第678話 正体不明の攻撃
BMP-Tターミネーター2戦闘車両による掃射と、階段上部からのファントムのガトリングの掃射で少しずつデモンを押し返していた。転移出現速度よりデモンを殺す速度が上がってきたらしい。
「このまま押し切れるのではないですか?」
竜人化したカーライルが聞いて来る。
「いや…恐らくそうはいかないだろう」
「まだ何かあると?」
「敵はこの作戦を一度ユークリットで破られているからな。きっと何か仕込んでいると思う。ここに来て二重三重に罠を仕組んで来ているようだし、同じ轍を踏むとは思えない。俺の感覚だが、この首謀者は今までの奴とは違う気がする」
「あのアブドゥルという大神官ではないと?」
「推測だがな」
俺達二人はBMP-Tターミネーター2戦闘車両で攻撃をし続けている。骸骨サルデモンは相変わらず沸いて出てきているが、少しずつ数が減ってきているように感じる。
「あの少年も罠なのでしょうね」
カーライルが礼一郎の事を言う。
「ああ、どこから魅了されているか分からんが、一度はアナミスが魅了されていないのを確認しているからな。基地の司令塔に居た時は間違いなく普通の状態だった」
「彼を導き出した奴がいたという事でしょうか?」
「かも知らん…とにかく今はここを突破する事だけに集中しないと」
「そうですね」
考えれば考えるほど、用意周到な罠にかかった感覚がする。
どこからだ…いつから敵の監視にあっていた?
だが、今はそんなことを考えている余裕はない。目の前のデモンがいつまで出てくるのかも見当がつかない。減ってはいるが未だに次々と送られてきている。
ガッッゴォォン!
「なんだ!」
大きな金属を叩くような音が聞こえて、いきなり車体が揺れた。そして俺が撃っていたグレネード弾の射出が止まっている。
ボッゴォン!
また何かが叩きつけられるような音が聞こえる。
「あれ?」
「どうした?カーライル!」
「ラウル様!銃が出なくなりました」
「えっ!」
カーライルがトリガーをひいているが弾が射出されない。俺はすぐさま運転席に移り、BMP-Tターミネーター2戦闘車両を急発進させた。
《ファントム!俺を攻撃している者が見えたらそいつを撃て!》
《……》
ファントムのM134ミニガンの射出音が消えた。どうやら俺達を攻撃している敵が見当たらないらしい。撃ち続けないとファントムが突破され、上の魔人達がサルデモンに飲まれてしまう。
《ファントム!引き続き骸骨サルのデモンを排除しろ!》
ガガガガガガガガガガ
再びガトリングの音が聞こえて来た。
「敵が見えないのか…」
「ラウル様!前にサルが!」
カーライルが言うが、俺はかまわずに骸骨サルのデモンの群れにBMP-Tターミネーター2戦闘車両を突っ込ませた。ベキッベキョッグチャッと車体に軽く振動をあたえながら、骸骨サルデモンを踏み潰していく。銃が使えなくなった以上はこうするしかない。
「また増えてきました!」
前方の窓から外をのぞくカーライルが言う。
「火力が足りん」
「さっきのはなんでしょう?」
分からなかった。何らかの攻撃を受けたようだが銃が撃てなくなってしまった。恐らくは壊されてしまったのだろう。
「恐らくは高位のデモンが出て来たんだろう。その攻撃だと思う」
「高位のデモン?」
「そうだ」
「今回の攻撃を、手引きした奴らでしょうか?」
「それは分からん!まだほかにもいるかもしれん!」
そう叫びながらデモンを轢き殺しつつ、ひたすら前進していく。おそらく車体にはかなりの量の骸骨サルデモンがこびりついているだろう。
「異様な気配に包まれてますね」
流石カーライル、魔人の魔力を読んで目を閉じて戦うだけはある。高位のデモンの気配を感じ取っているらしい。俺にはよくわからなかった。
「この部屋に何かが居るんだと思う」
「どうします?」
「やれるところまでやるさ」
「何か策があるのですか?」
「策というほどの事じゃないがな」
「なんです?」
「敵の狙いは俺だって事さ。どうやらこの大きな戦いの根源に、俺がいる事を見抜いたやつがいるらしい」
「それが敵に悟られたと?」
「そういう事だ。ビクトールもそう言っていたからな」
「確かに」
