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第684話 発動し始める光柱

残った人間の兵士は全員AAV7 SU装甲輸送車に入るように言う。そして人間の生存者が来た時には、AAV7 SU装甲輸送車の中に避難させるように伝えた。人間に操縦は教えていないのでここから動く事は出来ないが、装甲車であればある程度の魔法攻撃に耐えるはずだった。


「こっちだ!」


俺達はすぐさまワイバーンが落ちたと思われる方角へと向かった。俺たちが光柱の間を走り抜けて行く。街の中心から逸れると、そこはまだ住宅建造がなされていなかった。大量に瓦礫が詰みあがっており、その合間合間に光柱が立っている。


「光柱に気をつけろよ!」


俺が先頭を切って走りながら直属の魔人たちに告げる。


「「「「「は!」」」」」

「……」


俺が勢いよく角を曲がると、そこに光柱が立っていた。


「あっぶな!」


急ブレーキで止まる。もうちょっとで光柱に突っ込むところだった。言ってるそばから、俺が真っ先にツッコんだら立場がない。


「こちらから」


マキーナが俺を誘導する。まるで迷路の行き止まりのようにあちこちに光柱が立っており、俺達が現場に向かうのを邪魔していた。上空の煙が消えつつあり光柱が日光を浴びてギラギラと輝く。


「やっぱりここでの戦闘はリスクがあるな」


「そのようです。私の後をついて来てください」


俺はマキーナの後ろをついて行く。するとどうしたことか、光柱にぶつかりそうになる事も無くスルスルと進むことができた。


瓦礫で見えないと思うんだが、マキーナは光柱がある場所が分かっているように避けるんだな…てか、もしかしたら分かってないの俺だけ?てかみんなニュー〇イプみたいでカッコいいんだけど…


俺以外は光柱の位置が把握できているようで、危なげなく都市内を疾走するのだった。


「いました」


マキーナが言う先を見るとワイバーンが横たわっていた。ミサイルの直撃を受けて死んでしまっているのかピクリとも動かない。俺達はすぐにワイバーンに近寄らずに瓦礫の脇から見ていた。


「死んでるのか?」


「瀕死の状態です。まもなく死ぬでしょう」


マキーナはシャーミリアと同じく生物の鼓動を感じ取る事が出来るため、離れていてもワイバーンの状態が見てとれるようだ。


「じゃ、とどめ刺すか」


俺はカールグスタフ無反動砲を召喚した。HEAT 551 対戦車榴弾を装填してあり、ワイバーンならこれでとどめをさせるだろう。


「ご主人様。放っておいても、いずれ死にますが?」


「相手に回復魔法使いが居たら厄介だ。そして恐らくはいると見て間違いない」


「かしこまりました」


バシュー!ズドン!ワイバーンの首の付け根辺りに着弾して爆発する。首がちぎれ飛び完全に死んだようだ。するとボッボッボッ!とワイバーンの反対側あたりから火の玉が飛んでくる。どうやらそこに異世界の魔法使いがいるようだった。だがその狙いは検討はずれであり、俺達のいる方向から逸れてしまう。


「ラウル様。とんだ素人ですね」


ルピアが笑う。


「ああ、恐らくはあっちの世界で学生だった奴らだ。戦いなんて慣れていないし、自分の魔法すらまともに使えないはずだよ。だけどこちらも光柱の中では力が十分に発揮できないんだ、注意して敵を処理していかないとな」


「はい…」


まあ怒った訳でもないけど油断してやられるよりましだ。ルピアは天真爛漫な性格ゆえか、敵を侮るような一面もある。褒めながらも、知らない事はきちんと教えてあげないといけない。


