表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

679/951

第677話 ターミネーター2

魔人達が銃を掃射している。そのそばで俺が弾薬と武器を召喚し魔人らに渡しながら、デモンをこれ以上進めさせないようにしていた。


「くそ…」


つい悪態をついてしまう。


転移魔法使いが現れてからというもの、俺の軍に被害が出るようになった。ここでも五人の被害者を出してしまい、自分の甘さに腹が立って仕方がない。次々来る骸骨顔のサルのようなデモンが憎たらしい。


ズドン!ズドン!


配下へ武器の配分を見ながら、俺は召喚したTBG-29Vロケットランチャーからサーモバリック弾を射出する。着弾すると骸骨サルデモンが飛び散るが、次から次へと盛り上がって来てきりがない。


「ラウル様!」


カーライルが俺のもとにやって来た。


「どうした!弾切れか」


「すみません、あまり使い慣れていなくて」


「とにかく撃て!」


また新しくAK47アサルトライフルを召喚して渡してやる。


「押されているようですが」


「ああデモンは転移による出現だけじゃなく、お互いの体で欠損部分を補って復活しているみたいだ」


「どうするのです?」


骸骨サルデモンが、まるで水が満ちて来るように地下堂を埋め尽くして盛り上がって来た。カーライルに言われなくても、だいぶまずい状況だ。だが俺がここからいなくなれば、敵はまた転移をして他に移ってしまう。そうなれば聖女リシェルと異世界人を守りながら、基地に移動中のスラガとアナミス達がデモンに襲われてしまうだろう。


「もうすぐだ」


「援軍ですか?」


「そうだ」


「わかりました」


カーライルが不慣れな手つきで、AK47アサルトライフルを撃ちだした。素人の撃ち方だが敵があまりにも山盛りなので、適当に撃っても当たるようだ。俺は秘密通路の出口にいるルピアに、都市の地下で戦っているファントムを連れてくるように言っていた。それが来るまではこの防衛ラインを維持しなくてはならない。


「猫の手も借りたいくらいだよ!」


全員が必死に敵に向かって撃ち続けているが、明らかに押され始めている。


持つだろうか…


既に考える時間も与えてもらえないほどに、デモンが迫ってきていた。


「誰かが来ました!」


魔人の一人が叫ぶ。見れば入り口に立っていたのはファントムでもルピアでもなかった。


「礼一郎!」


そう、そこに居たのはさっき上の階でいなくなった礼一郎だった。少しうつむき加減に入り口付近に立っている。


「ここは危険だ!上に逃げろ!」


俺が叫ぶも礼一郎はそれを聞かずに、うつむいたままこちらに歩いて来た。恐らくは俺と一緒に戦うつもりでいるのだろう。


「よし!ならこっちに来い!」


どうせここが突破されてしまえば、礼一郎やサイナス枢機卿がデモンの餌食になってしまう。俺はあいつ用に何か武器を召喚してやろうと思うのだった。銃を撃ちながら振り向くと、いつの間にか俺の後ろに立っていた。


「れい…」


礼一郎の目に輝きが無い。何かに操られたような眠たそうな目つきをしているが、その焦点があっていなかった。それどころか俺の顔を見てニッと笑った。これは…


まずい!さっきとは違う!魅了か!


バシュゥゥゥゥー!


礼一郎が俺の至近距離でおもいっきり、風の炸裂魔法を発動させた。


「ぐぁぁぁぁ!」


次の瞬間、俺は通路の踊り場から吹き飛ばされ、骸骨サルデモンが大量に埋め尽くす地下堂中央の天井付近を飛んでいた。体を襲った衝撃に体中の骨が悲鳴を上げる。一瞬バラバラになったかと思った。


「ラウル様!」


後ろからカーライルや魔人達の声が聞こえる。


「そいつを殺すな!」


どうやら礼一郎はどこかで魅了をかけられてしまったようだ。もしかしたらこの場所に来た時からか?とにかくあいつは今、自分の意志では動いていない。せっかくここまで来たのに助けた意味がなくなってしまう。だが人の心配をしている場合ではなかった…俺の視界は横から真下に流れ始める。どうやらデモン達の真っ只中に降下しつつあるようだった。


まずい!


骸骨サルデモン達が上を見上げて、俺が落ちて来るのを待ち構えていた。まさか敵がここまで用意周到に罠をかけているとは思わなかった。このまま墜ちれば、あの大量のデモンの相手をしなければならない。シャーミリアに鍛えらえた体術でどこまで耐えきれるか…


無理ゲーかも…


詰んだ…


俺が詰んだか?と思った時。


バシュッ!


