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第669話 衝撃の事実

「あのお兄ちゃん…みんなの前で話すの緊張する」


アウロラが言う。改めてみんなに注目され緊張して来たらしい。


「あ、そうかそうか。ならお兄ちゃんが先に聞こうか?」


「うん」


アウロラがタタタっと俺の脇に寄って来た。皆がそれをじっと見ている。彼女は俺の耳に手を当てて、こっそりと内緒話を始めた。かわいい。


「ごにょごにょごにょ…」


「うん…うん…」


「ごにょごにょごにょ…」


「ん…」


「…なの」


「……」


「わかったの?お兄ちゃん?」


「なんだって!も、もう一回言ってもらっていいか!!」


アウロラのあまりの衝撃的な内緒話に、俺は目ん玉が飛び出て髪の毛が全部抜けそうになった。もちろん目も髪も無事だが、そのくらいの衝撃的な内容だった。


「だから…ごにょごにょ…」


「あのっあのっ…あのっ…えっ?」


「わかった?お兄ちゃん?」


アウロラが不安そうに俺を上目づかいで見る。イオナの美しい顔を彷彿させるような、それでいて幼く可愛い顔で俺を見上げている。かわいい。


「それは本当なのかい?」


「はい」


「母さんも知っているのかい?」


「母さんには、もう話した」


「いつそれが分かったんだ?」


「少し前」


「マジか」


そして俺はイオナを見つめる。


「どうやら、そうらしいのよラウル」


イオナが、やれやれだぜ!というポーズをとり、目を瞑って首を振る。


「そんな…そんな事が?」


「私もにわかに信じられなかったわよ。でもアウロラが嘘をついているようには思えないわ」


「まあ嘘はついていないようだけど」


「だから一目散にここに駆けつけたの。メリュージュの力を借りて」


「まあ…そりゃそうなるか…でも」


カトリーヌとマリアが一体どういうこと?という顔で俺を見る。こんなことを言って驚かないだろうか?いやむしろこれまでの事を考えたら今更かもしれないが、俺も心臓がバクバクしている。


「あの…ラウル様。私たちは、そのお話を聞いてもよろしいのでしょうか?」


カトリーヌが恐る恐る言う。


「まあいいだろうけど」


「むしろ、わしが部外者なんじゃなかろか?」


「いえ、先生。いまさらです」


「そうか…」


ここにいるのは、モーリス先生とマリア、イオナとカトリーヌ、ミーシャとミゼッタ、シャーミリアとファントムだ。聞かれて問題のある人は一人もいない。


「えっと、ミーシャとミゼッタはもう知っているのかい?」


「いえ。存じ上げません。私はラウル様の鎧の外装の調整役としてついてきたのです」


ミーシャが言う。


「あ、あの外の箱ね」


「はい」


「私は、皆が心配だからついてきたの」


「そうか。ミゼッタありがとうな、母さんを守るためについて来てくれたんだね」


「はい」


どうやら彼女たちは、イオナとアウロラが行くからと言ってついて来たらしい。


「ちょっと…」


俺はテーブルの上のティーカップを持って、一気にお茶を喉に流し込んだ。ぬるくなっていて丁度良かった。


「ふうっ」


「お兄ちゃん、私どうしたらいい?」


「ここには身内中の身内しかいないから、全部話しても問題ないだろうけど」


「話すの?でも…」


「でも?」


「緊張もするし、私も驚いているから声が震えて上手く話せなさそう」


「だよなあ…」


実際、アウロラは少し震えているようだ。


「ラウル。あなたが代わりにみんなに話してあげたらどうかしら?」


イオナが言う。


「なるほど。そうですね、その方がいいかもしれませんね」


「ええ」


「じゃあアウロラ、間違っていたり付け加える事があったら言ってくれるかい?」


「はい」


そして俺は隣にアウロラを座らせて、みんなに向かって座り直す。皆が一斉に俺を注目した。


「じゃあ話そう。俺も今聞いたばかりで、正直動揺しているから上手く伝えられるか分からない」


「ゆっくりでええのじゃ」


「はい」


俺はアウロラを見る。アウロラは俺の目を見て頷いた。


「えっとまず俺が異世界を前世とした生まれ変わりで、その記憶がある事は知っているよね?」


皆が頷いた。


「エミル、オージェ、グレースもだがそれも知っているよね?」


再び皆が頷く。


「実は…なんと、ここにいるアウロラも同じらしい」


「なんじゃと!」

「なんですって!!」


モーリス先生とカトリーヌが声をあげる。マリアもミーシャもミゼッタも、あまりの事に声をあげる事が出来ないでいた。


「どうやら数日前にその記憶がよみがえったらしい」


「な、なんと…」


モーリス先生があっけに取られている。いや、モーリス先生だけではなかった。


「どうやらそのおかげで、いろんな事が頭に流れ込んで来たらしい。いきなり大人っぽい口調になったのもそのおかげなんだと。そうですね?母さんもそれを聞いたんですよね?」


