第676話 地下攻防戦
裏切りを知ったカーライルがビクトールに飛びかかった瞬間、目の前に骸骨サルのデモンが現れた。体を燃やし飛びかかろうとしている。
「シュッ」
ビクトールとの間合いに入られたカーライルが、軽く息を吐き咄嗟に氷の魔剣を振り下ろすと、切っ先が骸骨のサルの肩口から袈裟懸けに入る。しかしカーライルの鮮やかな剣筋は胸のあたりで止まってしまった。後ろに突き抜けた剣が、後ろに出現した骸骨サルの頭にあたったようだ。
「くっ!」
止まったカーライルめがけて数匹の骸骨サルの爪が襲いかかってきた。カーライルは瞬間的に後方に飛んで、骸骨サルたちの爪を避ける。
「ギャーギャー」
「ガーアッグァー」
「オァアギャー」
カーライルに逃げられて骸骨サルたちがギャーギャー騒いでいる。斬られたデモンの上半身は氷の魔剣の力により、カチコチに凍っていた。パン!俺はそいつにコルトガバメントを撃ち込む。バッシャァァァァン!と音を立てて骸骨サルの上半身が飛び散った。
「まだ来るぞ!」
その後ろからもどんどん骸骨サルが飛び出て来る。
バババババババババ!
俺の銃声を皮切りに五人の魔人達が、骸骨サルデモンに向けてアサルトライフルを一斉掃射した。デモンは、手を吹き飛ばされたり足を飛ばしたりしてもかまわず突進してくる。それでも魔人達が銃を撃ち続けてくれているおかげで、ほんの少し敵の足が止まる。
だが時間の問題で、ここはデモンに埋め尽くされるだろう。
「ははは!さすがのカーライルの剣もこいつら相手には分が悪いようだな!」
ビクトールが後方から叫ぶが、俺はそれを無視してカーライルに近づいて言う。
「推進剤は持っているか?」
「持ってます」
「枢機卿を担いで階段上に飛べ」
「しかしラウル様が」
「大型の火器を使うにしても、枢機卿に被害が及ぶ」
「わかりました」
カーライルが瞬間的にサイナス枢機卿に近づく。
「御免!」
そう言うと、枢機卿を肩にかついで懐からデイジー製の推進剤パックを取り出す。
バシュゥゥゥ
勢いよくカーライルとサイナス枢機卿の体が吹き飛んでいった。あっという間に螺旋階段の上部に到達する。
「よし!」
素早く魔人達の後ろに回り込み、状況を確認する。どうやら、さっきより骸骨サルデモンの数は増えていた。俺はサーモバリック弾を装填した、TBG-29V ロケットランチャーを召喚する。丁度そのとき五人の魔人達のアサルトライフルの弾が尽きた。弾倉を交換するにも一瞬の間が空いてしまう。
「ギャーギャー!」
「ガアーギャー!」
「グアァーアー!」
弾が尽き勢いを増した骸骨サルデモンが突進して来る。
バシューーー!俺のロケットランチャーからサーモバリック弾が飛び出していく。
「伏せろ!」
魔人五人は弾倉をアサルトライフルに込めながらバタっと倒れ込んだ。
ズバァアアアアッ!!サーモバリック弾が着弾し爆発が広がって、周りにいた骸骨サルたちを四散させながら吹き飛ばした。雪崩のように飛びかかってきていた骸骨サルの真ん中に、大きな空間が空くがそれもお構いなしに次々に突進してくる。
バシューーーー!バシューーー――!俺は再び両肩にかついだ二本のTBG-29Vロケットランチャーから、サーモバリック弾が射出する。
ズバァアアアアッ!!
ズバァアアアアッ!!