俺を空中でがっしり掴んで飛ぶやつがいた。


「ルピア?」


違った。


見上げると俺を脇に抱えて飛んでいるそいつは、あのハンサムで有名なファートリアの聖騎士だった。だがその面影が全く違う人になっている。鎧が変わっていないので誰だかは分かった。


「ラウル様!衝撃に備えてください!」


俺は体に力をこめる。


ザンッ!という音と共に、そいつが握った剣は反対側の壁に刺さり壁に激突した。


「ぐっ!」


ぐらりと落ちそうになるが、そいつは剣を掴む反対側の手で俺を抱え直した。


「ラウル様!よかった!」


「カーライル!その薬はサイナス枢機卿を助けるためにとっとけって言ったろ!」


「すみません。咄嗟の事で…」


竜人の甲殻をまとい、少し逞しくなったカーライルが言う。竜人になっても爽やかにニッコリと笑い返してくる。竜人化薬を飲み、推進剤を使って俺のところまで飛んできたのだった。


「すまない!助かった!」


「はい」


《ルピア!》


すぐにルピアに念話を繋ぐ。


《もうすぐ到着します!》


《いや!予定変更だ!サイナス枢機卿が地下のどこか一室にいるはずだ。見つけて保護してくれ》


《はい!それではファントムだけそちらに向かわせます》


《頼む!》


カーライルがここに来てしまうと、サイナス枢機卿がフリーになってしまう。ルピアに警護させて何かあったら逃げてもらうしかないだろう。


「カーライル!俺を支えてくれ」


「はい」


カーライルが俺をしっかりと抱きしめる。元々のカーライルの鍛え上げた肉体に、竜人の強さが加わったためかなりがっちりと固定された。


「それ!」


俺はデモン達の頭上に、M67破片手榴弾を降り注いでいく。着弾と同時に破裂し周りのデモンを粉砕して吹き飛ばしていった。デモン達はさっきまで反対側に攻め入っていたため、こちらに戻ってくるのがみえる。中央付近からは未だにデモンが出現し続けており、こちらに向かってやってきていた。


「下からも登ってきました!」


真下を見るとデモン達が重なるようにして、上に盛り上がってきていた。


「きりがない。魔石はどこだ」


魔石までの距離は三十メートル。あれに被害が及ばない範囲で攻撃が出来れば。


俺はカーライルに吊るされながらも、手元にC-4プラスチック爆薬と信管を召喚した。急いで信管を羊羹のような爆薬に差し込んでポイッ!と投げる。信管が刺さったプラスチック爆薬は垂直に落下していく。


カチッ


丁度デモンに差し掛かるあたりで起爆剤を握る。バガァァァン!爆薬は凄い炸裂音を響かせて爆発した。ぽっかり穴が空いたように、デモンがはじけて床が見える。だが、すぐさまその穴はデモンで埋め尽くされ、再び俺達めがけて盛り上がって来た。


「なるほどだいたいわかった」


破壊の範囲を確認して、俺は再びC-4プラスチック爆薬を一箱召喚した。すぐさま信管を差し込んで、また垂直に落下させてやる。


カチッ


ズズゥゥゥゥンッ!!今度はかなり広範囲にデモンが吹き飛ばされ、俺達の下がだいぶ開いた。


「ラウル様!壁が!」


竜人化カーライルが叫ぶ。


俺が上をみると丁度カーライルが剣を指していた壁が、ボコッ!と取れてしまったところだった。古い建物なのでそれほど強度は無かったらしい。


「大丈夫だカーライル!俺を離せ!」


ドサッ!


「痛っ!」


足に激痛が走る。それでも俺とカーライルはなんとか床に着地したのだった。一旦大爆発により怯んだデモンだったが、再びこちらに飛びかかってくる。


ドン!俺はその場に、BMP-T ターミネイター2 戦車を召喚した。重量が47トンあり、対人武装主体で対戦車ミサイルまで備えた戦車である。どちらかというとネタ機体のような車両だが、この状況ではこれが一番有効だ。


30mm機関砲x2

対戦車ミサイル

連装発射機x2

7.62mm機関銃x1

30mm自動グレネード発射機x2


を装備しており、敵歩兵を掃討する為だけに作られたような機体だ。俺はそのハッチを開いて叫ぶ!


「カーライル乗れ!」


「わかりました!」


カーライルが先に中に乗り込み、俺が続けざまにのりこんだ。その時には既にデモンが飛びかからんとしていた。ガパン!俺がターミネイターのハッチを締め、寸でのところでどさどさと天井にデモンがのっかってきているのが分かる。