ひたすら骸骨サルのデモンを踏み潰しながら次の作戦を練る。恐らく敵には、俺を倒せば向こうが有利になる事を知ったやつが居るらしい。南の砂漠から北に戻って来てから、いろいろと探りを入れられていたのだろう。ルタンでのデモンの襲撃はそれを調べるためだったと思える。
ガーーーーーっと1000馬力のディーゼルエンジンが吠える。もちろん俺の魔力が乗っているからもっとパワーが出ているはずだ。まるで掃除機をかけるかのようにデモンをひき殺しながら走り続けた。
「くそ!」
「増えてきましたね!」
「とにかく火力が足りないんだよ」
「じり貧ですか…」
恐らくファントムが無限に戦い続ければ、ここを維持する事は出来るだろう。敵のデモンが尽きるか、ファントムの体内に保管した武器が尽きるのが早いかってところだ。だが俺達はそんな悠長な事も言ってはいられなかった。
《シャーミリア!》
基地に念話を繋げた。
《は!》
《敵はどうなっている?》
《エミル様が攻撃し足は止まっているようです》
《数は?》
《相当数のデモンが波のように押し寄せてきております》
《そろそろヘリの武器が切れるだろう、エミルを一度後退させる。俺に化けたルフラが基地につくのはどれくらいだ?》
《時間にしてあと、五分ほどかと》
《結構な距離があるか…》
《私奴が向かえに出ます!》
《ダメだ!とにかく行くな!》
《か、かしこまりました!》
シャーミリアが行けば、すぐに救出はできるだろう。だが俺は胸騒ぎがしたのだ。とにかく基地の防衛を弱めてはいけない。ここまで用意周到に準備されているのだ、必ず何か隠し玉を持っているはずだ。
《その距離なら余裕で砲撃が届く。基地の魔人達に指示をだして、90式戦車と99式自走155mmりゅう弾砲で迎撃させろ。数からいって足は止まらんだろうが、ルフラ達が基地へたどり着くまでの助けにはなるはずだ》
《かしこまりました!》
《やはりエミルには基地に戻らせず、射弾観測をさせる。無線機の使い方は分かるな?》
《もちろんでございます》
《魔人の指揮をとれ》
《は!》
そして俺はすぐに車体についていた無線機を取る。周波数をエミルのヘリに合わせて通信する。
「エミル」
「おおラウル!丁度いいところに!武器が切れるぞ!」
「よくやってくれた!」
「基地に戻るか?」
「いや、射弾観測をやってくれ」
「基地においてあった戦車を使うのか?」
「そうだ。シャーミリアが無線を繋ぐ、位置を的確に教えてくれ」
「了解だ」
エミルとの無線を切った。
《シャーミリア!準備ができ次第撃て!あとはエミルと無線で連絡をしデモンを蹴散らせ!》
《は!》
エミルとシャーミリアが連携して、砲撃でデモンの足を鈍らせてくれるはずだ。
「カーライル、向こうに走らせた俺を大量のデモンが追いかけているようだ」
「なるほど、敵はラウル様を見分けられてない訳ですね」
「そのようだ」
「敵の戦力が二分されているという事ですか」
「いまのところはな」
ガゴン!!またいきなり金属を叩く音が鳴り響く。強力な力でこの車体を叩いているらしい。
「車体は、もつのですか?」
「わからん、敵が何かもわからんし」
正体不明の敵はBMP-Tターミネーター2の旋回時を狙ってきていた。速度が遅くなったところを狙っているらしい。そのほかにもカンカンと音がしているのは味方の撃っている銃の音だ。反対側に周ってきたことで、味方の銃が届く範囲に来たらしい。
「味方はまだ無事なようだ」
「であれば枢機卿も?」
「聞いてみる」
《ルピア!枢機卿は居たか?》
《見つけて一緒におります》
《動かずに、敵の目が届かないところに隠れていた方が良い》
《そのようにしております。私では力不足かもしれませんから》
《上出来だ。そのままサイナス枢機卿を守り通してくれ。クレとマカとナタを差し向ける》
《はい!》
《クレ、マカ、ナタ!》
《《《は!》》》
《各自の現状報告!》
《クレです!都市周辺を見張っていますが、どこにも敵はおりません》
《ナタです、こちらも都市内の警戒をしていますが敵はいないようです》
《マカです。秘密の出入り口付近には敵は来ていません》
《わかった!ルピアの気配で位置は分かるな》
