第679話 バティンとダンタリオン
俺の魔力が流されているため、BMP-Tターミネーター2は想定以上の大爆発を起こしてしまった。しかしそのおかげで部屋の半分までのデモンが消える。
「わっ!」
天井に刺していた竜人化カーライルの剣がスルリッと抜けてしまい、俺達は真っ逆さまに火の海に落下し始める。カーライルは剣を腰の鞘にしまい込み、推進剤の入った筒を操作する。
ドシュッ、ポスン。
「おや?」
カーライルが間抜けな声を出す。どうやらデイジー&ミーシャ製の推進筒が不良を起こしたらしい。
うん…この不具合は生き残って戻れた時にフィードバックする事にしよう。いざという時にこれでは信頼性が無さすぎでダメだ。
《ファントム!俺たち二人を受け止めて飛べ!》
バシュッと階段から飛び出して来たファントムが、俺達二人を空中で捕まえて飛んだ。ドゴッ!今度は反対側の壁にぶつかる。
《俺達を踊り場に投げろ!》
ファントムが俺とカーライルを通路の踊り場にぶん投げて、自分は炎の中に落下していく。ドサッゴロゴロゴロゴロ!俺達二人は魔人達がいる場所に落ち通路の上を転がった。
「ファントムは大丈夫なのですか?」
「ああ、カーライル。ファントムならあのぐらいの炎は問題ない」
ズボッ!
ほらね。
ファントムが下の炎の中から飛び出し、俺達がいる踊り場までジャンプしてきた。
「は、はは。馬鹿らしくなります」
「シャーミリアが最高の出来栄えだと言ってるんだ。当然だろう」
「シャーミリア様が!それは当然ですね」
俺にとっては青くて丸いネコ型のアレより、青銅色のバケモノ型ファントムの方が凄く役に立つ。
ざらざらざらざら
炎の向こう側からまたデモンが出て来た。骸骨サルのデモンはあまり炎を気にしていないようで、お構いなしにこちらに進んでくる。
「やっぱあのサルは燃えてんのかね?」
骸骨サルデモンはメラメラと炎のような物を発している。
「どうなのでしょう?もしかしたら気や魔力の類なのでしょうか?」
「わからんけど、あまり炎を警戒してはいないように見えるな」
「そのようです」
シュッ!
会話をしている俺達に、唐突に何かが飛んできた。
ガッキィィィィ!
「なに!?」
俺の少し手前で、カーライルが剣を抜いて何かを弾いた。
「あーー!!くっそぉ!!!あいつ!また守られやがったよ!絶対殺ったと思ったのに!」
「ばーか、バティンの攻撃が遅いんだよ!あたしならやれた!」
「ウルサイ!ボクの攻撃は遅くない!ダンタリオン!お前は周りに何かいないと役に立たないじゃないか!」
「なんだと!」
俺達の前で喧嘩をしいてる二人が居た。
アイツらは…。
ルタン町付近の森で、俺とシャーミリアとファントムが戦ったデモンだった。背格好が似た二人の…少年か少女か分からん、顔立ちの整った双子がいる。俺達は階層下のデモンに気を取られていたが、いつの間にか踊り場の反対方向に立っていた。
「カーライル…デモンだ…」
俺は冷や汗を垂らしながらカーライルに告げる。
「恐ろしい気と魔力です」
「逃げるぞ…」
「その方が良さそうです…」
俺とカーライルがこっそり話をした。
「きーこーえーたーよ!」
「やっと追い詰めたの逃がすかっての。馬鹿なんじゃない?」
地獄耳だ。
下の階段からは骸骨サルのデモン達が迫ってきている。いや…それだけではなかった、骸骨サルの先頭をおかしな奴らが走ってきている。
「あれは…」
「盗賊と…」
「魔人…」
どうやら下で死んだ、盗賊と魔人が何かに変えられてしまったらしい。
「あれは…グール…だ。ただのグールじゃないぞ…」
「速い!」
一気に階段を駆け上がってくる。
「全員撤退だ!」
俺が叫ぶと、一目散に魔人部隊が地下堂の入口へと走り出した。俺達も後を追うように走る。
バシュッ!
