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第681話 待ち伏せ

俺達は、ルピアがサイナス枢機卿と共に隠れている居場所を念話で聞きだして合流する。部屋にはサイナス枢機卿とルピアと、超進化ゴブリンのマカたちが待っていた。


「眠っ…」


皆の顔をみて部屋の入り口をくぐった時、俺がよろめいてしまう。サイナス枢機卿がすばやく近づいてきて支えてくれた。


「大丈夫かの!ラウル君!顔色が悪いようじゃぞ!やられたのか!」


めっちゃ心配してる。


「はい。かなりの出血と…デモンを討伐したことでクラクラ来てます」


「大変じゃ、まずは座るとよい」


その部屋には椅子が置いてあり、今まで枢機卿が座っていたらしい。


「ありがとうございます」


サイナス枢機卿が椅子まで連れて来てくれる。


「ふう」


するとカーライルも膝をついて息を吐いた。かなりの怪我をしていたので、貧血気味になっているのだろう。立っているのが精一杯だったようだ。


「枢機卿。カーライルもかなりの怪我をしたのです」


「うむ。念のため二人に回復魔法を施しておこう。まあ、わしの魔法では気休め程度にしかならんがの。カーライルもラウル君の隣に座るがよい」」


「そんなことはありません。助かります」

「すみません枢機卿」


カーライルが立ち上がり、俺の隣の椅子に座った。枢機卿は俺達に手をかざして何やら唱えている。カトリーヌの魔法とは違い、本当に優しい感じの治癒魔法だった。俺達がほんのり光ってわずかに体が癒えていく。


「マキーナやルピアたちは大丈夫か?」


俺はマキーナとルピア、クレ、マカ、ナタを見て言う。近くでデモンを大量に消滅させたうえで、さらに上位のデモンを倒している。本来ならばルピアたちにも影響が出てもおかしくはない。


「多少のだるさを感じますが問題ありません」

「私達は戦闘していませんので、問題はございません」

「「「自分らもです」」」


どうやら彼らには大きく影響は出ていないようだ。進化前ならば間違いなく眠っていただろう。


「して、これからどうするかの?」


「シャーミリアの情報によれば、あちらに進軍していたデモンの軍団が一度後退したようですね」


「撃退したということかの?」


「わかりません。一度、転移してどこかに潜んだのかもしれません」


バティンというデモンを逃がしている以上、既に敵は合流している事だろう。何か他の策を練ってくる可能性があり、警戒を解くわけにはいかなかった。


「して、その少年はどうなっておる?」


サイナス枢機卿が気を失っている礼一郎を指して言う。俺を吹き飛ばした後に、魔人達が意識を刈り取って捕らえていたのだった。魅了でボーっとした感じだったことから、俺を攻撃する事だけを仕込まれていたのかもしれない。


「魅了がかけられています。誰によってそうされたのか分からないのですが、モーリス先生かアナミスに見せなければなりません」


「まったく…不憫じゃのう」


「ええ。異世界の少年少女たちは、この世界に来てから踏んだり蹴ったりですね」


「早速見せに、行くのかの?」


「はい。基地には帰投しようと思っておりますが、ちょっとファントムの後処理をまっています」


「後処理?」


「地下でちょっと」


「ふむ…」


サイナス枢機卿は特に詮索はしなかった。


「というか、なんだかラウル君はだいぶ血色が戻って来たようじゃ」


それよりも、サイナス枢機卿が俺をまじまじと見て言う。どうやらファントムの事より俺の変化が気になったようだ。


「休んだら復活してきました」


というのは建前。本当はファントムが地下で死骸の吸収作業をしている関係で、俺に魔力が注ぎ込まれているからだ。シャーミリアが言う最高傑作というのは間違っていない。俺はファントムと奥底で繋がっており、あいつが吸収した物は俺の力となるのだった。俺はこの補給の感覚にだいぶ慣れてきている。ガンガンエネルギーが送り込まれて今にもはちきれそうだ。


前はマジで苦手だったけどね。一度、泥棒髭グールに入って人間を食った時は精神がやられたし。


《私達にも力が注がれているようです》


《ああマキーナ。最初は慣れなかったけどさ、今は何も感じなくなったよ。あいつ実はすっごく役に立ってたんだな》


《ファントムもだいぶ進化しているようです》


《なんか吸収効率が格段に上がっているみたいな気がする》


《急速にだるさが引いて行きます》


《だな》


ファントムが地下でデモンやグールの死骸を吸収して力を補給している事は、サイナス枢機卿には知らせていない。聖職者のトップに、魔の死体を吸って力を得ているなんて口が裂けても言えない。枢機卿達がアトム神に心酔するようになってからは、特に知られない方が良いと思っている。