「そうよ。まるでラウルの子供の頃を見ているみたいだったわ、あの頃のラウルも急に大人びて何か不思議だとは思っていたの。でもまさかそう言う事だとは思っていなかったわ」


「それと同じことが起きたという事で間違いなさそうだね?」


「はい」


「そういえば私も…私もなんとなく覚えております。急にラウル様が大人びた日の事を」


マリアも言う。


「はい。その節は二人にご面倒をおかけしました」


「息子だもの面倒なんか、かけられたと思っていないわ」

「私もです」


「ありがとう。それでは話を続けるね」


「ええ」


「アウロラは前世の記憶を思い出した。向こうでは学生だったようで、いま問題になっている異世界人たちと同じなんだ。違うのは転生と転移というところ。アウロラは転生して、学生までの記憶がよみがえったらしいんだ」


皆がシーンとして俺の話を聞いている。衝撃的な話に、何か口を挟むことも出来ないでいるようだ。スッと、モーリス先生がお茶を口に運ぶと、皆がそれにつられてお茶を飲み干す。


アウロラは向こうでは女子高生で、急にその記憶がよみがえった…俺と同じパターンだ。きっと何か理由はあるのだろうが…


「ラウルよ…もしかしたら、ここで起きている現象がアウロラちゃんに影響を与えたとは考えられんじゃろうか?」


「…なるほど。それは考えてませんでしたが、全くの無関係ではなさそうに思います」


「ふむ。アウロラちゃんは、何かを聞いたり見たりしたのじゃろうか?」


モーリス先生がアウロラに尋ねる。


「あの、夢を見ました」


「夢かの?」


「たくさんの日本の学生が苦しんでいる夢を」


「やはりの…」


モーリス先生の言う通り、ここで起きた出来事とは無関係ではなさそうだった。とにかくアウロラは何かをきっかけにして、前世の記憶を呼び起こしてしまったようだ。


「それで俺に知らせに来たのか?」


「うん」


「そうか」


「あまりに急だったので、グラドラムでは皆が反対したのよ。でもアウロラはどうしても来なければならないというものだから…」


イオナが申し訳なさそうに言う。


「だろうな。危険な前線に、イオナ母さんやアウロラを向かわせるわけにはいかないと思っただろうね」


大反対するポール王の顔が浮かんでくる。デイジーも反対したかもしれないが、鎧の装備を持って行くという事でミーシャが説得したのだろう。


「でもなぜわざわざ知らせに来たのじゃな?グラドラムで待つわけには、いかなかったのかの?」


「そこなんです先生…きっと驚きます」


「…なんじゃ?」


「アウロラは呼ばれたようなのですよ」


「誰にじゃ?手紙でももろたのじゃろか?」


「いえ。直接、アウロラの心に訴えかけたそうです」


「何がじゃ?」


「それが…」


「うむ」


「まことに言いにくいのですが…」


「うむ」


「…ァトッンッ…」


あまりにも言いたくなさ過ぎて、おかしい言い方になってしまった。


「なんじゃ?ようわからんのじゃ」

「私もあまり聞き取れませんでした」

「私もです」

「すみませんが、私も」

「わたしも!」


うん。そうだろう。聞こえないだろう。


「はっきりと言ってくれるかのう?ラウルよ?」


「…トゥムシ…」


「なんて?」


「アトム神です」


モーリス先生とカトリーヌとマリアがキョトンとする。いや…シャーミリアもだ。


「…まさか…、アトム神がアウロラちゃんを呼ぶわけないじゃろ」


「そう思いますよね?」


「うむ」


「アウロラ。もしかしたら何かの間違いじゃないのかい?」


「いえ。間違いありません」


アウロラが迷いなくきっぱりと言う。


「あれが?アウロラに助けてって?なんで?あれが?」


もうアトム神を『あれ』とか言ってしまっている自分がいる。


「私もわからない。でも『あたしを助けなさい!』って高圧的に言ってきた」


「アトム神じゃ…」

「アトム神ですね」


「だから急いできたの。何か座敷童みたいな可哀想な子が泣いているの」


「いやぁ~そんな、可哀想な子でもないぜ」

「そうじゃな、可哀想じゃないのう」


「そうなんですか?」


「ああ」

「うむ」


アウロラが複雑な顔をして困っている。どうやら夢に出て来たイメージとはだいぶ違うらしい。


「とにかく助けに来いと言っていたの。いろいろと話して、そしたらお兄ちゃんの助けになるから来いって。お兄ちゃんはいま苦労しているから、それを助けられるのは私だけだって」