もう少しで入り口にたどり着けそうだと思った時、先頭のダークエルフとオークの進化魔人の首が飛んだ。恐らくはあのバティンというデモンが使う、円盤状の飛ぶ刀だろう。
「くっ!止まれ!」
俺が魔人達を止める。そして俺とカーライルも息を合わせたように振り向いた。
「撃て!」
俺達がしゃがんで銃を構え、魔人達も後ろから一斉掃射した。そこに居たデモンに弾丸が当たろうかという時。
スッ
二体のデモンが消え、俺達が放った弾丸は空中を通過して反対側の壁に当たる。
「やっぱ消えるか」
「戦った事があるのですね?」
「ああ、ルタンで一度な」
「逃したのですか?」
「残念ながらな…」
ガッシィィィ!再びカーライルの剣が円盤状の刃を止めた。円盤は逸れてどこかに飛んで行って消える。いつどこから飛んでくるのか分からない。
「くっ!」
カーライルがいっぱいいっぱいのようで、苦悶の表情を浮かべる。
「なんなんだよ!あいつは!あんなやつ情報に無いぞ!」
「おかしいな、あんな竜人がいたか?」
どうやら二人のデモンは、俺達の情報をある程度知っているらしかった。だが竜人化したカーライルまでは情報がないらしい。カーライルは剣技だけで言ったら魔人より上だろう。竜人化する事でその能力は数倍に上がっているようだ。
この薬…絶対流出させちゃいけないな…先の事を考えると絶対に流出させるわけにはいかない。
双子のデモンは手すりの上に居たがすぐに消える。出たり消えたりして捕まえる事が出来ない。
「来ました!」
盗賊のグールと元配下だった魔人のグールが階段を上がって来た。その後ろの階段の中腹あたりには既に骸骨サルのデモンが押し寄せつつある。
くそ、魔獣だけじゃなく。俺の配下までグールに変えられるのか…こいつは野放しに出来ない。
「ラウル様!」
「魔人達!敵がどこに出現するか分からない。とにかく一か所に固まれ!」
魔人達が銃を構えつつ、一か所に固まる。
「ファントム!魔人達を守れ!」
「……」
ファントムが魔人達の所に寄り、グールとデモンの侵入方向に立ちはだかった。
「あらら?あのおっきいのを、おまえのそばに置いておかなくていいの?」
バティンが馬鹿にしたように言う。
「ああ。お前らは俺に一度負けてる、何度やっても同じさ」
「ははははは!お前、魔人が周りにいないと弱いんだろ?」
ダンタリオンってやつが、更に馬鹿にしたように言った。
「お前らみたいな馬鹿のデモンには負けないって言ってんだよ。やっぱ俺の言ってる事が分かんねーかな?」
「負け惜しみってやつかぁ?ボクの斬月刃の餌食にしてやるよ!」
俺とデモンが話している間に、魔人達がグールに銃を撃ち始めた。だがグールは倒れたりはするものの、素早い動きで魔人達に迫って来る。すばしこく動くから弾が当たりづらくなっているようだ。
キュィィィィィィィィィ!
ファントムの手から生えたM134ミニガンが一気に、グールとその後ろから来た骸骨サルたちをなぎ倒していく。その状況を見て俺は次の行動に移る。
「よし!カーライル、あいつらに突っ込むぞ!」
俺がバティンとダンタリオンを指して言う。
「わかりました!」
カーライルが縮地で一気にダンタリオンに詰め寄った。そのままの姿勢で突きを繰り出している。
ガッッキィィ!
今度はバティンの斬月刃がカーライルの剣を止める。まさかカーライルの剣が止められるとは思っていなかった。だが俺はカーライルのすぐ後ろに居て、カーライルの肩口から腕をのばしコルトガバメントをバティンに向けて連射する。
パンパンパンパン!
消えた…どうやら弾は当たらなかったようだ。
「くそ!」
不意をついたはずだったが、ダンタリオンとバティンは既にその場所から消えていた。
どこに出る?
俺とカーライルが周囲を警戒しているが、どこにいるのかさっぱりわからない。あの消える能力は転移ではなさそうだが、完全に気配は消えている。
バシュッ
「ぐあ!」
俺が声の方を振り向くと、ファントムの後ろにいた魔人から血しぶきが上がっていた。どうやら俺達より先に向こうを片付けるようにしたようだ。
「くそ!きたないぞ!」
「あーははははは!きれいとか汚いとかあんのか!ばーかみたい!」
バティンの声がする方向を見ると、いつの間にかファントムたちがいる更に向こう側にいた。
「ラウル様。あれはすばしこい、というわけではないんですね?」
「そうなんだよ。あいつら、恐らくは異空間を移動してる」
「厄介な…」
「ああ」
俺が魔人に向けて叫ぶ。
「あいつらを撃て!」
俺の指示で魔人がデモン2体に銃を掃射するが再び消えてしまった。
「なら」
俺が通路の脇の吹き抜けから下をのぞく。すると骸骨サルデモンが続々と階段を昇ってきていた。
「数が減ってるみたいだ」
「そのようです。ようやく切れて来ましたかね?」
俺はすぐさまRPG-27ロケットランチャーを召喚し、サーモバリック爆薬を骸骨サルの群れに打ち込んだ。
バグゥゥゥゥン!
