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第664話 闇魔法

俺の周りが急に黒くなった。暗くなったんじゃなくて黒くなった。『影』ではなく『黒』だ、質量があるかのような黒が周りに存在していて何も見えない。


「ふむ。さて、逃げるか…」


俺は急いで出ようと振り向いた。だが、先ほど俺が入ってきた地下室の入口が無くなっている。そこもただ真っ黒だった。


「あれ?」


目を凝らすがどこにも入口が無い。


「おーい」


寸刻前まで話していた少年少女たちも見えず、暗黒がただ眼前に広がるだけ。声も反響せず、まるでブラックホールの中にでもいるような気分だ。


マズイかも…


たしか入口までの距離は、ここから一メートルもなかったと思う。俺は入口があったと思われる方向に向かって、全力で走り出した。


「……あれ?」


走っても走っても暗闇は続き、全く外に出られない。すぐに脱出できると思っていた俺は少し焦り始める。


「せんせーい!」


俺は走りながら叫んだ。


シーン…


聞き耳を立てるが何も聞こえない。スペース的に、こんなに走れる距離は無かったはず。本来ならもう家の外に出ているころだ。方向感覚も麻痺してくる。


「どうするか…。ちょっと試してみるか」


俺は信号拳銃と照明弾を召喚して撃ってみる事にした。上に撃てば地下室の天井に当たるだろうし、照明弾によって足元を照らせるかもしれない。


バシュッ!


照明弾は一瞬にして黒に溶け込んでしまった。


「あれ?…消えた。ほんと真っ黒だな…」


いま自分が立っているのか、寝ているのかすら分からなくなる程、感覚がおかしくなってきている。少年少女たちはどこにも見当たらないし、俺は次の一手をどうしたらよいか迷っていた。


詰んだっぽい?


俺の頭に不安がよぎる。


「ボソボソ」


どこからともなく声がした。それはさっきまで聞いていた少年の声だ。だが方向が分からず、どこから声がしたのかも見当がつかない。何か雑談しているかのような声だった。


「そこか!」


当てずっぽうで叫んでみるが返事はない。


「そっちか!」


また適当に叫んでみる。だがいくら叫んでも返事はなかった。


「ふーんだ!いいよいいよ。閉じ込めたら何とかなると思ったんだろ!」


俺は拗ねてみる。


すると、暗闇の中からあの少年の声が響き渡った。


「焦ってる焦ってる!あははははは!」


「あ、答えた」


どの方向から声がしたのか分からないが、俺の話は聞こえているようだ。

転移魔法の少年が笑いながら、してやったりと言わんばかりに話しだす。


「どうだ手も足も出ないだろ?」


生意気なやつだ。この状況を楽しんでいるようだ。

俺は暗闇の中、少年の姿を探るようにゆっくりと見回しながら話す。話して、時間稼ぎをしながら打開策を見つけなくてはならない。


「ああ、降参だ。とにかくこの魔法を解いてくれないか。君達だって一刻も早く助けてもらいたいだろ?あったかくて美味しい料理もあるし、寝床もあるんだぞ」


「助けるなんて嘘だろ?この世界でたくさん友達を失ったぞ!」


少年が声を荒げた。


なんだって?友達?嘘だろ…友達だったら恐怖を植え付けて、未知の敵に特攻させるとかしないだろ。大量に死んだのだって完全にお前のせいだし、悲劇の主人公にでもなったつもりか?


と言いたいところだが、ここは少年の茶番につきあってやろう。


「なんだって?そいつは可哀想だ!辛い思いをしたんだな?すぐに助けてあげるよ!」


「ははははっ!そんなの絶対嘘だ!」


少年が笑い馬鹿にした感じで言う。


「本当だって!俺が命じたら大勢の仲間が動くんだぜ!信じるも信じないも自由だけどね。一緒に居る友達を助ける事を考えようぜ」


「どうせこいつらも裏切る」


「ん?なんでだ?友達なんだろ」


「友達面してるだけだ」


確かに。


陰でそいつらは、『お前が怖くて従わざるを得ないって』言ってた。恐怖で縛り付けて友達と呼ぶなんて、へそで茶が沸くぞ。そんなことを思いながら、俺は話し続ける。


「そんなことないよ。君なら、きっと友達が大勢いるんだろう。お前は良い人っぽいからな」


「はははは。馬鹿じゃね?俺をおだてれば、この魔法を解いてもらえると思ってんだろ?」


「なるほど、お前は俺がこの魔法を解けないと思ってるんだな?」


「…なに?」


「この魔法をすぐ解析して解いても良いんだぜ。こっちの世界の魔法使いはな、魔法の解除なんてお手のもんなんだ。だけどそれじゃあ、お前のプライドが傷つくかと思ってな、じっと待ってやったんだ」


盛大に嘘をついてみる。


「そうなのか?」


乗ってきた…か?