「……」

「……」


俺とモーリス先生が無言になる。


「「いやいやいやいやいや!」」


そして声をそろえて否定してしまう。


「本当だって!」


「いや、アウロラを疑っているわけじゃないんだ。ただ、アウロラがここに来ることが俺を救う事になるなんて変だなと思って」


「そうじゃな。なぜにアウロラちゃんがここに来ることで、ラウルを救う事になるのじゃろう?」


「それは分からない。けど死なせたくないなら、ここに来るように言われたの」


「…まあ、なるほど…」


皆が考え込んでいる。アウロラはアトム神に呼ばれて来た。それも俺を助けるためにアウロラがここに無ければならなかった。それが何故、俺を救う事になるのかピンとこない。俺が思うにアウロラはアトム神に騙されているのだと思う。


「本当なの」


「わかった。まあそうなんだね」


「それならば必ず理由はあるのであろう。アトム神はハイラにも何かを託そうとしていたし、もしかしたらわしらが知らん何かを知っているのやもしれんのじゃ」


「そうですね。でもとにかく今は巨大魔石に隠れちゃってますし、どうしたもんでしょうね?」


「うむ。どうしたもんじゃろな…」


アウロラに衝撃の真実を告げられて、俺達の頭はパンクした。アウロラが俺と同じ転生者で、更に何らかの使命を持っている可能性がある。その事だけは間違いない事のように思えたからだ。


「あのねラウル。私が敵に狙われた理由は恐らくアウロラよね」


そうだ!サナリアから逃亡した時には、敵が執拗にイオナを狙っていた。あれはイオナを狙っていたのではなく、イオナのお腹にいたアウロラを狙っていた可能性がある。


「なるほど…それは間違いなさそうじゃの」


「きっとこのことがあって、敵はイオナを執拗に狙い続けたという事でしょう」


「その目的が何かという事じゃな」


「ですね」


イオナじゃなくアウロラは何らかの鍵を握っていそうなんだが、それがいったい何なのか俺達には見当がつかなかった。


「アトムシンという人はどこにいるんですか?」


アウロラが言う。


「アトム神という神…ね。それはいま聖都の地下に魔石と共に眠っているよ」


「そうなんだ…」


「でも神様はアウロラに助けを求めた。それは偶然じゃないだろうね」


「どういう事?お兄ちゃん?」


「俺も転生者でエミルもオージェも、グレースも転生者なんだ」


「さっき聞いて驚いた」


「ああ、まだアウロラは小さかったし、前世の記憶がなかったから知らなかったよね?」


「うん」


俺はイオナをチラリと見る。


「そうね。私からは話をしていないわ」


「なるほど。なら説明するけど、俺もエミルもオージェもグレースも前世は日本人なんだよ」


「嘘?」


「本当だ」


ぽろぽろぽろ。いきなりアウロラの目から大粒の涙がこぼれだす。


「ど、どうしたんだ?」


「だって、私…イオナお母さんとは血が繋がっているけど、この世界では孤独なんじゃないかって心配してたから…」


「バカ言え。アウロラを俺が孤独になんかさせるか!お前は大切な妹なんだぞ!お兄ちゃんがそんな事するわけないだろ!泣く事なんてないんだ!」


するとアウロラが俺の腕にギュッとしがみついて来た。おーよしよし!中身は女子校生でも、やっぱり可愛いぞ。


「よかった」


「だから言ったじゃないアウロラ」


「本当にお母さんの言った通りだった」


「ラウルはそう言う子よ」


「うん」


「まあ、だからこそこんな危ないところに来てほしくはなかったんだよ」


「そうなんだ…」


「と言うわけなんで!俺は大丈夫だから、母さんとアウロラはメリュージュさんとすぐにグラドラムに帰っていいと思う!うんそうだ!そうしよう!」


「まてラウルよ…」


モーリス先生が真剣な顔をして言う。こういう顔の時は茶化してはいけない。


「はい」


「神が夢枕に立つときの言葉は、天啓というものじゃ。まったく意味がないはずはないのじゃ」


「ですが…」


「少し滞在してもらって、どうすべきか考えるべきじゃなかろうか」


「はあ…」


「お兄ちゃん。私はきっと居なきゃダメだと思う。お兄ちゃんの困ったことのために来たんだから」


「うーん」


周りが俺をどうにか説得しようとするが、俺は全く納得いっていない。あんな危ない奴らのいるところに、アウロラを連れて行く訳にはいかないのだ。もちろんイオナもだ。


俺は葛藤し始めるのだった。

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