第663話 追い込まれた転移魔法使い
前話の訂正
三人の異世界人を処分した→三人を深く眠らせて天井裏に隠した。に変更しました。
俺とファントムが裏口に立ち、屋根の上のシャーミリアに念話をつなげて内部の状況を聞く。
《シャーミリア、家の内部はどうだ?》
《全員は眠っていないようです。見張りとして起きているものが各部屋にいるようですね》
さすがに警戒はしてるようだ…
《灯は消されていないしな》
《ロウソクが灯されております》
やはり完全に警戒は解いていないか…。そりゃそうだ。特攻させた魔法使い達も消え、被害者の遺体も見当たらない。
《普通に考えたら不気味この上ないが、よくこんな村で夜を明かそうと思ったもんだ。いつでも逃げれるっていう自信かね?まあ森や草原と違って、食料もあるし魔獣の心配もなく眠れる方がましっちゃましか》
《逃げれると思っているのではないでしょうか?》
平和なこった。
《つい最近までは、ただの人間だったやつらだ。いつまでも緊張感を保っていられないだろう。必ず隙ができると思うよ》
《生体反応が落ちるのを待ちましょう》
《そうだな。そうなったら全員に教えてくれ》
《かしこまりました》
確実に転移魔法使いを捕らえるため、念には念を入れて機会を待つ事にする。それから数時間が過ぎ、時計は深夜二時半になろうとしていた。
《だいぶ生体反応が落ちております。恐らくは睡魔に襲われているようです》
シャーミリアから念話が入った。
《よーし。やっと眠くなってきたか、みんな屋敷に侵入開始だ》
《《《《は!》》》》
俺が裏口の取っ手をそっと引っ張ると扉に鍵はかかっておらず、すんなり開いた。5センチほど開けて中をのぞく。
《誰もいないな》
暗い部屋の中は、荒らされた跡があるものの静まり返っていた。
《ファントム、屈んで入れ。音を立てるなよ》
《……》
俺が先に入るとファントムが身を屈めて入ってくる。戦闘が開始されれば十秒ほどの猶予しかない、モーリス先生が敵の転移魔法を解除できるかどうかがポイントだ。
全員殺害をするだけなら簡単なんだが…。
さっきの異世界人の少女の話を聞く限りは、闇魔法以外にもマコのような魅了系の能力を持っているやつが居るようだ。まったく異世界人は厄介だ。
《ルピア、マキーナそっちはどうだ?》
《二階に寝ている人間ともう一人いるようです。見張りのようですが、その一人もウトウトしています》
《見張りのつもりかね…?とにかく戦闘が始まったら制圧しろ》
《《はい》》
彼女らを二階の窓から侵入させておいてよかった。転移魔法を使うやつがそこにいるかもしれない。
俺は暗闇を進み、廊下に出る扉の前に立った。
《ルフラ、現在位置は?》
《窓から侵入し、最初の部屋から出ておりません。すぐ隣の部屋に異世界人が数人いるようです》
《先生は窓から入れたの?》
《カーライル様が担いで、私が受け止めました》
《歳だから労わってあげて》
《はい》
《まずは、そこで待ってて》
《はい!》
扉の向こう側に灯りは灯っていない、扉をそっと開き向こう側をのぞいた。廊下は暗くて誰もいない。ここからは以前ペルデレが生きてた時に入った事があるため、位置はだいたい把握している。
《スラガは今どこだ?》
《異世界人たちがいる窓の外です。アナミスとおります》
《中には何人いる?》
《三人です》
《異世界人は一カ所に固まってないんだな。なんで各部屋にバラバラにいるのか…》
《ですね》
前世でホラー映画の登場人物がバラけるのを見て、死ぬフラグだ!って思ってたけど、実際にバラけるもんなんだな。プライベート的な問題かもしれん。日本の中高生はそのあたりうるさそうだし。
《三人はスラガ達で制圧してくれ》
《かしこまりました》
《俺達は他の部屋の奴らを抑える》
廊下を進み左へと曲がった。位置は把握しているので迷いなく進む。
《シャーミリアは戦闘が起きたら天井を突き破って、どの隊も行かない部屋にいる奴らを頼む》
《既に位置は確認しております》
警戒しているとはいえ、まさか天井から襲撃を受けるとは思わないだろう。シャーミリアであれば、間違いなく部屋にいる全員を一瞬で制圧できるはずだ。
《戦闘が始まったら十秒以内に全員黙らせるんだ。転移魔法を発動させる前におさえる》
《《《《《は!》》》》》
《狙撃は極力膝を狙い、転移の予兆や危険を感じたら殺せ》
《《《《《は!》》》》》
俺が時計を見ると午前二時三十八分をさしていた。
《二時四十分零秒に一斉突入する》