デモン達が四散して飛び散っていくが、やはり次々召喚されているようでどんどん増える。
「くそ!」
「ラウル様!ここは我々に任せてお逃げ下さい!」
「あほか!お前らも逃げるんだよ!」
「しかし!」
俺は魔人達の言葉も聞かずに、次々にロケットランチャーを撃ち続けるが、だんだんと骸骨サルデモンの出現数の方が上回って来た。これはかつてユークリット王都戦で体験した無限デモンだ。
「このまま階段下まで下がれ」
「「「「「は!」」」」」
ガチン!俺の隣にいたダークエルフ進化魔人のアサルトライフルが打ち止めだ。
「捨てろ!」
「は!」
そう言ってライフルを捨てた魔人に、俺は新しく召喚したアサルトライフルを渡す。
ガチン!今度は反対側にいた進化ゴブリンのアサルトライフルが切れた。俺はすぐさま新しいアサルトライフルを召喚して渡してやる。次々に弾切れする魔人には武器を捨てさせて新しく武器を召喚した。
「ヤバイな」
「相当な数です!」
猿ガイコツデモンは壁をよじ登り、周りからも大量に攻め込んで来た。階段までの距離は約三十メートル。
「全員武器を捨てて、階段下まで走れ!」
俺と五人の魔人は武器を捨てて一気に階段下まで走った。すると俺達が居た場所に、壁から飛んできたデモン達がドサドサと落ちて来た。どうやら上から攻撃するつもりだったらしい。
「階段を登れ!」
「ラウル様がお先に!」
「お前たちが先だ!」
俺は断る事を許さぬ剣幕で告げる。ダダダダダダ!と魔人達が階段を駆け上がっていった。俺は階段の途中でうしろを振り向き、ブローニング12.7㎜重機関銃を召喚して撃ち始めた。階段を上ってくるデモン達がどんどん弾き飛ばされるが、それでも出現の勢いの方が勝っている。
「ラウル様!壁を!」
俺が上を見上げると、よじ登ったデモン達が降ってくるところだった。
「うわ!」
ブローニングM2重機関銃を放棄して、俺は咄嗟に階段を駆け上がる。ブローニングM2重機関銃はあっという間に粉々にされて分解されてしまった。
ピン!俺はすかさず二つのM67破片手榴弾を手に持ちピンを抜いた。
1、2、3、4
俺は頭でカウントして、下から上がってくるデモンに手榴弾を投げつける。ズドン!ズドン!直撃したデモン達が四散して飛び散った。
「くっそ、多すぎる!」
このままでは追いつかれてしまうだろう。
「うわ!」
後ろにいた一人のゴブリンの進化魔人に、攻撃を逃れた一匹のデモンが取りついた。
「く!」
撃てばゴブリンに当たるので、俺はコンバットナイフを召喚してそのデモンに切りかかる。
「ギャァァァァス」
だが骸骨サルデモンはゴブリンの進化魔人にしがみついたまま、大量のデモンの中に引き連れて飛びおりて行った。
「くそ!」
そうなってしまっては、もうどうしようもないだろう。
「とにかく上がれ!」
残りの魔人に指示して上に追い立てる。そのまま階段を上に昇りながら、俺はMGL-140六連グレネードランチャーを召喚した。振り向いて撃つ。ポシュッポシュッポシュッポシュッポシュッポシュッ、と軽い音を立ててグレネード弾がデモンに向けて射出されていく。
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
着弾してデモンが四散するが、やはり消滅速度よりも増える数の方が多かった。だが俺はそれにもめげずに、階段を上っては振り向いてデモンに向けてグレネードを撃ち続けた。
「追いつかれて来ているな…まずいぞ…」
俺が駆け上がると、うえで先に生き残った四人がライフルを構えて待っていた。
「身を屈めてください!」
俺が身を屈めながらじりじりと前に進む。魔人達は俺にあたらないようにデモンめがけてアサルトライフルを撃ち続けるのだった。
「助かった!」
