを保護する余裕などないのだった。非情な判断だが、この都市にアウロラとイオナとモーリス先生が来ている以上は、最優先で彼らを守りに行く必要がある。


《とにかく、あの火のバケモノよりも早く彼らのもとに行くんだ!》


クレたちに指示を出した。


《《《は!》》》


俺達が走っていると逃げたファントムとルピアが居た。


「ここにアウロラたちが来ている!とにかく来い!」


俺達についてファントムとルピアも追って走ってくる。とにかく正門に向けて一目散に走るのだった。だが…俺達の目の前には現れてほしく無い奴が現れた。


「くそ!」


俺達はそいつを前に立ち止まる。


「くははは、我をまいたつもりだったか?なぜか知らんが、またのこのこと出てきおったのか!」


筋肉隆々の銀のたてがみを持つフーがそこに立っていた。また先回りされてしまったのだった。


ボッボッボッ!と再び、フーの周りに炎が立ち上がり始める。


「今度こそ皆まとめて黒焦げにしてやろうではないか!」


二匹の炎龍が鎌首をあげて俺達を見下ろしている。


シュッ!


ガキィィィィ!


一瞬でシャーミリアが現れて、フーの首を爪で斬り裂き反対側に着地していた。


「ミリア!」


「ご主人様!大変遅くなりまして申し訳ございません!」


フーの首からは血がしたたり落ちているが、その首周りを炎がぐるりと回ると傷が消えた。


「どこからきた?」


何事も無かったように、フーがシャーミリアを睨んでいる。


「お前は黙りなさい。ご主人様の御前よ」


シャーミリアが立ちあがり、これ以上ないくらいにフーを見下している。


「くっくっくっ!我にそのような口をきくか…」


《シャーミリア!そいつの能力は火炎だ。インフェルノに近い炎の龍を使いこなすぞ》


《ありがたきご指導をありがとうございます。それでは私奴がこやつをひきつけましょう》


《ひきつける?》


《ご主人様は急ぎアウロラ様のもとへ》


《…わかった。ならばファントムも置いて行く》


《何という寛大なお心遣い!それではお借りいたしたいと思います》


珍しくシャーミリアが受け入れてくれた。俺達がフーから逃れて通り過ぎようとする。


「逃れられると思っているのか!」


フーが俺に対して炎龍を飛ばしてくるが、ファントムがフーの目の前に現れておもいきりパンチした。更にそのタイミングを狙ってシャーミリアが、爪でフーの顔を引き裂く。ファントムもシャーミリアも皮膚が焼けているようだが、すぐに再生するようだった。たまらずフーが受け身を取る。この二人の攻撃に無傷ではいられなかったらしい。


《お早めに、そう長くはもちそうにございません》


《わかった!ファントム!銃火器をふんだんにつかえ!》


《……》


俺はそのまま通り過ぎルピアとゴブリン三人衆も俺について来た。むしろ彼らはシャーミリアとファントムの足手まといになりかねない。とにかくここは少しでも早くアウロラたちのもとに行く必要があった。


「あそこです!」


ルピアが叫ぶ。その視線の先には巨大な黒龍がいた。正門の中の広場にメリュージュとみんなが居て、アナミスとスラガとルフラが皆を守っているようだ。


「アウロラ!だめじゃないか!ここは危険なんだぞ!」


俺はすぐにアウロラのもとに近寄って言う。アウロラはそれでも強い眼差しでおれを見返していた。


「おにいちゃん。私と地下に連れて行って!」


「何を…地下に?何故だ?」


「天啓よ。お兄ちゃんにこれ以上、異世界人を殺してほしくないの!」


「それと、アウロラを地下に連れて行く事と何が関係あるんだ?」


「あるの!説明なんかしている暇はないの!」


幼女が力強く言って来る。


「ラウル、アウロラは恐らくこの戦いの鍵を握っていると思うわ」


イオナもアウロラを援護するように言った。どうやら既に親子で覚悟を決めているらしかった。


「だが母さん、ここには恐ろしい奴らがいっぱいいるんだ」


「ならお兄ちゃんが守りなさい!」


「えっと…」


「早く!」


都市のあちこちで戦闘は続いていた。とにかくこの状況をどうにかできると考えているらしい。


「ラウル君、私が地下の入り口まで連れて行ってあげるわ」


メリュージュが言う。


「メリュージュさん…」


「とにかく急いだほうがいいと思うの」


「ラウル様!」

「ラウル様!」

「ラウル!」


マリアとミーシャとミゼッタまでが俺に言い寄って来た。


「みんな…」


「ラウルよ、ここはこの子らの言う事を聞くしか無かろう」


モーリス先生までが言い出した。


「先生…」


「ね、おにいちゃん」


うるうるした目で俺を見上げてアウロラが言ってくる。


「うっ…」


「「「「「「さあ!」」」」」」


全員が俺に迫って来た。


「…わ、分かった。連れてく」


「さすがお兄ちゃん!」


俺は皆の勢いに押されて、アウロラの申し出を受けてしまうのだった。とにかく何が何だか分からないが、俺もアウロラを地下に連れて行かなくちゃいけないと思い始める。


「メリュージュさん。お願いできますか?」


「ええ」


「ありがとうございます!それじゃあ、スラガ!アナミス!ルピア!ルフラ!クレ!マカ!ナタ!母さんや先生、マリア達を頼んだぞ!」


「いやラウルよ、わしも連れて行け!」


「いえ、先生!都市内は本当に危険なのです!」


「いや、わしも行かねばならぬ。おぬしら兄妹を守る使命がある!」


先生が偉い剣幕で俺に詰め寄って来た。


「わかりました…それでは行きましょう」


「ふむ」


「ラウル様。私たちもここの民や魔人達を救うために戦います!」


マリアが言った。


「しかし、デモンが出現しているんだ!」


「みすみす味方を見殺しにはできません!」


「マリア…」


「私もお手伝いします」


「ミーシャ…」


「私も!」


「ミゼッタ…」


「というわけねラウル。私ももちろん助太刀するわ」


「母さんまで…」


ドドドドドドド


がおがおがおがおがお!


もちろんあたしもね!とセルマが言っている。


「セルマ…」


「じゃあ後は任せてね」


イオナが俺の背を押した。


「わかった…。じゃあスラガ!みんなの指揮をとってくれ、とにかく彼女らを守ってほしい!」


「は!」


俺はそう言うとアウロラを連れてメリュージュの背の上に乗るのだった。モーリス先生もよっこらせっとメリュージュの首を伝って俺のところまで来る。メリュージュはその翼をはためかせて一気に上空へと上がった。


「ラウル君。あの光の柱に気をつければいいのね?」


「まあ、問題あるのは俺だけですが…」


「その、俺が大事なんじゃない」


そう言ってメリュージュは一気に都市内へと滑空するのだった。

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