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第670話 ノブレス・オブリージュとか言われても

えーっと。なにをどう考えたらいいものか?


とにかくアウロラは使命を果たすため、わざわざグラドラムから飛んで来た。


更にだ!ただただ可愛かったアウロラは、ハキハキと話をするような幼女になっていた。中身が女子高生らしいのでそれは仕方がない。仕方ない…か?納得いかない気がする…今さっき転生者だって聞いたばかりだし。


いや!受け入れられるか!


…だがアトム神を助けるという使命を背負って来ているらしい。


夢か?これは夢なのか?


俺を葛藤が襲う。


「お兄ちゃん?」


「は、はい?」


勝手に脳内暴走している俺をアウロラが呼び覚ます。


「私、どうすればいいのかな?」


「帰るってのはどうだろう?」


「それはダメ」


「アウロラ、それは思い込みじゃないだろうか?」


「違うと思う」


個室で俺とアウロラとイオナが話をしていた。俺の動揺を気にしたみんなが、家族水入らずで話したらどうかと勧めてくれたのだった。


「とにかく今は日本から転生して来た少年少女が、魔法で暴れ回ってててな。それをどうにかしないといけない状況なんだよ。そしてそんな子がまだまだやってくるかもしれないんだ」


「それは信じられない」


「実際そうなんだ。日本の中高生を二十人くらい既に保護してるし」


「日本人が…なんでそんなことに?」


「なんていうか、話せば長くなるから。とにかく今はその対応をしている所なんだ」


「それでお兄ちゃんは忙しいんだ?」


「そういうこと。だからそういうのがすっかり終わったら、改めてアトム神を助けに行ったらいいと思うんだよ」


「…えーっとそれじゃダメみたい」


「うん。それはきっと思い込みじゃないだろうか?さっきも言ったけど」


「違うもん」


あ。アウロラがふくれてしまった!怒ってる?でも可愛い顔でそんなことを言われると違う気がしてきた!いやいや!違わない。今は危険だから帰った方が良い。


「ラウル、私も散々説得したのよ。だって危険でしょ?前線では何があるか分からないし、お兄ちゃんの仕事が片付いたらにしたらとは言ったのよ」


イオナが言う。


「お母さんも納得したじゃない」


「もちろんあなたの意志を最大限に尊重したいと思ったからよ、だからこうして話をしに来たの」


「それはうれしいけど」


「まあ、アウロラ。イオナ母さんもそう言ってるんだし、ここはひとつ大人しく帰って時を待った方が良いんじゃないかな」


「ダメなの。とにかく今のままだとお兄ちゃんの望まない未来が来るの」


「俺の望まない未来?」


「そうだよ。今、お兄ちゃんは何をしたいの?」


「早くオージェ達が待つ南の最前線に戻らないといけないと思ってる。そのためにこの異世界人の転移騒ぎの収拾を図りたいんだ」


なんか幼い妹に早口で難しい事を話している気になる。だがアウロラの中身は子供じゃないので理解はしてくれているはずだ。


「それにはアトム神を呼び覚まさなきゃダメ」


なんでそんなことが分かるんだ?ただの座敷童だぞ!あんな高飛車な座敷童を呼び覚ましたって意味がない。今は安全な巨大魔石の中で眠っていてもらうのが良いはずだ。


「ちょっとお兄ちゃんには理解できないなあ…」


「ほら、アウロラ。ラウルもこういっている事だし、やっぱり帰るべきだわ」


「お母さんもお兄ちゃんも分かってない!」


なかなか説得できず、俺とイオナは顔を合わせて困った顔をする。


「とにかく今はこの基地に滞在してもらうしかないかもしれないけど」


「アトム神に会えないの?」


「無理かな」


「分からず屋!」


あらら。怒らせてしまった…だけどこればっかりは俺もひくわけにはいかない。あんな危険な場所にアウロラを連れて行く訳にはいかない。


「ちょっとまって、ラウル」


「なんだい母さん」


「その保護した異世界人たちにアウロラを会わせるのはどうかしら?」


「それもダメ。あいつらは危険な魔法を暴発させる可能性がある」


「モーリス先生やシャーミリアが立ちあっても?」


「…まあそれなら大丈夫かもしれないけど…でも嫌だなあ」


「誰か一人なら?」


「一人か…いや…安全な日本人がいるな。一人」


「じゃあその人に会わせてみない?」


「それで何か変わるかな?」


「私にも分からないわ。でもアウロラが来た理由くらいなら分かるかもしれない」


「…わかった。じゃあすぐに会わせられるよ」


「お願いを聞いてくれてありがとうラウル。でもアウロラもいきなりは無理よ。ラウルたちも最善を尽くしてこの状態にあるのだから、その均衡が崩れて大惨事を招かないとも限らないわ」