《《《もちろんです》》》
《いま枢機卿をかくまっている。お前たちはすぐにルピアに合流して、一緒に枢機卿の護衛につけ、万が一の場合は連れて脱出しろ!》
《《《はい!》》》
「カーライルの言うとおりだ。俺を追いかけて敵は完全に二分されているようだ。この都市と地下にはデモンはいない」
「そうですか」
「一度この車体を出たいな」
「確かに、ここは戦うには不利です」
「ああ…だが…問題だよな…」
「ええ…これ、出れませんよね?」
「そうなんだよ。この車両から出たとたんに、あの骸骨サルにめっちゃ囲まれるよな?」
「さらに、正体不明の敵までいますよ」
「実はさ、いままで俺わざとここに居続けたんだよね」
「えっ!そうなんですか!?」
「だってわざわざ俺に食らいついて食てくれてるんだろ?ならそれを利用しない手は無いと思って、ここにいればスラガたちが襲われる事もないだろうし」
「それで…この状態ですか?」
「ああ、実は切り札も用意していたんだが、出しそびれてな」
「切り札?」
「そうなんだよ。せっかく上位の敵が出て来たから好機ではあるんだが、この大量のデモン達が邪魔で仕方がない」
「…なるほど…どうすれば?」
「車体が持つか分からないけど、ファントムに集中砲火させようかと思う」
「…それは…この車がもちますか?」
「直撃は避けたいところだ。ファントムならやってくれるだろ」
「それしかないんですよね?」
「他に思いつかん」
「ならやりましょう」
「ふうっ…やるしかないよな…」
直撃を避けさせれば何とかなるかもしれない。とにかく俺達がこの車体から外に出れなければ埒が明かない。BMP-Tターミネーター2の周りにいる敵を一時的にでも排除する必要がある。
《ファントム!銃火器の切り替えを命ずる!俺が乗っている車体に向けてAT4 対戦車ロケットランチャーを乱れ撃ちしろ。直撃は避けろ!》
俺がファントムに無茶な命令を出す。
バグゥゥン!ドズゥゥゥン!俺の指示の直後にターミネイター2が振動で揺れだす。あいつはすぐにロケラン爆撃を開始したらしい。それからしばらく爆撃が続いた。
ズゴン!と衝撃が強く伝わった。
「あっ足が!」
どんなにペダルを踏んでも前に進まなかった。エンジンは唸るのだが振動が伝わるだけ。
「ファントムにキャタピラーを壊されたようだ」
「ということは?」
「ここから動けない」
「えっと、それは良い事ですか?悪い事ですか?」
「まあ、まて!」
とにかく敵を近寄らせなければいいだけだ!
《ファントム!武器を切り替えてM202 フラッシュ 多連装ロケットランチャーでTPA(増粘自然発火剤)を撃て》
ボッシュウウゥン!ズドンズドンズドンズドン!
TPAはガソリンやナパームより高温の炎を発する。その炎がBMP-Tターミネーター2を一気に包み込んだ。
「どうですかね?」
「静かにはなった。恐らく敵は近づいて来れないはずだ」
「成功ですか?」
「いや…」
「ん?気のせいか熱くないですか?」
「えっと、この車体は今燃やされている」
「え!」
「火薬も詰んである!早く出よう!!」
「はい!」
俺が天板のハッチの取っ手に手をかける。
ジュゥゥゥゥゥ!
「うわぁっち!!ふぅーふぅー!」
あまりの熱さに俺は手をフーフーした。
「ラウル様!どいてください!」
「すまない!」
「あっついぃぃぃ!」
カーライルも手をフーフーしている。
「やっべ!」
《ファントム!すぐに戦車まで下りてハッチをはがせ!》
バグゥゥゥン!
すぐにハッチが取れてファントムが顔をのぞかせた。
「カーライル早くでろ!ファントムは車体から離れろ!」
カーライルが速やかにハッチから外に出ていく。
「ラウル様!」
カーライルが上で俺に手を伸ばした。俺がカーライルに手を伸ばすとカーライルは俺の手を掴んで、一気にデイジーの推進剤を使って空中に飛んだ。
ボッゴォォォォン!
俺達が外に出たとたん、下でBMP-Tターミネーター2が大爆発を起こした。燃料に引火したか火薬に引火したかわからんが物凄い爆発だ。俺達は爆発に追われるように上昇する。
「危なかった…」
「ええ…」
天井に剣を差し込んだカーライルが俺を掴んで返事するのだった。