《《《《《は!》》》》》
《突入!》
バン!ドアを蹴破って中に入ると、裸の少年一人と裸の少女が四人ベッドに寝ていた。一体その歳で何をやってたんだぁぁ!っとツッコミを入れたくなる。
「動くな!」
俺が銃を構えて脅しをかけるが、裸の少年が咄嗟に何かをしようとしたので膝を撃ち抜いた。
「ぎゃあああ」
少年が痛みにのたうち回り、少女達は裸の体を隠すのも忘れ青い顔で立ち尽くす。
「動くなと言ったはずだ!次は頭を撃つ!」
「う、ううう」
「全員で床に腹這いになれ!何もしなければ、危害は加えない!じっとしていろよ、俺はよくてもこいつは手加減できない」
ファントムにパーカーのフードを脱がせた。
「ひっ」
「ああ…」
「うっ」
全員がファントムの素顔を見て凍り付いた。ファントムは腕からm134ミニガンを生やして構えていた。どう考えてもこの世の者じゃない。少女たちが裸のまま床に腹ばいになり、膝を撃たれた少年も床に転がり膝をおさえている。
《ルピアそっちは?》
《二人は抵抗しませんでした》
《マキーナと見張っていろ》
《《は!》》
《スラガはどうだ?》
《アナミスが眠らせました。三人は無傷です》
《二人でそいつらを見張っていてくれ》
《《はい》》
《シャーミリア!》
《こちらの中央の食堂には11人がおりました。全員意識を刈り取り手足を折りました》
手足を折ったか…。あいかわらず徹底してんなあ…マジで味方でよかったよ。
《ミリアもそこで待機していてくれ》
《は!》
《ルフラの方は?》
《異世界人五人を行動不能にさせました》
《先生がか?》
《カーライルです。急ぎカトリーヌがヒールをかけなければなりませんでした》
《何故だ?》
《一瞬で全員の足を刎ねたのです》
あらあ、カーライル怒ってるねえ…足で良かった。俺も怒らせて首を切られないように気をつけよう。
《死人は?》
《おりません》
《上出来だ》
《はい》
《転移魔法使いは捕まえた?》
《それが居ないようなのです》
《他で制圧した部屋にいるのかな?だともう発動していてもおかしくない気がするけど…。とにかく全員、転移魔法に気を付けてくれ》
《《《《《は!》》》》》
シャーミリアが確認した、異世界人がいるであろう部屋は全て制圧したはずだった。もしかしたらここにはいないのだろうか?だとしたら、ここで起きてる事が主犯格にバレたかもしれない。
《シャーミリア!他に異世界人がいる部屋は?》
《少しお待ちください》
シャーミリアにしては珍しかった。何か手間取っているような事でもあるんだろうか?
《ご主人様》
《どうだった》
《人の反応は無いのですが…おかしな場所があります》
《おかしな場所?》
《中が見えません》
《…そこだ!》
「ファントム!こいつらが下手な真似をしたら殺せ」
「……」
部屋にいた五人の異世界人をファントムに見張らせ、俺は急いでモーリス先生のいる部屋へと向かう。勢いよく部屋に飛び込むと、俺の喉に鋭利な刃物がつきつけられていた。
「わっ」
「失礼いたしました!」
咄嗟にカーライルが俺の首を刎ねるところだったらしい。俺を斬らなかった技量は素晴らしいが、魔力が読めるならやめてほしい。シャーミリアに見られたら、恐らくお前は死んでいた。
「ラウルよ。転移魔法使いがおらぬ」
モーリス先生が言う。
「先生!私と来てください!マリアとカーライルはこの部屋を頼む!こいつらが下手な真似をしたら殺してもいい!」
「かしこまりました」
「ええ」
カーライルがとりわけ冷たい笑顔を見せた。よほどファートリアの民を殺された事に怒りを感じているのだろう。そこにいた異世界人たちは小さな悲鳴を上げて震えるだけだった。足が無い状態で、何かをしようなどと思うやつはいないだろう。
「無駄に殺すなよ」
「もちろんです」
おっかないなあ…
「ルフラとカトリーヌも来い!」
「「はい!」」
俺とモーリス先生とルフラを纏ったカトリーヌは部屋を出て、シャーミリアが見えないと言った場所に行ってみる。
「ここですね…」
「地下室か…というよりも、これは闇魔法じゃぞ」
「闇魔法…」
確かに地下に続く階段を見ると、途中から真っ黒で下が見えない。薄暗いのではなく黒いものがそこにあって見えないのだ。
「うむ。闇魔法で部屋自体を覆って、周りからの認識を阻害しているのじゃ」
「先生は解除出来ますか?」
「任せておれ!合図をしたら、階段下の扉を吹き飛ばすのじゃ」
「はい」
