第682話 光柱都市での戦闘
光柱の影響で俺達は敵を認識する事が出来なかった。
なるほど光柱にはこういった弊害もあるんだ…。防衛に際してデモンに対し有効でも、人間に対しては全く効果がないと。敵はそれも知っていてここで待ち伏せをしたのか?それとも偶然だろうか?
「全員!地下へ戻れ!」
俺が急いで号令をかける。魔人と兵士が一斉に回れ右をして、今来た道を戻ろうと走り出した時だった。ズッズゥゥゥン!俺達の目の前に巨大な岩の壁が出来上がった。
ああそうか…やはり俺達に光柱が不利に働く事を知っているわけだ…
逃げ場を塞がれた魔人達が、その壁を避けるように左右に迂回しようとした。
「止まれ!」
魔人たちが足を止めた。左右にはトラップのように光柱がある。万が一光柱に接触してしまったら、魔人達にどういう影響が出るか分からない。敵はそれを計算して土魔法を発動させたらしい。
「壁を撃つ!」
ズン!
俺はすぐに、M777 155mm榴弾砲を召喚してすぐさま岩壁を撃った。
ズドン!
榴弾砲の直撃によって石の壁に穴が空いた。
「よし!進め!」
俺は再び魔人に進むように指示を出すが、ズズゥーン!という音と共に再びその場所に岩がそそり立った。
「止まれ!」
ズズゥーン!ズズゥーン!ズズゥーン!
俺達を囲うように、路地という路地に岩の壁がそそり立っていく。どうやら俺達を封じ込めたいようだ。魔人が逃げ場を探すように動くので俺はそれを止める。
「動くな、今度は岩に巻き込まれて死ぬぞ!」
俺の言う事を聞いて魔人達が止まる。
「敵が見つかりません」
敵を探しに行かせていた、魂核を書き換えた人間兵が俺に伝えに来た。
「兵の被害は?」
「分かりませんが、岩に分断されて戻らない者がおります」
まずいな…人間の兵士からやるつもりか?
「ご主人様!上空から探します!」
マキーナが飛ぼうとする。
「まて!マキーナ!飛ぶな!ここは光柱だらけだ、お前は特に危険だ!」
「ですが!」
「ラウル様!あれを!」
ルピアが叫ぶ。
ヤバい!大量の石が降って来た。俺達を岩壁で囲って石で攻撃する作戦らしい。
「ファントム!枢機卿を守れ!」
ファントムが枢機卿の前に立ちはだかり、石を全て破壊した。俺や直属の配下はそれらを全て避けて動く。だが魔人には被弾し始めるやつがでてきた。すぐに致命傷になる者はいないが、このまま攻撃にさらされ続ければ行動不能になるやつが出て来るだろう。
「ぐあ!」
「うわあ!」
「あがっ!」
さらに、その石は人間には致命傷だった。体にあたった者がうずくまり、頭にあたった者がその場で倒れる。かろうじて結界を張れる魔法使いが、その攻撃から自分と数人を守っているようだった。
「ラウル君!」
枢機卿が叫ぶ。
「このままだと、結界をはれる魔法使いたちの魔力も切れるでしょう」
「どうするつもりじゃ?」
「考えがあります!」
俺は全員に聞こえるように大声で叫んだ。
「全員!街道の右に身を寄せろ!動ける者は負傷者を連れて行ってくれ!光柱に気をつけろ!」
石の雨に身をさらしながらも、魔人や人間の兵が必死に負傷者を連れて街道の右に寄っていく。
「よし!」
ズン!
人がいなくなった街道に召喚したのは、自衛隊の潜水艦おやしお型だった。長さが82mあり70名を乗せる事が出来る。それを横にして街道に沿って出現させた。すぐさま俺がハッチに走り寄って開く。
「枢機卿!先に!」
ファントムが枢機卿を連れて来る。
「すまん!」
枢機卿がハッチの中に入って行った。
「皆も急いで!」
それに続くように次々と魔人や人間の兵士たちが入って行く。怪我をした者や意識を失っている者は礼一郎も含め、直属の配下以外が潜水艦の中に全て入り込んだ。
「カーライルも入れ!」
最後にカーライルが残っていたので声をかける。
「私は外で戦います!」
「だめだ!カーライルは消耗している!あの竜人化薬は、普通の人間には大きな負担がかかっているんだ!」
「しかし!」
「話している余裕はない!」
「は!」
そしてカーライルが最後にハッチに入る。
「マキーナ!残った者はいないか?」
「この岩の枠内にはおりません」
「よし!」
そして横になった潜水艦のハッチの中から枢機卿が俺に話しかける。
「ラウル君らは入らんのか?」
「いやいや、このぐらいの石の攻撃なら私達には効きませんよ!」
ガッツゥ!
