第673話 聖都に侵入してきたデモン
俺は礼一郎を側に置きながら魔人たちの指揮をとった。礼一郎は相変わらず元気がないようで俯いたままだ。
「大丈夫か?」
「……」
俯いたまま答えない。
《さっき、礼一郎は悠々と聖都を歩いて来た。人間だとあんなに無防備に光柱の都市内を歩いてこれるのか。だとすれば異世界の魔法使いたちも普通に侵入できるだろう。彼らと市街戦にでもなったら魔人は不利かもしれない》
俺が考えていると、周りの魔人達が俺の指示を待っているようだ。
「お前たちは一旦ここに待機だ!」
「「「「「は!」」」」」
《ルピア!そっちは?》
マカ、クレ、ナタと一緒に北西の市壁付近に行ったルピアに念話を繋げる。
《市壁に穴は空いておりません》
《魔法使いたちはどうなってる?》
《それが、攻撃したのは一度きりで姿を隠したようです》
《どういうことだ?攻めて来たわけじゃないのか?》
《よくわかりません。外に出て探した方がよいのでは?》
《ダメだ。デモンがどこかに潜んでいる、単騎で出ればやられる可能性がある》
《わかりました》
《引き続き警戒を続けろ》
《はい》
なんだ?魔法使いはどこ行った?
だが今はそれよりもデモンだ、いまだに誰からも連絡が無い。
「よ!」
俺は三十センチほどの四枚羽の偵察ドローンを召喚した。コントローラーを操作して、正面の入り口から外に飛ばしてやる。ディスプレイの映像は入り口を映し、さらに外に出ると修復中の都市が映る。
「よし」
俺がそのドローンを前に進めようと思った時だった。パシッ!という音と共にドローンからの映像が途絶えてしまった。
「あれ?」
俺はもう一度同じドローンを召喚し、コントローラーを操作して外に飛ばしてやる。パシッ!再びドローンからの映像が消えた。間違いなく故障ではない、そもそも俺のイメージから魔法で召喚した兵器に今まで故障などなかった。本来は銃なら撃ち続けると銃身が熱せられ使い物にならなくなるが、俺の召喚した兵器は何万発でも撃ち続ける事が出来る。それと同じようにドローンが故障する事は…
「待てよ…これは…」
確かファートリア神聖国に、初めて侵入した時にも同じ現象が起きた。
《しかしあの時より遠くに飛ばないぞ…もしかしたら光柱があるからか?》
少しも飛ばせないのであれば仕方がない。次の方策を考えなくてはならないだろう。
「さて…」
俺が次の方策に頭をめぐらせようとした時、ドシャッ!という音がした。
「なんだ!」
何かが落ちたような音だと思うが、入り口の方から聞こえてきたようだ。
「ファントム!来い!」
俺とファントムが再び地上に繋がる入り口に向かう。坂になっている通路を上に上がっていくと、イチローのいる部屋の前に出た。
「グルルルルル!ギャッギャ!」
イチローが騒いでいる。
「イチロー!どうした!」
俺がイチローに近づくと、興奮しているようでバタバタと跳ねていた。どうやら何かを恐れているように見える。
「落ち着け!イチロー!大丈夫だ!」
しかしイチローは落ち着く事は無く、部屋の奥の方にと後ずさりしていった。
ダダダダダダダダダダダ
パララララララララララ
「なんだ?」
突然、地上入り口の方から銃撃の音が聞こえて来た。どうやら魔人達がなにかを攻撃しているようだった。ファントムと一気に走り入り口が見えて来る。すると魔人達が壁に隠れつつ、外に向けて12.7㎜重機関銃とアサルトライフルを撃っていた。
「どうした!」
「正体不明の敵が何らかの武器で攻撃してきました!」
玄関口が何かに破壊されており、数名の魔人が倒れている。どの死体も綺麗に首が刎ねられていた。
「敵は?」
「一瞬現れて、首を刎ねた瞬間に消えました」
「敵の攻撃方法は?」
「恐らくは、刃物によるものです。爪かもしれません」
という事は、敵は魔法使いの可能性は低い。
《ラウル様!》
ルフラから慌てた声で念話が繋がる。
《どうしたルフラ!》
《デモンです!恐らくかなりの数がおります》
《方角は?》
《南西の方角から!》
《単体では危険だ!地下に潜れ!》
《わかりました!》
どうやらデモンが本格的に攻め込んできたらしい。ルフラが確認したのは南西、どうやって西部にいる魔人達の目をかいくぐってここに現れた?