俺はすぐにMK3手榴弾を二個召喚した。TNT爆薬の爆発により、建物の破壊などの発破作業にも使用される手榴弾だ。
「始めるのじゃ」
モーリス先生が魔法の杖を階段下に向けて詠唱する。するとモーリス先生の杖からまた光板が現れ、階段下に向かって飛んで行った。するとスッっと闇が溶けるように無くなり、下の扉が現れる。
「いまじゃ!」
俺はすぐにMK3手榴弾を二個階段下に放り込んだ。
「隠れてください」
俺達は階段入り口から脇にそれて、爆発の破片を受けないようにする。ズドォ!!階段下から爆風が突き抜け、俺達の元へと上がって来た。煙が収まって下を見ると、扉は消し飛んで地下室が見えている。
「三人はここで待っててください!」
「危険じゃ!」
「位置的に先生も危ないです。ルフラとカトリーヌは先生を守って」
「「ラウル様!」」
「大丈夫」
ルフラとカトリーヌも引き留めるが、俺は階段をそっと降りていく。階段を下りて吹き飛んだ扉の前で止まり、銃を構えて部屋の中をのぞいた。すると中には五人の少年少女がおり、爆発でやられているかと思ったが無傷だった。もしかしたら結界を張ったやつが居るのかもしれない。そしてその中には、あの盗賊の集落で逃した転移魔法を使う少年も含まれていた。
「君たち!」
俺が呼びかけるが、中から返事はなかった。
「日本から来た子達だね!我々は君たちをこの世界から救出するために来た軍隊だ!」
「えっ!」
「ほんと?」
「マジで!助かるんじゃね!」
「ね、ねえ」
転移魔法の少年以外の四人は俺の言葉に動揺しながらも、希望を見出すように前に歩き出そうとする。
「君たちは運がいい!バケモノに殺される前に我々に保護されるんだぞ!両手を上にあげて出てきなさい!」
「じゃ、じゃあ」
「そうよ、ね」
「助かる?本当に?」
「いこうよ!」
「待てよ!お前ら!騙されるんじゃねえ」
転移魔法の少年が止める。
「え、だって助けてくれるって」
「殺されるぞ」
転移魔法を使う少年は俺を疑っているようだ。まあお前を許すつもりはないから、その勘は当たってるけどね。
「殺すわけがないだろう!君らは日本から来たんだろ?知っているぞ!どこだ?東京か?大阪か?東京から来た大人もいっぱいいるんだぞ」
嘘じゃない。
「ねえ、みんな行こうよ」
「おい!俺の言う事が聞けないってのか?」
「そ、そんなことは無いけど…助けるって言ってるし」
「そうだよ。お前だって学校にいるところを飛ばされたんだろ、助けてもらった方がいいんじゃねえか」
俺がさっき見た村の外からやって来た女と、その時に話をしていた男が言う。こいつらは転移魔法を使う少年に不満を抱いていたはずだ。
「どうしたんだ少年。みんなは助かりたいと言っているんだ、君も助かりたいだろう?」
「とにかく姿を見せろ!」
「俺が姿を見せれば投降するか?」
「顔を見たら決める」
「わかった」
俺はコルトガバメントをベルトの後ろに刺して、両手をあげて部屋の中に入った。
「ほら、これでどうだ?」
「えっ!日本人じゃない」
「本当だ」
「おまえ、こっちの世界の人間か?」
「カッコイイ…」
最後の言葉はよくわからないが、俺が日本人だと思っていたらしい。
「どうする?一緒に行くよな?」
「…さっき扉を破壊したのは魔法か?」
転移魔法の少年はそれでも俺を疑っているようだ。
「そうだ。あれは火魔法だ」
「…どうしてお前が、俺達を助けるんだよ」
「困っている日本人がいっぱいいてな、保護してあちらの世界に帰してやろうと思っているんだよ」
「え、じゃあ行った方がいいよね」
「そうだよ。お前だって助かるぞ」
「そうよ、行きましょ」
「こんなカッコイイ人嘘つかないって」
周りの異世界人の言葉が耳にはいっていないようだ。転移魔法を使う少年は、ゆらゆらと暗い炎を目に宿して俺を睨んでいる。何を考えているのかさっぱりわからない。
何かおかしい事言ったかな?
「嘘だ」
「嘘じゃない。さあ、行こう」
俺が手を差し伸べて、少年らを誘導しようとする。
「嘘だ!」
「本当だとも」
そんなやり取りをしている時に、俺はある事に気が付いた…
あれ?気がついたら俺の周り、真っ黒じゃね?
「まあいい、もう俺の中にいるから」
「えっ?」
転移魔法の少年がにんまりと微笑み返した。どう考えても何かを企んでいるような顔だ。
なんか…まずいかも。
俺は自分の置かれている状況に初めて気が付くのだった。どうやらこいつは転移魔法と闇魔法を使いこなしているらしい。俺はすっかり闇魔法に包み込まれていたのだった。