「痛ってぇ!!」
俺のおでこに石が当たって血が噴き出した。ファントムがすぐさま倒れた俺の側に寄って来て、覆いかぶさるようにする。
「ラウル君も入った方がええ!」
「いえ!中からだと敵の攻撃が分からなくなりますから!」
ボタボタボタボタと血が滴る。
「と、とにかく」
そう言ってサイナス枢機卿は俺に回復魔法をかけてくれた。傷がみるみる癒えていき塞がった。
「大丈夫でございますか?」
「ああ、マキーナ。枢機卿とのやり取りで気を取られただけだ」
マジで痛かった。
ガン!ガゴン!と音を立てて外装に石が当たるが、潜水艦はこれくらいの攻撃ではびくともしなかった。とにかく光柱のある状況では、大勢の一般兵の魔人と残った人間達を守りながら戦う事は出来ない。
「カーライル!敵が侵入しようとしたら、ここで迎え撃て!」
俺はハッチのすぐ中に12.7㎜ブローニングM2機関銃と大量の銃弾ベルトを召喚した。
「分かりました」
「ここなら狙いを定めなくても、入ってきたやつを排除すればいい」
「えっと、これの撃ち方は?」
そうか…カーライルには機関銃の撃ち方なんて教えていなかったな。
「あ、えっと。そこのオーガ君!」
「はい!」
「カーライルに撃ち方を教えてくれ、そして君にもう一丁預ける」
「了解いたしました!」
「何かが入ってきたら撃て!」
「は!」
もう一丁の12.7㎜ブローニングM2重機関銃を置いた。
「では枢機卿。この中に乗っている魔人と人間兵は枢機卿の言う事を聞くようになってます。全員が武器を持っていますし、万が一中に侵入されたら身を挺して枢機卿を守るでしょう。その時は御身を最優先にするようにしてください!」
「わ、わかったのじゃ! 」
サイナス枢機卿にそう伝え、俺はマキーナ以下直属の魔人たちを見る。
「よし!とにかく敵を見つけるぞ!」
「「「「「は!」」」」」
ここにいるのは、俺、ファントム、マキーナ、ルピア、クレ、マカ、ナタだ。石の雨攻撃に後れを取る事は無いが、他の魔法攻撃でどうなるかは分からない。ましてや光柱に包まれているため、力を分散させられてしまっている。恐らく一番魔力が多いのは、ファントムと魔力だまりを共有している俺だ。
「ファントム!横道に出来た岩の壁を破れ!」
「……」
シュッ!ファントムが消えた瞬間、路地に出来ていた岩の壁をぶち抜いていた。
「よし!あそこから外に出る!光柱には絶対に触れるな!」
「「「「「は!」」」」」
俺達は壊れた岩の壁から高速で外に出る。ズッズゥゥゥウン、俺達が出たとたんに壊れた岩壁が修復されてしまった。どうやら土魔法を使うやつは、自分の壁が壊された事を分かるらしい。
「ご主人様。遠隔で魔法を使っているのでしょうか?」
「どうだろうな。俺達の位置を把握しているみたいだが…」
「索敵魔法でしょうか?」
「どうだろうな。エミルの低級精霊のような力を使えるヤツがいるのかもしれない」
俺達は一つの住居の入り口から中に入った。
「さてと…光柱に邪魔されてドローンが飛ばないんだよな…」
敵を捜索するにもドローンが使えなかった。
「すみません。人間達の気配すら追えておりません」
「私もです」
「自分らもです」
どうやら直属の魔人でも光柱の干渉の中では、敵の位置はおろか味方の人間の位置さえも把握できないようだった。
「まったく、光柱が邪魔だな」
「あれはいったい何の物質で出来ているのでしょう?」
マキーナが言う。
「それがよくわからん。モーリス先生やエミルは素通りしてたし、人間達には全く影響がないらしいんだよな」
「我々が触れればどうなるのでしょう?」
「デモンは体を削られていたが、俺達はどうなるか…」
「壊せないのですね」
「武器が通用しない」
「そうですか…」
バグゥゥゥン!