「とにかく光柱がある状況では、こちらだって相手の位置と人数が正確に分からないから調査をする必要があるんだよ」


「わかりました」


「てことで、マカ、クレ、ナタが先行して敵の位置を探ってくれ」


「「「はい」」」


既に人間の少年にしか見えない三人だが、体が小さい事とその俊敏性から斥候に向いていた。近接戦闘も考え比較的軽量のM4カービンアサルトライフルを召喚して渡した。腰にはH&K VP9ハンドガン一丁とM26手榴弾を一つ下げている。


「動きずらい時はライフルは捨てて良い」


「「「は!」」」


「くれぐれも光柱には気をつけろ」


「「「は!」」」


「いけ!」


三人は瓦礫に隠れながら進んでいった。


制限がある中でどれだけの事が出来るか分からないが、敵は戦闘には不慣れな素人の学生集団だ。俺達の敵にはならない。しかし魔人というアドバンテージを制限されると、こんなにも戦闘の難易度が上がるなんて思わなかったな。


その場でしばらく待っていると、ナタだけが戻って来た。


「ラウル様!異世界の人間だと思われるものが数名おりました」


「状況は?」


「恐らくはエミル様の攻撃で巻き添えになって死んだか、ラウル様の砲撃によって死んだ者もおります。ですが動けるものも数名確認しております」


「そいつはご愁傷様だ。位置は?」


「あのワイバーンの反対側にある瓦礫の脇に三人、そしてその三十五メートルほど先に岩で砦を作って四~五人はいるかと」


「死体は?」


「三体です」


「挟み撃ちにするか」


「は!」


「俺とルピアがクレたちのもとに行く、マキーナとナタは反対方向から回り込んで逃げ場を無くせ。ファントムはここに残って戦闘が始まり次第、あのワイバーンの死骸を砦に投げつけろ」


「「「は!!!」」」

「……」


まるで前世で市街戦をやっているような感覚に陥る。魔人の優位性がない分、体に染みついた能力だけが頼りだ。そして普通の市街戦ならば…それは俺のテリトリーだ。


「行け!」


俺はルピアを連れて、ナタが戻ってきた方向に瓦礫に身を隠しながら進んだ。すると先にクレとマカが潜んでいる。そして俺は二人に状況を伝えるように、ハンドサインを送った。するとマカが俺に言ったん止まれのサインを出す。少し時間を空けて、指を三本立ててこちらに見せ一本ずつ折っていく。敵の位置取りなどを考えて俺達が進むタイミングを計っているのだ。


「よし!」


マカのハンドサインがゼロになったので、ダッシュでマカとクレのもとに辿りつく。


「ラウル様。あの瓦礫の側に三人いましたが、岩壁の簡易砦にさがりました」


マカが早速報告してくる。


「三人は何をしていたんだ?」


「恐らくですが、死んだものに回復魔法をかけていたのだと思います」


「それで?」


「生き返らない事を悟ったのか、そのまま砦まで後退したようです」


岩で出来た簡易砦は、恐らく土魔法が使えるヤツが作ったのだろう。即席にしてはよくできていて、のぞき窓までこさえられている。


「アイツ…いるかな?」


「転移魔法の子供ですか?」


ルピアが聞いて来る。


「ああ、あいつがいたら厄介だ。他にもそんな力が使えるヤツがいると困るしな」


「彼らはどこから侵入してきたのでしょう?」


「やはり転移じゃないかな?もしくは空輸で運んだか」


「いるのはここだけでしょうか?」


「そうとは限らない。だからなるべく早くここを片付けて、皆のもとに戻らないといけない」


「わかりました」


砦の中に入った異世界人たちは動かなくなってしまった。


「あの砦に砲撃して壊せばすぐ終わるが、魅了がかかっている可能性もいるやつらだ。話も聞かずに殲滅するわけにはいかない」


「ではどうします?」


砦の反対側の瓦礫がきらりと光った。マキーナが小刀を太陽に反射させて、俺達に到着したことを教えて来たのだ。念話が使えない分、工夫して情報を伝達してくれているらしい。


「光柱の位置を把握しながらも、相手を制圧する必要がある。そのためのファントムだ」


「はい?」


そして俺は砦の反対側に手榴弾を投げてやる。


ボグン!


