第685話 光柱に苦戦
俺たちが人間避難用の潜水艦を召喚した場所へと走る。
「光柱が!」
その途中でルピアが叫んだ。
俺がその言葉に立ち止まると、全員が俺にならうように止まる。目の前の一本の光柱が強い光を発して輝きだした。その光はドンドン強くなりそして少しずつ弱まり…光柱が消えた。
「あ、あれ?な…なに?」
光の収まった光柱の根元には日本人の少女がいた。中学生くらいだろうか?怯えるようにして周りをきょろよろ見ている。
こうやって連れて来られるのか…、なんの前触れもなくいきなり始まるんだ。さすがにこれはしんどいな。下手をしたら連れて来られる少年少女の精神がやられてしまうかもしれない。
「君!」
俺がそう言ってその少女に近づく。少女は驚いた顔で俺を見た。
「あ、あの…」
「大丈夫だ!君は我々が保護する!」
「ほ、保護?」
「そうだ!ここは日本じゃない!君は強制的に違う世界に連れて来られたんだ!」
「ち、違う世界に…」
少女は俺から目をそらして、周りの風景を見た。あまりもの事に呆然としている。
「な、戦争?」
少女は破壊された街並みを見てそう呟いた。
「そうだ!君は戦争の真っ只中に出て来てしまったんだ!とにかく命の危険がある!俺達と一緒に来い!」
「は!はい!!」
少女がうろたえながらも返事をしている。
「マカ!」
俺が指示をすると有無を言わさずにマカが少女の手をひく。すると少女はマカを見て頬を赤くした。無理もない…マカは数回の進化を経ているため、ゴブリンとは似ても似つかない可愛カッコイイアイドルのような男子に見える。色黒なのでちょっとワイルドな感じもするし、女の子の反応は順当なものだった。少女はマカに手を引かれて俺達のもとにやってくる。
「マカ!その女の子をおぶってやれ」
「は!」
マカがしゃがんで女の子に背を向けた。
「すまんが君の足では遅い。こいつにおんぶしてくれ」
「は!はい!!」
少女は気持ち喜んでいるようにも見える。
「行くぞ!」
そして再び俺達は走り出した。すると視界に、AAV7 SU装甲輸送車が見えて来た。俺達はすぐさま輸送車に近づいてハッチを叩く。
「ラウルだ!」
ガパン!ハッチが開くと中には十数名の魂書き換え騎士と魔法使いが居た。どうやらあの後にさらに数名がここにやって来たらしい。
「何人か助かったようだな。敵に接触した者はいるか?」
俺が聞く。
「敵と言うのでしょうか…」
騎士がそういってAAV7 SU装甲輸送車の奥から一人連れて来た。これまた中学生くらいの女の子だった。
「君は日本人か?」
「は、はい!そうです!」
「いきなりここに来たんだな?」
「そうです!気がついたらここにいました!」
「助けに来た。これから大勢の仲間達のもとに向かう、君も来い!」
「えっどこに…」
「クレ!連れて行ってくれ」
「はい!」
クレが女の子に手を差し伸べる。するとマカの時と同様に女の子が頬を染めてクレを見つめている。クレもマカに負けず劣らず可愛カッコイイ少年だからだ。浅黒い顔に歯が真っ白で、ニッコリ笑って女の子の手を引いた。
「よし!この車両は放棄する。お前たちも俺達についてみんなのもとに!」
「「「「「はい!」」」」」
「結界を張れるものは?」
人間の魔法使いに聞く。
「わ、私が」
魔法使いの女が言う。
「悪いがこの少女たちの側に居てくれ」
「わかりました」
「クレとマカはこの少女らを守れ」
「「は!」」
「行くぞ!」
そして俺達はAAV7 SU装甲輸送車から人間達を連れ出して先に進んでいく。
「またか…」
少し進めば光柱が光り出して人間を転移させて来る。光が次第に収まってくると、今度は少年が出て来た。
「ルピア、説得しろ」
「はい」
面倒になったのでルピアに任せる。
「あなた、ニホンジンね。私、あなたを助けるわ」
物凄く簡単なカタコト説得だった。
「はい」
それでも少年は、ルピアを見ながら頬を紅潮させてすぐに手を伸ばした。
この…エロガッパ中学生め…
女の子に対してはそう思わなかったが、少年となるとちょっと辛口になる俺。
「とにかく先を急ぐぞ、恐らくあちこちでこんなことになっているはずだ」
「「「「「は!」」」」」