《ラウル様!》
矢継ぎ早に念話が繋がる。次につなげて来たのはスラガだった。
《どうしたスラガ!》
《敵襲です!》
《なんだと?》
《北東の方角からです》
《状況は?》
《自分とアナミス、魔人たちで応戦しております。しかし、ここには聖女リシェルがおります!》
保護の対象としては重要だが、今は他の場所に移している余裕はない。
《リシェルは建物の深部へと移せ》
《既に移しました!》
《彼女には魔人の護衛をつけろ。敵はなんだ?数は?》
《恐らくはデモンです!数は不明!》
《食い止めろ!》
《は!戦闘中により念話を切ります!》
《わかった!》
くそ!いきなり来やがったな。さっきの魔法使いの攻撃は合図か?なんで魔法使いとデモンが同時に攻撃してくるんだ?
《ご主人様!》
次々に念話が繋がる。今度はシャーミリアが慌てている。
《敵か!》
《は!今、私奴とメリュージュ様で防戦中です》
《状況は?》
《北部から突然、攻め入ってきたようです!現在メリュージュ様の火炎により、薙ぎ払われています》
《わかった!ある程度メリュージュに任せ、撃ち漏らした奴をミリアが処理するんだ!》
《は!そのように対応しております。魔人達も防壁に集まり、銃火器による攻撃をしております》
《続けさせろ!アウロラたちは?》
《ご無事です!司令塔の深部にイオナ様とおります!指一本触れさせません!》
《シャーミリアが頼りだ!持ちこたえてくれ!》
《は!》
やはり魔法使いの攻撃は、戦いの狼煙だったらしい。合図をしたように各方面から一斉攻撃を受けている。
《ルピア!》
《はい!》
《北の河川敷の、秘密の入り口にまわれ!》
《はい!》
《マカがついていけ!》
《はい!》
《クレとナタは市壁内にとどまって周辺の敵を警戒!》
《《はい!》》
念話で話している、俺の目の前では魔人達が防戦中だ。
もしかしたら俺のドローンは狙い撃ちされた?それによってここの場所を特定したとも考えられる。それはさておき、いったいデモンはどこから湧いて出た?この都市を奪還する為に、罠でも張り巡らされていたのだろうか?むしろこの都市を一度明け渡したこと自体が罠?やはりファートリア神聖国の国内には、転移魔法陣が無数に設置されているのだろうか?
疑問だらけだ。
「ラウル様!」
一次進化魔人の一般兵が叫ぶ。
「なんだ!」
「一度死んだデモンが…」
「そのまま攻撃を続けろ!」
実際に俺の目で確認した方が早い。とにかく状況を把握する事が最重要だ。入り口に走りよって、銃を撃ち続けている魔人の後ろから外を見る。
「なんだありゃ」
頭が骸骨で体が燃えたオランウータンのようなデモンが大量にいる。そして目を疑うのが、そいつらは光柱にぶつかると、体の触れた部分が削げるように無くなってしまうのだ。しかし恐怖など感じる事はないようで猪突猛進に突進してくる。しかもだ、デモンは銃撃を受け倒れた後、数体の個体が合わさってまた復活しているようだった。
「合わさるとデカいゴリラになるのか…燃えるガイコツ顔の…」
うんざりする。
「そしてアレを!」
一般兵が言った方向を見る。
「…転移」
燃えるサルのデモンが次々に、何も無い空間に出現してくるのだった。俺はすぐさま後方に下がり、AT4ランチャーを次々に召喚していく。
「これを撃ち続けろ!」
「「「「「は!」」」」」
五人の一般兵が俺の元へ来てAT4ランチャーを受け取り、次々に入り口付近に走っていく。
「次の奴ら来い!」
「「「「「は!」」」」」
「次だ!」
「「「「「は!」」」」」
次々に五人ずつ来てAT4ランチャーを受け取り、入り口に走って行った。これは織田信長の三段撃ちをロケランでやる戦術だ。訓練では何度もやった戦術で、俺が何も言わなくても理解して攻撃を続けてくれている。俺からロケランを受け取った魔人達は入り口に戻り、ロケットランチャーを撃ち続ける。俺はその場に百本以上のロケットランチャーを召喚して戦局を見る。
「押し戻しております!」
「どうやら有効らしいな」
「ファントム!ここでロケットランチャーを出し続けろ!」
「……」
武器の補給を一時ファントムに任せる。ファントムにもしこたま武器を飲み込ませているので、武器がきれたら次々に出してくれるだろう。その場をファントムに任せた俺はすぐさま坂を下り、横にある部屋に入った。