「ああ。だからそうなる前に、自分から解いた方がプライドは傷つかなくて済むだろ?どうする?」


「……」


少年は考え込んでいるようだ。

もう一押しかな?だが相手に焦りが感じられない。今のやり取りで説得できたとは到底思えない。


「どうする?」


もう一度聞く。


「…いや、じゃあお前が解いて見せろよ。別に俺はプライドなんて傷つかねえ、苦労しねえで手に入れた能力だしな」


あら…意外に冷静。やっぱりだめか。


「仕方ない…」


俺は手を前にかざして、魔法を唱えるふりをする。


「ん!くくくくっ!は!ふぅぅぅぅ!」


力いっぱい闇魔法を解くふりをするが、一向に解ける気配はなかった。当たり前だけど。


「ははは!なーんだ!無理じゃねえか!騙そうとしたな!」


「何を言っているんだ?魔法の解析というのは時間がかかるものなんだぞ。そんなこともわからんないのか?」


「なんか偉そうでムカつくな。まあどうせお前は恐ろしい敵と戦う事になるんだけどな」


「恐ろしい敵?」


「これからお前はバケモンに取り囲まれる。殺される前にせいぜい足掻くこったな」


あの少女が言ってたことだ。闇魔法で幻覚を見せられるんだっけ?なんかにょろにょろのおっかない化物を見たとか、言ってた気がする。


「まて!はやくこの魔法を解け!」


「あははははっ、焦ってやがんの!やっぱり魔法の解除なんかできねえじゃん!ばーか!」


バレた…


「少年!お前は後悔するぞ!」


「しねえよ!お前はこれからバケモノだらけの地に飛ばされるんだ!死ぬまで戦い続ければいいんだ!」


そんな少年の言葉に焦っていると…


パアアアアアっと俺の足元が円形に光り輝いてきた。間違いない、これは転移魔法だ…!


まずい!飛ばされる!


「どっか行け、バーカ!」


少年の言葉が、俺の耳に響く。


「おま…っ!」


その時だった。突然俺の前に白魚のような美しい手がニュッと入って来て俺の腕をつかんだ。


ブン!


次の瞬間、俺は村長宅の上空50メートルにいた。どうやら誰かが俺を連れ、屋根を突き破り飛んだようだ。もちろんそんなことが出来るのは一人しかいない。


「シャーミリア!!」


「ご主人様!ご無事でしたか!」


「ああ、助かったよ!」


おかしいな…、俺の隣のシャーミリアは…めっちゃかわいい。いつものキリッとしたシャーミリアとは違って、なんというか純真無垢な可愛らしい少女になっている。萌えな感じだ。


「かわええ…」


恐らく俺は闇魔法の幻覚を食らっているようだ…だが化物には見えないぞ。


「どうされたのです?」


「い、いや、なんでもない。みんなは!?」


「既に脱出しているかと!」


そう言われ俺は地上の村を見る。すると村長宅が黒く包まれていた。


「なんだ?」


「異世界人の魔法ではないかと思われます」


「ありゃみるからに闇魔法だな…」


「そのようです」


次の瞬間、その黒の魔法を更に縁取るように赤い線が描かれる。


「ミリア!あれを見ろ!」


赤い線は村長宅から外に五十メートルほど広がった。赤い幾何学模様が更に光を増していく。


「ご主人様、あれは…」


「インフェルノだ…」


ボオゥッ!!!一気に火の手が上がり、円形に焼かれていく。黒の魔法も全て呑み込み、インフェルノはあたりを真っ赤に染めた。グラドラムで見たような大規模なものではないが、確かにインフェルノだった。


「凄まじいな…やつらは魔法陣も無しでアレを展開できるのか?」


「そのようです」


「中の人間がどうなったか分かるか?」


「全て燃やされております」


「異世界人が全員で逃げたわけじゃないのか…」


また味方を殺しやがった…!