「よし」


俺はすぐにエンジンをかけた。ブルゥゥゥゥゥン!という音と共に、機体に振動がはしる。


キュゥィィィィ

キュィィィィィ


天井の兵器部分を回して、デモンを振り払ってみる。だがしぶとくしがみついているようだ。


「行ける」


ガダダダダダダダダダダダダダダ!!!すぐに正面に向かって、30mm機関砲を掃射した。あっという間に正面にいたデモン達が飛び散っていき、一気に道が出来上がった。


「ラウル様。あいつを殺せばデモンは止まるのではないでしょうか?」


「ビクトールか?」


「あいつは座標と言っていました」


「いや、おそらく転移魔法使いは座標をもう記憶しているさ。あいつを殺したところで止まらんだろう」


俺達が話している間も、ゴン!ガン!ガスッ!ターミネイター2の外にはデモンが群がっているらしく、ガンガンと装甲を叩く音が聞こえて来る。


「だが、もう大丈夫だ」


「どういうことです?」


「ファントムが来たから」


俺達が反対側の踊り場の上を見るとファントムが立っていた。


《ファントム!デモンをM134ミニガンで薙ぎ払え》


《……》


ファントムは腕からM134ミニガンを生やした。ミニガンからは弾丸ベルトが伸びており、腕の外に垂れ下がっている。いつからか完全に外に出さなくても使えるようになってしまったのだ。キュィィィィィィィィィィィィィ。ガガガガガガガガガガガガガ!!!M134ミニガンは一気に、デモン達を掃射していく。復活する余裕を与えずに壁から下のデモン達がどんどん消されていった。


「こっちからもだ」


俺は再び、2基の30mm機関砲を掃射した。機関砲を操作しながらカーライルにも指示を出す。


「そこに座ってくれ!」


「はい」


竜人のカーライルは俺から指示されるままに席にすわった。


「そこのレバーを引いてくれ」


「えっと、これでしょうか?」


「そうだ」


「はい」


「あとは引き金のボタンを押せばいい」


「えっと、これでしょうか?」


バスバスバスバスバス!


カーライルが撃ったのは、二基の30mm自動グレネード発射機だった。着弾するとドカンドカンと音を立てながら爆発していく。ときおり対面からファントムが撃つM134の弾が、車体にあたるがまったくびくともしなかった。


「よっ」


そのまま砲塔の向きをぐるりと回した。あっという間に消されていくデモンたち。それでも恐れを知らぬあいつらは、がむしゃらにターミネイター2に突進してくる。


「よし!デモンの発生を俺達の攻撃が上回って来たぞ!」


「凄い!凄いです!」


カーライルも興奮気味に言う。


「弾薬は無限にある。撃ちまくろうぜ!」


「はい」


ガガガガガガガガガガガガ!俺達二人はとにかく銃火器を撃ちまくった。少しずつデモンの数が減ってきており、山盛りだった敵の影が少なくなっていく。


《ファントム!撃ちながらデモンを押し返せ!》


ファントムはM134ミニガンを掃射しつつ、部屋の上部にある踊り場から階段に移ってくる。


ははは…なんつーか。まるで前世のあの映画で見た、未来からやって来た殺人ロボットのようだ。たまに敵が飛びついたりしているが、べしゃッと潰されたりしている。そしてお構いなしにミニガンを撃ち続けながら階段を降りて来るのだった。


《そのあたりに魔人の死体が無いか?あったらエリクサーをかけて見ろ!》


デモンを薙ぎ払うようにミニガンを掃射しながら、ファントムがおりてくると途中で立ち止まった。


《かけてやれ》


ファントムは開いている片手でエリクサーを出して、魔人達の遺体にかけていた。するとここから見える限りでは三人が上半身を起こしている。


「まにあったぁぁぁ!!」


死んだ魔人がエリクサーで生き返り起きあがったのを見てガッツポーズをする。


「あの状態から良く…」


「ああ、なんとかな!よく耐えた!」


ガン!ゴン!と未だに外側から叩く音がした。


《ファントム!俺が乗るターミネイター2が見えるか?デモンが群がっているだろう?掃除してくれ》


カカカカカカカカカカン!と弾丸が外の装甲にあたる音がして、外から叩く音は静かになった。デモンが一掃されたらしい。


「カーライル、撃つのを変わってくれ」


「はい」


カーライルが30mm機関砲のトリガーを握る。そして俺は座席から離れた。


「痛つつつつつ」


「どうされたのです?」


「吹き飛ばされたときに足を折ったみたいだ」


俺の左足がおかしな方向に曲がっていた。


「それは大変です!私がエリクサーを持っております」


「助かる」


俺はカーライルからエリクサーを受け取って足にかけた。シュゥシュゥシュゥと湯気を出して足が元に戻っていく。


「礼一郎が魅了にかかっていたよ」


「という事は、デモンでしょうか?」


「恐らくは、高位のデモンが付近にいる可能性がある。外で魅了にかかったのか、この中でかかったのかわからない」


今度は俺が、さっきまでカーライルが撃っていた30mm自動グレネード発射機の操作をする。


「デモンが中にいれば枢機卿が…」


「大丈夫だ。ルピアがついている、逃げるくらいは出来るはずだ。内部にいるとも限らんしな」


とにかく俺はスラガたちが基地に到着するのを待っていた。


シャーミリアさえ自由になれば…


俺はシャーミリアを頼りすぎているのかもしれない。もっと組織的に対処できなければ敵の本隊には勝てないかもしれなかった。これまで直属の魔人達に頼りきりだったが考え直す必要がありそうだ。デモンを掃射しながらも、俺は今後の課題をどう解決すべきかを考えるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