「そんなにわしの回復魔法が効いたかの?」


「ええ、私にはだいぶ効いたようです」


「カーライルはそうでもなさそうじゃ」


「い、いえ!枢機卿、私はこれで十分でございます!」


カーライルが青い顔をしながらも虚勢を張る。


「それならいいのじゃが」


俺は椅子から立ち上がり、魔人達を見渡した。


「みんな!すまん!俺の力不足で2名の魔人を失ってしまった。だがそのおかげで、上位と思われるデモン一体を撃破する事が出来た!残り一体は、そいつの能力により逃亡してしまった。恐らくはまだファートリア内に潜伏していると思う。この聖都の地下にいる仲間を速やかに集め、基地へ帰投する。すぐに作業にかかれ」


「「「「「は!」」」」」


残った進化魔人達が部屋を出ていった。


「ルピアとマカたちはここで枢機卿とカーライルを護衛していてくれ」


「「「「は!」」」」


「マキーナ、地下の様子を見に行く。ファントムがそろそろ作業を終えそうだ」


「かしこまりました」


「では、枢機卿はここでお待ちください」


「うむ」


俺とマキーナが部屋を出る。地下堂は暗いが俺の目はかなりはっきり見えるようになっていた。ファントムから送られてくる魔力により、かなり能力が向上しているようだ。


ファントムのおかげで無駄がなくなったな…。だけど、あいつが毎回死体や死骸を吸収するたびに、俺は人間離れしていっているのかも。いや…人間と魔人のハイブリッドとして、いいバランスを保っているような気もするし…よくわからん。


マキーナと共に歩いていると、風が通路の後ろから流れて来る。


「風が吹いているな」


「そのようです」


地下堂へと向かう通路は奥に向かって風が吹いていた。地下堂の入り口では、さらに強い風が地下堂に強く流れ込んでいる。どうやら空気が大量に流れ込んできているようだった。燃焼によって空気がなくなり、吸い込まれていっているのかもしれない。


「やっぱあの魔石は頑丈だ」


俺達は踊り場の手すりから下を見る。


「はい」


あれだけの戦闘があったにも関わらず、二つの巨大魔石はゆっくりと回り浮いていた。アトム神の結界だから強いのかもしれないが、あれのおかげで無駄に護衛を割かなくて済む。


まあ、ありがたいっちゃありがたいな。


「少しは役に立つもんだ」


「まったくです。あのままご主人様の足を引っ張らないでいただきたいものです」


どうやらマキーナも、あの神様は嫌いなようだ。マキーナがこんなことを言うなんて珍しい。


「ファントム!来い!」


処理を終えたファントムがこちらにジャンプして来た。


ズン!


俺達の側に着地する。


「…お前なんか変わった?」


「……」


さっきまでのファントムは青銅の魔人という硬い感じだったが、どことなく丸みを帯びたような感じがする。まろやかになったというかなんというか、とにかく見ただけで失神しそうなあの感じが消えたようだ。未だに表情も何も無い。


「まあいい。とにかく作業を終えたようだな」


「……」


なんか…ちょっといい感じになった?


だが見た目が変わっただけで雰囲気は変わらない。相変わらずロボットのようにどこか遠くを見つめて、俺を見てはいなかった。


「行くぞ」


俺とマキーナが部屋を出ると、ファントムも後ろをついて来る。


「なんだろうな…こいつがいる事で俺は俺でいられるような気がするんだ」


マキーナが不思議そうな顔をして俺を見る。俺もこんなことを言うのはマキーナがはじめてだ。


「すみません。おっしゃっている意味がよく分かりません」


「うまく言えない。とにかくこいつがいるおかげで…保てているというか…、まあよくわからないや」


「私にはシャーミリア様が施したような緻密な設計はよくわかりません。ですがラウル様がよろしいのであれば、私達はそれで満足でございます」


「まあ、そうだな…」


マキーナならこういう返事をするだろうと思った。シャーミリアが何かを考えて設計したのか偶然の産物なのかは分からないが、とにかくファントムがいる事は俺にとって凄く良い事のように感じるのだった。