「イチロー!もっと下の部屋に行こう!」
「グルルルルルウ!」
興奮はしているものの、どうにか俺の言う事には従ってくれた。そのまま地下の部屋まで連れて行く。侵入されたらすぐに殺されてしまうかもしれない。
イチローが死んだら、イオナが悲しむからな。
「ゴブリン達よ集まってくれ!」
俺の周りにいた、進化ゴブリンが集まって来た。
「いま入り口で戦闘中だ!武器の輸送を手伝ってやってくれ!」
「「「「「は!」」」」」
進化ゴブリンたちは一斉に地上へ向かう坂を上って行った。これでロケラン三段撃ちは更にスムーズに行えるだろう。
《ルピア!そちらはどうか!?》
秘密の通路に向かわせたルピアに念話する。
《いまだ敵は来ていません》
どうやらその秘密の通路はバレていないようだった。ルピアとマカを張り付かせておいていいだろう。あそこの入り口からここまではかなりの数の魔人がいるから、そうそう簡単に突破してくる事は無い。
《ラウル様!》
《どうしたナタ?》
《異世界人とデモンが一緒に居るのが見えます》
《なんだと?》
《…どうやらデモンを転移させている異世界人がいるようです》
…まさかアイツか…
俺の脳裏に浮かんだのは、俺を闇魔法で攻撃した少年だった。あの人をまったく信用しない目つきの悪い少年だ。
《ナタはそのまま監視を続けろ!今からそっちに行く!》
《わかりました!》
俺は急いでクレとナタがいる市壁へと向かう。
「よし!」
魔力を体に流し、高速で移動を始めるのだった。
《一体どういうことだ?デモンと異世界人がなんで協力し合ってんだ?》
高速で地下を移動し市壁のそばに来た。そのままクレとナタの気配を辿って市壁内を走る。
「クレ!ナタ!」
「ラウル様!」
二人は、市壁の中央付近にある小さな穴から外を見ていたようだ。
「魔法使いはどこだ?」
「あそこです」
俺はすぐさま軍用双眼鏡を取り出して指定された方向を見る。すると、草原の真っ只中に異世界人の集団が居た。そして次々と目の前に、燃えるサルガイコツが現れては消えていっているようだ。恐らくどこからか召喚して、各地へと飛ばしているのだろう。
「アイツだ…」
間違いなかった。俺を闇魔法で閉じ込めた張本人が、デモンを召喚しては飛ばしていたのだ。前にやった魔法使いの神風アタックではなく、デモンの神風アタックをやっているらしい。
「余計な事を…」
「やっかいですね」
「ああ」
「どうします?」
「殺す」
俺はすぐにTAC50スナイパーライフルを召喚した。弾丸を装填している間にナタが言う。
「消えました!」
「なに?」
俺がスコープ越しに、あいつがいた場所を確認すると跡形もなく消えていた。
「転移された!」
「はい」
俺は市壁内を走り、数か所の見張り用の覗穴を回るが異世界人はどこにもいなかった。
「くそ!」
「探しますか?」
「そうだな。二人は市壁を伝って周囲を確認していてくれ!見つけたら俺が狙撃する!」
「「わかりました!」」
《ご主人様!こちらの攻撃が止んだようです》
シャーミリアだった。
《どうやら異世界人がデモンを転移させていたようなんだが、確認していたやつらが消えた。送るデモンが居なくなってしまったのかもしれん》
《左様でございますか。こちらはメリュージュ様の力によるところが大きいです。かなりの数のデモンが薙ぎ払われました》
《デモンは復活しなかったか?》
《その現象も確認は致しましたが、それもメリュージュ様が根こそぎ薙ぎ払われました》
《すげえな…》
《それで、いかがなさいましょう?》
《敵の目的が分からない以上は、不用意に動く事は出来ない。シャーミリアは引き続きそこで要人を守ってほしい》
《かしこまりました》
アウロラたちがいる拠点にデモンは来なくなったようだ。スラガたちがいる収容所がどうなっているのか…
《スラガ!》
《は!》
《状況は?》
《いまだ敵の攻撃は続き、防戦一方です。数体が壁を越えて侵入しましたが全て撃退しました》
《結構ギリギリか…》
《申し訳ございません》
《いや、そっちに増援を送る》
《増援でございますか?》
《待っててくれ》
《は!》
そして俺はすぐに無線機を召喚して、通話を始めるのだった。