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第672話 ファートリア聖都防衛

聖都の地下に集まった俺たちは、これからどうすべきかを話しあっていた。


「やはり敵の目的はアトム神かの?」


サイナス枢機卿が俺に聞く。


「まあ恐らくそうではないでしょうか?」


「普通に考えたらそうじゃろうな」


「アトム神の他に敵の目的があるとすれば、イオナ母さんかアウロラでしょうか?アウロラはアトム神の天啓を受けたとか言ってましたし。イオナ母さんは敵に追われていましたから」


「ラウル君は、母君のところにいなくて大丈夫なのかの?」


「基地には黒龍のメリュージュとシャーミリアがついてますから。モーリス先生もいますしね。戦力的には私がここにいた方が良い」


「ふむ。あのジジイは足手まといじゃろうが、あの黒龍とラウル君の秘書官ならかなり心強いの」


ここには俺と枢機卿、カーライル、ルピアが共に待機していた。ビクトールと元盗賊たちや、魂核を書き換えた騎士と魔導師が周辺にうろうろしている。更には一時進化の魔人たちが武器を持って待機していた。


「聖都の都市部には光柱が大量に立ってますから、デモンが侵入するのは容易ではないはずです」


「都市上部にはデモンは近寄れんのじゃな?」


「まあ、我々魔人もですが」


「都市部で戦う事は無い?」


「そうなるかと、せっかく建て直した建物を壊されたくはないですしね」


ここまでは魔人の協力のもと、魂核書き換え騎士と魔道士、ルタンから連れてきた兵士たちが必死に建て直したのだ。魔人が入れないため、都市を復興させるのはかなり手間がかかっている。それを壊させるわけにはいかない。以前は攻め込む側だったが今度は守る側にいる。防衛戦にこの聖都は向いているはずだ。


「そうか。わしらは何を?」


「戦闘が始まったら更に深部に下りてもらった方がよろしいかと」


「わかったのじゃ」


サイナス枢機卿も恐らくは敵の攻撃対象になっているはずだ、ここの守りを最重要に考えて間違いはない。


そして俺はルフラを都市の外へ偵察に出していた。ここにいる魔人の中で一番戦闘力が高いのと、ほぼ死ぬ可能性が低いからだ。知能のある人型スライムというユニークな種族だが、他の者に成りすます事も出来て隙間などから逃げる事も出来る。実際に危険になった場合は、都市の地面の隙間からここに戻ってくるだろう。更に市壁にはクレ、マカ、ナタの超進化ゴブリン衆を潜らせていた。壁の中なら敵に発見される可能性は少ないだろう。


「ラウル様。敵が侵入してきた場合はどうでしょう?」


カーライルが防衛ラインを突破された事を聞いて来る。


「正面、河川敷の秘密の入り口、市壁の隠し入り口には魔人を張り付けているし補給も済んでいる。そこを突破して来たとしても、大量の魔人が地下内にいるから敵も容易には入って来れないさ。俺もここで防衛するつもりだしな」


「なるほど、では私はここで敵の侵入を食い止めましょう」


「そういうのはファントムがやるから大丈夫だ。カーライルがいくら強くなったとはいえ、人間がデモンと戦うのは無理だよ」


「では状況を見てファントムの手助けが出来ればと思います」


「そうだな…だが、少しでも無理だと思ったら躊躇なく逃げてくれ」


「わかりました」


カーライルが爽やかなスマイルを浮かべて正面入り口を見る。カーライルのこの余裕はどこから出て来るんだろう?うちの魔人相手にも焦る事無く常に冷静でいるのが、逆に怖いなと思う時がある。


《ルフラ》


《はい》


《敵は見つけたか?》


《まだです。シャーミリアはどこで確認したのでしょう?》


《南側と言っていたから、そのあたりで間違いないと思うんだが》


《既に移動したとは考えられないでしょうか?》


《もちろんその可能性はある。少しでも動きが見えたら報告をくれ》


《かしこまりました》


まだ敵に動きは無かった。もしかすると敵のデモンは俺達をじらしているのか、こちらが動くのを待っているのかもしれない。


《シャーミリア》


《は!ご主人様はご無事ですか?》


《こちらに動きは無い、そちらに変化はあるか?》


《ございません。魔人達も既に警戒態勢を取っており、外に出ていたものは既に住居内へと隠れました》


《それでいい。敵が先制攻撃してくるまで位置を悟られないようにしてくれ》


《かしこまりました》


《母さん達は?》


《地下に入っていただきました。カトリーヌ様とアウロラ様とハイラも一緒に。恩師様とマリアが武装をして地下入り口付近にて警戒しております。セルマが司令塔の入り口をふさぎ、オージェ様の母君が外の警戒をしております。グリフォンは既に建物内に収容しました。エミル様とケイナは戦闘ヘリにて待機、私奴が基地全体の気配を探っております》