そう思ったのも束の間、デモンは下から上から壁からじわりじわりと近づいて来る。大魔石が浮かぶ床には既に、溢れるほどのデモンが居てそれが積み重なるようにして上がってきた。
ババババババババババ
ポシュッポシュッポシュッポシュッポシュッポシュッ
アサルトライフルとグレネードランチャーを乱射する。
それは前世のSF映画で見たシーンに似ていた。尻尾が生えたエイ〇アンとか言う化物が、大量に押しよせるさまに似ている。
「だめだ!とにかく上に!」
そして先に進もうとすると、今度は上から落ちて来た骸骨サルデモンに、ダークエルフの進化魔人が首を割かれた。ばったりと倒れてしまう。
「おい!」
「危ない!」
俺がエリクサーを取り出して倒れたダークエルフ魔人に近寄ろうとするも、もう一人の進化ゴブリンからタックルされる。俺がいた場所にデモンが落ちてきていた。上を見上げると既に天井付近の壁にまでもデモンが居た。
「くそ!」
既に倒れたダークエルフ魔人は、デモンの群れに引き込まれてしまっていた。
「逃げるぞ!」
俺を助けたゴブリン進化魔人に言う。
「ラ…ラウル様…お逃げ下さい…」
ゴブリンを支えようと俺が背中に手を回すと、内臓に達するような傷がつけられていた。更にさっき懐から出したエリクサーが俺の手からなくなっている。タックルされた瞬間に、エリクサーのカプセルを飛ばしてしまったようだ。
「お前…」
するとそのゴブリンは俺を突き放した。
「ラウル様!お逃げください!」
ゴブリンは血まみれになりながら、骸骨サルデモンの群れに飛び込んでいった。
ズドン!
どうやら手榴弾を抜いて特攻したらしい。
「馬鹿野郎!」
「ラウル様!ここは私達に任せて、お逃げ下さい!」
いつの間にかデモンに囲まれてしまった俺を、生き残った三人の進化魔人が押す。
「お前たちも逃げるんだよ!」
「無理です!」
「早く!」
「お願いします!皆に顔向けできません!」
俺を何としても生かそうとしているのだろう。必死な顔で俺を突き放してくる。そしてそんなやり取りをしている余裕は無くなっていた。3人の魔人達はアサルトライフルを四方に撃ち、何とか俺が逃げる退路を作ってくれたのだった。
「くそ!」
俺は一気に階段を駆け上っていく。既にデモンの出現に攻撃が追い付かなくなっていた。
「ラウル様!」
階段の終わり付近に何者かが現れた。
「カーライル!」
そこにいたのはカーライルと廊下を警備していた魔人達だった。先にサイナスを連れて行ってくれたカーライルが先頭にいる。どうやらこの危機を魔人に伝えて連れて来てくれたようだ。
ババババババババババババ
十人以上の魔人達が一斉に銃を掃射して、デモン達を駆逐していく。時折、氷の刃が飛んでいくが、カーライルも剣で応戦しているらしい。
「カーライルすまん!」
「ご無事で!」
「なんとかな!魔人が五人殺られた!」
死ぬかと思ったけど。五人の魔人の命がけの護衛により俺はここまで上がって来られた。さらに魔人達援軍が来てくれたおかげで、デモンの進撃が少し遅くなる。
「どうする…」
「ラウル様の大きな火は使わないのですか?」
「カーライル、この下には巨大魔石で寝ているアトム神やケイシー神父がいる。俺の爆弾で吹き飛ばせば、あの魔石がどうなってしまうか分からん」
「…なるほど…」
「とにかく話は後だ!」
「ええ!」
俺達は這い上がってくるデモンに向けて銃を掃射し続ける。武器が切れた魔人には銃を補給し、オーガやオークの魔人にはM240中機関銃を召喚して撃ちまくらせた。
《ご主人様!》
ものっすごく忙しい時にシャーミリアから念話が来る。
《どうしたシャーミリア!》
《ご主人様に扮したルフラと、竜人化した人間が大量のデモンに追われています》
《基地まで持ちそうか?》
《いえ、追いつかれてしまうかと!》
《エミルにAH-64Eアパッチガーディアンで出撃するように伝えてくれ!ルフラ達を追っているデモンを蹴散らすようにと!》