やはりイオナはバランス感覚がいい。


「わかった」


まあきっとこれも、先代の虹蛇が言うところの必然という事なのだろう。なぜによりによって俺の妹までが転生者なのか?まったく腑に落ちないが、決まっていた事のようにも思えて来る。


《シャーミリア!来てくれ》


《は!》


コンコン!すぐにシャーミリアが来た。


「お呼びでございましょうか?」


「ミリア!悪いが、ハイラを連れて来てくれないか。アウロラに会わせたいと思うんだ」


「かしこまりました。すぐに」


シャーミリアが部屋から出ていく。ハイラは異世界の少年少女たちの面倒を見ているから、ここに来るまでは少し時間があるだろう。


「ハイラさんって言うのね?」


イオナが言う。


「はい、いま来ると思います」


「…日本人?」


「そうだよアウロラ。彼女は日本人だ」


「お兄ちゃん。エミルさんやオージェさん、グレースさんはお友達だったんだよね」


「そうだ。さっき話した通り、前世からの縁だな」


「そうなんだ…」


それからしばらくして、再び扉がノックされた。


「入れ」


「失礼いたします」


シャーミリアがハイラを連れて部屋に戻って来た。ハイラは何事かという感じでいそいそと部屋に入ってくる。


「あら、可愛らしいお嬢さんね」


「こんにちは…」


イオナに言われハイラがうっとりしている。イオナの美しさに見とれているようだ。


「こちらは俺の母さんのイオナ。母さん、こちらは異世界から来たハイラさんだ」


「いつも私の息子がお世話になっております」


「い、いえいえいえいえ!!お世話になりっぱなしなのは私のほうです!足手まといになってますし、本当に助けられてばかりで」


アウロラがハイラをじっと穴が空くほどに魅入っていた。どうやら久々に日本人をみて感極まっているようだ。たぶん…


「そしてこっちが俺の妹のアウロラだ」


「あら、可愛い!アウロラちゃん!よろしくね、ハイラって言います!」


「あ、あの。はい、アウロラです…」


「こんなに可愛い女の子見た事ないわー」


「そうだろ!やっぱそうおもうよな!さすがハイラさんは見る目がある!」


俺がつい本音を漏らしてしまった。


「いえ、誰が見ても可愛いと思うわ」


「うんうん」


間違いない。誰がどこから、どの角度から見てもアウロラは可愛いのだ。中身が女子高生だと分かった今も…女子高生?いやアウロラが転生したのはもう数年前だ。という事は年齢的には高校を卒業して数年たつ頃か。でも可愛いのだ。


「でもアウロラちゃん。こんな危険なところに来てしまって危ないと思うわ」


ハイラも言ってくれる。


「いえ…。と、言うか…ハイラさん…」


「なにかしら?」


「…いえ…ハイラさんも大変ですね。こんな見知らぬ地に来て…」


「あら!小さいのにこんなにハキハキ話せるなんて、やっぱりラウルさんの妹さんだわ」


「それほどでも…」


どうした事か、さっきまでアウロラはあんなにハキハキと話していたのだが、なんとなく歯切れが悪くなってしまったように感じる。恐らく人見知りで恥ずかしがっているのだろう。


「アウロラ、恥ずかしがることは無いよ。ここまでハイラは俺達とかなり危険な旅をしてきたんだ。もうすっかり仲間の一人さ」


「そうなんですね。よかった、なら寂しくはないんですね?」


「ええ、良くしてもらっていますよー!ありがとね!」


ハイラがアウロラの頭を撫でながら言う。アウロラは照れたような、うれしそうな表情を浮かべて笑った。


「でも辛くはないですか?この世界に来てしまって何か困った事はありませんか?」


どうしたことやら。アウロラはめっちゃハイラの心配をしだした。まあ心優しい子だから、このくらいの気配りくらいはするだろう。


「あっちの世界とは全然違うからかなり苦労はしてるけど、ラウルさんのおかげで凄く助かってるわ」


「なら…よかったです」


「ええ」


アウロラはなんて、ええ子や。こんなに見知らぬ子の心配をしてあげるなんて、お兄ちゃんは鼻が高い。


「アウロラ。お兄ちゃんは、彼女らをどうにか元の世界に戻してあげたいと思っているんだ。向こうで生きている間に、いきなりこっちに呼ばれているからね。俺とは違った来かたをしているから方法があるはずなんだ」


「そうなんだ」


「ただモーリス先生頼りになってしまっているけど、どうにかしたいとは思っている。そのためにこの国にある光柱をどうにかしないといけないんだよ」


「そうね!お兄ちゃん!何とかしてあげてね!絶対だよ!」


アウロラが力強く言った。


「お、おう!アウロラ、もちろんだ。彼女らは必ず向こうの世界に戻してやる」


「うん!」


イオナの言うとおりだった。ハイラに会わせることでアウロラの様子が少し変わった。


「どうだ?アウロラ、お兄ちゃんが忙しいのがわかったろ?」


「わかった。難しい事をしているのね?」


「そうそう!そう言う事!だから、わかるね?安全な状態になったら、アウロラをこっちに呼ぶからね。一旦グラドラムに帰るといい」


するとアウロラが黙って考え込むようにした。きっと帰ろうかと思っているのだろう。そうだ、ひとまず帰って安全になるのを待ってから来た方が良い。


「どうかしらね?アウロラ、お兄ちゃんの言う通りじゃないかしら?」


イオナも後押ししてくれる。


「…ごめん。なおの事、帰れなくなった」


「ん?なんで?」


全然気が変わってなかった!