「なんだ!」
爆発音のような音の方向を見ると、建物の入り口に岩が出来て塞いでいた。
「まずい!裏口から出ろ!」
俺達は建物を裏口に向かって走る。
ガシャン!ガシャン!といきなり窓を破って炎が入り込んで来た。するとそれが一気に燃え上がる。バグゥゥゥン!!!いきなり爆発して炎が迫って来た。
「ファントム!」
ファントムが身を挺して俺達の後ろに立った。ゴォォォォォと炎がファントムを境に左右に分かれて吹き出した。
「走れ!」
一番最初に見えたガラス窓に体当たりをして外に出た。ファントムがそこの壁ごと突き破って俺達の後ろについて来る。
「やっぱ、俺達の位置を正確に把握しているな」
上を見ると火の玉が俺達に降り注いでくるところだった。すぐさま逃げるように走り出す。
「とにかく!火の玉を避けつつ光柱に気をつけろ!」
走りながら俺が言うと魔人達は無言でうなずいた。そして俺が一つの建物に入ると、直属の配下達も全員ついて来る。
「ここも狙われるのでは?」
「それでいい!」
建物の中心あたりに侵入した俺は、そこにAAV7 SU装甲輸送車を召喚した。車体周囲にはセラミック製追加装甲が装着されており、兵員25名収容するキャタピラ式の兵員輸送車だ。対戦車ミサイル対策の装甲はちょっとそっとじゃびくともしない。
「入れ!」
兵員輸送車の後部ハッチをあけて俺達が中に入る。
「締めろ!」
最後に乗って来たファントムがハッチを締めた。ガシャン!ガシャン!どうやらまた火魔法が俺達の入った建物に撃ち込まれたようだった。恐らくAAV7 SU装甲輸送車の外は火の海だろう。
「これで少しはもつ」
「どうします?」
「じっとしていれば、敵が何で監視しているのかが分かるかもしれん」
「はい」
俺達はAAV7 SU装甲輸送車の中で息をひそめじっとしていた。相手が何で俺達の場所を把握しているのかが分からないので、それを見極める必要があった。
まあ、潜水艦を召喚したのを見られているからな…。俺が何かの対策をうっているのがバレたと考えて間違いないだろう。外に取り残された魂核を書き換えた兵士はどうなっただろうか?気になる所だが、この装甲車で外を動くのも危険だった。間違って光柱に突っ込んでしまったら、中の俺達がどうなるか分からない。
だが俺はこの出来事に既視感を覚えた。
なんか…これと似たような事が以前にあったぞ…
俺は思考をめぐらせた。
「あ…」
「どうされました?」
「俺が以前、泥棒髭に憑依して都市をさまよった時に、こんな攻撃を受けたことがある」
「そうなのですね?」
「ああ、今あの地下の最深部でアトム神の魔石にくるまれている、キチョウカナデがこれと似たような攻撃をしていた。ワイバーンのような龍を使役して、透明になって空から攻撃してきたんだよ」
「なるほど、確かにそれと似ているようです」
「さっき俺達が襲われたときに声が聞こえたな?」
「はい」
「あれは恐らく空からだ。光柱によって分からなかったが、路地にいるとすればさすがに人間達に見つかったはずだ」
「厄介ですね」
「頭を抑えられてしまっている状態だな」
「それでは私が始末してまいりましょう」
「いや、マキーナ。待ってくれ、光柱は空にまで伸びている。敵の魔法で吹き飛ばされなどしたら、光柱に接触する恐れがある」
シャーミリアならそれも可能だろうが、マキーナの力量では危険すぎた。
「ですが…」
「次の手を打つ」
「はい」
とにかく急がなければ、潜水艦に残して来た枢機卿らの身動きが取れなくなる。いつまでもそのまま放置しておくわけにもいかないだろう。
《シャーミリア!》
・・・・・・・・
念話を飛ばすが返事はなかった。どうやら光柱の影響で届かないらしい。
「念話が飛ばない。地下だと届いたのにな…」
「地下には光柱はございませんので」
マキーナが答える。
「地中を伝っていったって事かな?」
「かと思われます」
どうやら念話のシステムは、電波とは違うようで地面を伝っても行くようだった。
「まいったな…何とかエミルを呼び出したいんだが」
「一旦地下に潜ってはいかがでしょう?」
「ここから入り口まで走って行くってことか?」
「いえ。掘るのです」
マキーナが冷静に言う。
「えっ?ここを?」
「はい。ファントムもおりますし、全員でやれば何とかなるかと」
「…名案かも」
「では」
俺達はとにかく外の炎が収まるのを待つことにした。
…また穴掘りか…まあ得意だからいいや。
俺は一人そう思うのだった。