《ご主人様、スラガたちが到着しました》


唐突にシャーミリアから念話が入った。


《よし!無事に到着したか?》


《はい全員無事です》


《他には?何か変化はあるか?》


《基地周辺は静かなものです》


《エミルは?》


《はい。敵を見失ったという事で帰投されました》


《良かった、そのまま休むように言ってくれ》


《お伝えいたします》


《俺達も都市を出て基地に帰投する》


《かしこまりました》


《ただ一つだけ警戒が必要だ、上位のデモンが一体逃げた。もしかするとそちらに行くかもしれない、十分注意するようにしてくれ。あのルタンの近くの森で俺達が戦った消えて逃げるやつだ》


《あやつがこんなところに…発見した場合はどうしますか?》


《スラガとアナミスに基地を護衛させて、シャーミリアが出撃し足止めできるか?》


《最善を尽くします》


《無理はするなよ》


《は!》


俺達はサイナス枢機卿のいる部屋に戻り、全員で基地に帰投する事を伝えるのだった。


「どこから抜けますか?」


マキーナが聞いて来る。


「秘密の出口は悟られたくない。正面から出ていこう」


「かしこまりました」


俺の指示を聞いて皆が都市へと続く通路を上がっていく。都市部に出ると相変わらずそこら中に光柱が立っていた。あれからは追加で異世界人転移はされて来ていないようだ。


「ここでの異世界人の見張りはどうするかの?」


「一旦、やめましょう」


「転移して来た者たちが困らぬだろうか?」


「申し訳ないのですが、その者達は自力でなんとかしてもらうしかありません。私は私の兵を優先させたいと思います」


素直に伝える。


「うむ、しかたあるまいのう」


「体制を立て直さねばなりませんので、それはその後で対応したいと思います」


「わかった」


そして俺は魔人たちに向かって言う。


「これから都市部を抜けて外に出る!くれぐれも光柱に触れる事の無いようにしてくれ、人間には害はないが魔人には不利に働く可能性がある!」


「「「「「「は!」」」」」」


全員の気が引き締まったようだ。実際に光柱に触れたことのある魔人はいない。だが、デモンが光柱に触れた時にその体の部分が消滅していた。俺達もそうならないとは限らないので、慎重に進む必要があった。


「わしらは問題ないのじゃがな」


「はい枢機卿。デモンはあれに触れた場所を欠損させていました」


「そう言われてみれば、デモンの類が全くおらんな」


「光柱に吸収でもされたのじゃろうか?」


「その可能性もありますね」


俺達は周辺の光柱に気をつけながら歩いて行く。


《マキーナ…》


《はい…力が削がれるようです》


《だな…》


《ラウル様…》


《ああルピア、恐らく魔人全員が感じているだろう》


《はい…》


光柱の間を一歩一歩、歩くたびに力が吸い取られるような気がした。


「枢機卿、やはりこの都市は魔人には悪い影響があるようです」


「やはりそうなのか」


「都市部を戦場にしなくてよかったですよ」


「うむ」


「みんな!急いで都市を抜けるぞ!」


いつもより魔人達の動きがノロいような気がする。光柱の影響が出ているようだ。カーライルは魂核書き換え騎士に肩をかり、礼一郎は他の騎士に背負われて進んだ。


「ファントム!枢機卿を守れよ!」


ファントムが枢機卿の後ろについて歩く。


敵の転移魔法使いは、こんなところにデモンを特攻させたのか…本来の力の半分も出せていなかったんじゃないかと思う。とにかくこんなところは早く出なければならない。


「お!出て来た!」


いきなりどこからか声が聞こえて来た。あの転移魔法使いと一緒に居た女の子の声に似ている。


「本当だ!やっと燻り出せたみたいだぞ!」


もう一人、男の声が聞こえた。だがどこにいるのか見えてこない。


「全員!警戒態勢、銃を構えて一か所に固まれ!光柱にはくっつくなよ!」


俺の指示の元、皆が俺の側へ来て固まる。


「魔法使いと騎士は周辺を警戒して、敵を探し出してくれ!」


魂核を書き換えた騎士と魔法使いは、俺の指示通りに方々へと広がった。


「ルタンの騎士は俺達の周辺に!」


洗脳されているルタンから来た人間の精鋭部隊が俺達の周りを囲む。


どこにいる…


光柱で気が付かなかったが、どうやら敵の異世界人たちは俺達を待ち伏せしていたのだった。

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