「ファントムは?」


「恩師様を担いで、村から百メートルほど東に。すでに全員が逃げて無事です」


「良かった…」


「地下室で、何があったのです?」


「ああ、それは皆が集まった時に話そう。モーリス先生の所に降りてくれ」


「かしこまりました」


ドン!次の瞬間、モーリス先生の側へと着地した。先生はファントムにかつがれていた。


「おお!ラウル!無事じゃったか!!心配したのじゃぞ!」


「はい、先生。危ないところでした」


えっと、本当にモーリス先生なのだろうか?めっちゃ若々しくて、なんか少年のようにみえる気がする。髭と魔法のローブは先生だから間違いない。そしてファントムは真っ黒で、何かが渦巻いているようにみえる。なんというかそのまま魔力だまりを見ているような感じだ。


「いっこうに出て来んからもしやと思うてな、外からは闇魔法の発動は感知できなかったのじゃ」


「そうだったのですね?」


村を見ると更に炎が広がっていくようだった。村の中心部分にあった村長宅から四方に延焼しているのだろう。


《全員俺の元に集まれ!》


俺は念話を飛ばす。


《《《《《《は!》》》》》》


魔人達とカトリーヌ、マリア、カーライルが一気に集まって来た。全員無傷のようだ。


「ラウル様!」


「カティ?だよな?無事でよかった」


カトリーヌはなんというか、悪役令嬢のような凛とした美しさのある大人の女性に見える。もっと可愛い感じの人なのだが、見るからに『貴族』という感じに見えた。それに、ふっわふわで七色に輝くスライムが体の周りにくっついているようだ。周りのふわっふわはルフラだ。


「ラウル様!それはこちらの台詞です!」


「本当です!ラウル様!無謀にも単身で地下に降りられたとか!」


「いや、マリア?だよな?急なことだったから、そうするしかなかったんだよ」


マリアは、いつものキリリとしたイメージよりも母親のような癒しを感じる。


「また連れて行かれたらどうするんですか!」


「マリアも落ち着いてくれ!俺は皆を信じていたさ、絶対に助けてくれると思っていた」


「まったく…無事でよかった」


「すまん」


「…ラウル。どうやら闇魔法にかかっているようじゃな」


俺の異変にモーリス先生が気づいてくれたようだ。


「分かりますか?」


「うむ。何か認識系統が狂っとるように感じるのじゃが」


「ご名答です」


スラガは筋肉隆々の巨人に見えるし、マキーナは手厳しいインテリ系の家庭教師のようにみえる。ルピアはもっふもふの鳥の体をした人間に見えるし、カーライルは少年だ…どこまでも真っすぐな志の高い美しい少年…まあほとんど今のままか。


アナミスは‥‥


うん…


なんというか…


エッチだ。


「いま解いてやろう」


モーリス先生が言う。


まあそのままでも支障は無いように思う。が、やはり元どおりがいい。俺はモーリス先生に向き直ると、先生は光魔法の板を出して魔法を発動させた。体を暖かい光が包むと、俺の視界に変化が表れた。しばらくするとふわりと光が周りに拡散していく。


「終わったのじゃ」


改めて周りを見ると今まで通りのみんなだった。一体さっきまで見えていたのはなんだったのだろう?バケモノに見えるかと思ってドキドキしてたのに。


「ありがとうございます。助かりました」


「とにかく話を…」


「待ってください先生、たしか村のどこかに眠らせた異世界人がいたような…」


「おります」


アナミスが言った。


「彼らは燃えちゃった?」


「ご主人様。まだ端の家にいるようです。鼓動を感じます」


シャーミリアが言う。


「すまんが、シャーミリアとマキーナ、ルピアで救出してきてくれ!火が回る前に!」


「「「は!」」」


三人はすぐに村の方角に飛んで行った。


「村長宅にいた者たちは手遅れですが、生き残った者は助けましょう」


「うむ、そうじゃな」


そしてすぐにシャーミリア達が戻って来た。助けた三人の異世界人はブレザー学生服の少女だった。まだ眠っていてぐったりしている。


「焼けなくて済んだな」


「そのようです」


「起こしますか?」


「いや、アナミス。基地までそっとしといてやれ」


「かしこまりました」


「ファントム!」


呼ぶとファントムが俺に近づいて来る。さっきはただの魔力だまりのようにしか見えなかったが、今はしっかりと恐怖の青銅の魔人という感じの姿に見えている。


「無線機を出せ」


ファントムの腹から無線機が出て来た。まるで俺が『の〇太』で、ファントムが『ド〇〇モン』みたいだ。独特の効果音は無いが俺の前に無線機が置かれた。


「エミル!」


「はいよ!」


「こちらの作戦は終わった」


「了解!すぐに向かう」


「頼む」


村の炎は更に勢いを増し、俺達の頬を火の明かりが照らす。


転移魔法の少年は自爆なんかしていない、仲間を見殺しにして転移魔法で逃げたんだ。


「作戦失敗か…」


俺がぽつりとつぶやく。


作戦の練り直しをする必要があるのだった。

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