「今は言えないけど、とにかく私は私のやるべき事やるんだ!」


失敗した…エドハイラに会わせることで、どちらかというと帰る雰囲気になったと思ったが、なんだかより一層やる気を出させてしまったようだ。


なんでだ?


「アウロラちゃん、小さい英雄さん!お兄ちゃんの事が心配で役に立ちたいと思っているのね?」


ハイラが言う。


「やっぱり私は、ここにいなきゃいけない!」


「うーん。あぶないのよー」


プンプンとしている感じにも見えるアウロラを見て、俺もハイラもイオナも困った顔をするのだった。


「大丈夫!私の事はお兄ちゃんが守ってくれるから!ね!そうでしょ?お兄ちゃん!」


そう来たか!


「えっと、アウロラ?」


「え!お兄ちゃん、私を守ってくれるよね?私を怖い敵から守るよね?」


「うっ!」


「どうなの?」


「守るよ。もちろん守る、アウロラを絶対に守る」


「なら私はここにいる」


……


3人はちっちゃい分からずやに頭を悩ませる。どうしても帰る気は無いらしい。


「シャーミリア!シャーミリアも私を守るでしょ!」


アウロラは今度はシャーミリアに飛び火させた。


「は、はい!もちろんでございます。ご主人様のご兄妹をお守りするのは当然でございます」


「じゃあ決まりね!」


「それは…」


シャーミリアも困ってしまった。俺もイオナもアウロラがここにいるのは反対だ。という事はシャーミリアもそっちに与するだろう。


コンコン!また誰かが来た。


「どうぞ」


「失礼します」


カトリーヌだった。


「どうした?」


「あの、こんなことを言ったらワガママなのかもしれないのですが…アウロラちゃんの使命を遂げさせるべきではないのかと思うのです」


えっ!


いきなりカトリーヌが参戦して来てアウロラの側に着いた。カトリーヌは急に従妹の味方をし始めるのだった。カトリーヌは一族を殺され、血のつながった肉親はイオナとアウロラしかいない。むしろ安全のため彼女を帰す側に回るのかと思ったら、アウロラを後押しするようだ。


「カティ!」


「ダメでしょうか?ラウル様!」


「カトリーヌ。あなたの意図はなんなのかしら?」


イオナが聞く。


「なんというのでしょうか…私はナスタリアの正統なる後継者という位置におり、ユークリット王家の血をひくものです。さらに私は九死に一生を得て、イオナ叔母様やラウル様にお会いしました。この命が生かされたのは、何らかの使命があるのではないかと思うのです。もしアウロラが、私と同じように使命を感じているのであれば、私はそれを尊重すべきではないかと思うのです!」


説得力あるわぁ~


「…ナスタリアの血…」


イオナがポツリという。


「そうです叔母様」


「母さん?」


「血は…争えないという事かしら…」


「え!母さんどうしたの?」


「ラウル。ごめんね、私もナスタリアの女なの。幼いとは言えアウロラもナスタリアの血が流れているのね…」


「ん?」


「ラウル様。申し訳ございません、私もナスタリアの血をひく者です」


カトリーヌも言う。


「…えっと、俺はよくわからないんだけど、貴族の血ってどんな意味が?」


「「「ノブレス・オブリージュ」」」


イオナ、カトリーヌ、アウロラが声をそろえて言う。


「のぶれす?」


「ラウル。貴族の社会的責任よ、高貴な生まれの者は生まれながらにして民に責任があるの。それは使命と言ってもいいわ、私はもう貴族ではなくなっていたと思っていたけれど違うわね。カトリーヌが言う通りよ、アウロラには生まれながらに責任があるの。そこから逃げては、アウロラは一生その負い目を背負って行かねばならなくなるわ」


「母さん…」


「生まれてからずっとお母様に教えていただきましたから」


「アウロラまで…」


なんだいなんだい!幼女のくせにいきなりキリっとしちゃって。


俺にはノブレス・オブリージュなんて何のことか分からないが、この三人が結託してしまっては反論する事なんてできなかった。葛藤と不満でいっぱいだが認めざるを得ない感じだ。


「わかった。アウロラ、ここに残る事を許す」


俺は意に反して、アウロラの主張を認めてしまうのだった。

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