《かしこまりました!》
どこからデモンが現れるか分からない状態で、メリュージュとシャーミリアを基地から動かすわけにはいかない。ここはエミルの戦闘ヘリに任せるしかなかった。
…やはり俺狙いだったか。こっちにも俺がいるが、敵はどうやら偽物の存在に気づいていないようだ。だがどうしたものか…ここから離れるわけにはいかなくなった…
《スラガそっちは?》
収容所のスラガに念話を繋ぐ。
《あれだけ居たデモンが、何故か急にいなくなりました》
《そうか…おそらく収容所付近にいたデモンと、南西から向かってきたデモンが聖都の地下に出現している》
《本当ですか!!大丈夫なんですか!?》
《何とかしのいでいる》
《我が行きます!》
《私も!》
《ダメだ!スラガもアナミスにも、守ってもらわなくちゃいけない人らがいる》
《しかし!》
《スラガとアナミスに命ずる!》
系譜の力で従わせる。
《《は!》》
《聖女リシェルと異世界人を基地まで連れて行く事は出来そうか?》
《このままデモンが来なければ可能かと思われます》
《ならば、急ぎそこの魔人たちと共に、リシェルと異世界人たちを基地へ!》
《わかりました》
《移動手段はあるか?》
《73式大型トラックが数台》
《そいつは最高だ!周囲を警戒しつつ全速力で基地へと走れ!》
《《は!》》
俺は武器を召喚しながらもスラガに指示をし、向こうの戦力を一か所にまとめる作戦をとる。出来る事があるとすれば、シャーミリアとルフラを自由に動かす事だ。彼女らとならばこの局面を打開できるはずだ。
《ルピア!マカ!クレ!ナタ!》
そうする為にも、この局面を打開しなければならない。俺はルピア、マカ、クレ、ナタに同時に念話を繋げた。
《《《《は!》》》》
《地下の最深部で襲撃を受けている》
《あんな場所で敵ですか?》
《転移で入って来た》
《ラウル様はご無事で?》
《俺はなんとかな、だがここで足止めを食らっている》
《《《《向かいます!》》》》
《ダメだ。それよりもルピアが正面に向かってくれ、そしてマカとクレとナタそれぞれが持ち場を補い合うように動け》
《《《《は!》》》》
《ルピアは正面を魔人達に任せ、ファントムを連れて来い!》
《わかりました!》
念話を切り、急いでブローニングM2 12.7㎜重機関銃を五丁を召喚した。
「踊り場に設置してこれで敵を迎え撃て!」
「「「「「は!」」」」」
五人の魔人が俺の元にやって来て12.7㎜重機関銃を持って行った。
「カーライル!」
「は!」
「剣では効率が悪い!これを撃て!」
そして俺は中世の鎧を着た聖騎士に、AK47を渡した。我が軍ではこれが最初に渡されるアサルトライフルだ。使い慣れていないカーライルでも使いこなす事が出来るだろう。
「どうするのです?」
俺がセーフティーの外し方から、撃ち方まで教える。
「反動に気をつけろ」
「わかりました」
「それと…これは万が一のためだ」
「これは一体?」
俺がカーライルに手渡したのは竜化薬のカプセルだ。万が一追い詰められた時には、これを飲んで枢機卿を連れて逃げてもらおうと考えていた。
「竜化薬だ。竜の強靭な肉体と甲殻が手に入る。だが時間に制約があり、薬が抜けた後にどんな副作用があるか分からない」
「面白い!」
「いや、簡単に飲まないでくれよ。どうしようも無くなった時に、これを飲んでサイナス枢機卿をここから連れ出してほしい」
「そういうことですか。分かりました!」
「あと頼む!」
と俺が踵を返し魔人のもとに行こうとした時、カーライルが俺を呼び止める。
「私の古い同僚が…申し訳ありませんでした」
「カーライルは悪くない」
俺が言うとカーライルが頭を下げる。
「ありがとうございます」
俺はカーライルに背を向けて、魔人達の武器を補充するために踊り場へと向かうのだった。