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第689話 ラウルvs炎龍

上空にいるワイバーンの土手っ腹に穴をあけたったぜ!


俺が撃ったFIM-92 スティンガーのミサイルが命中して、ワイバーンの腹が爆発した。どちゃぐちゃべちゃ!と俺達の上にワイバーンの臓物が降りかかり、一面が血まみれになってしまった。気を失っている異世界の少女と礼一郎にもどっぷりかかってしまう。


「うえっ!きったねぇ」


「私はモロですよぉー」


ルピアを見ると臓物の直撃を受けたようで、白かった顔が血で真っ赤になっている。俺の上にはファントムが居たためモロにはかぶらなかった。


「すまん」


俺がルピアに謝ると、手を振っていいえいいえをしている。


「なるほどなるほど」


不意に低い男の声がした。


おっと!デモンが生きてたか。


「はいフー様、あいつが本命だとボクは思います」


バティンというボクっ子デモンの声だ。フーと呼ばれた筋肉隆々で厳つい奴が、顎に手を当てて頷いている。そのいでたちはどことなくワイルドで、銀のたてがみがまるでライオンのようにみえる。ずいぶん余裕があるようで俺達にすぐに攻撃をしてこない。バティンはその後ろでこっそりと俺達を伺うように顔をのぞかせていた。


「あいつにダンタリオンは消されたんです!」


「それほど強いようには見えんが、あのチビで間違いないのだな?」


「はい」


やい!俺の事をチビ呼ばわりしやがって、牛乳とか飲んでバスケでもすりゃ伸びるさ!っと俺は心の中で都市伝説のような事をつぶやく。


「ならこれではどうだ」


ボッボッボッっと、フーとかいう筋肉隆々の体の周りが火で包まれる。見るからに熱そうだ。


ボゥッ!


いきなりその炎が龍のような形となり、顎を広げて俺達に向かってきた。俺とルピアとファントムがそれを避けて飛び去るが、その炎の龍は俺に向かって直角に曲がって来た。俺は寸でのところでそれをスウェーで避ける。


「あっちぃ!!!」


ちりちりと髪の毛を焦がして、俺の皮膚を軽く焼いた。


通り過ぎただけなのにこの威力…これはインフェルノと同種の火だぞ…


「なるほどすばしこいようだ」


フーがそう呟くと、一瞬で炎の龍が消え去る。どうやら俺を試したみたいだが、なんかムカつく。俺はコルトガバメントを召喚してフーに撃ち込んだ。


「火魔法か?」


フーは俺の方をただ見てそう言った。避けるそぶりも見せなかった。


ん?あたらない?


俺の弾はフーにあたらなかった。あいつは避けるわけでもなく何もしていないように見えたが着弾しなかった。


《ファントム、そこの少女と礼一郎を救出しろ。さっきの炎龍の攻撃で火傷を負ったようだ、どこかに隠れてハイポーションをかけてやれ》


《……》


ファントムが俺の指示を受けて動き出した時、バシィンと炎龍がファントムの行く先を塞いだ。だがファントムはそれを避けて飛び去る。


「あの図体で…あれは魔人なのか?」


「あいつ頑丈なんです!素早いし、あいつも魔法を使うんです」


ファントムのスピードにフーが驚いている。そしてバティンは間違っている、ファントムは魔法を使えない。俺の召喚武器をしこたま吸収したのを出して戦っているだけだ。バティンは俺の銃火器を魔法だと思っているらしい。


「なるほど、こやつは従者に戦わせているのか」


「はい!フレイムデモンが紙屑のようでした」


あの骸骨顔のサルはフレイムデモンというらしい。そしてこいつらはどうやら俺達の情報収集をしているように思える。


「おい!そこの火のやつ!わざわざこんなところに来てもらって悪いんだが、消されたくなければ帰ってもらってもいいかな?」


俺がフーにそう告げると、ガバっと口を開けて再び炎の龍が迫って来た。俺が勝手に喋ったのが気に入らなかったのだろうか?俺も目の前で好き勝手やられて気に入らないのだが。


「あの炎には相性が悪いな」


俺はその炎龍から逃れるように、フーを中心にして円を描くように走り込む。すぐにスタングレネードを召喚して、アンダースローで足元に放り投げて目を閉じる。シュバッ!キィィィィィン!耳を切る音と共に、フーの目の前で閃光がはじけた。


それでも炎龍は俺を追って来る。どうやらあいつは視界で俺を追っているわけではなさそうだ。


「しつっこいな!」


「ばーか!燃えろ燃えろ!」


バティンが叫ぶ。俺の耳にはスマート耳栓TCAPSがはめられているので、スタングレネードの影響は受けておらずよく聞こえた。光が引いてフーとバティンの位置取りを見ていると、どうやらバティンはフーから距離をあけて立っているらしかった。もしかしたら熱くて近づけないのかもしれない。