階段途中の骸骨サルが飛び散って古い石段が崩れる。さらに俺が次のRPG-27ロケットランチャーを召喚した時だった。
ガッキィィィ
再びカーライルが斬月刃を弾いていた。
「させないよ!」
バティンが出て来て俺に叫ぶ。
「カーライル。俺が集中してあのサルを撃ち続ける間、あの刃から俺を守りきれるか?」
「あの刃はかなり変則的で凄い速さで飛びます。集中しても何度受けきれるかわかりません…」
「それでいい。とりあえず俺が撃ち続ける間、何とか持ちこたえてくれ」
「わかりました」
俺はカーライルに背を預けて踊り場から身を乗り出し、RPG-27を召喚してはサーモバリック弾を撃ち始める。
「こらー!雑魚がいなくなっちゃうだろー!」
ダンタリオンが叫んでいる。俺に言っているのかと思ったらバティンに叫んでいるようだ。
「だって、あの竜人が邪魔するんだもん!」
「早く片付けろよ!」
「うるさいなあ!やってるよ!」
二人が喧嘩をし始める。だがそれとは裏腹に、上手く連携しているようにも見えた。
「でもこっちが本物で間違いないんじゃないか?」
ダンタリオンが俺をじっと見て言う。
「情報通りかもしれない」
「フー様を呼ぶ?」
「ばか!俺達が消滅させられるぞ!」
「だって…」
俺は一度RPG-27を召喚するのをやめて、バティンとダンタリオンの方を振り向く。
「ははは!そのフー様とやらを呼んでみろよ!もう既にフー様は黒龍様に消されてるさ!」
「おま…何言ってんだ?フー様がやられるわけないだろ?」
「いやいや、黒龍様が逃すわけがない」
「なんだ?黒龍って?」
「知らんのか?じゃあ教えてやらん」
「どうする?」
「どうするかな?」
バティンとダンタリオンと名乗るデモンは顔を見合わせている。戦闘中なのにとんでもないバカだ。
「シッ!」
カーライルが鋭く息を吐き縮地でデモンに走り突きを放つ。
ギィィィィン!
また剣が止められた。
それに合わせた俺が阿吽の呼吸でカーライルの後ろをとり、カーライルの脇の下からAA12連射式ショットガンを突き出した。ズンズンズンズンズンズンズンズン!!!8発の散弾を一気に掃射する。AA12連射式ショットガンは一秒の間に、12ゲージ散弾を何発も撃つことができるのだ。
「いでぇぁ」
「ギャッ!」
バティンとダンタリオンの叫びが聞こえた。だが再び二体のデモンが消えた。
「手ごたえはあったな」
単発の銃では捕らえる事が出来なかったが、散弾なら捉えられると考えたのだった。そしてその目論見は当たった。
「これを」
カーライルが床を指さすと、緑色の体液みたいなものが飛び散っている。
「逃げたかな?」
「気配はありませんが」
確かにどこにもいないようだ。
キュィィィィィィィィ!
未だにファントムが骸骨サルを排除しているが、明らかに減ってきていた。どうやらもう骸骨サルデモンは出現してきていないらしい。
「よし、これで逃げれるか…」
「行けますかね?」
魔人達には負傷者がいるようで、数人がうずくまっていた。
「助けなきゃ死ぬな…」
「どうします?」
「敵は致命傷じゃないはずだ。だがまだどこに出現するか分からない」
動けば敵はそこをついてくるだろう。恐らく敵は逃げていないと思う。推測だがあの二人には更に上のボスがいて、そいつを恐れているように感じた。
「おい!バティン!ダンタリオン!俺はまだ生きてるぞ!本物はこっちだ!とどめを刺さないと、フー様に怒られるんじゃないのか?」
俺がどこにともなく叫ぶ。まだここにいれば聞いているだろう。
・・・・・・・・
「動きませんね?」
「ファントムのガトリングがうるさいんじゃないのかな?」
「あんなに地獄耳なのにですか?」
「確かにそうだったな」
ガキィィィィィ!
キターーーー
再びカーライルが斬月刃を弾いた。まだ逃げていなかったらしい。
「くそ!くそ!くそ!くそ!なんだよ!おまえ!竜人風情がなんでボクの攻撃を弾くんだよ!」
「貴様のそのノロマな刃がか?」
珍しくカーライルが敵を挑発している。さっきは止めるのがギリギリだと言っていたのに。
「この!クソが!魔人なんか敵じゃないんだよ!!」
ガキィィィガガッ!バティンの斬月刃がカーライルを襲い始めた。カーライルが必死にその攻撃を弾く。俺の目でもかすむような鬼神の動きで避け続ける。
だが、カーライルの竜人化した皮膚が裂け、血が噴き出して来た。
「やはり、敵は致命傷を負っていなかったか…」
俺は後方にいるダンタリオンというデモンをじっと見つめるのだった。
アイツはどのくらいの強さなのか?それ如何では俺は死ぬかもしれんな…
俺は覚悟を決めた。