《上出来だ。引き続き頼む》


《は!》


基地にもデモンは出没していないようだ。シャーミリアが的確に指示を出して配置してくれたらしい。常に俺の側で指示を見ているだけはある。やはり魔人基地へと送り出して正解だった。


《スラガ、アナミス》


《《はい》》


《デモンの気配は?》


《こちらには来ておりません。我とアナミスと魔人達で異世界人の警護を行っておりますが、不気味なほど静かです》


《異世界人たちはどうだ?》


《アナミスの催眠が効いており、おとなしくしています》


《わかった》


どこだ?一体どこから来る?シャーミリアの気配感知には誤差は無いはずだ。必ずどこかにいる…だが目的はいったいなんだ?


「ラウル様」


「どうしたルピア?」


「敵の目標がアトム神様ではない場合どうなります?」


「…どうなる…、か」


ルピアの軽い問いかけに答える事が出来ない。確かにアトム神が目標だと決まった訳じゃない。この聖都に来たからには、その確率が高いのではないかというだけだ。


「枢機卿、この聖都にアトム神以外に何か特別な物があったりしますか?」


「特別な物?わしの記憶の中には、あの地下の魔法陣だけじゃったな」


「そうですか…あれはもう消えましたよね?」


「ふむ、跡形もなくなったようじゃ」


なら他に理由など無いはずだ。だけど何かが心にひっかかっている気がする。それが何かと言われても答えられないが、第六感とでも言うのだろうか?何か見落としをしているのかもしれない。


「そういえば、捕らえていた礼一郎という異世界の少年が脱走したんですよ」


「脱走じゃと?」


「はい。バタバタとしている間に、窓から脱走を図りました。メリュージュさんが目撃者です」


「メリュージュ殿には、逃がさぬように言っておかなかったのか?」


「はい。急な来訪でしたので、何も説明しておりませんでした」


「そうか…」


メリュージュやイオナに原因があるのか?サイナス枢機卿は何かを疑っているのか?何が言いたいのか分からないが、深く考え込んでいる。


「保護して来た異世界人たちは信用できるのか?」


「それは…」


サイナス枢機卿に催眠の事を明かすわけにはいかなかった。非人道的だと非難されるに決まっている。とにかく彼らは催眠により何も出来ないはずだ。


「彼らはまだこの世界に来て間もないのです。右も左も分からない子供のようなものですよ」


「そうか…」


てことは礼一郎に何かがあるのか?だがアイツもこっちに来て何も分からず暴れてしまっただけの奴だ。あいつが何かを企むなんてことは考えられない。だけどなんだかいろいろとタイミングがいいような気がする。


「若干の違和感は私もあります」


「そうか、やはりラウル君もそう思うかの」


どうやらサイナス枢機卿はリスクになりえる事を探しているようで、それから糸口をつかもうとしているらしい。さすがは国のトップに仕えていた人だけあって、慎重にものを考える。


「はい。このタイミングにデモンは違和感がありました」


「デモンは南から来たのであったか?」


「シャーミリアはそう言っていました」


「それならば、南の村はどうしたのじゃろう?」


「あっ!…もしかしたら既に壊滅しているかもしれません」


「…もし本当に南から来たのならのう」


「そっちから来たと思わせた?」


「わからんがの」


「ファートリア国内にまだ転移魔法陣がある可能性はどうでしょう」


カーライルが言う。


「…ありえる。俺が魔人軍に指示を出して調査させたのは、都市や街道沿いだ。森林内や洞窟内に設置してあったら見逃すだろう」


「あくまでも仮説ですよね」


「ああ」


「何のために来たのか、もっと他の目的があるとすればなんでしょうね?」


「カーライルに何か考えがある?」


「いえ、私もラウル様と同じです。ただ心の中にモヤモヤがあるだけで、明確な答えは見つかっておりません」


カーライルが両手をあげて、降参ーって感じで首を振る。


そんな話をしている時に、バグゥーン! と遠くの方から微かに爆発音が聞こえた。


《どうした!》


全員に向けて念話を送る。


《ラウル様!》


返って来たのはマカだった。


《どうした?マカ!》


《市壁に都市の外から攻撃を仕掛けてきている者がおります!》


《来たか!》


《それが…》


《どうした?》


《デモンではありません!》


《デモンじゃない?》


《恐らくは…人間の魔法使いだと思います》


《人間の魔法使い?》


《はい》


《位置を!》


《私はラウル様からみて北西の市壁内におります。外の百五十メートルほどの位置に集団がいるみたいです》


《クレとナタはマカの元に向かえ!》


《《はい!》》


《ルフラ!そちらの様子は?》


《デモンは未だ見つかりません》


《わかった。引き続き索敵を続けろ》


《はい》


どういう事だろう?デモンと魔法使いは同じ集団なのか?それなら今デモンはどこにいる?違う集団が同じタイミングで現れた可能性もある。ここで下手に動くと、デモンに付け入る隙を与えてしまうかもしれない。