ドドン!ズズーン!俺達が向かう、石壁の向こうでは火柱が上がっていた。空中から次々に火の玉が繰り出されている。恐らく潜水艦を集中攻撃しているのだろう。
「さっきのワイバーンだけじゃなかったのか…」
流石に俺もこの状況では正常な判断が出来ていなかったらしい。潜水艦の上空の何もない場所から地上に向けて火の玉が降り注いでいた。なぜ空を飛ぶ魔獣が一匹だけと思ってしまったんだろう。
「あの攻撃は先ほどの攻撃と類似しています。むしろ先ほど殺したワイバーンは違ったのではないでしょうか?」
マキーナが言う。冷静に分析しているようだ。
「えっと、俺達は無実の罪のワイバーンを撃ち落とした事になるな…」
「致し方のない事かと」
「というか…あのワイバーンと言い、あそこで飛んでいるやつといいどっから連れて来たんだ?そしてなんでよりによって全部透明なんだ」
「転移で山脈から連れて来た可能性はございませんか?」
「それ…おおいにあるわ…。デモンと共同戦線を張っているようだし、デモンに誘導させた可能性もあるぞ」
「そして強力な魅了を使える者がいるようですし、あの透明魔法を使う者もどこかにいるのではないでしょうか」
「と、言う事は…」
「この上空にいるのはもう一匹だけとは限らないかと」
「まったく面倒な話だ」
俺はまた数十本の120㎜迫撃砲を召喚して、上空に向けてスモーク弾を打ち上げる。ズパン!ズパン!と空中で弾が炸裂するたびに、煙が空を覆い尽くしていく。
「エミルが気が付いてくれるといいが」
とにかく潜水艦への魔法の爆撃は続いているようだ。人間達を潜水艦に避難させたとはいえ、いつまでも魔法の攻撃に耐え続けるかどうかは分からない。
「ラウル様!あそこの気流が乱れています」
ルピアが言う方向を見ると、煙が流れ上空の気流が乱れているのが分かる。
「よし」
俺はM777榴弾砲を召喚した。少年少女たちが目を白黒させて、俺の召喚武器を見つめている。そりゃそうだ…だが今はそんなことを気にしている余裕はない。空の気流が乱れているところに砲身を向けて狙いを定める。
ズドン!
第一射目を打ち込んだ。だが砲弾は煙の中を素通りして向こう側に抜けて行ってしまう。
「外した!」
するとすぐさま、こちらに向けて火の玉が大量に飛んできた。撃った方向を掌握して、こちらに火魔法を撃って来たらしい。
「全員回避!」
各人が周囲に回避する。ドゴン!ドゴン!とあたりに火の玉が着弾し、辺り一面が火の海になってしまった。その爆発の煙の中で、ヒュンヒュンヒュンヒュンとローター音が聞こえて来る。どうやら戦闘音を聞きつけて、エミルがやってきてくれたらしい。
「恐らく敵はヘリに意識がいったぞ!今のうちだ!」
そして俺達が再び潜水艦に向かって走り出す。俺達が見上げる上空では、見えない龍とアパッチ・ロングボウ戦闘ヘリのドッグファイトが始まったようだった。
「しかし見えない敵と、ヘリコプターでは分が悪いと思うが…」
「はい」
だが…俺達が見上げている空から…エミルのアパッチロングボウ戦闘ヘリが消えた…
「あれ?どうしたんだ?」
ローター音は聞こえるのに視界にアパッチが映らない。
「エミル様がおっしゃっていた二の手ではないでしょうか?」
「言ってた言ってた!でもアイツにそんな力あんのか?」
「私達にも分かりかねますが、精霊のお力ではないでしょうか?」
「それしかないだろうけど。おかげで地上への攻撃は止んだようだ」
「「「「「は!」」」」」
そして再び進んでいく。このあたりはだいぶ建物の復旧が進んでおり、俺達は住宅の間の路地を抜けるように走っていくのだった。少年少女を連れているので進みが遅い。
「ん?」
一瞬何かの気配を感じる。ボゴオォン!俺達の前で何かが炸裂した。先頭を走っていた俺がおもいっきり吹き飛ばされる。
「やべ!」
そのせいで俺が吹き飛ばされてしまい、飛んだ先には光柱が立ちそびえていた。俺が光柱に突っ込みそうになった時、空中でマキーナが俺を捕まえる。しかし、勢いは半減したものの二人で光柱に接触してしまった。
「ぐあ!」
「うう…」
光柱に接触したところが、燃えるような痛みと共に焼けただれてしまう。
ドサッ!ゴロゴロゴロ!
