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第661話 犯人は現場に戻る

《お休みの所、申し訳ございません》


深夜になり俺はシャーミリアの念話で目覚めた。部屋には護衛としてマキーナとアナミスがいたが、俺が目覚めたことですぐに衣装を用意し始める。俺をリラックスさせるためといって、二人に裸で眠らされていたからだ。


《問題ない。来たか?》


《はい。深夜に動きがありました》


《わざわざ暗くて見つかりづらい時に来たんだ。魔人の前には何の意味もなさないのにな、まあ敵がそんな事を知るはずもないけど》


《はい》


《なにものか分かるか?》


《数人いるようですが、少し驚かれるかもしれません》


シャーミリアの言葉には抑揚が無く、それほど驚く内容でもなさそうに聞こえる。俺は話しながらもマキーナとアナミスに服を着せられていく。俺の意識を邪魔しないように上手く着せてくれていた。


《どういうことか?》


《はい。盗賊の集落で逃した、転移魔法の使い手がおります》


《えっ!あいつ生きてたんだ!》


《どうやらそのようです》


マジか…


《歩いてるの?》


《怪我は治っているようですが、歩くのに多少のぎこちなさを見せているようです》


マリアの狙撃で砕かれた膝がきちんと回復しなかったのか。というよりも、どうやって回復したんだろう?


《他の連中は?》


《他も人間です。恐らくは異世界人かと思われます》


《操られているのかな?》


《申し訳ございません。デモンの干渉などは受けておらず、恩師様でなければ認識できないかもしれません》


《わかった。それで何をしてそうだ?》


《村の中を見回っているようですが、もちろん何も無いため首を傾げているように見えます》


《了解だ。どこから監視している?》


《上空です》


《なら地上に降りるな。ミリアなら何も問題ないと思うけど、あの転移魔法だけは厄介だ》


《即死させてはいかがでしょう?》


《転移魔法使いが一人とは限らないからダメだ》


《はい》


《そのまま監視を続けてくれ》


《かしこまりました》


念話を終えた俺は既に服を着せられ、外に出られる格好になっていた。マキーナとアナミスが裸の俺に、パンツとズボンや上着まで全部着せてくれたのだ。


「マキーナ、先生達に知らせて来てくれるか。食堂に集まってもらうように言ってくれ」


「かしこまりました」


スッとマキーナが暗がりに消えた。俺が部屋の外に出ると、女のダークエルフの進化魔人と女のゴブリンの進化魔人が膝をついている。


「敵に動きがあった。休んでいる一般兵に通達を出して警戒させてくれ」


「「は!」」


二人の魔人が走って行った。


《スラガ、ルフラ、ルピア、マカ、クレ》


《《《《《《は!》》》》》》


《念話は聞いたな?》


《《《《《《はい!》》》》》


《敵が動いた、出撃の準備をしてくれ》


《《《《《《既に準備は出来ております》》》》》》


《了解》


食堂に行くと既に魔人達は集まっていた。俺とシャーミリアの念話を聞いた段階で集まっていたのだろう。


「さて、どうやらシャーミリアの勘が当たったようだ」


「そのようですね」


スラガが答える。


「転移魔法使いがいるらしいからな、迂闊に手は出せん。なんとかして捕らえたいんだが、無理なら殺すしかないだろうな」


「かしこまりました」


「こうしている間にも、光柱に召喚されてしまっている少年少女がいるかもしれん。やつらに出現した異世界人を接触させるわけにはいかない」


「また被害者が増えるでしょうね」


ルピアが答えた。


「ああ、こちらが先に接触して何とかしたいな。余計な死人は出したくない」


「わかりました」


コンコン!ドアがノックされる。どうやらモーリス先生たちが来たようだ。


「入れ!」


マキーナがドアを開けてモーリス先生たちを連れて来た。モーリス先生、カトリーヌ、マリア、カーライルもいる。カーライルは東の村から連れてきた人たちの、面倒を見ていてくれたらしかった。