「ルピア!オーガの進化魔人を十人集めてくれ!」


「はい!」


ルピアが動く。


「枢機卿、どうやら動きがあったようです」


「どうしたのじゃ?」


「攻めて来たのはデモンではありません。人間の魔法使いとの事です」


「なんじゃと?」


「デモンと同じ組織かどうかも分かりません。市壁に向かって魔法で攻撃をしているようです」


「…そんなことをしてどうなるのか?」


「穴でもあけようと思ってるのでしょうか?」


「無駄な事を」


「いずれにせよ危険です。カーライル!枢機卿を下層に連れて行ってくれ!」


「わかりました」


「お前達!枢機卿の護衛につけ!」


周りにいた進化魔人に指示を出すと、五人のゴブリンとダークエルフの進化魔人が集まって来た。サイナス枢機卿の周りを囲み、カーライルやビクトールや盗賊たちと一緒に下層へ向かう階段へと向かって行く。


「ラウル様、オーガを連れてきました」


ルピアがオーガの進化魔人を十人連れて来た。12.7㎜重機関銃を担ぐ者が二人、M240中機関銃を装備している者が六人、M4カービンを装備している者が二人。


「よし!引き連れてマカたちの元に向かってくれ!」


「はい」


ルピアは十人のオーガの進化魔人を連れ地下室を出て行った。俺とファントムと一時進化魔人、魂核をいじった騎士と魔導士、ルタンから来た鍛え上げられた人間兵が残る。


《早く動け…一体何が狙いだ》


デモンはやはりこちらを焦らす作戦なのかもしれん。


「誰か来ます!」


地上の入り口で見張っていた一般兵の魔人から伝令が来た。


「デモンか!?」


「それが…人間の少年のようです!」


「人間の少年?ファントム!ついてこい!」


俺とファントムが一般兵の魔人について地上入口へと走る。通路の途中でイチローが俺を見つけて鳴くがそれを無視して走る。


地上の入り口について外を見ると…


「礼一郎…」


どうやら無防備に礼一郎がこちらに歩いて来るのが見えた。


「ファントム!連れて来い!」


ボッ!ファントムが消え礼一郎の脇に出現した。


「わっ!」


驚いた礼一郎が魔法を撃つより早く、ファントムがボグゥゥっとビンタを食らわせる。


「おい!」


礼一郎の首があり得ない方向に曲がっていた。仕方ないので俺もダッシュでファントムのいる場所に向かい、針のついたエリクサーを礼一郎のうなじに突き刺す。


「ぷっはあ!!!」


礼一郎はいきなり息を吹き返した。どうやら一命はとりとめたようだ。


「ファントム!」


俺がファントムを叱るが、もちろん何も表情を変える事は無かった。


いや俺がファントムを仕向けたのが悪い、ファントムはファントムなりに手加減をした可能性がある。なぜなら礼一郎の首がちぎれなかったからだ。ファントムも多少の加減が出来るようになったようだ。


「はっ!ラウルさん?」


一度死んだ礼一郎が俺を見つけてハッとする。


「なんでこんなところに来たんだ!」


「なんか、俺、誰かの役に立ちたくて…あそこでみんなに迷惑かけて…それで…」


「とにかく来い!」


俺とファントムが礼一郎を連れて、再び地下の待機場所に戻るのだった。礼一郎はよろよろとして尻餅をつくように座り込む。やはり完全に体力は戻っていないようだった。


「ごめんなさい」


あんなに生意気だった少年がしおらしく謝る。


「おまえ、何してんだよ!」


「ごめんなさい!なんか俺、ハイラにもみんなにも迷惑かけて…お荷物で…」


「まあ、とにかく落ち着け。今は大変な時なんだぞ?」


「えっそうなんですか?」


礼一郎はとんでもない事をしてしまったかのような顔で俺を見上げる。


「いや、それほど迷惑は掛かっていない。とにかくお前は俺の側にいろ」


「はい」


礼一郎を怒ったものの、俺はどこかホッとした。今頃どこかでデモンか異世界人に殺されているかと思っていたからだ。まあ…ファントムに一度殺されたけど。


やせこけた礼一郎のほっぺを軽くたたき声をかける。


「とにかく無事でよかったよ」


すると礼一郎はポロポロと泣き出してしまった。


「すいません…すいません…」


「泣くな、お前はすげえ魔法使いなんだから」


「はい…はい…」


とにかく礼一郎は問題なさそうだ。あとで詳しく事情は聞く予定だが、今はデモンと北西に現れた魔法使いの集団の方が優先だ。俺は礼一郎の頭をポンポンとなでつつ、次の行動を考えるのだった。

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