俺はマキーナに抱かれながら地面を転がっていく。すぐさま俺とマキーナの前にファントムが立ちふさがり、ルピアとマカ、クレ、ナタが銃を構えて前方に向ける。魂核を書き換えた騎士と魔法使いたちが、遅れて構えを取った。
「やっぱ光柱は危険だったな」
俺が腕を抑えながらマキーナに言う。マキーナも左足を焼けただれさせて頷いた。
「ラウル様!」
ルピアが銃を構えながら前を警戒したまま俺を呼ぶ。
「大丈夫だ!それよりも光柱には気をつけろ!やはり俺達には害になりそうだ。敵は間違いなくその方角にいる、敵の攻撃に注意して待機!」
「わかりました!」
俺はポケットからハイポーションを取り出して、焼けた腕にかける。シュウシュウ…と音を立てて傷が塞がっていくが、いつもより治りが遅いようだ。デイジー製ハイポーションならば、このくらいの傷はすぐに治るはずだった。
「私も再生が追い付かないようです」
「恐らくこの光柱のせいで、俺達の体内の魔力が弱っているんだ」
「お言葉ではございますが、ご主人様は先頭を走らぬようお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、マキーナ。そうするよ…みんな!来てくれ!」
俺が声をかけると銃を構えながら、ルピア、マカ、クレ、ナタが俺を守るように前面に立つ。それについて来るように、少年少女や人間の兵士たちもやってくる。
「その傷は…」
ルピアが心配そうに言う。
「ああルピア、ここでは傷が簡単に治らないようだ。光柱は絶対に触るな」
「気をつけます」
俺達が話していると、ヒューンと前方からまた何か音がする。ファントムが腕を振るって前方を薙ぎ払った。バフゥッ!何かがファントムの前ではじけ飛び、周りの建物の窓を割った。
「撃て!」
俺達は銃を構えて攻撃が飛んできたであろう方向に向けて撃つ。とにかく敵が見えない。
「どこだ?」
「申し訳ありません。気配が読めません」
「仕方ない、ここじゃ俺達の能力は半分以下らしいしな。マキーナのせいじゃない」
「こんなときシャーミリア様なら…」
そう言ってマキーナは口を閉じた。頭の中でいろいろと策を練っているのだろう。
「迂回するか?」
「他の道筋で似たような攻撃を受ければ、更に危険かと。正面突破が妥当だと思われます」
マキーナが答えた。
「了解だ」
俺はマキーナの答えを聞いて、M61 20mmガトリング砲を召喚してファントムに持たせる。
「次に敵の攻撃が来た方向に集中砲火だ」
「……」
ファントムはもちろんそれには答えずに、どこか遠いところを見ている。
そして俺は更に、SMAW ロケットランチャーを5本召喚する。
「全員これを」
「「「「「は!」」」」」
魔人たちが自分の武器から、ロケットランチャーに切り替えた。
「人間は建物に隠れつつ、俺達の後ろを少し離れてついてこい!」
「「「「「「はい!」」」」」」
兵士と少年少女たちが返事をした。いきなり市街戦の真っ只中に平凡な日本の学生が送られるなんて気の毒ではあるが、とにかくここを突破しなければどんどん危険度は上がっていく。彼らの気持ちを気遣っている余裕はない。
「結界魔法師は誰だ?」
「はい!」
ローブを着た女の魔法使いが前に出て来た。
「敵は魔法攻撃をしてきている。1回だけでいいから最大の魔力で一発目を防いでほしい」
「な、何とかやってみます!」
俺達が建物沿いにじりじりと前に進み始めた。やはり前方には何もいない、気配が読めない分俺達の方がだいぶ不利だった。
ズズズゥゥゥ!!
すると俺達の背後に岩の壁がせりあがって来た。どうやら俺達を逃さないようにしているらしい。それを無視し俺達は前にじりじりと進んでいく。
「来た!」
俺が叫ぶと、女の魔法使いは俺が言った方角に全力の魔力で結界を張った。ブワァァァ!結界にあたった魔法が四方に飛び散り、周りの建物の一部を破壊する。全力で魔力を使った女魔法使いは魔力切れで倒れてしまった。
「撃て!」
ファントムのM61 20mmガトリング砲が火を吹く。俺達のSMAW ロケットランチャーからもロケットが一斉に撃ちだされた。
バズゥゥゥゥゥン!!
ガガガガガガガガガガガガガ!!
「ファントム!止めろ!」
キュゥゥゥゥゥン
爆発と煙の中に何かが見えたので、俺は撃つのをやめさせた。前方でロケット爆発したあたりに、数体のグレートボアの死骸があった。数体が木っ端みじんになったようで、ちぎれ飛んだ体の部分からグレートボアだと分かる。原型をとどめているやつもいたが、腹から内臓が出ろりと出ている。
「透明にしていたか」
「そのようですね」
なるほどね。まあエミルもその答えにたどり着いたようだし…やるか…
「目には目をだ。ファントム!」
ファントムが俺の元にやってくる。
「鏡面薬を大量に出せ!」
ポロポロポロポロポロ!
ファントムはM61 ガトリングを構えながら体のあちこちから、鏡面薬のカプセルを出す。まるで兎のウ〇コみたいだ。
「よし!」
俺はそれを直属の魔人全員に配った。
「全員これを体にふりかけろ!」
鏡面薬を体全体に振りかける。すると俺達の体は次第に消えていき、見えなくなるのだった。相手が見えない魔法を使うのなら、こちらは見えなくなる化学薬品を使うとしよう。
「進むぞ!」
「は!」
俺達は透明になって更に先に向かって進んでいくのだった。