「先生、夜分に住みません」


「動いたのじゃな?」


「シャーミリアの読み通りです」


「さすがはシャーミリア嬢じゃな」


「今監視させています」


「なるほど」


「驚いた事に、あの盗賊の集落で襲撃して来た転移魔法使いもいるらしいのです」


「なんと!生きておったのか!」


「どうやらその様です。どうやって生き延びたのかは分かりませんが」


「ならば異世界人に、あれを助けた回復魔法を使うやつがいたのかもしれんのう」


「なるほど。その線が濃いですね」


「うむ」


俺はこれからの事について説明した。魔人の大部隊はここに残し少数精鋭で行く事、光柱から出現してくるであろう新しい異世界人に奴らを接触させないようにし、新しい鉄砲玉を作らないように対策を打つ事、転移魔法使いがいるため慎重に事にあたる事を話す。


「話をお聞きして思うのですが、私をお連れしていただいたほうがよろしいかと思います」


カーライルが言う。むしろここで村人を護衛しててもらいたいが…


「カーライル。相手は転移で魔法使いをぶつけて来るんだ」


「ならばなおの事、私を連れて行ってください。私は魔力を見極めて動く事が出来ます。モーリス指令の魔法ならともかく、素人の魔法が私にあたる事など万に一つもありませんよ。そして同士討ちも防げると思います」


確かにカーライルは、魔人達との訓練で目を閉じ、魔力の流れを察知して攻撃をかわしていると言っていた。一次進化魔人では、カーライルに攻撃を当てる事は出来ないそうだ。


「わかった。連れて行く。それなら…モーリス先生、ルフラを纏ったカトリーヌ、マリアと共に、パーティーを組んではくれないだろうか?」


「ふむ!面白いのう!カーライルが前衛で、わしとマリアが後衛、ルフラを纏ったカトリーヌが回復役でパーティーを組めと言うのかの」


「どうでしょう?」


「いいじゃろう!のう、マリア、カトリーヌよ」


「面白いですね、私は前衛も出来ます」


マリアが言う。


「回復や強化なら任せてください」


カトリーヌが言った。


「いざという時は皆さんを私が守ります」


ルフラが言う。


「カーライルそう言う事だ」


「ラウル様も面白い事を考えますね」


「最強の冒険者パーティーだと思うけど」


「ふぉっふぉっふぉっまったくじゃ。わしらを相手に魔人が訓練するというのも面白いじゃろうな」


「はは、直属の部下か隊長格じゃないと怪我をしますよ」


「既にマリアとカトリーヌとは連携は出来とる。カーライルが前衛に加われば面白い事ができるじゃろうて」


「よろしくお願いします」


むしろ人間相手には人間チームの方が良いかもしれない。闇魔法で操られている者をむやみに殺したくはない。


「マカとクレはすまないが、ここの魔人達を指揮してくれ」


「「わかりました」」


「ここに敵が来ないとも限らないからな、くれぐれも油断することないように」


「「はい」」


「では行きましょう」


「ふむ」


そして俺達はリベンジマッチのために基地の外へと向かって歩く。その間にも俺は念話で、最東の基地にいるナタへと念話を繋いだ。


《ナタ》


《は!》


《敵が出た》


《やはりあの村ですか?》


《そうだ、そこでナタにはそのまま東部基地の指揮を頼みたい》


《はい!まかせてください》


《あとヘリで西に来るようにエミルに伝えてくれるか?これから俺達は西の村へ向かう》


《伝えます》


外は既に真っ暗になっていた。昨日とは違って月が出ておらず、暗闇があたりを支配していた。


「11人か、念のため魔法の攻撃も警戒した車両が必要だな」


よっ!