すると手榴弾が炸裂した方向に、砦から火の玉と氷の槍が飛び出した。


次の瞬間


ビッッチャァァァァ!


肉の雑巾になった、ぐっちゃぐちゃのワイバーンが砦にぶつかった。


「ぎゃぁぁぁぁぁあ!」

「きゃああああああ!」

「やあああああああ!」


真っ赤に血まみれになった七人の少年少女が慌てて砦から飛び出し、反対方向に向かって走り出す。


「行くぞ!」


俺達全員が、走っていく少年少女に一気に迫っていく。光柱に阻害されているとはいえ、直属の魔人は元々の身体能力が高いので、ほとんど瞬間的に異世界人たちに追いついた。反対側からマキーナとナタもやってくる。異世界人はパニクっているため、俺達が近づいている事に気が付かなかった。


スッっとルピアがM240中機関銃を構える。


「ハンドガンで対応する。殺すな!」


「わかりました」


ガシャッ!


ルピアがバックパックごとM240を捨て、腰からH&K VP9ハンドガンを引き抜いた。


「誰か来た!」


ルピアが中機関銃を捨てた音で一人が振り向く。追いつく寸前で少年が俺達が迫ってきている事に気が付いたが、俺達は一斉に彼らの足を拳銃で撃ちぬいた。少年少女はたまらずそこにゴロゴロと転がった。


「い、痛っったああああい!」

「く、くそ!死ぬ!しぬぅぅぅ」

「殺さないでぇえ!」


「手をあげて地面に腹ばいになれ!」


俺が叫ぶが、皆足を抑えてゴロゴロ転がったり泣き叫んで話を聞いていないようだった。


「意識を刈れ!」


魔人たちが一斉に少年少女に襲い掛かり、意識を刈り取っていく。


「ふう。殺さずに済んだな」


「ここに転移魔法使いはいないようですね」


「ああ、そしてこいつらの反応はおかしかった」


俺が言う。魅了などではなく、自分の意志で動いているように見えた。


「ご主人様。それは恐らく魅了を受けていないからかもしれません。ですが…この者は恐らく魅了を受けております」


マキーナが一人の少女を指して言う。やはり俺の思った通りだった。


「あの瞬間で分かったのか?」


「はい、冷静に見て恐らくそうです」


「まずいな…」


「どういうことです?」


「ここに主犯格はいないかもしれない」


俺がそう言った時、ズドーン!と地響きをあげて街の中央部分から煙が上がった。


「本隊は向こうか?」


そもそも本隊なんていうものがあるかどうかも分からないが、ここに転移魔法使いの少年が居ないという事は、敵の主力があちらに出現した可能性がある。


「戻るぞ!」


「「「「「は!」」」」」


俺はてっきりワイバーンに乗るやつが主犯格だと思っていた。だが、ここには魅了された人間が一人しかいない。そしてあの村で見た顔は一人もいなかった。


「これは…こいつらは恐らく…ここの人間は、この聖都に転移して来た人間だぞ…」


「転移してすぐに、巻き込まれたという事ですか?」


「可能性だがな。まずい…いよいよ聖都で本格的な転移が始まっているのかもしれない」


「かなり危うい状況ですね」


「ああ、とにかく急ごう!こいつらは後で救出する」


動けないものを連れて行く余裕はなかった。


そして俺達は再び、潜水艦を召喚した場所に走るのだった。光柱の異世界からの転移召喚が始まってしまったかもしれない。こんなところで大量の異世界の魔法使いに囲まれたら、いくら俺達でも全員が無事でいられるとは思えなかった。早く戻って全員を連れて聖都の外に出る必要がある。


「まるで時限爆弾だな…」


走りながら、天までそびえたつ光柱を見て俺はそう呟くのだった。

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