《よし!ファントムいいぞ!》


光柱都市でも光柱に遮られていなければ念話が通じる。デモンらが俺に気を取られているあいだに、ファントムが少女と礼一郎を連れて逃げていた。指示をしたわけではないが、落ちた巨大ワイバーンの陰に二人を寝かせハイポーションをふりかけたようだ。


《ルピア、撃て》


連続した射出音と共にルピアのM240中機関銃が火を吹いた。だが…その銃弾はフーには届かない。


《バリア?違うな…あれは熱の壁か?》


どうやらフーは自分の体を超高熱で覆っており、鉄の弾丸が体に到達する前に溶かされているようだ。フーが攻撃したルピアを睨み、もう一匹の炎龍が出て来てルピアに襲いかかる。


《ルピア、装備を捨てて逃げろ》


重量物を捨てさせるために言う。ルピアは俺に従い、一切の装備を外して軽やかに炎龍から逃げ始める。やつは俺とルピア双方に炎龍を走らせているが、二つの思考が働いているかのように精密について来る。さらにファントムがM134ミニガンを腕から生やして、フーに撃ち込んでいるが弾が届かない。


「うおっ!」


ッシィィィ!突如、俺の目の前にバティンの斬月刀が現れ、それを寸前でライオットシールドを召喚して防いだ。だがシールドは半分破壊されて落ち、斬月刃の起動をそらすのみになった。ゴオォォォォという音と共に、後ろから炎龍が俺に追いついてしまった。間髪入れず反対側にもライオットシールドを出したが、一瞬だけその炎を止めた後で溶けてしまった。


バッ!


俺はギリギリで飛び去り炎龍の直撃を避ける。


「はぁはぁ」


「ふはははは!バーカ!やっぱお前たいしたことないな!ダンタリオンは油断しただけだ!」


バティンが勝ち誇ったように言う。俺は右腕とわき腹に大やけどを負っていた。


「ふぅふぅ…」


「ラウル様!」


ルピアが俺を見て、龍に追われながらも叫ぶ。


《退却だ!ルピアは俺を置いて逃げろ!》


《でも!》


《命令だ!こいつはダメなやつだ!》


《聞きません!》


《ファントム!》


ルピアが俺の命令を聞かずにフーに突っ込もうとしたので、咄嗟にファントムをルピアに飛びかからせて炎龍の直撃を防いだ。そのままファントムにつかまれてその場を去っていく。


「ラウル様ぁ!!」


ファントムにがっちりつかまれて、親から引き離された子供のようにルピアが俺に手を伸ばしている。


「ふむ。わが身より配下を逃すか、その意気やよし。だがどうするつもりだ?」


フーが攻撃の手を止めて俺に尋ねて来た。炎龍がどこにも居なくなってしまう。


うわあ…何つーか、強者の雰囲気が漏れ出てる…そしてムカつく。


「なんだ?筋肉マン、攻撃をやめるのか?ずいぶん余裕だな」


ファントムがルピアを連れて逃げる時間を稼ぐために挑発する。


「フー様!早く殺してください!」


バティンが叫ぶ。するとフーがぎろりとバティンを睨みつけた。


「クズが我に命令を下すというのか?」


「い、いえ!滅相もございません!」


「いや、今たしかに我に命令をしたな」


「い、いや…」


「そして我が戦っている所に、おまえは!そのおもちゃをヤツに投げたであろう!」


あら、何か物凄く怒ってるみたい。


「ち、違います!それは!」


「違わぬ!」


ゴオオオオオオ!


「ギャアアア!」


バティンの左腕が炎龍に食べられてしまった。左半身がちりちりと火傷を負っているようだ。


「黙ってそこにおれ!」


「は、はい…」


バティンは膝をついて、左半身を抑えている。


「そのデモンは間違っていないと思うが?少しでも戦いを有利にするために斬月刃を投げただけだ。それが証拠に俺はこうして怪我をしたぜ?」


「うぬぼれるな!お前なぞいつでも消せるのだ!我がそやつの力を借りてお前を仕留めたと思うのか!」


ビリビリビリ!まるでオージェの咆哮にも似た圧が俺を襲う。そしてやたらとプライドが高くて面倒くさい奴だ。筋肉の感じはオージェと似ているが性格はまったく正反対だ。


こいつ嫌い。


「本当にそうかね?まだ俺は生きてるぞ」


「ふはははは。この音が聞こえんのか?」


ズドン!バゴン!とあちこちから、魔法攻撃の音が聞こえて来る。フーとの戦いに集中し、俺は周りの音が聞こえていなかった。どうやら俺をここにくぎ付けにして、都市内にいる人間や魔人を攻撃しているようだった。