俺は96式装輪装甲車を召喚する。これならば魔法による攻撃ではびくともしないだろう。全員が乗り込み、再びシャーミリアが待つ西の村へと出発するのだった。異世界の真っ暗な夜をヘッドライトが照らし出し、昨日戻った道を再び走り出す。


《ミリアどうだ?》


《家をあちこち回って、食料などを探しているようです》


《食うのが目的かね》


《恐らくはそうかと思われます》


《自分が送り込んだ魔法使いたちが、どうなったのか気にならないのかね》


《馬鹿なのでしょうか?》


《日本の学生なんて、戦場に来たらそんな行動しかとれないよ。あとは自分達の魔法を過信してやって来たんだろう》


《なんと哀れな》


《まったくだ。とにかく距離をとって監視を続けてくれ》


《は!》


念話を切って、正面に座っているモーリス先生に今の話をした。


「ずいぶん無防備じゃな」

「あんなことがあったにも関わらず、何でそんなに無謀なんでしょう」


マリアも不思議そうに言う。


「なんというか、やっぱりどこかゲーム感覚なんだろうと思う。もしくは闇魔法で操られているのかもしれないし」


「またですか…」


「可能性はある」


「気が重いです」


「ああ」


96式装輪装甲車が揺れるたびに、マリアとカトリーヌが体をこわばらせる。一番怖いものを見るという、闇魔法の幻覚を恐れているのだろう。


「とにかく大丈夫だから」


「「はい」」


二人は俺の言葉にすがるように返事をした。


「ご主人様」


「なんだマキーナ」


「エミル様のヘリが近づいています」


「わかった」


俺は運転席に座っているスラガに停車するように伝えた。96式装輪装甲車を止めて後ろのハッチから外に出る。すると上空からマキーナとヴァイパーヘリが降りて来た。ヘリのローターが巻き上げる風で、砂ぼこりが舞上がる。


エミルとケイナがヘリのハッチをあけて降りて来た。


「ラウル大変だったな」


「ああ、大切な部下をだいぶやられた」


「大変でしたね」


「ケイナも疲れたろ」


「私は大丈夫ですよ」


「相手は魔法使いだって?」


「そうみたいだ。あの盗賊の集落で逃した転移魔法使いらしい、あいつが転移魔法で魔法使いたちを村に特攻させたんだ」


「くそだな」


「ああ」


「どうするんだ?」


「二組に分かれて西と東から挟もうと思ってる」


「了解」


西と東には太い街道が走っているので逃げやすいが、北と南は森に囲まれている。魔獣もいるだろうから簡単に逃げる事は出来ないだろう。ただし、あいつらには転移魔法がある。そっと近づいて短期決戦で仕留めなければならない。


「ヘリで村を大きく迂回して、俺とモーリス先生、ファントム、カトリーヌルフラ、マリア、カーライルを西へ連れて行ってくれ」


「わかった」


そういって俺はUH-1Y ヴェノムヘリを召喚した。エミルが乗って来たヴァイパーヘリはファントムが丸めて潰す。


「スラガ!このまま村へ向かってシャーミリアと合流しろ。村の東に周って待機だ」


「は!」


「マキーナ、アナミス、ルピアはスラガとこのまま陸路で共に向かい、シャーミリアと合流後に上空からの攻撃の準備だ」


俺達が降りたことで96式装輪装甲車の中が空いたので、そこにM240中機関銃とバックパックを人数分召喚して置く。全員分のハンドガンもそこに並べて行った。さらに不足する事も考えて多数の予備の兵装を置いて行く。


「じゃ、エミル。行こう」


「了解」


俺とモーリス先生たちが、UH-1Y ヴェノムヘリに乗り込んで夜の空に飛び立つ。スラガたちの96式装輪装甲車のヘッドライトが、西に向かって進んでいくのが見えた。村のそばを通ればヘリの音が聞こえてしまうので、大きく南回りで飛ぶ事にする。


「今度は逃がさない」


「ふむ。何とか押さえたいものじゃな」


「気を付けるべきは転移魔法です」


「闇魔法はわしが何とかするのじゃ」


「頼りにしています」


「ふむ」


首謀者が誰かは分からないが、必ず償いはさせなければならない。この世界にはこの世界のルールってものがある。いや…むしろ向こうの世界でも絶対に許されない罪だ。


なんでそんなことをしているか分からないが、悪い事をしたらそれ相応の報いがあると教えてやらねばならない。

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