「お前は、なぜ人間と組む?」


俺が訪ねてみる。話が出来ないヤツのようには思えないからだ。今まで戦ってきたデモンとは雰囲気がかなり違っている。


「あの光柱は我らに邪魔をすると聞いておる」


「それで人間を使ったのか?」


「それはそうだがな、まあ他の者どもは我にとってはどうでもよいのだ。狙うは三人だけだからな」


「三人?」


「そうだ。一人はお前、もう一人は精霊神、もう一人はこの世に生まれし神の化身」


「神の化身?」


「知らんのか?」


「さて…知らんな」


マジでわからん。


「なるほど、本当に知らなぬようだな。なら知らずに死んだ方がよい」


「なぜだ?」


「我にもそのくらいの慈悲はある。知らずにあの世で一緒になるがよい」


なるほど。という事は俺の顔見知りの誰かというわけだ。そしてどうやらこの都市や人間達には興味が無く、こいつが興味あるのは俺とエミルとそのもう一人だけらしい。


「俺とその二人を始末したらお前はいなくなるのか?」


「うむ。我の目的はその三人のみだ」


なるほどね、こいつが標的にしているのは魔神と精霊神と何らかの神の化身というわけだ。


まだ都市のあちこちで魔法攻撃の音が聞こえていた。サイナス枢機卿とカーライルは無事だろうか?敵がデモンでない限りカーライルが後れを取る事は無いと思うんだが。


「じゃあ俺の目的はお前を消す事だよ」


「ふっははははははは!お主が我を滅ぼすというのか?」


「もちろんだ。俺が魔人の中で一番強いからな」


「…そうは見えんが」


「くっちゃべってくれてありがとう」


ファントムがルピアをどこかに連れて行ってくれた。俺の時間稼ぎはこれで達成。あとは一目散に逃げるのみ!他の人間に興味が無いというのなら、礼一郎と少女に手を出す事はあるまい。恐らくこいつは嘘はついていないはずだ。


ダッ!と俺はフーに背を向けて脱兎のごとく走りだした。足に魔力を流し込んで速力を最大にする。


「ん?逃げるだと?」


ゴォォォオ!と再び炎龍が俺に向かってきた。


《逃げ切れるか?》


こうしている間にも、ワイバーンに乗った異世界の魔法使い達に、兵士や魔人が殺されていく。サイナス枢機卿に被害が及んでいないといいのだが、とにかく今は助ける余裕もなかった。


「ん?」


ボォォォォォ!俺の前にいきなり炎の壁が出来上がり、津波のように上から覆いかぶさって来た。俺は90度に曲がり、その炎のビッグウェーブの中をくぐって走る。


「くっ」


その炎のパイプの中は灼熱だった。俺は全身に魔力を流してその高温に耐える。しかし衣服は燃え、皮膚をじりじりと焼いて行くのだった。


「やべえ」


その炎のパイプの出口には光柱がそびえたっていた。このボロボロの状態であの中にツッコんだら俺はアウトだ。何とかスライディングをして光柱の脇をすり抜けていく。すると炎龍は光柱よりこちらに襲いかかってくる事は無かった。どうやら能力を阻害しているらしい。


パシャ!俺は慌てて体にエリクサーをふりかけた。もう少しで焼け死んでしまうところだった。


「なるほど…この光柱越しには攻撃は届かないのか」


そうは言っても、こっちから敵に近づく事もままならない。このままではただ仲間達が死んでいくのを指をくわえて見ているしかない。


「ラウル様!」


通りの奥からクレ、マカ、ナタの三人が俺に近づいて来る。どうやらさっき行動不能にした異世界人たちを、都市の外に運び出す事に成功したらしい。ナタが俺に寄り添って立たせてくれた。


「お前達!無事か?」


「「「はい!」」」


「いま都市のあちこちで人間と魔人の一般兵が殺されている。一人でも多くの命を救いたいんだが、ちょっと厄介なデモンが現れてな」


俺が三人に説明を使用とした時だった。


「誰がデモンだと言った?」


俺が逃げようとしていた先に、フーが立っていた。いつの間にか先回りしていたらしい。そしてその周りにバティンはいなかった。


「おいおい、バティンを置いて来たら俺の配下があいつを殺すけどいいのか?」


「あんなもの殺されたところで何とも思わん」


「そんな事言って、どうせあいつは体を消して逃げれるから余裕なんだろうな」


「いや、この柱があるからな。あ奴も能力を使う事はできんだろう」


「お前はデモンじゃないのか?」


「下賤のものと一緒にするでない!!」


ゴォォォォ!またオージェばりの圧のある言霊が飛んでくる。どうやらデモンと一緒と言われる事は嫌なようだ。そしてまた体の両脇に二体の炎龍が出て来た。


「気をつけろ。あれはインフェルノ並みに高温だ」


「「「は!」」」


《ファントム!》


俺は念話でファントムを呼ぶが通じなかった。となれば光柱が邪魔をして、ファントムも俺の位置を把握できていないだろう。都市のあちこちから魔法の攻撃音が断続的に聞こえて来る。一刻も早くアレをやめさせなければ、都市内の配下は全滅してしまう。


ゴォォォォォ!まるで咆哮をあげるように、炎龍が俺達に迫ってくるのだった。

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